交換公文の締結後、被援助国政府は、事業の実施のため、コンサルタント契約及び施設の建設や資機材の調達等の契約(以下「本体契約」という。)に向けた手続を執ることになる。
無償資金協力ガイドライン及びJICAが定める「無償資金協力事業におけるコンサルタント業務の手引」(8年に「無償資金協力事業に係るコンサルタント業務ガイドライン」として作成。16年に改訂。以下「コンサルタント業務の手引」という。)に示されている契約入札手続は以下のとおりである。
JICAは、事業全体に係る技術仕様書や図面を確定する詳細設計とこれに基づく積算、入札補助及び施工監理業務を行う者として、基本設計調査を担当したコンサルタントを被援助国政府に推薦する。これは当該コンサルタントが現地の自然・社会条件や事業内容に最も精通しており、技術的な一貫性を確保することにより贈与の使用期限内の円滑な事業実施を図ろうとするものである。被援助国政府は、推薦されたコンサルタントと契約を締結する。このコンサルタント契約は、外務省が認証することによって無償資金協力の対象として適格な契約となる。
コンサルタントが実施する詳細設計は、基本設計調査における基本構想との整合性が確保されていることが重要であり、これに基づく積算業務は、基本設計調査の中で積算された概算事業費の精度を高める作業である。基本設計調査から詳細設計までの間には為替や資材価格の変動、労働市場の変化等も生じ得るため、コンサルタントは、最新の見積書を徴するなどして事業費の見直しを行う。
そして、外務省及びJICAは、本体契約の予定価格は事業を実施する被援助国政府が詳細設計に基づく積算を基礎に作成していると説明している。
基本設計調査報告書の概算事業費の積算から本体契約の予定価格の作成までの流れは図7
に示すとおりである。
交換公文では、被援助国政府が締結する本体契約の相手方を我が国の企業に限定している。
本体契約の相手方の選定は、従来から原則として一般競争入札によるとしている。ただし、施設の建設に係るものについては一般競争入札に参加する者に必要な資格を定めることができる入札参加資格制限付一般競争入札を採用している。外務省及びJICAは、これは我が国が有する優れた技術、知見等を活用した顔の見える援助としての質を確保するためのものであり、入札予定者が大規模又は複雑な業務等を遂行する能力と資源を有しているかという点から事前に資格審査を行うものであるとしている。入札参加資格としては、企業形態、財務状況、海外での工事実績、類似の工事実績、技術者数が挙げられている。入札参加資格の事前審査を行う場合、コンサルタントは自らの判断で審査基準案を作成し、JICAに報告することになっており、JICAは、この審査基準が適切に設定されたものであるか否か、必要以上に制限が設けられていないかなどについて確認することになっている。
入札会の主催者である被援助国政府は、できるだけ多くの入札参加者を求めるため、広く発行されている業界紙等に当該案件に係る入札事前資格審査又は入札会開催の公告を行う。
我が国政府が実施する無償資金協力事業は、より公正で透明な手続が求められており、JICAは円滑な事業の実施を図るために、入札者が入札の準備に必要となる「入札指示書」や落札者を決定する基準となる「入札の評価方法」を記載した「標準入札図書(入札指示書スタンダード)」(12年作成、13年改訂)を定めている。標準入札図書(入札指示書スタンダード)によれば、入札書類の準備及び提出は、以下のように行うことになっている。
〔1〕 入札書類はコンサルタントが入札図書において個別の案件ごとに定める様式及び書類により提出されなければならず、条件を満たさなかった場合入札者は失格とみなされる。
〔2〕 入札書類は附属文書も含めすべて英語、スペイン語又はフランス語で記載されなければならない。
〔3〕 入札者は2葉の封筒を用意し、1葉の封筒には、施設の建設に係るものでは工程表及び人員派遣予定表を、資機材の調達等に係るものでは実施(調達)スケジュール、人員派遣予定表、機材仕様一覧表、機材供給証明書等を封入する(以下、これらの書類をまとめて「技術札」という。)。また、もう1葉の封筒には、施設の建設に係るものでは入札書及び入札価格表を、資機材の調達等に係るものでは入札書、入札価格表及び機材価格表を封入する(以下、これらの書類を「価格札」という。)。入札者は、入札会場で、これらの技術札及び価格札を一緒に提出する。開札の手順は、標準入札図書(入札指示書スタンダード)では以下のようになっている(図8参照)。
〔1〕 入札会の主催者である被援助国政府は、まず、技術札を開札し内容を審査する。技術札が合格とされた入札者について、その後、価格札が開札されることになる。
〔2〕 価格札の開札は、被援助国政府、コンサルタント及び入札者の参加の下実施される。この際、技術札としての提出書類に形式上の不足や不備があったり、入札図書で求めている仕様を満たしていなかったりした場合は、この時点で当該入札者は入札参加資格を失い、その場から退席を求められる。この場合、価格札は開札されず、当該入札者に返還される。
〔3〕 各入札者の提出した入札価格が読み上げられ、記録される。被援助国政府が作成した予定価格を下回った最低価格札を提出した入札者が第1契約交渉権者になる。
〔4〕 すべての入札価格が予定価格を上回った場合、各入札者に対し再度入札が求められる。入札参加者は再度、価格札を封印の上提出する。
〔5〕 再度入札で、被援助国政府が作成した予定価格を下回った最低価格札を提出した入札者が第1契約交渉権者となる。
