介護保険制度は、介護保険法附則の規定に基づき、介護サービスを提供する体制の状況、介護給付費の状況等を勘案するなどして、その全般に関して、同法施行後5年を目途として検討を加え、必要な見直し等を講じることとされており、17年6月にその改正が行われた。
この介護保険制度の改正の基本的な方向は以下のとおりで、施設給付の見直しは17年10月から、その他は18年4月からそれぞれ施行されている。
要支援、要介護1の軽度者の介護予防を重視するなどのため、新予防給付を創設し、予防給付の対象者、サービス内容、ケアマネジメント体制等の見直しを行う。また、地域支援事業を創設し、要支援・要介護になるおそれのある高齢者を対象とした介護予防事業を介護保険制度に位置付ける。
居宅サービスと施設サービスとの負担の公平性を図るなどのため、介護保険3施設の居住費、食費等を保険給付の対象外とし、また、低所得者には新たな補足給付を創設する。
認知症高齢者や1人暮らし高齢者が、できる限り住み慣れた地域での生活を継続できるよう地域密着型サービスを創設するなど、地域の特性に応じた多様で柔軟なサービス提供を可能とする。
利用者の適切な選択と競争の下で良質なサービスが提供されるよう介護サービス事業者に事業所情報の公表を義務付ける。また、事業者に対する規制として、指定の欠格事由の見直し、更新制の導入等を行う。
要介護認定事務について、公平・公正な観点から申請代行及び委託調査の見直しを行う。また、市町村の保険者機能を強化するため、事業所へ直接立ち入りできるように権限を付与する。
今般、参議院からの要請を受けて、「介護保険の財政状況」、「保険給付の状況」、及び「認定率、サービス内容等を含めた介護保険の地域格差の状況」について検査したところ、次のような状況となっていた。
ア 介護保険の財政状況
介護保険の市町村における財政状況については、第2期事業運営期間の初年度及び中間年度である15、16両年度とも、保険給付額が当該事業運営期間の見込額を上回ったことなどから、1人当たり実質収支額がマイナスとなっている市町村が少なからず見受けられる。また、介護給付費準備基金の残高がない市町村や財政安定化基金からの借入れを行っている市町村も見受けられる。
イ 保険給付の状況
全国の介護給付費については、12年度から16年度までの間に1.7倍と大きく増加している。また、受給者数及び介護給付費ともに、居宅サービスが施設サービスに比べて大きく伸びている。
ウ 認定率等の地域格差の状況
(ア)都道府県間及び市町村間の地域格差の現状
16年度において、都道府県別及び市町村別に、認定率、1人当たり給付費及び第1号保険料の地域格差についてみると、それぞれについて格差があり、市町村別の格差については、規模が小さいほど格差が大きくなる傾向がある。また、これらの地域格差を、要介護度別、利用サービスの種類別等にみると、それぞれで大きな格差がみられる。
(イ)地域格差の要因
地域格差の要因についてみると、認定率については、認定申請率、居宅サービス受給者率、高齢者世帯率との間に強い正の相関がみられ、近住率との間にも中程度の負の相関がみられた。また、1人当たり給付費については、サービス種類別の1人当たり居宅給付費とそれぞれの居宅サービス事業所数との間に強い正の相関又は中程度の正の相関がみられ、施設別の1人当たり施設給付費と施設別の10万人当たりの病床数との間に強い正の相関がみられた。
上記のことから、都道府県間及び市町村間における地域格差については、高齢者世帯率や近住率といった第1号被保険者の家族環境とともに、居宅サービス事業者等の居宅サービス基盤や介護保険施設等の施設サービス基盤の整備の状況が大きな影響を与えていると思料される。
そして、第1号保険料と認定率との間に中程度の正の相関がみられた。また、第1号保険料と1人当たり給付費との間に強い正の相関がみられ、第1号保険料の水準が介護給付の水準と連動している傾向がみられた。
このような状況にかんがみ、介護保険法の改正により介護保険制度の見直しが行われたところではあるが、今後は、以下のような点に留意することが重要である。
ア 介護保険の財政について
市町村における財政安定化基金からの借入率はそれほど大きなものではなく、借入額については、翌事業運営期間の3年間に保険料として徴収し、返還することになるため、現時点において特に深刻な問題にはならないと思料されるが、将来も安定的に介護保険財政を維持するためには、介護保険の利用者の動向等をより的確に把握し、適時・適切な対策をとる必要がある。
イ 保険給付について
介護給付費は、介護保険制度の見直しにより、17年度後半に一時的に減少しているが、将来的にはすう勢として増加傾向になることが予想されている。
また、16年度では、施設サービスに係る介護給付費が居宅サービスに係る介護給付費を上回っているが、最近は居宅サービスに係る介護給付費が施設サービスに係る介護給付費を上回る状況となってきている。さらに、居宅サービスにおいて、認知症対応型共同生活介護や特定施設入所者生活介護のサービス利用が急増していることなどから、介護サービスの利用動向に今後とも留意していく必要がある。
ウ 認定率等の地域格差について
介護保険制度においては、地域住民のニーズにきめ細かく対応するため、市町村が保険者となって、事業計画において国の定める基本指針による基準に従ってサービスの種類別に量の見込み等を定めるとともに、地域ごとの住民のニーズに応じて、介護サービスの事業量や保険料の設定を行う仕組みになっている。このため、市町村の選択や判断により、市町村間において地域格差が生ずることは制度上想定されているものである。
しかし、介護給付費については、それぞれの市町村に居住し、サービスを受ける第1号被保険者の保険料だけではなく、より大きな部分は全国の第2号被保険者の納付した保険料や国、都道府県等の公費負担で賄われているものである。したがって、地域格差の拡大は好ましいものとは思料されず、また、これらの地域格差が過度なサービス提供や極端な地域間の施設サービスの偏在、不適切な要介護認定等に起因する場合には是正を図る必要があると思料される。
会計検査院としては、高齢化の進行や介護保険制度の浸透に伴って、介護サービスの利用者の増加とともに介護給付費も増加し、ひいては国庫負担金等も増大することが見込まれることから、要介護認定や給付等の適正な運営はもとより、各市町村の財政状況、保険給付の状況等の制度全般にわたる動向について、引き続き注視しながら検査していくこととする。