外務省及びJICAが、契約の競争性・透明性の向上に向けて近年取り組んでいる事項を時系列にまとめると表4のとおりである。
実施時期
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事項
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15年4月
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予定価格の事後公表
資機材の調達等の案件における契約の細分化
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15年5月
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入札準備期間の延長(30日間→45日間)
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17年2月
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入札関連情報の提供
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18年7月
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入札事前資格審査の見直し
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18年9月
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入札公告の和文掲載
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19年1月〜
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企業説明会の開催(建設関係、土木関係、新規参入企業)
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外務省は、6年10月に、情報公開の促進を行うこととして、6年度閣議決定案件から、被援助国政府の同意が取り付けられたものについては、入札者名、落札者名、落札金額等を閲覧方式により公表することにした。
また、10年11月に、政府開発援助の透明性・効率性の向上に取り組むこととして、一般プロジェクト無償、水産無償、食糧援助及び食糧増産援助に係る11年度閣議決定案件から、外務省が認証した契約のうち入札結果の公表について被援助国政府の同意が取り付けられたものは、入札者名及びその入札価格等を事後に公表することにした。
さらに、無償資金協力事業の適正執行に対する一層の情報開示努力の一環として、一般プロジェクト無償及び水産無償に係る15年度閣議決定案件からは、上記の入札結果に加えて予定価格も公表することにした。そして、現在、ほぼすべての被援助国政府から口上書による同意を取り付けている。これらはいずれも、外務省の政府開発援助ホームページにおいて、「調達状況」として公表されている。
コンサルタント業務の手引では、資機材の調達等案件において、技術的一貫性や入札者の意欲を損なわないように留意しながらも、競争性をより高めるために、契約額が1億円以上になる場合は可能な限り契約の細分化を検討するよう推奨している。また、性質の異なる機材により構成される案件、特殊な仕様の機材が含まれる案件等の場合は基本的に契約の細分化を検討する必要があるとしている。外務省及びJICAは、これにより中小企業を含めたより多くの企業の入札参加を図ることができるとともに予定価格の推測が困難になるとしており、15年4月から契約の細分化を実施している。
なお、外務省は、施設の建設案件でも契約の細分化を検討し複数の建設箇所が存在する場合に契約を細分化した例はあるが、一般的に施設の建設案件はコストが増加したり、安全性の確保が必要であったりするため契約の細分化は困難であると説明している。
無償資金協力ガイドラインでは、入札準備期間は案件の複雑さなどを十分考慮しなければならず、一般的には入札予定者が入札図書を入手できるようになった日から入札まで少なくとも45日間とすることとしている。以前はこの期間を30日間としていたが、積算に要する日数を十分に確保してより多くの企業が入札できるように、15年5月から、45日間(機材案件の場合はその内容により35日間)を目途とすることとした。
コンサルタント業務の手引では、入札公告の目的は、無償資金協力事業の入札会の開催を新聞等に掲載し入札資格を有する者を広く募ることであるとしている。
無償資金協力ガイドラインでは、入札公告は被援助国で一般に流通している新聞等か近隣国又は我が国で一般に流通している新聞のうちの少なくとも1紙に掲載されなければならないとしているが、JICAは、掲載料が高額となるため一般紙は利用されていないと説明しており、我が国で広く発行されている業界紙が利用されている。入札公告の新聞への掲載に併せて、JICAは17年2月から入札公告をホームページで公示しより多くの企業への情報提供に取り組んでいる。
無償資金協力の実施に当たり、特に施設の建設に係る案件では、契約者の技術力の有無や財務基盤がその実施に影響を及ぼすことがあるため、海外での経験・実績、必要な人材、機材・設備の利用可能性、財務状況等の項目について、コンサルタントが審査基準案を作成している。
JICAは、18年7月以降、案件ごとに入札参加資格を総合的に判断することにして入札に参加する企業の拡大を図るようコンサルタントを指導している。さらに、19年4月以降は、施設の建設に係るもので大規模でないものや特殊工法を含まないものは、海外や類似の工事実績、技術者数等の項目を入札参加希望者から申請させ、審査基準にわずかに及ばない者を失格とするのではなく総合的な工事遂行能力によって入札参加資格を判断するようコンサルタントを指導している。
無償資金協力においては被援助国政府が事業を実施するものであることから、無償資金協力ガイドラインでは、入札案内、入札図書及び契約書を英語、スペイン語又はフランス語で作成することとしている。入札公告については、これらの言語が理解できない者には被援助国政府と契約を締結してこれを履行することは困難であるとの判断から、以前は英文等で掲載していたが、英文等の表記に馴染みのない者の関心も引くことでより多くの企業の入札参加を期待できるとして、18年9月から案件名の和文追記を開始した。
JICAは中小企業や地方に所在する企業の入札参加を促進するために、19年1月に建設関係の企業を対象として説明会を開催しこれまで無償資金協力事業に直接参加したことがない4社の出席を得た。また、同年3月に土木関係の企業を対象として説明会を開催し新規に5社の出席を得た。さらに、同年8月にこれまで入札に参加したことがない者を対象として説明会を開催し4社の出席を得た。JICAは新規参入企業が入札に参加することで競争性が高まると考えており、今後もこのような説明会を実施する予定であるとしている。
我が国の政府開発援助の理念、原則等を示す政府開発援助大綱には、競争性、透明性の確保等に関し、次のような記述がある。
C.援助政策の立案及び実施
2.国民参加の拡大
(4) 情報公開と広報
ODAの政策、実施、評価に関する情報を、幅広く、迅速に公開し、十分な透明性を確保するとともに積極的に広報することが重要である。このため、様々な手段を活用して、分かり易い形で情報提供を行うとともに、国民が我が国のODA案件に接する機会を作る。
3.効果的実施のために必要な事項
(2) 適正な手続きの確保
ODAの実施に当たっては、環境や社会面への影響に十分配慮する手続きをとるとともに、質や価格面において適正かつ効率的な調達が行われるよう努める。
(3) 不正、腐敗の防止
案件の選定及び実施プロセスの透明性を確保し、不正、腐敗及び目的外使用を防止するための適切な措置をとる。
また、政府開発援助大綱の下、5年程度の期間を念頭においた我が国援助の基本的考え方、重点課題、地域的援助のあり方等に関する指針である政府開発援助中期政策には、次のような記述がある。
E.実施・運用上の留意点
5.情報公開の推進
我が国ODAの情報公開については、(中略)国際的には高く評価されているが、ODAの推進に当たって一層の国民の理解と支持をうるため、国会をはじめ広く国民に情報公開を進めていく必要がある。
以上を踏まえ、次の諸点に留意する。
- プロジェクトの入札プロセスに関する情報、個々の案件に関する関連情報の一層の公開に努める。
外務省は、14年12月に、無償資金協力の適正な実施と透明性の向上を図るため、金融、開発経済、法律、会計の専門家等から構成される無償資金協力実施適正会議を設置した。2箇月に1回程度開催される同会議では、無償資金協力の適正な実施の観点から、閣議請議案件の説明、個別の案件の入札状況や進ちょく状況、事後の評価等が議論されている。
外務省は、政府開発援助ホームページを開設して広く一般に情報を公表している。個別の無償資金協力案件の贈与の限度額等の援助の概要は、我が国政府と被援助国政府との間で交換公文が締結され次第即日公表されている。また、上記の無償資金協力実施適正会議の議事録も公表している。
JICAは、現地調査の予定、基本設計調査に係るコンサルタントの選定結果等をホームページで公表している。