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  • 国会からの検査要請事項に関する報告(検査要請)|
  • 会計検査院法第30条の3の規定に基づく報告書|
  • 平成19年10月

我が国政府開発援助における無償資金協力及び技術協力において被援助国が実施する施設の建設や資機材の調達等の契約に関する会計検査の結果について


3 円借款

(1) 各事業の概要

 会計検査院が確認したところ、ベトナム国でPMU18が円借款により実施した事業は7事業であり、19年3月末までの供与限度額は1140億4900万円となっており、前記の円借款累計額1兆1528億6100万円の約10%を占めている。これらの7事業はいずれも、主要国道の道路及び橋りょうの改良を内容とする比較的大規模で長期にわたる事業となっている。
 上記の7事業について、JBIC及び外務省から提出された資料等に基づき、事業名、供与限度額等を整理して示すと表5のとおりであり、事業概要については巻末別表5 のとおりである。

表5 PMU18が実施機関となっている円借款7事業
(単位:百万円、件)
事業名
借款契約締結年月日
供与限度額
コンサルタント契約の件数
本体契約の件数
国道1号線橋梁リハビリ事業第1期
6.1.28
3,870
1
6
7.4.18
2,859
8.3.29
8,808
国道1号線橋梁リハビリ事業第2期
8.3.29
4,907
2
8
9.3.26
2,239
11.3.30
13,170
国道1号線橋梁リハビリ事業第3期
15.3.31
5,013
1
1
国道10号線改良事業
10.3.30
17,742
1
22
12.3.29
12,719
国道18号線改良事業
10.3.30
11,863
3
12
12.3.29
11,586
バイチャイ橋建設事業
13.7.6
6,804
1
1
国道3号線道路ネットワーク整事業
17.3.31
12,469
1
未契約

(2) 円借款における手続の概要

 JBICによれば、前記の7事業は、基本的に次のような手続を経て実施されたとしている(図3参照)

図3 円借款における実施手順の例

図3円借款における実施手順の例

ア ベトナム国による我が国への援助要請及び審査

 ベトナム国政府は、我が国政府に対し円借款による資金協力を求める事業について、実現可能性調査に基づき、資金協力の要請を我が国に文書で提出する。
 我が国は、その要請に対し供与を行うかどうかをJBICが審査し、その報告を受けた日本政府が円借款の供与の可否を判断する。この審査に当たって、JBICは、実現可能性調査の内容の確認だけではなく、被援助国の関係者との協議を行うとともに、要請のあった事業予定現場の調査等も必要に応じて実地に行う。

イ 交換公文、借款契約の締結及び事業実施

 円借款による供与を行うことが適正であると確認された案件については、閣議決定を経た後、我が国の代表者とベトナム国の代表者の間で交換公文への署名が行われる。交換公文には事業名、円借款の目的、供与限度額、供与条件、支出期間等が記載されている。前記の7事業における供与条件は、事業ごとに異なるが、供与期間30年又は40年(うち据置期間10年)、年利0.75%から2.3%などとなっている。交換公文への署名後、JBICとベトナム国政府との間で円借款の手続、権利義務等を定めた借款契約が締結される(以下、交換公文及び借款契約を合わせて「交換公文等」という。)。また、円借款事業の実施においては、借款契約に一般的に適用される権利義務等の内容を記載したODA借款のための一般条項(以下「一般条項」という。)が借款契約の一部として適用される。
 交換公文等が締結されると、実施機関であるPMU18は、JBICの円借款事業のためのコンサルタント雇用ガイドライン(以下「コンサルタント雇用ガイドライン」という。)に従って、詳細設計、入札補助、施工監理等を行うコンサルタントを技術面の評価に基づいて選定し、契約を行う。
 JBICは、PMU18の作成したプロポーザル評価結果報告書及びコンサルタント契約書がコンサルタント雇用ガイドラインに沿ったものかを確認し、コンサルタント契約に対し同意を行う。
 円借款事業に必要な本体契約の手続はJBICの円借款事業のための調達ガイドライン(以下「調達ガイドライン」という。)に従って行う。
 調達方法は、原則として国際競争入札によるとされている。国際競争入札は、原則として、入札参加業者を限定せず、技術面等を加味した上で、入札価格の最低の者が落札者となる制度である。入札参加業者は、技術提案及び価格を提示して応札し、PMU18はこれらを勘案して落札者を選定し、契約を行う。
 JBICは、調達契約の規模等に応じて、入札前にPMU18の作成した入札書類、入札後に入札評価結果報告書及び契約書(応札業者が入札対象の契約の履行能力があるかを入札前に審査する事前資格審査が行われた場合は事前資格審査書類、事前資格審査結果を含む。)を確認し、調達ガイドラインに沿った内容となっているかなどを審査した上で、同意を行う。
 本体契約の締結後、契約業者は、本体契約に従って業務を実施し、コンサルタントはPMU18の補助者としてその業務を監理する。工事の進ちょく等事業の状況については、ベトナム国政府から、定期的にJBICに対して事業の進捗報告書が提出され、JBICにおいてそれを確認する。各契約で、施設の建設や資機材調達が完了するごとに、PMU18はしゅん工検査を実施する。

