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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成18年10月

社会保障費支出の現状に関する会計検査の結果について


(3)医療費の地域格差の状況

ア 都道府県別の地域格差

(ア)調査の対象

 医療費の地域格差の状況を調査するに当たっては、国民医療費等を用いて全体としてみる方法、各医療保険等ごとに個々にみていく方法、入院、入院外、歯科等の医療費の内訳別にみていく方法などがある。また、地域差をみる尺度としては、都道府県単位とするのが一般的であるが、同一都道府県内の市町村間、医療法(昭和23年法律第205号)の規定に基づく医療を提供する体制の確保に関する計画(以下「医療計画」という。)により設定される区域間の比較なども考えられる。
 今回、医療費の地域格差の状況について調査するに当たり、その対象を市町村内の医療費を把握できる市町村国保の老人を除く被保険者(以下「若年者」という。)に係る医療費及び老人医療費に絞った上で、国民健康保険事業年報等の厚生労働省等で保有している統計資料に基づき、都道府県別にみていくこととした。
 また、調査に当たっては、入院に係る費用と入院時食事療養費(以下、これらを「入院・食事」という。)、入院外に係る費用と薬剤支給(以下、これらを「入院外・薬剤」という。)を中心にしてみていくこととした。
 一方、政管健保等の被用者保険については、被保険者等が受診した医療機関が所在する都道府県別の医療費を集計することはできるが、被保険者等の住所地により医療費を集計する仕組みとなっていないことなどから、調査の対象としないこととした。

(イ)若年者に係る医療費の地域格差

 15年度の若年者に係る医療費計7兆8348億2316万余円(一般被保険者28,546,957人、退職被保険者等6,196,637人)の主な内訳は、診療費6兆5054億6182万余円(入院2兆8089億6538万余円、入院外2兆9744億3528万余円、歯科7220億6115万余円)、入院時食事療養費(歯科に係る分を含む。以下同じ。)2553億7302万余円、薬剤支給9540億6802万余円となっている。
 そして、被保険者1人当たり医療費の都道府県別、診療種類別の状況は図2—24のとおりであり、このうち1人当たり医療費(診療費)の平均、最大及び最小についてみると以下のとおり、最大の徳島県は最小の沖縄県の1.59倍(同1.61倍)となっている。また、このうち入院・食事では最大の徳島県は最小の千葉県の2.03倍、入院外・薬剤では最大の広島県は最小の沖縄県の1.74倍となっている。

〔1〕 若年者に係る医療費

平均225,504円(最大 徳島県290,529円、最小 沖縄県182,935円)

〔2〕 診療費

平均187,242円(最大 徳島県248,633円、最小 沖縄県154,294円)

〔3〕 入院・食事

平均88,199円(最大 徳島県139,101円、最小 千葉県68,429円)

〔4〕 入院外・薬剤

平均113,071円(最大 広島県140,864円、最小 沖縄県81,081円)

〔5〕 歯科

平均20,783円(最大 大阪府23,952円、最小 沖縄県15,090円)

図2—24 若年者に係る1人当たり医療費の地域格差(15年度)

平均20,783円(最大大阪府23,952円、最小沖縄県15,090円)

 また、若年者に係る医療費の地域格差について、近年における1人当たり医療費の都道府県別の順位の推移を見ると表2—35のとおりとなっていた。

表2—35 若年者に係る1人当たり医療費順位の推移
都道府県
11年度
12年度
13年度
14年度
15年度
北海道
2
2
2
2
2
青森
31
31
31
31
32
岩手
21
21
19
21
22
宮城
33
33
34
35
35
秋田
17
18
18
18
18
山形
29
28
27
27
27
福島
26
27
28
28
28
茨城
44
44
44
44
45
栃木
43
43
42
43
43
群馬
42
42
43
42
42
埼玉
45
45
45
45
44
千葉
46
46
46
46
46
東京
38
38
41
41
41
神奈川
41
41
38
40
39
新潟
23
23
23
23
23
富山
5
7
6
3
3
石川
9
12
12
12
12
福井
20
20
21
20
20
山梨
40
40
40
39
40
長野
37
37
37
37
38
岐阜
34
34
35
34
34
静岡
39
39
39
38
37
愛知
32
32
32
32
33
三重
30
30
30
30
30
滋賀
36
36
36
36
36
京都
28
29
29
29
29
大阪
24
25
25
25
26
兵庫
22
22
22
22
21
奈良
35
35
33
33
31
和歌山
27
24
24
24
24
鳥取
18
17
17
17
16
島根
6
6
7
6
6
岡山
14
14
14
14
14
広島
3
4
3
4
4
山口
4
3
5
5
5
徳島
1
1
1
1
1
香川
8
5
4
7
7
愛媛
15
15
15
15
15
高知
10
10
9
9
10
福岡
11
13
13
13
13
佐賀
16
16
16
16
17
長崎
7
8
8
8
8
熊本
19
19
20
19
19
大分
12
9
10
10
9
宮崎
25
26
26
26
25
鹿児島
13
11
11
11
11
沖縄
47
47
47
47
47
全国平均額(円)
215,705
218,254
221,284
216,878
225,504
最高額(円)
277,904
283,396
285,293
281,093
290,529
最低額(円)
166,774
172,136
177,634
177,304
182,935
最高額/最低額
1.67
1.65
1.61
1.59
1.59
 厚生労働省「国民健康保険事業年報」を基に作成
注(2)
 年齢構成等による補正は行っていない。

 これによれば、近年において、若年者に係る医療費の都道府県別の順位はおおむね変わっておらず、若年者に係る医療費の地域格差が固定化している状況が見られる。

(ウ)老人医療費の地域格差

 15年度の老人医療費11兆6523億2456万余円(老人医療受給対象者15,480,275人)の主な内訳は、診療費9兆5652億6516万余円(入院5兆1827億6693万余円、入院外3兆9608億8322万余円、歯科4216億1499万余円)、入院時食事療養費4645億3552万余円、薬剤支給1兆4710億6099万余円となっている。
 そして、老人医療受給対象者1人当たり医療費の都道府県別、診療種類別の状況は図2―25のとおりであり、このうち1人当たり医療費(診療費)の平均、最大及び最小についてみると以下のとおり、最大の福岡県は最小の長野県の1.51倍(同1.54倍)となっている。また、このうち入院・食事では最大の北海道は最小の長野県の1.82倍、入院外・薬剤では最大の広島県は最小の沖縄県の1.44倍となっている。
 また、1人当たり老人医療費は平均752,721円で、若年者に係る1人当たり医療費の平均225,504円の3.3倍になっている。

〔1〕老人医療費
平均752,721円
(最大
福岡県
922,667円
、最小
長野県
612,042円)
〔2〕診療費
平均617,900円
(最大
福岡県
765,767円
、最小
長野県
496,962円)
〔3〕入院・食事
平均364,806円
(最大
北海道
515,273円
、最小
長野県
282,928円)
〔4〕入院外・薬剤
平均350,895円
(最大
広島県
420,426円
、最小
沖縄県
290,965円)
〔5〕歯科
平均27,236円
(最大
大阪府
38,996円
、最小
青森県
17,452円)

図2―25 老人に係る1人当たり医療費の地域格差(15年度)

(単位:千円)

 また、老人医療費の地域格差について、近年における1人当たり老人医療費の都道府県別の順位の推移をみると、表2―36及び図2―26のとおりとなっていた。

表2―36 都道府県別1人当たり老人医療費順位の推移
都道府県
9年度
10年度
11年度
12年度
13年度
14年度
15年度
北海道
1
2
2
1
1
2
2
青森
19
22
22
28
29
30
35
岩手
30
31
35
39
40
39
38
宮城
37
37
37
33
31
31
34
秋田
26
27
27
31
33
36
30
山形
46
46
46
46
45
45
46
福島
33
33
32
30
30
29
31
茨城
43
43
43
43
39
40
41
栃木
42
41
41
41
42
43
42
群馬
35
36
36
37
38
38
37
埼玉
32
34
33
29
28
28
29
千葉
44
44
44
42
43
44
43
東京
23
23
24
18
17
18
18
神奈川
29
28
31
27
27
27
32
新潟
41
40
42
45
46
46
45
富山
17
18
17
22
22
23
24
石川
6
8
9
6
8
7
7
福井
24
24
23
24
23
22
22
山梨
45
45
45
44
44
41
39
長野
47
47
47
47
47
47
47
岐阜
34
32
30
32
34
34
33
静岡
39
38
39
40
41
42
44
愛知
22
21
21
19
20
20
20
三重
38
39
38
38
37
37
40
滋賀
40
42
40
36
35
33
27
京都
13
14
14
7
10
8
8
大阪
8
7
5
3
3
3
3
兵庫
25
25
25
20
19
19
17
奈良
28
29
28
26
26
26
25
和歌山
27
26
26
25
24
24
23
鳥取
31
30
29
35
36
32
28
島根
36
35
34
34
32
35
36
岡山
16
16
16
17
18
16
16
広島
14
13
12
5
5
5
5
山口
11
11
13
15
13
14
15
徳島
12
12
11
13
14
17
19
香川
21
19
19
14
15
15
14
愛媛
20
20
20
21
21
21
21
高知
3
3
4
9
6
6
6
福岡
2
1
1
2
2
1
1
佐賀
9
10
10
10
9
10
9
長崎
5
4
3
4
4
4
4
熊本
7
5
7
11
11
11
12
大分
15
15
15
12
12
12
13
宮崎
18
17
18
23
25
25
26
鹿児島
10
9
8
8
7
9
11
沖縄
4
6
6
16
16
13
10
全国平均額(円)
789,853
800,694
832,108
757,856
756,618
736,512
752,721
最高額(円)
1,040,926
1,041,687
1,078,407
937,825
929,878
904,564
922,667
最低額(円)
592,371
612,612
642,795
594,213
602,141
596,480
612,042
最高額/最低額
1.76
1.70
1.68
1.58
1.54
1.52
1.51
注(1)
 厚生労働省「老人医療事業年報」を基に作成
注(2)
 年齢構成等による補正は行っていない。

