我が国の医療保障制度には、医療保険制度、老人保健制度等があり、これらの制度の概要は次のとおりとなっている。
医療保険制度は、被保険者等の疾病や負傷等に対して行われる医療機関等の診療等の療養の給付等に対する費用保障を目的とする社会保険であり、その仕組みは図2—1のとおりとなっている。
図2—1 医療保険制度の仕組み
この医療保険制度は、事業所等に使用されている者等を被保険者等とする被用者保険と、それ以外の自営業者等を被保険者とする国民健康保険の2つに大別される。
被用者保険には、その主なものとして、健康保険法(大正11年法律第70号)に基づいて、主として大企業の従業員を対象とし、健康保険組合が保険者として運営している組合管掌健康保険(以下「組合健保」という。)と、主として中小企業の従業員を対象とし、国(社会保険庁)が保険者として運営している政府管掌健康保険(以下「政管健保」という。)がある。また、組合健保及び政管健保以外の被用者保険には、船員保険法(昭和14年法律第73号)に基づいて、船員を対象とし、国(社会保険庁)が保険者として運営している船員保険、各共済組合法等に基づいて、国家公務員や地方公務員、私立学校教職員等を対象とし、各共済組合等が保険者として運営している共済制度(以下「共済」という。)がある。
国民健康保険には、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)に基づいて、医師や歯科医師、土木建築業者等同種の事業等に従事する者で特定の地区内に住所を有する者を対象とし、各国民健康保険組合が保険者として運営している国民健康保険(以下、これを「組合国保」という。)と、市町村(特別区を含む。以下同じ。)の区域内に住所を有する者で、被用者保険及び組合国保の被保険者等となっていない者を対象とし、各市町村が保険者として運営している国民健康保険(以下「市町村国保」という。)がある。国民健康保険においては、被保険者に係る療養の給付等に要する費用は、これらの者に係る保険料(税)のほか、療養給付費負担金等の多額の国の負担により賄われている。
また、被用者保険等に加入していて退職後市町村国保に加入した者のうち所定の要件を満たす者及びその被扶養者(以下「退職被保険者等」という。)については、退職者医療制度が適用され、これらの者に係る療養の給付等の費用は、これらの者に係る市町村国保の保険料(税)と各被用者保険等の保険者からの拠出金によって賄われることになっている。この退職者医療制度は、被用者保険等の被保険者等は退職後市町村国保に加入することとなるため、市町村国保においては医療の必要性の高くなる年齢の者が増加し、結果としてその負担が増大することになるなどの不合理を是正するために設けられたものである。
以上の医療保険制度の概要については表2—1のとおりである。
制度の種類
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保険者
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被保険者等数
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被用者保険
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健康保険
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政管健保
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(一般)
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国(社会保険庁)
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35,522
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(日雇特例)
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国(社会保険庁)
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31
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組合健保
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健康保険組合(1,622)
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30,144
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船員保険
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国(社会保険庁)
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185
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共済
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国家公務員共済組合
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各省庁等共済組合(21)
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9,739
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地方公務員共済組合
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各地方公務員等共済組合(54)
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私立学校教職員共済
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日本私立学校振興・共済事業団
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国民健康保険
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組合国保
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各国民健康保険組合(166)
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4,036
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市町村国保
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市町村(3,144)
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47,200
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退職者医療制度
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6,537
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注(1)
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保険者欄の( )内の数値は保険者数である。
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注(2)
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保険者数及び被保険者等数は平成16年3月末のものである。
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老人保健制度は、老人保健法(昭和57年法律第80号)に基づき、国民の老後における健康の保持と適切な医療の確保を図るため保健事業を総合的に実施するものである。この保健事業には、健康診査、健康相談等のほか、表2—2に示すように、市町村が各医療保険の被保険者等のうち、当該市町村の区域内に居住する老人(75歳以上の者(注1) 又は65歳以上75歳未満の者で一定の障害の状態にある者をいう。以下同じ。)に対して行う医療等(以下「老人医療」という。)がある。
対象者
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実施主体
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対象者数(15年度)
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各医療保険の被保険者等のうち、75歳以上の者(14年9月30日までに70歳以上となった者を含む。)及び65歳以上75歳未満で一定の障害の状態にある者
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市町村