ウ 貸付実行

 貸付実行の方式は、借款契約に定める方式(信用状を用いるコミットメント方式、本邦の銀行を経由して送金するトランスファー方式、ベトナム国政府が契約業者等へ対価を支払った後に貸付実行するリインバースメント方式等)の中から選定することとなっており、PMU18が締結したコンサルタント契約及び本体契約で規定している。円借款は円貨で貸付実行され、ベトナム国政府は円貨でJBICに償還することとなる。
 工事の完了から瑕疵担保期間(一般的に1年から2年)を経過した後に道路の維持管理を担当する部局がPMU18から施設の維持管理を引き継ぎ、同部局とPMU18が瑕疵検査を実施する。コンサルタント及び契約業者は、同部局とPMU18が実施する瑕疵検査に合格した後、当該契約の最終支払の請求を行い、これに対するJBICの最後の貸付実行が行われると、当該契約におけるJBICの貸付けが終了する。

(3) 入札、契約の状況

 前記の7事業ではコンサルタント契約10件、本体契約50件、計60件の契約が締結されている。JBICは、被援助国の同意を得た上で、11年4月以降に閣議決定が行われた交換公文に基づく借款契約の下で締結されたもののうち、契約額が1億円以上のコンサルタント契約についてはプロポーザル提出業者名、契約締結業者名等を、また、契約額が10億円以上の本体契約については応札業者名、応札額、落札業者名等を、それぞれ年次報告書等に公表している。PMU18が実施機関となっている7事業60契約のうち、上記の条件を満たし、落札業者名等の公表を行っているコンサルタント契約及び本体契約は、巻末の別表6及び別表7(120ページ)のとおりである。

(4) 貸付実行等の状況

 前記のとおり、18年5月の参議院決算委員会において、我が国を含むODA資金がPMU18において、遊興費等に流用されているのではないかとの疑念がベトナム国国民の間に生じている旨が言及された。
 会計検査院は、JBICから貸付実行の状況について説明を聴取し、JBICが保管している貸付実行に係る支払請求書、PMU18が契約履行を確認した出来高証明書、JBICの債権管理データ等を確認するなどして検査した。7事業60契約に係る19年3月末までの貸付実行額は808億1733万余円であり、コミットメント方式、トランスファー方式、リインバースメント方式のいずれかの方式により、貸付実行がなされていた。これを貸付実行の方式別にみると以下のとおりである。

ア コミットメント方式による貸付実行

 前記の7事業におけるコミットメント方式による貸付実行額は388億6395万余円であり、JBICによれば以下のとおり実施されていたとしている(図4参照)

図4 コミットメント方式による貸付実行方式

円借款の図1

a PMU18はコンサルタント契約及び本体契約を締結する(図4〔1〕)。
b その後、PMU18が指定した銀行を経由して、信用状の発行を本邦の銀行に依頼する(同〔2〕)。
c 本邦の銀行はJBICに対し、発行する信用状の履行を保証する支払引受書の発行を依頼し、JBICは本邦の銀行に対し、支払引受書を発行する(同〔3〕及び〔4〕)。
d 本邦の銀行は、コンサルタント及び契約業者の取引銀行(以下「取引銀行」という。)を経由して、コンサルタント及び契約業者に対し、信用状及び支払引受書が発行された旨の通知を行い、対価の支払を保証することになる(同〔5〕)。
e コンサルタント及び契約業者は、前金払、出来高払等のための所定の支払要件を満たすごとに、取引銀行に対し、信用状に定められた出来高証明書、請求書等の書類の買取を依頼し、取引銀行から対価を受領する(同〔7〕及び〔8〕)。
f それらの書類を受領した取引銀行は、本邦の銀行に対し、信用状に基づく買取金額補てん請求を行使し、さらに、本邦の銀行はJBICに対し、信用状及び支払引受書に基づき買取金額の支払を請求する(同〔9〕及び〔10〕)。
g JBICは、所定の確認を行った後、所要額を円貨で本邦の銀行に送金し、本邦の銀行は、取引銀行に対し、支払を行うこととなる(同〔11〕及び〔12〕)。JBICは財政省に対し、信用状に基づき貸付実行したことを通知する(同〔13〕)。