図2―26 1人当たり老人医療費の上位、下位都道府県の順位の推移

 これによれば、12年度の介護保険制度の施行に伴い、老人医療費の都道府県間の最高額と最低額の格差に若干の縮小がみられ、また、多少の順位の変動もみられるが、12年度以降都道府県別の順位はおおむね変わっておらず、老人医療費の地域格差が固定化している状況がみられる。

(エ)格差の構成割合

 若年者及び老人における都道府県ごとの1人当たり医療費は、上記のように、医療費全体及びその内訳の診療費等のいずれにおいてもかなりのばらつきがみられる状況となっていた。
 この都道府県ごとの医療費の地域格差について、全国平均との差及び診療種類別の内訳をみると、図2―27及び図2―28のとおりとなっている。そして、全国平均との差に占める診療種類別の構成割合(以下「寄与率」という。)についてみると、入院・食事(医療費に占める割合:若年者39.1%、老人48.4%)及び入院外・薬剤(同:若年者50.1%、老人46.6%)の寄与率は、それぞれ若年者65.5%、老人65.0%及び若年者27.2%、老人29.4%となっていて、若年者、老人とも入院・食事の医療費の方が高くなっている。

図2―27 若年者に係る医療費の全国値との差(15年度)

(単位:千円)
(全国平均:225,504円)

図2―28 老人に係る医療費の全国値との差(15年度)

(単位:千円)
(全国平均:752,721円)

(オ)医療費分析の方法

 1人当たり診療費は、以下の算式により複数の要素に分解して分析することが一般的に行われている。

1人当たり診療費
=〔A〕1人当たり件数×〔B〕1件当たり日数×〔C〕1日当たり診療費
=〔A〕(件数/人数)×〔B〕(日数/件数)×〔C〕(診療費総額/日数)
=〔D〕1人当たり日数(〔A〕×〔B〕)×〔C〕1日当たり診療費
=〔A〕1人当たり件数×〔E〕1件当たり診療費(〔B〕×〔C〕)
〔A〕1人当たり件数:
一定期間内に医療機関の診療を受けた者の割合を示す指標。件数とは月ごとに医療機関から提出される診療報酬明細書(レセプト)の数である。一般には「受診率」と呼ばれる。
〔B〕1件当たり日数:
入院期間の長短又は(外来の場合の)通院頻度を示す指標。レセプトに記載された1月当たりの診療実日数(入院日数又は通院日数)をレセプト枚数で除したものである。
〔C〕1日当たり診療費:
医療機関で受けた診療費の単価を1日当たりで示している。診療の質的側面における濃淡を示す指標
〔D〕1人当たり日数:
入院期間の長短又は通院頻度を患者単位で示した指標
〔E〕1件当たり診療費:
医療機関で受けた診療費の単価をレセプト1件当たりで示している。1月を単位とした診療の濃淡を示す指標

 そこで、1人当たり診療費とこれを構成する上記の3つの要素〔A〕、〔B〕、〔C〕、医療提供体制の指標である医療施設数、病床数等との相関係数(注5)を算出し、医療費の地域格差の要因を分析することとした。

(注5)
 相関係数  2つの変数間に相互に単純な依存関係がある場合、相関関係または相関があるという。この関係の強さを示す尺度として相関係数があり、―1≦r≦1の間の値をとる。0<rのとき2つの変数は同じ方向に変化し、正の相関があるといい、0>rのとき2つの変数は逆の方向に変化し、負の相関があるという。rの値が±1に近づくほど2つの変数間の関係は強く、0に近づくほど関係は弱い。

(カ)医療提供体制の指標等との相関関係

 若年者及び老人における都道府県ごとの1人当たり診療費のうち、入院については入院時食事療養費を含めて、入院外については薬剤支給を含めて、(オ)で示した要素等との相関関係をみたところ、表2―37の状況となっていた。

表2―37 1人当たり診療費と医療提供体制の指標等との相関関係
項目
相関係数
若年者
老人
入院・食事
1人当たり診療費と1人当たり件数
1人当たり診療費と1件当たり日数
1人当たり診療費と1日当たり診療費
1人当たり診療費と人口10万対病床数
1人当たり診療費と平均在院日数(病院)
0.98
0.85
-0.73
0.87
0.72
0.96
0.81
-0.62
0.75
0.69
入院外・薬剤
1人当たり診療費と1人当たり件数
1人当たり診療費と1件当たり日数
1人当たり診療費と1日当たり診療費
1人当たり診療費と人口10万対施設数(病院・診療所)
0.91
0.48
-0.31
0.60
0.73
0.73
-0.45
0.43
(注)
 1人当たり診療費と1人当たり件数等の要素との間の相関係数の算出は、入院・食事、入院外・薬剤ごとに行っている。

 入院・食事については、若年者及び老人とも1人当たり診療費と1人当たり件数との間で、また、1人当たり診療費と1件当たり日数との間で、強い正の相関がみられる。一方、1人当たり診療費と1日当たり診療費との間では、若年者については強い負の相関が、老人については中程度の負の相関がみられる。このことから、1人当たり診療費の地域格差は、主として入院の頻度や入院期間の長短によるものであると推測される。
 そして、医療提供体制の指標として、病院と診療所(歯科診療所を除く。以下同じ。)の全病床数から介護療養型医療施設の病床数を除いた病床数について、都道府県ごとの人口10万人当たりの病床数(以下「人口10万対病床数」という。)を算出し、これと1人当たり診療費の関係についてみると、強い正の相関がみられ、また、平均在院日数と1人当たり診療費との関係については、若年者については強い正の相関が、老人については中程度の正の相関がみられる。このことは、人口10万対病床数が入院の頻度や平均在院日数に影響するなどして、1人当たり診療費の格差の1要因となっていると推測される。(図2―292―30参照

図2―29 1人当たり診療費等(若年者 入院・食事)と人口10万対病床数との相関(15年度)

図2―30 1人当たり診療費等(老人 入院・食事)と人口10万対病床数との相関(15年度)

 入院外・薬剤については、若年者と老人とで相関関係に差がみられ、若年者においては、1人当たり診療費と1人当たり件数との間で相関が強いのに対し、1件当たり日数との間の相関は中程度と老人に比べて弱くなっている。また、老人においては、1人当たり診療費と1人当たり件数及び1件当たり日数との間では同程度の強い正の相関があるものの、1人当たり件数との相関は若年者よりも弱くなっている。一方、1人当たり診療費と1日当たり診療費との間では、若年者及び老人とも入院・食事より弱いものの負の相関がみられる。このことは、1人当たり診療費の地域格差は、主として受診率や通院頻度によるものであると推測される。
 そして、医療提供体制の指標として、都道府県ごとの人口10万人当たりの病院及び診療所の施設数(以下「人口10万対施設数」という。)を算出し、これと1人当たり診療費との関係についてみると、若年者及び老人とも中程度の正の相関がみられる。このことは、人口10万対施設数が、主として、若年者においては受診率に、老人においては受診率や通院頻度に影響するなどして、1人当たり診療費の格差の一要因となっていると推測される。

(キ)医療提供体制の地域格差

 医療費の地域格差との関係が認められる医療提供体制の状況についてみると、都道府県ごとの人口当たりの医療施設数、病床数にかなりのばらつきがみられる。15年の人口10万対施設数は、全国平均が82.4であるのに対し、最大が111.2(徳島県)、最小が57.4(埼玉県)、また、同年の病院の人口10万対病床数の状況は、図2―31のとおり、総病床数では全国平均が1,278.9であるのに対し、最大が2,457.2(高知県)、最小が862.7(神奈川県)となっていて、これを病床種類ごとにみると、表2―38のとおり、特に療養病床において大きな格差がみられる状況となっていた。