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そして、老人については各医療保険制度に加入して保険料を負担する一方、居住している市町村から老人医療の給付を受けることとなっている。
老人医療に係る費用(以下「老人医療費」という。)は、国、都道府県及び市町村による公費負担と各保険者からの老人医療費拠出金(老人保健拠出金のうち老人医療費に係る分。以下「拠出金」という。)で賄われている。老人保健制度におけるこのような費用負担の仕組みは、各医療保険制度の被保険者等に占める老人の割合が大きく異なることから生じる医療費の負担の不均衡を調整し、各保険者間の公平な負担を図るために設けられたものである。このように、老人保健制度は各保険者の共同事業としての性格を有するもので、給付の主体(市町村)と財政負担の主体(医療保険者等)が分離している。
老人医療費の負担等の概要については図2—2のとおりである。
医療保険等においては、被保険者等は療養の給付等を受けるに当たって、その給付に要する費用のうち所定の割合の金額を患者一部負担金として負担することになっている。この患者一部負担金については、医療保険等の制度によりその負担割合が異なっていたが、現在は、医療保険の各制度間で原則として統一され、また、老人医療の対象となる者については医療保険とは異なる負担割合となっている。負担割合の推移等の概要は表2—3のとおりであり、近年、患者一部負担金の負担割合を見直す制度改正がなされている。
被用者保険
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国民健康保険
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老人保健
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本人
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家族
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昭和48年
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定額
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5割→3割
(10月〜)
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3割
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老人の医療費無料化
(1月〜)
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56年
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入院2割
外来3割
(3月〜)
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58年
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老人保健制度創設(2月〜)
入院300円/日、外来400円/月
(以後、金額に変更あり)
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59年
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1割
(10月〜)
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退職者医療制度創設
(10月〜)
本人2割
家族
入院2割
外来3割
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平成9年
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2割(9月〜)
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13年
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1割(月額上限あり)
(1月〜)
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14年
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(3歳未満:2割)
(70〜74歳:1割
(一定以上所得者2割))
(10月〜)
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老人保健対象年齢引上げ
(70歳→75歳)
1割(一定以上所得者2割)
(10月〜)
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15年
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3割
(4月〜)
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3割
(4月〜)
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退職者医療制度
3割
(4月〜)
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以上が医療保険等の概要であるが、同制度に基づいて支出される費用の規模を示す指標の1つとして厚生労働省が発表している国民医療費があり、この15年度の額31兆5375億円に占める各制度の構成割合をみると、表2—4のとおり、老人保健33.8%、国民健康保険21.2%、政管健保11.0%、組合健保8.6%等となっている。このうち、国が多額の負担を行うなど国の関与の度合が高い老人保健制度の老人医療、国民健康保険及び政管健保(以下、これらを併せて「3保険等」という。)で国民医療費の約3分の2を占めている。したがって、「2 検査の結果」のうち「(1)医療保険等の財政状況」及び「(2)医療保険等の給付の状況」においては、国民医療費の大宗を占めるこれらの3保険等に係る状況を中心に記述していくこととする。
制度区分
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推計額(億円)
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割合(%)
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医療保険
被用者保険
政管健保
組合健保
船員保険
共済
国民健康保険
老人保健
公費負担医療
その他(労災等)
患者負担
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138,171
71,436
34,765
27,113
219
9,339
66,734
106,686
18,206
2,861
49,451
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43.8
22.7
11.0
8.6
0.1
3.0
21.2
33.8
5.8
0.9
15.7
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合計
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315,375
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100.0
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医療保険等について、厚生労働省、社会保険庁、北海道社会保険事務局ほか46社会保険事務局、北海道ほか46都府県、国民健康保険の保険者及び老人保健の実施者である札幌市ほか2,530市町村並びに国民健康保険の保険者である北海道歯科医師国民健康保険組合ほか165組合を対象として、有効性等の観点から、次の点に着眼して検査した。
〔1〕 医療保険の財政状況については、政管健保、国民健康保険等の財政状況はどうなっているか、特に、市町村国保の実態はどうなっているか。
〔2〕 保険給付の状況については、政管健保、国民健康保険等の給付の内容や状況はどうなっているか。
〔3〕 医療費の地域格差の状況については、地域格差の実態はどうなっているか、地域格差が生じている要因は何か、また、医療費適正化のためどのような施策が執られ、その状況はどうなっているか。
検査に当たっては、厚生労働省等に対し統計資料等の提出を求めるとともに、17年11月から18年7月までの間に、厚生労働省、社会保険庁及び北海道ほか19都府県について会計実地検査を実施し、提出を受けた医療費に係る資料の内容、医療保険の財政状況及び医療費の地域格差等の現状について説明を受けるなどした。そして、在庁時においては、提出を受けた統計資料等及び実地検査で収集した資料について調査、分析を行った。
なお、本件についての上記会計実地検査に要した人日数は75.5人日である。