イ トランスファー方式による貸付実行

 前記の7事業におけるトランスファー方式による貸付実行額は392億8703万余円であり、JBICによれば以下のとおり実施されていたとしている(図5参照)

図5 トランスファー方式による貸付実行方式

図5トランスファー方式による貸付実行方式

a JBICとベトナム国政府との間で借款契約が締結された後、指定銀行は財政省からの授権に基づき、本邦の銀行にベトナム国政府名義の口座を開設する銀行取極を締結する(図5〔1〕)。
b コンサルタント及び契約業者は、所定の支払要件を満たすごとに、PMU18に対し、出来高証明書等を添えて、対価の支払を請求する(同〔4〕)。
c PMU18から請求を受けた財政省は、JBICに貸付実行請求を行う(同〔5〕)。
d 財政省は同時に、JBICから本邦の銀行に設けられた同口座に入金があり次第同口座から引出し、コンサルタント及び契約業者に直ちに送金する旨を指定銀行に対し指示する(同〔6〕)。
e JBICは、貸付実行請求を受け、所定の確認を行った後、所要額を円貨で本邦の銀行に設けられたベトナム国政府の口座に送金する(同〔7〕)。
f 指定銀行は、財政省からの授権及び送金指示に基づき、同口座から、JBICからの入金額を引出し、直ちにコンサルタント及び契約業者の口座へ送金することになる(同〔8〕及び〔9〕)。
g また、JBICは財政省に対し、貸付実行請求のあった対価を支払った旨通知する(同〔10〕)。

ウ リインバースメント方式による貸付実行

 国道1号線橋梁リハビリ事業第1期におけるリインバースメント方式による貸付実行額は2374万余円であり、JBICによれば以下のとおり実施されていたとしている(図6参照)

図6 リインバースメント方式による貸付実行方式

図6リインバースメント方式による貸付実行方式

a JBICとベトナム国政府との間で借款契約が締結された後、指定銀行は財政省からの授権に基づき、本邦の銀行にベトナム国政府名義の口座を開設する銀行取極を締結する(図6〔1〕)。
b コンサルタント及び契約業者は、所定の支払要件を満たすごとに、PMU18に対し、支払請求を行う(同〔3〕)。
c PMU18は請求書類等を確認の上、ベトナム国の制度に則して対価を支払う(同〔4〕)。
d 財政省はJBICに対し、コンサルタント及び契約業者に支払った対価の額を貸付実行請求する(同〔5〕)。
e JBICでは、請求添付書類等を確認した後、所要額を円貨で貸付実行を行い、本邦の銀行に設けられた同口座に送金する(同〔6〕)。
f 指定銀行は、JBICから本邦の銀行に設けられた同口座に入金があり次第、財政省からの授権に基づき、同口座からJBICからの入金額を引出し、財政省に送金することとなる(同〔7〕及び〔8〕)。

 JBICは、これらの貸付実行方式について次のように説明している。
 前記のとおり、コミットメント方式及びトランスファー方式では、JBICが貸付実行を行った資金は、本邦の銀行を経由して、コンサルタント及び契約業者へ支払われ、財政省には、JBICから貸付実行を行った報告がなされるという仕組みになっている。また、リインバースメント方式では、ベトナム国政府の予算からコンサルタント及び契約業者へ対価が支払われた後、財政省はその額について貸付実行の請求を行い、JBICが貸付実行した資金は本邦の銀行を経由して、財政省に支払われる仕組みとなっている。このように、PMU18はJBICが貸付実行を行った資金を直接受領する仕組みとはなっていない。
 また、JBICは、前記の3方式における貸付実行時の確認を次のように行うとしている。
 コンサルタント及び契約業者は、支払請求時に、コミットメント方式では出来高証明書等を取引銀行に提出する必要があり、トランスファー方式及びリインバースメント方式では出来高証明書等を支払請求書に添付してPMU18に提出する必要がある。PMU18は契約履行を確認し、この出来高証明書等に、確認の署名をすることとなっている。JBICは、貸付実行の請求がなされると、JBICに提出された出来高証明書等に実施機関の確認の署名を受けているかなど契約の内容に沿った正当な請求であるかを確認した上で、貸付実行を行う。
 会計検査院は、この貸付実行について、JBICが保存している貸付実行書類、送金指示書、支払請求書、その添付書類である出来高証明書等の提出及び提示を受けて検査した。検査した範囲では、支払請求書に必要な書類が添付されていること、出来高証明書にPMU18による確認の署名があることなどを確認した。