図2―31 都道府県別の病院の人口10万対病床数(平成15年)

表2―38 病床種類ごとにみた病院の人口10万対病床数の状況(平成15年)
区分
全国平均
最大(A)
最小(B)
(A/B)
一般病床
720.2
1,000.7(香川)
484.4(埼玉)
2.07
療養病床
268.3
998.6(高知)
134.1(神奈川)
7.45
精神病床
277.7
566.9(鹿児島)
158.5(滋賀)
3.58
総病床数
1,278.9
2,457.2(高知)
862.7(神奈川)
2.85
(注)
 厚生労働省「医療施設調査」を基に作成

 そして、昭和28年から平成15年までの50年間における病院の病床数等の推移についてみると、表2―39のとおり、病院の総病床数は、昭和28年に全国で387,402であったものが、50年後の平成15年には4.2倍の1,632,141、人口千人当たり病床数は4.45から2.8倍の12.78となっており、全体としては病床の整備が進展してきている。

表2―39 病院の病床数の年次推移
 
昭和28年
38年
48年
58年
平成5年
15年
総病床数
人口千人当たり病床数
順位
人口千人当たり病床数
順位
人口千人当たり病床数
順位
人口千人当たり病床数
順位
人口千人当たり病床数
順位
総病床数
人口千人当たり病床数
順位
全国
387,402
4.454
/
8.262
/
10.317
/
12.050
/
13.454
/
1,632,141
12.789
/
北海道
23,594
5.120
10
10.023
6
13.442
10
15.970
10
19.570
5
106,178
18.763
6
青森県
5,318
3.960
25
9.450
13
12.285
15
13.753
20
14.701
24
19,686
13.465
27
岩手県
6,740
4.818
13
8.653
18
11.230
23
14.034
19
15.200
19
20,059
14.307
24
宮城県
9,368
5.533
6
9.659
10
10.329
29
10.463
36
11.130
39
26,175
11.030
38
秋田県
4,319
3.247
39
7.483
33
11.032
25
13.247
23
14.929
22
17,445
14.949
18
山形県
4,730
3.504
33
7.023
39
8.155
42
9.616
42
11.155
38
14,791
12.025
32
福島県
6,529
3.142
41
7.550
30
11.722
18
14.214
17
15.899
17
30,378
14.377
23
茨城県
6,393
3.119
42
6.622
43
8.829
39
10.582
35
11.822
33
32,943
11.014
39
栃木県
5,393
3.491
34
7.193
36
9.262
34
10.992
32
11.222
37
22,853
11.364
36
群馬県
6,116
3.801
28
6.630
42
8.756
40
10.838
33
12.607
30
25,435
12.505
30
埼玉県
7,023
3.174
40
5.281
46
5.553
47
7.556
47
8.980
47
61,424
8.739
46
千葉県
11,863
5.454
8
8.016
25
7.716
44
8.072
46
9.357
45
56,464
9.373
45
東京都
43,360
5.805
3
8.346
22
9.881
31
11.140
31
11.768
34
129,253
10.500
41
神奈川県
15,194
5.485
7
7.375
34
7.404
45
8.419
45
9.187
46
74,944
8.627
47
新潟県
9,486
3.859
26
6.795
40
9.337
32
10.658
34
12.275
31
30,566
12.425
31
富山県
4,638
4.560
15
8.560
19
11.932
16
15.099
14
16.500
15
18,374
16.449
14
石川県
5,491
5.732
4
10.246
4
14.638
5
17.855
4
18.598
9
20,535
17.403
10
福井県
3,124
4.182
21
7.758
26
11.601
20
14.108
18
15.117
20
12,212
14.767
20
山梨県
2,079
2.583
46
7.158
37
10.818
27
12.741
26
12.967
29
11,791
13.293
28
長野県
7,501
3.699
29
7.729
27
9.991
30
11.253
30
11.497
36
24,927
11.254
37
岐阜県
5,576
3.531
31
7.061
38
8.921
37
9.944
41
10.745
41
21,045
9.969
43
静岡県
8,623
3.349
37
5.978
45
7.790
43
8.681
44
10.401
43
40,134
10.581
40
愛知県
15,647
4.295
18
7.494
32
8.862
38
10.190
40
10.769
40
69,797
9.751
44
三重県
6,579
4.457
16
9.474
12
11.114
24
12.003
28
12.241
32
21,444
11.517
34
滋賀県
2,611
3.061
43
6.641
41
9.085
35
10.311
39
10.261
44
14,328
10.489
42
京都府
11,501
6.060
2
9.888
7
11.565
21
13.311
21
14.832
23
36,684
13.890
25
大阪府
24,602
5.598
5
8.195
23
9.064
36
11.903
29
13.837
28
111,451
12.642
29
兵庫県
14,602
4.134
22
7.496
31
9.284
33
10.439
37
11.747
35
65,242
11.682
33
奈良県
2,128
2.760
44
6.615
44
8.675
41
9.031
43
10.742
42
16,375
11.403
35
和歌山県
3,327
3.361
36
8.033
24
11.750
17
13.280
22
14.452
25
14,640
13.864
26
鳥取県
2,558
4.214
19
9.648
11
13.058
11
13.175
24
13.884
27
9,051
14.813
19
島根県
3,113
3.391
35
7.552
29
10.821
26
13.085
25
15.103
21
11,788
15.655
17
岡山県
11,019
6.543
1
12.464
1
15.087
3
16.296
7
17.087
14
31,340
16.047
15
広島県
10,017
4.727
14
9.066
16
10.485
28
12.165
27
14.209
26
41,837
14.537
22
山口県
7,890
4.969
11
9.349
15
11.714
19
15.323
13
19.039
7
28,114
18.594
7
徳島県
3,579
4.095
23
9.805
8
15.325
2
18.312
3
21.298
2
15,997
19.580
3
香川県
4,620
4.925
12
10.283
3
14.455
6
17.250
5
17.974
12
17,171
16.834
13
愛媛県
5,036
3.300
38
7.663
28
11.238
22
15.078
15
16.474
16
23,549
15.879
16
高知県
3,566
4.080
24
11.389
2
20.123
1
25.064
1
26.644
1
19,830
24.572
1
福岡県
20,165
5.322
9
10.051
5
13.823
8
15.951
11
18.950
8
89,348
17.689
9
佐賀県
4,155
4.315
17
8.559
20
12.626
14
15.705
12
18.189
10
15,475
17.747
8
長崎県
6,653
3.850
27
8.425
21
12.896
12
16.058
9
19.295
6
28,437
18.945
5
熊本県
7,737
4.187
20
9.372
14
14.419
7
18.445
2
20.481
3
36,191
19.510
4
大分県
3,290
2.619
45
7.228
35
12.664
13
14.770
16
17.376
13
21,029
17.265
11
宮崎県
3,924
3.526
32
9.781
9
13.802
9
16.118
8
18.069
11
19,845
17.049
12
鹿児島県
6,625
3.679
30
8.656
17
14.785
4
16.679
6
20.465
4
35,836
20.189
2
沖縄県
6.091
46
10.403
38
15.686
18
19,730
14.626
21
最大/最小
20.86
2.53
 
2.36
 
3.62
 
3.32
 
2.97
 
14.28
2.85
 
(注)
 厚生労働省「医療施設調査」等を基に作成

 これを都道府県別にみると、総病床数の格差(最大/最小)は昭和28年の20.8倍から平成15年の14.2倍と格差が縮小する一方で、人口千人当たりの病床数の格差(最大/最小)は昭和28年の2.5倍から平成15年の2.8倍と格差が拡大している。そして、その間の総病床数及び人口千人当たり病床数の伸びを見ると、総病床数は2.7倍(宮城県)から8.7倍(埼玉県)、人口千人当たり病床数は1.5倍(神奈川県)から6.5倍(大分県)となっている。
 また、人口当たりの病床数の格差が拡大したのは、主として、昭和30年代から60年代にかけて精神病院や老人病院(注6)の開設等に都道府県間で差があったこと、60年に医療法が改正されて都道府県ごとに医療計画を作成するなどの制度が導入されるまでは、公立病院以外の私的病院の開設については、病院開設者の意思が尊重された結果、地域が偏在して病院の開設等が行われたことなどによると思料される。

(注6)
 老人病院 65歳以上の高齢者の入院比率が高いなどの理由から、医療法上又は診療報酬請求上特例的な扱いを認められていた病院の総称である。現在、この特例的な扱いによる老人病院という区分は廃止されている。