〔6〕 再度入札の価格のすべてが予定価格を上回った場合、被援助国政府は、再度入札における最低入札価格を提示した入札者と予定価格以下となるまで価格交渉を行う。
〔7〕 価格交渉が決裂した場合は、再度入札における入札価格の低い順に順次2位以下の入札者と価格交渉が成立するまで行う。すべての入札者と価格交渉が決裂した場合は新たな入札会が実施されることがある。
契約交渉権者になった入札者の技術札の内容について入札図書に記載されている条件及び仕様に合致していると確認された場合に、落札者として決定される。
コンサルタント業務の手引では、JICAは実施促進業務を行う立場から入札会に中立な第三者として立ち会い、入札が公正かつ適正に実施されているか確認することになっている。入札会は被援助国政府及びコンサルタント双方の代表者が予定価格を記載した書類に署名し封印した後行われるため、予定価格の変更はできずこれにより入札手続の公正さが確保されるとしている。
コンサルタントは入札会終了時に、入札者名、入札金額等を取りまとめ、その場でJICAの立会人に入札結果を報告し、JICAはコンサルタントが報告書として取りまとめた入札結果の評価も確認することになっている。
なお、談合情報が寄せられた場合、コンサルタントはその情報を被援助国政府及びJICAに報告することになっている。そして、被援助国政府による事情聴取の結果、その事実が認められた場合には、入札会の延期又は取り止めの措置を執ることになる。外務省及びJICAによると、今までにこのような措置を執ったことはないとのことである。
被援助国政府は、交換公文締結後、我が国にある銀行に被援助国政府名義の口座を開設し、我が国政府から資金を受け入れ、契約者に支払うための銀行取極を結ばなければならない。そして、この銀行取極に基づいて、被援助国政府は銀行に対し、契約者への支払手続の執行権を銀行に授与する支払授権書を発行する。
被援助国政府は、我が国政府が供与する資金を使用して、事業の目的に必要な施設の建設、資機材の調達等を行うため、交換公文の規定により、我が国の企業と円貨建ての契約を締結する。
本体契約は、被援助国政府と我が国の企業が締結する契約であるが、外務省が認証することによって初めて無償資金協力の対象として適格な契約になり、これに対して資金が供与されることとなる。
外務省は、JICAから個別の契約に関する確認結果の報告を受ける。そして、外務省は、被援助国政府と我が国の企業の双方から契約書の提出を受け、外務省の「無償資金協力に係る契約認証審査基準」に掲げる以下の項目及びその他の不備事項について、交換公文との整合性等を審査し、認証の可否を決定することとしている。
〔1〕 事業名が交換公文と一致しているか
〔2〕 交換公文署名日が正しい日付となっているか
〔3〕 契約金額が交換公文限度額を超えていないか
〔4〕 履行期限が交換公文期限内であるか
〔5〕 事業内容は交換公文の記述内容と整合しているか
〔6〕 購入先国は交換公文に定める適格国であるか
〔7〕 日本円による契約であるか
〔8〕 金額は正確に記述されているか
〔9〕 契約者は日本人又は日本人により支配されている日本法人であるか
〔10〕 契約は日本政府による認証を必要とする旨の記述があるか
〔11〕 支払方法は適切か
〔12〕 被援助国政府負担事項は交換公文と照らし適切であるか
〔13〕 認証すべき契約が修正契約の場合、当該修正契約の契約日と、原契約の履行期限及び交換公文期限の延長に関する口上書の交換日との間に整合性が取れているか
外務省は16年度以降、プロポーザル方式により監査法人を選定し、自らが実施した契約認証業務が、上記の審査基準に準拠しているかどうか検証を行わせている。
一般プロジェクト無償等では、交換公文上の贈与の限度額全額が我が国政府から被援助国政府に直接支払われるわけではなく、銀行の被援助国政府名義の口座に必要な都度、必要な金額が支払われるものであり、すべての支払は日本国内で行われる仕組みになっている(交換公文例(抜すい)参照 )。
(相手国名)政府は、生産物及び役務を購入するため、日本国民と円貨建ての契約を締結する。この契約は贈与の対象として適格であることが日本国政府より認証されなければならない。
(中略)
1 日本国政府は、認証された契約に基づいて(相手国名)政府が負う債務の弁済に充てるための資金を(相手国名)政府によって指定される日本国内の銀行に開設される(相手国名)政府名義の勘定に日本円で払い込むことにより贈与を実施する。
2 1にいう払い込みは、(相手国名)政府が発行する支払授権書に基づいて銀行が支払請求書を日本国政府に提出したときに行われる。
3 1にいう勘定の目的は、日本国政府が払い込む日本円を受領すること、及び認証された契約の当事者たる日本国民に対する支払を行うことに限られる。勘定に関する手続細目は銀行と(相手国名)政府との間の協議により合意される。
交換公文の締結から支払までの流れを示すと図9 のとおりである。
契約者は、認証を受けた契約書及び支払授権書に基づき、出来高・完了証明書、輸出船積関係書類等を添付して、銀行に対して支払請求を行う(図9の〔6〕)。これを受けた銀行は外務省に対して支払請求を行う(同〔7〕)。外務省は、当該請求が正当な請求であることを確認した後、被援助国政府名義の口座に日本円で支払を行う(同〔8〕)。銀行はこの支払を受けた後、被援助国政府に代わり直ちに当該契約者に支払を行う(同〔9〕)。