エ 貸付資金の償還状況

 前記の7事業に係る貸付累計額は808億1733万余円となっており、貸付実行額の償還済額は19億2281万余円及び利子入金額55億3796万余円となっている。会計検査院は、債権管理データ等を参照するなどして償還状況を検査した。その結果、上記の償還済額が交換公文等に定められた供与条件どおりに償還されていることを確認した。

(5) 施設の建設に係る工事の施工状況

 会計検査院は、PMU18が実施機関となっている円借款7事業における施設の建設に関して、JBICから関係書類の一部の提出及び提示を受けて検査するとともに、外務省及びJBICを通じて、交通運輸省、PMU18などの協力が得られた範囲内で関係書類の提出を受け調査した。
 そして、会計検査院は、職員をベトナム国に派遣し、計画投資省、財政省、公安省、交通運輸省、PMU18及びベトナム国会計検査院の政府関係機関から、各事業の内容や、政府関係機関が行った調査の状況等について説明を聴取し、協力が得られた範囲内で関係書類等の提出及び提示を受けて、実地に調査した。
 また、前記7事業のうち、本体契約が締結されていない国道3号線道路ネットワーク整備事業を除いた6事業の50契約のうち、15契約に係る23箇所(箇所名等は巻末別表8参照 )を選定して、外務省及びJBICの職員の立会いの下で、PMU18の協力が得られた範囲内で、現場確認を行い、完成した橋りょうの施設等の施工状況を実地に調査した。23箇所の選定に当たっては、我が国の国会で工事の施工、施工管理等について言及された箇所や、また、JBICが18年5月に構造、舗装、地盤の各専門家等による現地調査をした結果特に不適切な事態はなかったとしている11橋りょうなどのうちの8橋りょうなどを選定した。現場確認に当たっては、前記のとおりチェックシートを作成し、これに基づき、現場の状況を目視により確認した。会計検査院が現場確認を行うこととした23箇所等のうち、その確認の状況について2事例を示すと次のとおりである。

<事例1> 設置されたトラフィックポストの材料

 18年5月の参議院決算委員会等において、国道18号線改良事業において鉄筋の代わりに竹を使用しているとの現地報道がある旨が言及された。
 交通運輸省及びPMU18の説明によれば次のとおりである。
〔1〕 国道18号線改良事業ノイバイ〜バクニン間において設置されたトラフィックポストの材料に、鉄筋の代わりに竹が使用されていたとの報道がなされた。
〔2〕 トラフィックポストは、ベトナム国においては、道路敷地とそれ以外の土地との区切り、盛土部における車両等の転落防止等を目的として、簡易ガードレール用のポストとして設置しているものである(巻末の参考図4 )。
〔3〕 トラフィックポストは、工事現場周辺の小規模な工場で製作されている。
〔4〕 その規格については、PMU18が実施している事業では、すべて鉄筋を使用する構造としており、各契約ごとの図面に詳細を示しており、これを各道路の維持管理を担当する部局が認可している。

 前記のとおり、JBICでは18年5月に専門家等による現地調査を実施しており、会計検査院は、この現地調査に同行したJBICの職員から、トラフィックポストの材料に鉄筋の代わりに竹材が使用されていたとされたことについて、次のような説明を受けた。
〔1〕 16年4月頃、コンサルタントは施工監理において鉄筋の代わりに竹が使用されたトラフィックポストを当該区間で発見した。
〔2〕 その付近では、当時、地元住民による鉄筋目当てのトラフィックポストの盗難が頻発していた。
〔3〕 その後、当該区間において施工されたすべてのトラフィックポストについて検査を実施した。
〔4〕 その結果、コンサルタントは、品質管理が不備なものが認められたので、契約業者に対して、不備が認められたトラフィックポストに代えて、仕様どおりのものを製作して、再度設置することを指示し、工場での材料検査や抜取り検査等施工監理を実施し、仕様どおりのトラフィックポストが設置されていることを確認した。