 また、平成15年の人口千人当たり病床数の上位5県と下位5県における病床数の推移等をみると、図2―32のとおりとなっていた。

図2―32 都道府県別人口千人当たり病床数の推移

 人口千人当たり病床数は、昭和30年代から60年代にかけて増加し、上位5県の伸び率(平均5.6倍)は全国平均の伸び率(平均2.8倍)を大きく上回っているのに対し、下位5県の伸び率(平均1.8倍)は全国平均の伸び率と同等ないし下回っており、これらの県における平成15年の人口当たり病床数の格差は、主として、この50年間の人口当たり病床数の伸びの差異によって生じている。そして、平成に入ってからは、ほとんどの県において人口千人当たり病床数は、わずかながら減少傾向になっているが、その格差は固定化している状況である。
 さらに、道府県内の病院の所在についても偏りがみられ、道府県庁所在地に所在する病院の病床数の道府県全体の病床数に対する割合(以下、「病床集中率」という。)により、道府県庁所在地に病床が集中している状況をみると、表2―40のとおりとなっていた。そして、総病床数でみると、37道府県において、病床集中率が、道府県庁所在地の人口の道府県全体の人口に対する割合(以下「人口集中率」という。)を超えていた。

表2―40 病院の病床の病床集中率の状況(平成15年)
病床集中率区分
道府県数
総病床数
一般病床
療養病床
精神病床
10%未満
1
1
6
4
10%以上20%未満
9(7)
5(4)
8(1)
8(4)
20%以上30%未満
9(7)
10(8)
15(6)
10(6)
30%以上40%未満
19(15)
20(17)
12(10)
14(10)
40%以上50%未満
5(5)
7(7)
2(2)
5(5)
50%以上60%未満
2(2)
2(2)
2(2)
5(5)
60%以上70%未満
1(1)
1(1)
0
0
70%以上80%未満
0
0
1(1)
0
46(37)
46(39)
46(22)
46(30)
注(1)
 厚生労働省「医療施設調査」等を基に作成
注(2)
 ( )は、病床集中率が人口集中率を超えているものを示している。
注(3)
 東京都については除いている。

 そして、病院の人口千人当たり病床数が最も高い高知県についてみると、表2―41のとおり、高知県における人口集中率が40.3%であるのに対して、すべての病床種類において病床集中率が50%を超えていた。

表2―41 高知県の病床集中率の状況(平成15年)
(単位:%)
総病床数
一般病床
療養病床
精神病床
人口集中率
53.8
56.9
52.4
50.4
40.3
(注)
 厚生労働省「医療施設調査」等を基に作成

 また、高知県における昭和28年以降の病床種類ごとの推移をみると表2―42のとおりの状況となっている。病院の総病床数は60年代に医療計画が導入されて間もない平成2年に、人口千人当たり病床数は5年に最も多くなっているが、人口千人当たり病床数の全国平均値に対する比率(以下「病床全国比」という。)では昭和50年代にピークとなり、その後は徐々に逓減している。そして、病床の種類別に見ると、老人病院の病床数については、病床全国比は平成2年において3.7倍、11年で4.2倍と高く、主として老人等の長期の入院患者が多い療養病床については、16年において3.6倍と高い傾向が続いている。一方、一般病床についてみると、病床全国比は1.3倍と療養病床に比べれば低くなっている。

表2―42 高知県における病院病床数の推移
病床種類
昭和28年
(1953)
30年
(1955)
36年
(1961)
42年
(1967)
52年
(1977)
56年
(1981)
平成2年
(1990)
5年
(1993)
11年
(1999)
16年
(2004)
病院病床計
3,566
5,284
8,770
12,558
17,495
20,406
21,951
21,768
20,456
19,651
 
人口千人当たり病床数
4.080
5.984
10.379
15.678
21.361
24.497
26.207
26.644
25.099
24.472
病床全国比
0.916
1.042
1.366
1.631
2.020
2.120
1.961
1.980
1.929
1.915
精神病床
259
578
1,489
2,610
3,643
3,901
4,203
4,203
4,090
3,931
 
人口千人当たり病床数
0.296
0.655
1.762
3.258
4.448
4.683
5.095
5.144
5.018
4.895
病床全国比
0.916
1.321
1.564
1.550
1.750
1.758
1.754
1.773
1.773
1.761
結核病床
1,473
2,471
2,710
2,577
1,702
1,393
797
762
402
264
 
人口千人当たり病床数
1.685
2.798
3.207
3.217
2.078
1.672
0.966
0.933
0.493
0.329
病床全国比
0.878
1.058
1.229
1.573
2.163
2.547
2.829
3.146
2.522
3.158
その他病床
1,666
2,008
4,308
7,106
11,919
14,933
16,803
16,655
15,955
 
人口千人当たり病床数
1.906
2.274
5.098
8.871
14.553
17.927
20.367
20.386
19.577
病床全国比
1.004
1.020
1.469
1.741
2.147
2.244
2.008
2.019
1.965
老人病院等(再掲)
3,678
5,729
7,703
 
人口千人当たり病床数
4.458
7.012
9.452
病床全国比
3.702
4.747
4.253
療養病床
7,985
 
人口千人当たり病床数
9.944
病床全国比
3.633
一般病床
7,462
 
人口千人当たり病床数
9.293
病床全国比
1.301
(注)
 厚生労働省「医療施設調査」等を基に作成

(ク)医療の需要側の指標との相関関係

 医療施設数及び病床数は医療の提供側の指標であるが、医療の需要側である患者の受療行動に影響する要因のうち、データの把握が可能なものについて、老人医療費との間の相関関係をみたところ、表2―43のとおりであった。

表2―43 1人当たり診療費と需要側の指標との相関関係
項目
指標
老人1人当たりの診療費等との相関係数
社会的要因
70歳以上の1人暮らし老人の割合
入院・食事
0.5483
入院外・薬剤
0.5579
経済的要因
70歳以上の老人の就業率
入院・食事
-0.4067
入院外・薬剤
-0.3592
行政的要因
人口千人当たりの市町村所属の保健師数
入院・食事
-0.0218
入院外・薬剤
-0.6089
基本健康診査受診率
入院・食事
-0.5120
入院外・薬剤
-0.1635

 70歳以上の1人暮らし老人の割合は、入院・食事及び入院外・薬剤との間で中程度の正の相関がみられ、70歳以上の老人の就業率は、入院・食事との間で中程度の負の相関が、入院外・薬剤との間では弱い負の相関がみられる。また、人口千人当たりの市町村所属保健師数は、入院外・薬剤との間で中程度の負の相関がみられ、基本健康診査受診率は、入院・食事との間で中程度の負の相関がみられる。このことは、70歳以上の1人暮らし老人の割合などの社会的要因、70歳以上の老人の就業率などの経済的要因及び保健師数などの保健事業に係る行政的要因が、老人における1人当たり医療費の格差の一要因となっていると推測される。

(ケ)医療費の高い県と低い県の例

a 医療費の高い県と低い県における医療費の状況

 医療費の高い県及び低い県の状況について、15年度の1人当たり老人医療費が全国で最も高い福岡県及び最も低い長野県を取り上げて、両県の市町村国保における医療費の状況をみたところ、表2―44のとおりとなっていた。

表2―44 福岡、長野両県の市町村国保における医療費の状況
 
15年度市町村国保の1人当たり医療費(単位:円)
全国平均を上回る市町村数
区分
一般
退職
老人
全体
一般
退職
老人
全体
福岡県
平均
最大(a)
最小(b)
(a/b)
227,201
311,409
168,016
1.85
392,295
509,218
225,361
2.25
920,375
1,032,657
672,193
1.53
441,082
568,753
339,521
1.67
86
69
93
95
県内市町村数は96
長野県
平均
最大(a)
最小(b)
(a/b)
181,370
412,066
98,540
4.18
322,278
488,073
149,856
3.25
614,037
730,740
469,767
1.55
342,120
544,230
227,457
2.39
49
16
0
41
県内市町村数は118
全国
平均
195,711
362,754
756,605
363,270
 

 福岡県では、一般被保険者、退職被保険者等及び老人の1人当たり医療費は、227,201円、392,295円及び920,375円と全国平均に比べて、それぞれ1.16倍、1.08倍及び1.21倍となっている。
 また、長野県では、一般被保険者、退職被保険者等及び老人の1人当たり医療費は、181,370円、322,278円及び614,037円と全国平均に比べて、それぞれ0.92倍、0.88倍及び0.81倍となっている。
 そして、両県では、医療費が高い状況又は低い状況が傾向的に続いているが、いずれの県においても、県内の市町村国保における1人当たり医療費にかなりの格差がみられた。例えば、老人の1人当たり医療費についてみると、福岡県では県内96市町村のうち93市町村が全国平均を上回っているのに対し、長野県では県内118市町村で全国平均を上回っている市町村はなかった。
 なお、両県における医療提供体制等の状況は表2―45のとおりである。

