ア 会計検査院は、政府開発援助の無償資金協力及び技術協力における契約入札手続等についての検査の要請を受け、19年次は、無償資金協力において被援助国が実施する施設の建設や資機材の調達等の契約の状況について検査した。
我が国の無償資金協力のうち、一般プロジェクト無償等では被援助国政府が行う事業への資金供与の形態を採るが、詳細設計やこれに基づく積算及び施設の建設や資機材の調達等は被援助国政府との契約により我が国の企業が実施している。そして、我が国が供与する資金は、必要な都度、必要な金額が我が国にある被援助国政府名義の口座を経由して直ちに契約者である我が国の企業に支払われる仕組みになっている。
契約の競争性・透明性の向上に向けた我が国援助実施機関の取組の状況については、外務省及びJICAは、ガイドライン等を制定し、一般プロジェクト無償等では競争性が確保できる制度としての一般競争入札制度を従来から採り入れており、近年においても様々な取組を行っている。また、被援助国政府が施設の建設や資機材の調達等で締結する契約の相手方を我が国の企業に限定しており、施設の建設については入札参加資格制限付一般競争入札制度を採用することとしているが、これは、我が国が有する優れた技術、知見等を活用した援助としての質を確保するためのものであるとしている。
外務省及びJICAは、予定価格は事業を実施する被援助国政府が詳細設計に基づく積算を基礎に作成していると説明している。外務省は、従来から入札結果を公表していたが、15年度閣議決定案件からは、無償資金協力事業に対する一層の情報開示努力としてそれまでの入札結果に加え予定価格も公表することにした。そして、予定価格と基本設計調査報告書に記載されている概算事業費又は見直し後の概算事業費とを比較すると、施設の建設に係るものでは94.9%が概算事業費のプラスマイナス10%の範囲内で、また、資機材の調達等に係るものでは92.1%が概算事業費のプラスマイナス3%の範囲内で作成されている状況になっていた。
入札会に参加する我が国の企業数は、平均で2.4者となっており、一般プロジェクト無償において、施設の建設に係るものについては15年度2.4者、16年度2.5者、17年度2.3者、18年度1.8者となっており、1者だけが参加した入札は全体の25.4%となっていた。また、資機材の調達等に係るものでは、15年度2.7者、16年度2.6者、17年度3.0者、18年度2.4者となっており、1者だけが参加した入札は全体の23.5%となっていた。これについて、外務省は、被援助国政府が実施する事業は国内の公共事業等とは大きく異なり事業開始時には想定し得ない事業に関する行政手続の変更、治安の悪化等被援助国側に起因する事業実施上のリスクが存在するなどのためと思われると説明している。
一般文化無償では、資機材の調達等に係る入札会119件のうち102件(85.7%)は1者だけが参加して行われたものであり、平均の参加者数は1.1者であった。
落札率の状況については、分析の結果、一般プロジェクト無償における平均落札率は89.88%になっており、施設の建設に係るものでは平均96.81%、資機材の調達等に係るものでは平均85.83%で、両者の間には平均で10ポイント以上の差が生じていた。また、落札率と落札件数の関係についてみると、資機材の調達等に係るものでは落札率99%以上のものは全体の21.6%であるが、施設の建設に係るものでは99%以上のものは全体の67.4%を占めていた。これらについて、外務省及びJICAは、資機材の調達等では輸送のほかに現地での据付け作業を伴うことがあるがこれは比較的短期間で済む一方、施設の建設では現地に一定期間留まり工事を行うことになるため、施設の建設と資機材の調達等とでは契約内容、現地事情等を勘案した場合契約履行のための前提条件に少なからず相違があり、施設の建設の方がより多くのリスクを勘案して価格札に反映されている可能性が高いと思われると説明している。
不落随契は、再度入札をしても落札者がない場合で、それ以上は競争入札によることが困難であると見込まれる場合に予定価格を下回るまで価格交渉を行った結果随意契約として締結されるものである。JICAでは、1回の入札会で入札を再度までと限定しており、不落随契の件数は、契約件数の25.3%を占める状況になっていた。特に、一般プロジェクト無償では、資機材の調達等に係るものが9.9%であるのに対し、施設の建設に係るものは39.0%と高くなっていた。
イラク復興支援は、外務大臣の閣議発言を受け、緊急無償資金協力として各案件ごとに資金を一括供与して実施されたものであるが、資機材の調達等に係る案件が中心であり、入札の結果、落札価格が予定価格を大幅に下回ったため追加調達をすることにし、特別に緊急性が高いという理由により随意契約を締結したものがある。
イ 会計検査院は、無償資金協力において、被援助国政府が実施する施設の建設や資機材の調達等の契約の競争性・透明性の向上に向けた外務省及びJICAの取組の状況について検査した。外務省及びJICAは、ガイドライン等において一般競争入札制度を採り入れ、契約の競争性・透明性の向上に向けた様々な取組を行ってきたが、入札会に参加する我が国の企業数には現状においては特段の変化は見られない。外務省が説明する事業実施上のリスク等を考慮すると、現在の入札参加者数は必ずしも少ないとは言い切れないが、1者だけが参加した入札では競争性が確保されているとは言えない。ついては、外務省及びJICAは、契約の競争性・透明性の向上に向けたより一層の努力を引き続き行っていくことにより、被援助国政府が最低限現状の入札参加者数を確保し、また、2者以上の参加者を確保していくことが望まれる。
また、会計検査院は、入札の結果としての落札価格の予定価格に対する割合である落札率の状況等について外務省が公表している資料等に基づいて914件の契約について分析を行った。被援助国が実施する施設の建設や資機材の調達等の契約に係る予定価格やその基礎となる仕様書、設計書等は被援助国政府が作成し所有するものであることを踏まえた上で、外務省及びJICAは透明性の向上に向けて、落札率の状況(予定価格、入札、落札、不落随契等契約の状況)について、引き続き公表するなどの努力を行っていくことが望まれる。
無償資金協力は国民から徴収された税金その他の貴重な財源で賄われるもので、国民の十分な理解を得ることが重要であることにかんがみ、国民に対する最大限の説明責任を果たしていくことが求められる。
現在外務省が行っている無償資金協力の業務の相当部分が20年10月にJICAに移管され、外務省及びJICAの果たす役割が大きく変わることが想定されるが、会計検査院としては、契約の競争性・透明性の向上に向けた取組や落札率の状況がどのように推移していくのかについて、今後とも留意していくこととする。
会計検査院としては、20年次は、技術協力を中心に、内閣府本府、警察庁、金融庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、JICA、各府省が所管する公益法人を対象として引き続き検査し、取りまとめが出来次第報告することとする。