 さらに、PMU18の説明によれば次のとおりである。
〔1〕 内部に竹材が入ったトラフィックポストが現場に設置されていた。
〔2〕 道路の維持管理を担当する部局に引き渡すまでには、仕様どおりに鉄筋が使用されたトラフィックポストが再度設置された。
〔3〕 再度設置されたトラフィックポストはコンサルタント等の確認を受けていた。
〔4〕 18年4月にPMU18と公安省等が確認のためトラフィックポスト25本を無作為に抽出しこれを破壊して調査したところ、仕様どおりに鉄筋が使用されていた。
 会計検査院は、国道18号線改良事業のノイバイ〜バクニン間の道路脇に設置しているトラフィックポストについて、PMU18の協力を得て図面の提出を受け確認した。その図面によれば、形状は、地上部の高さ60cm、1辺の長さ18cmのコンクリート製の四角柱であり、内部に縦方向に直径6mmの鉄筋4本を配置し、それらを横方向に直径6mmの鉄筋6本で巻く構造となっていた。そして、PMU18と公安省等が破壊して調査したトラフィックポスト25本のうち、ノイバイ〜バクニン間において、コンクリートの一部がはつられ、鉄筋が露出し確認できる状態で設置されていた2本について、仕様どおり鉄筋が使われていることを現地で確認した。

<事例2> 道路工事の盛土に使用された砂の品質

 18年5月の参議院決算委員会において、国道18号線改良事業で使用された砂の品質についてベトナム国会計検査院が指摘しているとの現地報道がある旨が言及された。
 交通運輸省及びPMU18の説明によれば、国道18号線改良事業のバクニン〜チリン間(約40km)の軟弱地盤上に盛土を行うなどした工事で、工事施工時に設計どおりの透水性の高い砂を全量確保することが困難であったため、交通運輸省及びベトナム国首相府の承認を得た上で、当初の設計と異なる砂を使用したとしている。
 この区間ではサンドマット工法により敷き砂を施工している。サンドマット工法は、軟弱地盤上での盛土工事の場合に、まず排水を促進する材料として砂を敷き、その上に盛土を行う工法であり、この敷き砂の層が盛土材による軟弱地盤の圧密のために抜け出した地下水の排水層となって地下水の排水を促進することにより、地盤の安定を図るものである。
 前記のとおり、JBICでは18年5月に専門家等による現地調査を実施しており、会計検査院はこの現地調査に同行したJBICの職員から、現地調査の内容について次のような説明を受けた。
 すなわち、専門家等が現地で確認したところ、本件工事で実際に敷き砂として使用され、設計より透水性の低いと報道された砂は、排水を促進する材料として十分使用できるものであり、我が国におけるサンドマット材の砂の基準に当てはめると比較的透水性の高い材料に相当するものであった。また、当初の設計と異なる砂を使用することについて、ベトナム国政府内部の承認手続が適切に行われていたことを確認したとしており、バクニン〜チリン間において、施工後に道路の沈下等は認められなかった。
 なお、会計検査院は、ベトナム国会計検査院に指摘の有無及び内容の確認や資料の提出の協力を求めたが、指摘の有無、資料等については原則としてベトナム国政府内部にしか公表していないとのことであった。

 以上の2事例以外に、会計検査院が今回、目視により現場確認した範囲では、現時点で特に報告すべき事項は見受けられなかった。

(6) 事業実施のための車両の購入

 JBICの説明によれば、18年11月にベトナム国政府はJBICに対し、PMU18が実施機関となった円借款に関し、車両の購入に当たり必ずしも適切とはいえない調達があったとして、当該車両の購入資金を返還する旨の申出を行ったとしている。
 JBICは、上記の申出を踏まえ、保管している仕様書とベトナム国政府から提示された購入車両リスト等により、2事業2契約における4台分の車両購入について、仕様書と異なる車両が購入されていたことを確認した。そして、JBICは、一般条項に定められた手続により、19年1月31日に当該車両4台の購入に係る貸付資金2871万余円及び同資金に係る返還日までの未収利息16万余円、計2888万余円についてベトナム国政府から返還を受けた。
 会計検査院は、本件の経緯について、JBICから、また、現地で財政省、交通運輸省、PMU18などから、説明を聴取した。