表2―45 福岡、長野両県における医療提供体制等の状況
指標区分
年度
福岡県
長野県
全国
人口10万対施設数(病院・診療所)
15
95.6
72.5
82.4
人口10万対病床数(病院:一般及び療養病床)
15
1,317.7
873.0
988.5
平均在院日数(一般病床等)
15
22.3
17.4
20.7
平均在院日数(療養病床等)
15
180.2
89.0
172.3
70歳以上の1人暮らし老人の割合
12
17.3
10.2
14.8
70歳以上の老人の就業率
12
11.7
25.0
15.9
注(1)
 厚生労働省「医療施設調査」等を基に作成
注(2)
 歯科に係る分は除いている。

b 疾病別受療率の状況

 入院している患者及び外来診療を受けている患者の疾病状況を示す指標の1つに厚生労働省が実施している患者調査による疾病別の受療率(推計患者数を人口10万対で示したもの)がある。この調査の結果により、福岡、長野両県の入院及び入院外患者の疾病状況をみたところ、表2―46のとおりとなっていた。

表2―46 厚生労働省「患者調査」(平成14年)による疾病別受療率の状況
区分
全国
福岡県
長野県
入院
総数
1,139
1,586
966
精神障害
258
418
228
循環器系
246
337
183
新生物
131
156
121
損傷、外因
93
146
82
神経系
66
91
53
入院外
総数
4,182
4,345
3,826
循環器系
704
615
788
筋骨格系
693
833
463
呼吸器系
563
537
529
内分泌代謝
282
233
268
消化器系
256
267
235
注(1)
 疾病の分類は、厚生労働省が統計等に用いている社会保険表章用疾病分類に基づく19分類によっている。
注(2)
 総数及び全国の上位5つの疾病について示し、歯科に係る分は除いている。

 入院については、いずれの疾病においても福岡県では全国平均を上回っているのに対し、長野県では下回っていた。入院外では、疾病により状況は区々となっているが、総数では福岡県は全国平均を上回り、長野県は下回っていた。

c 医療費の高低の要因と適正化への取組状況

 両県では、それぞれ県内の医療費についての現状や医療費の高低が生じている要因の分析を行っており、その分析結果等に基づいて医療費適正化に取り組んでいた。
 両県の状況はおおむね以下の記述のとおりである。

(a)福岡県

 福岡県では、同県の医療費、特に老人医療費の高い傾向が続いていることから、医療費が高くなる要因の分析を行っている。
 同県では、その要因として、〔1〕医療施設数や病床数等の医療提供体制が戦後の早い時期から全国的にみて充実しており患者が受診しやすいこと、〔2〕脳血管疾患等長期入院につながりやすい循環器系の疾病による1人当たり受診件数(入院)が全国平均より高いことなどをあげている。
 そして、同県では、充実した医療提供体制という県民にとっては良好な環境を維持しつつ、〔1〕健康寿命の延伸、〔2〕良質で効率的な医療の提供、〔3〕適切な受診の促進等を目指して、生活習慣病の予防の推進、在宅ケアの推進などの医療費適正化対策に市町村等と共に取り組んでいるところである。

(b)長野県

 長野県の特徴的な要因として、〔1〕地域や家庭で高齢者を支える環境が整っており、その結果、高齢者1人当たりの医療機関への受診件数(入院・入院外)が全国平均より少なく、入院日数も短くて済む傾向があること、〔2〕保健活動が活発で、昭和40年代から同県全域で減塩運動等の脳卒中予防を目的とした保健予防活動等を長い時間をかけて進めてきたことなどがあげられる。
 そして、同県では、若年者、老人とも1人当たり医療費が低いとはいえ、その額は増加傾向にあることや、高齢化も進展しているなど、医療費の適正化が求められる状況は他都道府県と変わらないことから、同県の特徴である上記の要因をいかしつつ、在宅医療等の一層の推進、重複頻回受診者対策の推進などの医療費適正化対策に取り組んでいるところである。

イ 医療費の高い市町村と低い市町村の状況

(ア)国民健康保険における安定化計画

 国民健康保険法の規定に基づき、厚生労働大臣は毎年度、医療費の額が被保険者の数及び高齢化の進展状況その他の事情を勘案してもなお著しく多額と見込まれる市町村であって、医療費の適正化その他国民健康保険事業の運営の安定化のための措置を特に講ずる必要があると認められるものを指定することになっている。この指定は、市町村国保の医療費(市町村国保の被保険者である老人に係る医療費を含む。)の実績給付費に基づき、退職被保険者等に係る医療費は除いて、老人を除く一般被保険者に係る医療費は実績ベースで、また、老人医療費は拠出金ベースに換算した上で、市町村の年齢構成の違いから来る影響を補正した地域差指数(注7)という指標を用いて、災害等の特別な事情を控除した後の地域差指数が1.14を超える市町村について行われ、平成17年度は146市町村が指定されている。
 そして、指定市町村では、厚生労働大臣の定める指針に従い、国民健康保険事業の運営の安定化に関する計画(以下「安定化計画」という。)を策定することとされており、安定化計画では、医療費が高い要因について、被保険者種別ごとに受療形態(入院、入院外、歯科)に応じて年齢階層別や疾病分類別等の各種の分析を行い、また、病院等の分布や病床数など医療提供体制との関連についても把握した上で対策を講ずることとされている。

(注7)
 地域差指数 当該市町村の実績給付費を、年齢階層別1人当たり給付費が全国平均と同じと仮定した場合の当該市町村の基準給付費で除した数値をいう。

(イ)指定市町村等の状況

 15年度の医療費実績に基づき、医療費が高いとして17年度において指定を受けた146市町村(以下「146指定市町村」という。)の状況は表2―47のとおりであり、146指定市町村の地域差指数は1.14から1.505(単純平均1.216)となっている。

表2―47 146指定市町村の状況(17年度指定)
市町村名
地域差指数
市町村名
地域差指数
市町村名
地域差指数
北海道札幌市
1.175
三重県紀伊長島町
1.146
三橋町
1.176
函館市
1.169
大阪府泉佐野市
1.146
香春町
1.159
小樽市
1.181
鳥取県江府町
1.246
金田町
1.181
夕張市
1.193
岡山県玉野市
1.157
糸田町
1.218
留萌市
1.287
富村
1.447
川崎町
1.211
苫小牧市
1.233
広島県三原市
1.145
赤池町
1.14
芦別市
1.183
尾道市
1.164
大任町
1.253
赤平市
1.505
因島市
1.23
赤村
1.222
三笠市
1.213
倉橋町
1.29
吉富町
1.197
根室市
1.231
宮島町
1.191
大平村
1.276
千歳市
1.16
黒瀬町
1.166
佐賀県鳥栖市
1.261
滝川市
1.157
豊町
1.197
多久市
1.182
登別市
1.148
沼隈町
1.179
大和町
1.186
北広島市
1.163
山口県小野田市
1.145
神埼町
1.178
浜益村
1.282
徳島県神山町
1.238
千代田町
1.17
知内町
1.181
那賀川町
1.18
三田川町
1.453
上磯町
1.175
吉野町
1.3
中原町
1.208
大野町
1.166
阿波町
1.238
北茂安町
1.152
砂原町
1.219
美馬町
1.346
三根町
1.16
島牧村
1.193
貞光町
1.217
三日月町
1.152
寿都町
1.173
一宇村
1.403
塩田町
1.175
黒松内町
1.14
井川町
1.193
長崎県波佐見町
1.147
喜茂別町
1.184
東祖谷山村
1.349
生月町
1.218
京極町
1.267
西祖谷山村
1.264
吉井町
1.271
岩内町
1.23
吉野川市
1.143
熊本県荒尾市
1.198
泊村
1.34
香川県坂出市
1.178
牛深市
1.172
古平町
1.286
綾上町
1.223
坂本村
1.267
仁木町
1.201
琴南町
1.204
泉村
1.251
南幌町
1.179
愛媛県新居浜市
1.168
山江村
1.191
由仁町
1.258
四国中央市
1.156
大分県大分市
1.16
長沼町
1.204
高知県室戸市
1.303
豊後高田市
1.204
栗山町
1.158
奈半利町
1.191
大田村
1.399
比布町
1.186
安田町
1.161
鶴見町
1.243
南富良野町
1.169
芸西村
1.192
本耶馬渓町
1.145
増毛町
1.197
吉川村
1.22
鹿児島県串木野市
1.311
猿払村
1.169
福岡県北九州市
1.183
加世田市
1.184
枝幸町
1.216
福岡市
1.141
笠沙町
1.301
豊浦町
1.179
大牟田市
1.167
大浦町
1.245
虻田町
1.212
久留米市
1.141
坊津町
1.272
白老町
1.217
筑後市
1.189
市来町
1.458
えりも町
1.275
行橋市
1.173
伊集院町
1.274
秋田県井川町
1.267
豊前市
1.253
日吉町
1.353
福島県広野町
1.178
小竹町
1.15
吹上町
1.317
埼玉県東秩父村
1.221
鞍手町
1.185
金峰町
1.21
新潟県関川村
1.163
若宮町
1.169
薩摩町
1.287
石川県志雄町
1.312
杷木町
1.222
東町
1.204
押水町
1.157
城島町
1.141
福山町
1.185
門前町
1.337
星野村
1.171
瀬戸内町
1.177
山梨県早川町
1.231
大和町
1.142
 
