会計検査院は、平成19年2月21日、参議院から、国会法第105条の規定に基づき下記事項について会計検査を行いその結果を報告することを求める要請を受けた。これに対し同月22日検査官会議において、会計検査院法第30条の3の規定により検査を実施してその検査の結果を報告することを決定した。
一、会計検査及びその結果の報告を求める事項
(一) 検査の対象
内閣府
(二) 検査の内容
平成十三年度から十八年度までの間に内閣府が実施したタウンミーティングの運営に関する請負契約についての次の各事項
〔1〕 契約方法、契約手続などの状況2 平成17年度決算に関する決議における内閣に対する警告の内容
参議院では、19年2月21日に決算委員会において、検査を要請する旨の上記の決議を行うとともに、6月11日に平成17年度決算に関して内閣に対し警告すべきものと議決し、同月13日に本会議において内閣に対し警告することに決している。
この警告決議のうち、上記検査の要請に関する項目の内容は、次のとおりである。
1 国民との双方向の重要な対話の場として政府が行うタウンミーティングにおいて、コスト意識を欠いた不適切な運営が行われていたことに加え、内閣の重要課題について広く国民から意見を聞くという趣旨を逸脱し、事前に発言の依頼が行われていたことは、看過できない。
政府は、新たな方式による出直しに当たり、国民との直接対話の意義及び広く民意を政策形成に反映させることの重要性を認識し、関係者全員に対してコスト意識を徹底させるとともに、テーマや発言者の選定、契約、会計経理などについて、透明かつ公正適切な運営への改善を図り、効果的な国民との直接対話の場の実現に尽力すべきである。
タウンミーティング(内閣府が実施したものをいう。以下同じ。)は、内閣の閣僚等が、内閣の重要課題について広く国民から意見を聞くとともに国民に直接語りかけることにより、内閣と国民との対話を促進することを目的として、13月6月から18年9月までの間に174回にわたって開催され、全国各地の会場において内閣の閣僚等と一般の参加者が参集し、2時間程度対話する形式によって行われた。このうち、13年11月までの50回は、特定のテーマを設けることなく国政全般を対象として全都道府県を一巡する形で開催され、その後は地域再生、教育改革、司法制度改革など特定のテーマを設けて開催された。
タウンミーティングの開催に当たって、内閣府では、13年5月に設置されたタウンミーティング担当室(以下「TM室」という。)が事業の運営を担当し、入札・契約等の会計事務は大臣官房会計課(以下、単に「会計課」という。)が担当していた。そして、開催会場の候補の選定、参加者の募集事務、当日の事務作業予定等を取りまとめた運営マニュアルの作成、会場設営、当日の受付、警備及び議事録の作成等タウンミーティングの運営に関する一連の業務については、表1のとおり株式会社電通(以下、単に「電通」という。)及び株式会社朝日広告社(以下、単に「朝日広告社」という。)に、契約期間中に開催される分を一括して請け負わせている。
年度
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請負業者
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契約年月日
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契約期間
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開催回数
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支払金額(円)
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13年度
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前期
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電通
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13.5.23
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13.5.23〜13.8.10
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16
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386,473,217
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後期
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電通
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13.8.1
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13.8.1〜13.12.21
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34
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552,802,943
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14年度
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前期
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朝日広告社
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14.4.1
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14.4.1〜14.7.31
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11
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79,114,457
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後期
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電通
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14.7.25
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14.8.1〜15.3.31
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15
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114,296,212
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15年度
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電通
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15.4.1
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15.4.1〜16.3.31
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28
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297,112,917
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16年度
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朝日広告社
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16.4.1
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16.4.1〜17.3.31
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26
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242,186,845
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17年度