ア 交通運輸省の調査で判明した事態

 交通運輸省の説明によれば、PMU18に関する疑念を受け、同省が実施しているODA事業について関係書類等の調査を自ら行い、その結果、国道18号線改良事業、国道1号線橋梁リハビリ事業第2期(III)の2事業2契約において、適切でない調達があったことが判明したとしている。
 また、JBICの説明によれば、本件の経緯は次のとおりである。
〔1〕 国道18号線改良事業のパッケージK契約に係る事態
 15年12月、PMU18は国道18号線改良事業のパッケージK契約(契約金額13億4131万余円)の入札手続を行い、JBICに対し、契約同意を求め、契約書等を提出した。JBICは、同月に同契約の内容を確認し、同意を行った。仕様書では、当該事業に係る工事管理のためPMU18などが使用する車両計3台(四輪駆動車2台、ミニバス1台)を購入することとなっていた。JBICは、16年11月から17年8月までの間に計6回にわたって、ベトナム国政府から上記の車両3台分の購入分を含む貸付実行請求を受け、PMU18が確認の署名をしていることなどの内容を確認の上、1億4475万余円をコミットメント方式及びトランスファー方式により貸付実行した。しかし、実際に購入されたのは、セダン3台(これに係る貸付実行額2225万余円)であり、いずれも仕様書に記載された車両とは異なる車両が購入されていた。
〔2〕 国道1号線橋梁リハビリ事業第2期(III)コンサルタント契約に係る事態
 11年10月、PMU18は国道1号線橋梁リハビリ事業第2期(III)の実施に当たってコンサルタント契約(契約金額13億9480万余円)を締結し、JBICに対し、契約同意を求め、契約書等を提出した。JBICは、11年11月にコンサルタント契約の内容を確認し、同意を行った。仕様書では、当該事業に係る管理のためPMU18などが使用する車両計3台(四輪駆動車2台、セダン1台)を購入することとなっていた。
 JBICは、12年3月から13年7月までの間に計10回にわたって、ベトナム国政府から上記の車両3台分の購入分を含む貸付実行請求を受け、PMU18が確認の署名を行っていることなどの内容を確認の上、1億1710万余円をトランスファー方式により貸付実行した。しかし、実際に購入されたのは、四輪駆動車1台及びセダン2台であり、このうちセダン1台(これに係る貸付実行額646万余円)については、仕様書に記載された車両とは異なる車両が購入されていた。

 交通運輸省及びPMU18の説明によれば、PMU18はこれら4台の車両を事業の工事管理等に使用していたとしている。

イ 会計検査院によるJBICの契約及び貸付実行の手続等の確認

 JBICは、本件の車両の購入に係る事業の本体契約については、入札評価結果報告書及び契約同意申請を確認し、また、本件の車両の購入に係る事業のコンサルタント契約については、プロポーザル評価結果報告書及び契約同意申請を確認したとしている。また、貸付実行時には、出来高証明書等実施機関が確認した署名の入った所定の書類に基づいて貸付実行したとしている。
 会計検査院は、JBICから上記書類の提出又は提示を受け、貸付実行書類について、所定の書類が整っているか、実施機関であるPMU18の確認を受けているかなどを検査した。その結果、貸付実行時には、コンサルタント及び契約業者からの支払請求書に、出来高証明書等所定の書類が添付されており、出来高証明書等には、提出した契約業者の署名のほか、それをチェックしたコンサルタントの署名、PMU18の署名がそれぞれなされていたことを確認した。
 また、会計検査院は、ベトナム国政府からの返還について、JBICがベトナム国政府から受けた説明の内容を聴取するととともに、仕様書、返還手続に係る文書、JBICへの返還の通知文書等の提出及び提示を受け、返還手続が一般条項に則して行われていることを確認した。

ウ ベトナム国政府における車両の管理に関する改善策

 財政省及び交通運輸省の説明によれば、ベトナム国政府では、公的財産に関する政令及び関連通達の改正を行い、実施機関が、ODA資金による契約に基づき購入した車両の管理について、実施機関が当該事業完了後に財政省に管理換する方式から、契約完了ごとに財政省に管理換する方式に改めたとのことである。