 
注(1)
 厚生労働省作成の資料による。
注(2)
 平成15年度の医療費実績等により指定した市町村

 そして、14年度から17年度まで毎年継続して指定を受けた63市町村における地域差指数の推移の状況は表2―48のとおりとなっている。このうち14年度に比べて17年度の地域差指数が低くなっているのは34市町村、高くなっているのは23市町村であった。そして、これら63市町村の地域差指数の平均は、14年度の1.218から17年度は1.224となっていて、63市町村全体としては、地域差指数でみる限り、指定を受けて安定化計画を策定して対策を講じていることの効果が必ずしも発現していない状況となっていた。

表2―48 地域差指数の推移
 
14年度
15年度
16年度
17年度
14年度と17年度の比較
指定市町村数
対前年度
改善
34
36
29
34
同一
0
2
0
1
悪化
24
25
34
23
不明
5
0
0
5
63
63
63
63
63
地域差指数
最大
最小
平均
1.386
1.153
1.218
1.372
1.102
1.214
1.385
1.141
1.210
1.505
1.140
1.224
注(1)
 表中の年度は安定化計画の指定年度を示している。
注(2)
 地域差指数の平均値は、指定市町村における単純平均の値である。

 このような状況になっているのは、高医療費の要因分析の結果が必ずしも対策に反映されていないことなどにもよるが、安定化計画に基づいて実施される被保険者指導、保健事業、在宅ケアの推進、社会福祉施設の適正配置等の医療費適正化のための対策の多くは、短期的な効果の発現が難しく、さらに、地域の社会経済環境の中で長年かけて培われてきた住民の受療行動や健康意識は容易に変わるものではないなどの事情にもよると認められる。
 一方、市町村国保の15年度の月平均被保険者数が4,000人以上である市町村の中から地域差指数の低い順に抽出するなどして選定した78市町村(以下「78低医療費市町村」という。)について、146指定市町村と同様にその状況を調査し、必要に応じて比較することとした。78低医療費市町村の状況は表2―49のとおりであり、78低医療費市町村の地域差指数は0.630から0.826(単純平均0.795)となっている。

表2―49 78低医療費市町村の状況
市町村名
地域差指数
市町村名
地域差指数
市町村名
地域差指数
青森県木造町
0.826
昭和村
0.780
日の出町
0.823
深浦町
0.778
明和町
0.808
大島町
0.825
百石町
0.819
埼玉県入間市
0.808
八丈町
0.747
六戸町
0.819
千葉県東金市
0.801
神奈川県藤野町
0.823
大畑町
0.815
八日市場市
0.764
長野県中野市
0.809
大間町
0.782
旭市
0.787
茅野市
0.789
岩手県胆沢町
0.820
我孫子市
0.815
軽井沢町
0.821
軽米町
0.778
酒々井町
0.803
望月町
0.802
種市町
0.818
八街市
0.790
富士見町
0.826
大野村
0.787
富里市
0.764
箕輪町
0.797
山形県中山町
0.822
長生村
0.809
飯島町
0.760
羽黒町
0.816
成東町
0.785
南箕輪村
0.807
藤島町
0.810
山武町
0.771
波田町
0.791
温海町
0.799
横芝町
0.792
白馬村
0.775
茨城県内原町
0.815
芝山町
0.789
松川町
0.779
友部町
0.805
大栄町
0.805
高森町
0.819
旭村
0.792
小見川町
0.824
岐阜県白川町
0.810
鉾田町
0.824
多古町
0.802
静岡県伊東市
0.795
玉造町
0.810
干潟町
0.752
岡部町
0.793
千代田町
0.823
東庄町
0.740
金谷町
0.817
三和町
0.800
海上町
0.630
豊田町
0.801
境町
0.788
飯岡町
0.699
京都府宮津市
0.808
利根町
0.821
光町
0.792
加茂町
0.823
群馬県富岡市
0.767
野栄町
0.748
兵庫県日高町
0.815
甘楽町
0.778
袖ヶ浦市
0.818
和歌山県上富田町
0.809
嬬恋村
0.777
東京都新宿区
0.794
沖縄県石垣市
0.825
注(1)
 厚生労働省作成の資料による。
注(2)
 平成15年度の医療費実績等による。

 以下、これら146指定市町村及び78低医療費市町村から徴した医療費に係る資料を基に分析を行った。

(ウ)医療費の状況

 146指定市町村のうち、医療費の状況について把握できた142市町村の1人当たり診療費の全国平均に対する倍率(以下「全国比」という。)を、一般被保険者及び老人の別にみると表2―50のような状況となっていて、一般被保険者及び老人のいずれにおいても、入院外より入院の方が全国比は高い傾向が見受けられた。

表2―50 142市町村における医療費の状況
 
1人当たり診療費
全国比
市町村数
全国比の分布状況
一般被保険者
入院
1.14倍以上
140
1.15~3.97
1.14倍未満
2
1.06、1.13
入院外
1.14倍以上
97
1.14~2.04
1.14倍未満
45
0.80~1.13
老人
入院
1.14倍以上
103
1.14~2.2
1.14倍未満
39
0.57~1.13
入院外
1.14倍以上
26
1.14~1.51
1.14倍未満
116
0.63~1.13

 また、入院及び入院外のいずれにおいても、老人より一般被保険者の方が全国比が高い市町村が多くなっていた。

(エ)疾病の状況

 146指定市町村の疾病の状況についてみたところ、表2―51のような状況となっていた。

表2―51 146指定市町村における疾病の状況
一般被保険者
老人
全体
入院
入院外
入院
入院外
入院
入院外
精神障害
循環器系
新生物
神経系
循環器系
尿路性器系
消化器系
内分泌代謝
循環器系
新生物
精神障害
損傷、外因
循環器系
消化器系
尿路性器系
筋骨格系
循環器系
精神障害
新生物
筋骨格系
循環器系
消化器系
尿路性器系
内分泌代謝
(参考)全国における疾病の状況
精神障害
新生物
循環器系
消化器系
神経系
循環器系
呼吸器系
内分泌代謝
尿路性器系
筋骨格系
循環器系
新生物
損傷、外因
精神障害
呼吸器系
循環器系
尿路性器系
筋骨格系
内分泌代謝
新生物
循環器系
新生物
精神障害
消化器系
損傷、外因
循環器系
尿路性器系
内分泌代謝
筋骨格系
新生物
注(1)
 疾病の分類は、厚生労働省が統計等に用いている社会保険表章用疾病分類に基づく19分類によっている。
注(2)
 146指定市町村における1人当たり診療費に占める構成割合が高い上位3つの疾病を件数として集計し、その上位4疾病を構成割合の順に示したものである。
注(3)
 全国の状況は、厚生労働省が実施した平成15年度の「国民健康保険医療給付実態調査」における疾病分類別の点数100分率による上位4疾病を構成割合の順に示したものである。

 一般被保険者については、入院は精神障害の占める率が高く、続いて循環器系、新生物となっており、入院外は循環器系、尿路性器系、消化器系の順に多くなっている。また、老人については、入院は循環器系の占める率が高く、続いて新生物、精神障害となっており、入院外は循環器系、消化器系の順になっている。これを全国の疾病の傾向(表2―512―52参照)と比較したところ、一般被保険者及び老人とも特に顕著な相違は見受けられないものの、146指定市町村の入院において、より平均在院日数の長い疾病がより上位に来ている状況も見受けられた。

表2―52 厚生労働省「患者調査」(平成14年)による疾病別平均在院日数等の状況
受療率
退院患者平均在院日数
入院
入院外
全体
70歳以上
精神障害
258
循環器系
246
新生物
131
損傷、外因
93
神経系
66
循環器系
704
筋骨格系
693
呼吸器系
563
内分泌代謝
282
消化器系
256
240
損傷、外因
220
尿路性器系
175
皮膚
173
感染症
172
精神障害
157
新生物
141
精神障害
296.5
神経系
58.9
循環器系
58.3
筋骨格系
41.4
内分泌代謝
37.4
損傷、外因
34.9
血液、免疫
33.7
新生物
28.9
精神障害
396.8
神経系
92.1
循環器系
75.2
筋骨格系
54.7
感染症
54.2
損傷、外因
52.2
内分泌代謝
51.4
先天奇形
51.1
血液、免疫
48.1
呼吸器系
44.8
尿路性器系
38.2
新生物
34.2
注(1)
 疾病の分類は、厚生労働省が統計等に用いている社会保険表章用疾病分類に基づく19分類によっている。
注(2)
 受療率は推計患者数を人口10万対で示したものである。
注(3)
 歯科に係る分を除いている。

 一方、78低医療費市町村における医療費に占める割合が高い疾病についてみると、表2―53のような状況となっていて、146指定市町村の状況と比べると特に顕著な相違は見受けられないものの、入院において、平均在院日数の長い精神障害がより下位になっていた。

表2―53 78低医療費市町村における疾病の状況
一般被保険者
老人
全体
入院
入院外
入院
入院外
入院
入院外
新生物
精神障害
循環器系
神経系
循環器系
尿路性器系
消化器系
内分泌代謝
循環器系
新生物
呼吸器系
内分泌代謝
循環器系
尿路性器系
消化器系
内分泌代謝
新生物
循環器系
精神障害
消化器系
循環器系
尿路性器系
内分泌代謝
消化器系
注(1)
 疾病の分類は、厚生労働省が統計等に用いている社会保険表章用疾病分類に基づく19分類によっている。
注(2)
 78低医療費市町村における1人当たり診療費に占める構成割合が高い上位3つの疾病を件数として集計し、その上位4疾病を構成割合の順に示したものである。

(オ)長期入院者の状況

 146指定市町村のうち、6箇月以上入院している者(以下「長期入院者」という。)の数が把握できた134市町村(以下「134市町村」という。)における長期入院者の数は、70歳未満の者で1人から2,127人、70歳以上の者で1人から6,619人となっていて、長期入院者の被保険者数に対する割合(70歳未満の者については一般被保険者数及び退職被保険者等数の計に対する割合、70歳以上の者については老人保健対象被保険者数に対する割合。以下「長期入院者の割合」という。)は、70歳未満の者で0.16%から4.90%(加重平均0.70%)、70歳以上の者で0.14%から6.83%(同3.03%)となっていた。
 そして、134市町村における一般被保険者及び老人の入院の全国比と長期入院者の割合には中程度の正の相関が見受けられた。(図2―332―34参照
 一方、78低医療費市町村のうち、長期入院者の数が把握できた45市町村(以下「45市町村」という。このうち70歳未満の長期入院者が把握できたのが45市町村、70歳以上の長期入院者の数が把握できたのが37市町村である。)における長期入院者の数は、70歳未満の者で4人から250人、70歳以上の者で1人から141人となっていて、長期入院者の割合は、70歳未満の者で0.09%から1.95%(加重平均0.34%)、70歳以上の者で0.02%から2.71%(同0.84%)となっていた。
 そして、45市町村については134市町村におけるような相関は見受けられなかった。(図2―332―34参照

図2―33 一般・入院の全国比と長期入院者の割合との相関(15年度)

図2―34 老人・入院の全国比と長期入院者の割合との相関(15年度)

(カ)医療施設の状況

 146指定市町村のうち被保険者数が4,000人以上の市町村は66(以下「66市町村」という。地域差指数平均1.199。合併市町村を除く。)で、この66市町村と78低医療費市町村(地域差指数平均0.795)に所在する医療施設(病院については一般病院のみ。)及びこれらの市町村が所在する医療圏(注8)の病床(一般病床、療養病床及び診療所の病床)の状況を比較したところ表2―54のとおりとなっていて、78低医療費市町村の人口10万人当たりの医療施設数は66市町村の約63%、医療圏における人口10万人当たりの病床数は同じく約59%になっていた。

表2―54 人口10万人当たり医療施設数等の状況
区分
一般病院の平均値
診療所の平均値
施設数合計の平均値
医療圏の病床数
一般医療費の全国比
老人医療費の全国比
入院
入院外
入院
入院外
医療費が高い66市町村
8.9
71.8
80.8
1,590.5
1.69
1.16
1.33
1.03
78低市町村
5.3
45.7
51.1
936.8
0.80
0.89
0.71
0.82

 そして、上記の66市町村及び78低医療費市町村について、人口10万人当たり医療施設数及び病床数の区分に応じた市町村数を調査したところ図2―35及び図2―36のとおりであり、人口10万人当たり医療施設数等の医療提供体制の状況が医療費の格差の一要因となっていると推測される。

図2―35 人口10万人当たり医療施設数の状況

図2―36 医療圏における人口10万人当たり病床数

(注8)
 医療圏 医療法に基づく医療計画において、病床の整備を図るべき地域単位として区分する区域

(キ)1人当たり国庫負担額と1人当たり医療費負担額の状況

 146指定市町村及び78低医療費市町村における市町村国保の1人当たり国庫負担額(療養給付費負担金、財政調整交付金等の国庫支出金(介護保険に対するものを除く)の総額を一般被保険者の年度平均の被保険者数で除した額)の平均はそれぞれ104,882円及び71,651円であり、146指定市町村における1人当たり国庫負担額は、78低医療費市町村の約1.4倍となっていた。一方、146指定市町村及び78低医療費市町村における1人当たり医療費負担額(一般被保険者の保険給付費のうち療養の給付費、療養費、高額療養費及び拠出金を合計し、この額を一般被保険者の年度平均の被保険者数で除した額)の平均はそれぞれ214,726円及び150,674円であり、146指定市町村における1人当たり医療費負担額は78低医療費市町村の約1.4倍になっていた。そして、146指定市町村及び78低医療費市町村それぞれについて、1人当たり国庫負担額と1人当たり医療費負担額との相関関係を調査したところ、図2―37のとおり、146指定市町村については強い正の相関が、78低医療費市町村については中程度の正の相関が見受けられた。

図2―37 146指定市町村及び78低医療費市町村に係る一般被保険者1人当たり国庫負担額と1人当たり医療費負担額との相関(15年度)

146指定市町村の相関係数 :0.7944
78低医療費市町村の相関係数 :0.4134

(ク)1人当たり保険料(税)と1人当たり医療費負担額の状況

 146指定市町村及び78低医療費市町村における市町村国保の1人当たり保険料(税)(一般被保険者の保険料(税)の現年度分の調定額を年度平均の一般被保険者数で除した額)の平均はそれぞれ73,670円及び72,674円であり、顕著な差異は見受けられなかった。そして、146指定市町村及び78低医療市町村それぞれについて、1人当たり保険料(税)と1人当たり医療費負担額との相関関係を調査したところ、図2―38のとおり、差異は認められなかった。

図2―38 146指定市町村及び78低医療費市町村における一般被保険者1人当たり保険料(税)と1人当たり医療費負担額との相関(15年度)

146指定市町村の相関係数 :0.0916
78低医療費市町村の相関係数 :0.2225

ウ 病床数及び病床規制の状況

(ア)医療法に基づく医療計画

 都道府県では、それぞれの定める医療計画において、地理的条件等の自然的条件及び日常生活の需要の充足状況、交通事情等の社会的条件を考慮して医療圏を設定し、この医療圏ごとに療養病床及び一般病床に係る基準病床数を定めることとされている。また、特殊な医療を提供する病床及び精神病床、結核病床、感染症病床については、整備を図るべき地域単位を原則として都道府県の区域とし、この中で精神・結核・感染症病床に係る基準病床数を定めることとされている。
 そして、この基準病床数は、所定の算式に基づき、当該区域の性別及び年齢階級別の人口や入院率、病床利用率などを用いて算定することとなっている。基準病床数は、医療圏や都道府県における既存病床数と比較することにより、病床が過剰であるか、不足しているかなど(以下、病床の過剰な医療圏を「過剰医療圏」、不足している医療圏を「非過剰医療圏」、差引同数の医療圏を「同数医療圏」という。)を判断する目安とされており、これを定めた医療計画に基づいて、都道府県は医療を提供する体制の整備に努めることとされている。そして、都道府県知事は、医療計画の達成の推進のため特に必要がある場合には、病院等の開設や病床数の増加に関して病院開設者等に勧告することができることになっている。

(イ)医療圏等における病床数の状況

 一般病床及び療養病床並びに精神病床について、基準病床数とそれに対応する既存病床数の過不足の全国の状況をみると、表2―55のとおり推移している。

表2―55 全国の医療圏等における病床数の推移
〔1〕 一般病床及び療養病床
年度
医療圏数
基準病床数
(A)
既存病床数
(B)
差引
(B-A)
過剰医療圏
非過剰医療圏
同数医療圏の数
過剰病床数
不足病床数
11
360
1,215,130
1,290,250
75,120
204
101,485
146
△26,365
10
12
363
1,213,851
1,291,712
77,861
194
101,268
157
△23,407
12
13
363
1,210,969
1,292,103
81,134
196
103,365
151
△22,231
16
14
363
1,197,046
1,290,978
93,932
202
115,597
146
△21,665
15
15
369
1,185,638
1,287,592
101,954
215
117,999
143
△16,045
11
16
370
1,181,947
1,285,913
103,966
215
119,448
132
△15,482
23

〔2〕 精神病床
年度
基準病床数
(A)
既存病床数
(B)
差引
(B-A)
過剰都道府県
非過剰都道府県
差引同数の都道府県数
過剰病床数
不足病床数
11
343,779
358,658
14,879
31
25,297
15
△10,418
1
12
342,952
357,380
14,428
30
24,539
15
△10,111
2
13
341,803
356,998
15,195
29
25,911
17
△10,716
1
14
338,796
356,166
17,370
30
26,882
17
△9,512
0
15
336,502
355,949
19,447
32
27,476
15
△8,029
0
16
334,961
355,884
20,923
33
27,533
14
△6,610
0
(注)
 いずれも年度末現在の数値である。

 医療計画は、少なくとも5年ごとに都道府県において見直しをすることとなっており、その際、基準病床数についても見直しが行われている。基準病床数は見直しの結果、減少の傾向にあるが、既存病床数の方は必ずしもそれに対応して減少していないため、全体的には、一般病床及び療養病床並びに精神病床のいずれにおいても、基準病床数を超過している既存病床数(以下「過剰病床数」という。)が増加する状況となっていた。
 そして、11年度から16年度の間に医療圏の区域に変更がなく年度間の比較が可能な36都道府県の275医療圏について、一般病床及び療養病床の過剰又は非過剰の状況が、11年度末から16年度末にかけてどのように変化したかをみたところ、表2―56の〔1〕のとおり、過剰医療圏については174区域のうち34区域は非過剰医療圏に移行したが、135区域は依然として過剰医療圏であった。一方、非過剰医療圏については94区域のうち55区域は非過剰医療圏のままであったが、35区域は過剰医療圏に移行していた。そして、全体としては過剰医療圏の数に変化はなかった。
 また、11年度末に過剰又は非過剰であった医療圏における既存病床数について、11年度末と16年度末とで比較したところ、表2―56の〔2〕のとおり、非過剰医療圏の病床数は増加(1.02%)しているが、過剰医療圏における病床数は減少傾向(△1.87%)になっており、医療計画に基づく病床の規制効果が若干は見受けられる状況であった。

表2―56 同一医療圏における年度間の変遷
〔1〕 医療圏の状況の変遷

〔2〕 既存病床数の変遷
 
11年度
16年度
既存病床数の増減
(B-A)
増減割合(%)
(B-A)/A
医療圏の状況
医療圏数
左に係る既存病床数(A)
左に係る既存病床数(B)
過剰
174
662,784
650,413
△12,371
△1.87
非過剰
94
266,512
269,230
2,718
1.02
同数
7
16,823
17,299
476
2.83
275
946,119
936,942
△9,177
△0.97

(ウ)医療費の地域格差と医療圏における病床数の状況

 前記のア―(カ)のとおり、医療費の地域格差と医療提供体制との関係が認められたので、老人の入院・食事に係る1人当たり医療費が高い5道県と低い5県において、医療圏における病床数の状況をみると、表2―57のとおりとなっていた。

表2―57 医療費(15年度老人、入院・食事)の高い又は低い都道府県における病床数の状況(15年度末)
都道府県名
医療費順位
医療圏数
基準病床数
(A)
既存病床数
(B)
差引
(B-A)
過剰医療圏
非過剰医療圏
同数医療圏の数
過剰病床数
不足病床数
北海道
1
21
68,623
84,231
15,608
18
15,755
3
△147
0
沖縄
2
5
12,303
13,057
754
2
800
1
△46
2
福岡
3
13
56,542
68,048
11,506
11
11,516
2
△10
0
高知
4
4
11,734
15,368
3,634
3
3,680
1
△46
0
長崎
5
9
18,131
20,559
2,428
8
2,439
1
△11
0
山形
43
4
11,764
11,578
△186
1
77
3
△263
0
千葉
44
8
43,656
42,971
△685
4
1,007
4
△1,692
0
新潟
45
13
22,102
23,766
1,664
5
2,752
8
△1,088
0
静岡
46
9
34,167
33,034
△1,133
1
118
8
△1,251
0
長野
47
10
20,362
20,120
△242
3
316
5
△558
2

 1人当たり医療費の高い5道県においては、医療圏単位でみると過剰医療圏が比較的多い傾向(5道県平均で医療圏数の80.7%)が見受けられ、また、5道県をそれぞれ全体でみても、基準病床数に対して既存病床数が6.1%から30.9%超過していた。
 一方、1人当たり医療費の低い5県においては、その反対に、医療圏単位でみると過剰医療圏が比較的少ない傾向(5県平均で医療圏数の31.8%)が見受けられ、また、5県をそれぞれ全体でみても、基準病床数に対して既存病床数が超過しているのは1県にとどまっていた。

(エ)146指定市町村及び78低医療費市町村が所在する医療圏における病床数の状況

 146指定市町村が所在する医療圏における病床数の状況をみると、表2―58のとおりとなっていた。

表2―58 146指定市町村が所在する医療圏における病床数の状況(15年度末)
都道府県名
指定市町村数
所在医療圏数
左に係る基準病床数
(A)
左に係る既存病床数
(B)
差引
(B-A)
過剰医療圏
非過剰医療圏
同数医療圏の数
過剰病床数
不足病床数
北海道
41
13
54,317
67,819
13,502
10
13,649
3
△147
0
秋田
1
1
4,260
4,980
720
1
720
0
0
0
福島
1
1
1,566
1,898
332
1
332
0
0
0
埼玉
1
1
1,494
1,556
62
1
62
0
0
0
新潟
1
1
835
908
73
1
73
0
0
0
石川
3
2
2,853
2,974
121
2
121
0
0
0
山梨
1
1
523
558
35
1
35
0
0
0
三重
1
1
765
906
141
1
141
0
0
0
大阪
1
1
7,822
9,063
1,241
1
1,241
0
0
0
鳥取
1
1
3,190
3,222
32
1
32
0
0
0
岡山
2
2
12,296
12,595
299
2
299
0
0
0
広島
8
5
17,098
17,207
109
2
242
3
△133
0
山口
1
1
4,135
4,984
849
1
849
0
0
0
徳島
11
5
10,371
12,322
1,951
4
1,951
0
0
1
香川
3
1
3,783
4,087
304
1
304
0
0
0
愛媛
2
2
3,486
4,117
631
2
631
0
0
0
高知
5
2
9,266
12,869
3,603
2
3,603
0
0
0
福岡
24
9
47,071
56,058
8,987
7
8,997
2
△10
0
佐賀
11
3
8,836
8,739
△97
0
0
2
△97
1
長崎
3
2
4,630
4,949
319
2
319
0
0
0
熊本
5
4
6,480
7,589
1,109
3
1,118
1
△9
0
大分
5
4
8,682
9,491
809
4
809
0
0
0
鹿児島
14
6
9,592
10,974
1,382
6
1,382
0
0
0
146
69
223,351
259,865
36,514
56
36,910
11
△396
2

 146指定市町村のうち過剰医療圏(56)に所在するのは111市町村、非過剰医療圏(11)に所在するのは31市町村、同数医療圏(2)に所在するのは4町村となっていて、過剰医療圏に所在する市町村の割合は76.0%となっていた。
 一方、78低医療費市町村が所在する医療圏における病床数の状況をみると、表2―59のとおりとなっていた。

表2―59 78低医療費市町村が所在する医療圏における病床数の状況(15年度末)
都道府県名
市町村数
所在医療圏数
左に係る基準病床数
(A)
左に係る既存病床数
(B)
差引
(B-A)
過剰医療圏
非過剰医療圏
同数医療圏の数
過剰病床数
不足病床数
青森
6
4
6,617
7,421
804
4
804
0
0
0
岩手
4
3
2,494
2,903
409
3
409
0
0
0
山形
4
2
8,729
8,644
△85
0
0
2
△85
0
茨城
9
5
16,182
16,136
△46
1
28
4
△74
0
群馬
5
4
6,179
6,125
△54
1
88
2
△142
1
埼玉
1
1
11,639
12,921
1,282
1
1,282
0
0
0
千葉
22
5
24,488
23,610
△878
2
141
3
△1,019
0
東京
4
3
14,604
15,173
569
2
817
1
△248
0
神奈川
1
1
5,857
6,685
828
1
828
0
0
0
長野
12
7
12,899
12,611
△288
2
171
3
△459
2
岐阜
1
1
2,508
2,497
△11
0
0
1
△11
0
静岡
4
3
7,959
7,875
△84
1
118
2
△202
0
京都
2
2
1,904
1,469
△435
0
0
2
△435
0
兵庫
1
1
2,236
1,777
△459
0
0
1
△459
0
和歌山
1
1
1,647
1,567
△80
0
0
1
△80
0
沖縄
1
1
432
432
0
0
0
0
0
1
78
44
126,374
127,846
1,472
18
4,686
22
△3,214
4


 78低医療費市町村のうち過剰医療圏(18)に所在するのは22市町村、非過剰医療圏(22)に所在するのは50市町村、同数医療圏(4)に所在するのは6市町村となっていて、過剰医療圏に所在する市町村の割合は28.2%と、146指定市町村における場合より低くなっていた。