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朝日広告社
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17.4.1
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17.4.1〜18.3.31
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23
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295,540,185
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18年度
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朝日広告社
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18.4.3
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18.4.1〜19.3.31
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19
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202,330,194
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合計
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172
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2,169,856,970
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13年6月から18年9月までの間に開催された174回のタウンミーティングのうち、13年度の第51回雇用創出タウンミーティングイン東京(13年12月16日)は内閣府の経費負担によるものではなく、また、第52回タウンミーティングイン葛飾(14年3月3日)は共催団体と共に内閣府が直営により実施しており、それぞれ上記の契約には含まれていないため、上記契約による開催回数は172回となっている。
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14年度前期の契約は、14年4月15日に業務を追加する契約変更を行っている。
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内閣府におけるタウンミーティングの運営に関する請負契約に関する事務は、会計法(昭和22年法律第35号)、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号。以下「予決令」という。)等の会計法令の定めるところに従い行われる。国の契約の概要は次のとおりである。なお、本件契約に係る支出負担行為担当官(本官)は大臣官房会計担当参事官(以下、単に「会計担当参事官」という。)、支出官(本官)は同会計課長となっている。
国の契約においては、会計法第29条の3第1項の規定により、契約担当官及び支出負担行為担当官(以下「支出負担行為担当官等」という。)は、契約を締結する場合においては、原則として公告して申込みをさせることにより競争に付さなければならないとされている。ただし、同条第4項の規定により、契約の性質又は目的が競争を許さない場合、緊急の必要により競争に付することができない場合等においては、随意契約によるものとするとされている。
なお、近年実務においては、契約手続の前段階において、複数の業者から仕様書案や企画書等を提出させるなどして、これらの内容や業務遂行能力が最も優れた者を選定する手続(以下「企画競争」という。)を経て、その者を契約相手方とする随意契約が行われるようになってきているが、この場合も上記の会計法上の随意契約による場合の要件を備えることが必要である。
国の契約においては、総額をもって契約金額として契約する形態(以下、この形態の契約を「総価契約」という。)が原則である。ただし、一定期間を決めてする継続的給付契約のように、契約上その数量を決定することができないなどの場合においては、単価を契約の主目的とし、期間を画してその供給を受けた実績数量を乗じて得た金額の対価を支払うことを内容として契約する形態(以下、この形態の契約を「単価契約」という。)による場合がある。
支出負担行為担当官等は、予決令第79条の規定により、その競争入札に付する事項の価格を当該事項に関する仕様書、設計書等によって予定しなければならないとされており、同令第80条第1項の規定により、予定価格は、競争入札に付する事項の価格の総額について定めなければならないとされている。そして、同条第2項の規定により、予定価格は、契約の目的となる物件又は役務について、取引の実例価格、需給の状況、履行の難易、数量の多寡、履行期間の長短等を考慮して適正に定めなければならないとされている。
また、予決令第99条の5の規定により、支出負担行為担当官等は、随意契約によろうとするときは、あらかじめ同令第80条の規定に準じて予定価格を定めなければならないとされている。
会計法第13条の2第1項の規定により、支出負担行為担当官が国の支出の原因となる契約その他の行為(以下「支出負担行為」という。)をするには、支出負担行為の内容を表示する書類を支出官に送付し、当該支出負担行為が当該支出負担行為担当官に対し示達された歳出予算、継続費又は国庫債務負担行為の金額に超過しないことの確認を受けるなどした後でなければ、これをすることができないとされている。
また、会計法第29条の8第1項の規定により、支出負担行為担当官等は、競争により落札者を決定したとき、又は随意契約の相手方を決定したときは、契約金額が一定金額を超えないなどの場合を除いて契約の目的、契約金額、履行期限等を記載した契約書を作成しなければならないとされている。また、同条第2項の規定により、契約書を作成する場合においては、支出負担行為担当官等が契約の相手方とともに契約書に記名押印しなければ、当該契約は、確定しないものとされている。
会計法第29条の11第2項の規定により、支出負担行為担当官等は、工事又は製造その他についての請負契約については、自ら又は補助者に命じて、その受ける給付の完了の確認をするため必要な検査をしなければならないとされている。また、同条第4項の規定により、各省各庁の長は、特に必要があるときは、上記の検査を、当該契約に係る支出負担行為担当官等及びその補助者以外の当該各省各庁所属の職員に行わせることができることとなっている。
そして、予決令第101条の9第1項の規定により、支出負担行為担当官等、支出負担行為担当官等から検査を命ぜられた補助者等は、検査を完了した場合においては、契約金額が一定金額を超えないなどの要件を満たす場合を除くほか、検査調書を作成しなければならないとされ、これにより検査調書を作成すべき場合においては、同条第2項の規定により、当該検査調書に基づかなければ、支払をすることができないとされている。
支出負担行為担当官等の事務については、会計法第46条の3第2項の規定により、各省各庁の長は、必要があるときは、当該各省各庁所属の職員に、支出負担行為担当官、契約担当官等の事務の一部を処理させることができるとされている。そして、予決令第139条の3第5項の規定によれば、会計法第46条の3第2項の規定により会計機関の事務の一部を処理する職員(以下「代行機関」という。)は、当該会計機関に所属して、かつ、当該会計機関の名において、その事務を処理するものとするとされている。
会計検査院は、13年度から18年度までの間に内閣府が締結した前記のタウンミーティングの運営に関する請負契約8件(支払金額計21億6985万余円、開催回数172回)を対象として、〔1〕契約方法、契約手続などの状況、〔2〕契約金額、支払金額など契約執行の状況、〔3〕会計事務処理の状況の事項の別に、合規性、経済性等の観点から、以下の点に着眼して検査した。
〔1〕 については、各契約の契約方式、契約形態は適切か、入札・契約などの手続は適切に実施されているかなど
〔2〕 については、仕様の内容や予定価格の算定は適切か、単価契約に関して、単価の設定は適切か、支払金額の基とした員数等は実績を反映しているかなど
〔3〕 については、給付の完了の確認、請求書の審査、内部監査等は適切に行われているかなど
検査に当たっては、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)に基づき内閣府から会計検査院に提出される証拠書類等(契約書、仕様書、検査調書、領収書、精算関係書類等)の内容を精査するとともに、タウンミーティングに係る関係書類の提出を求め、担当者や当時の担当者から説明を聴取した。
会計検査院は、19年次に実施した本件事案の検査において、在庁して関係書類の分析等の検査を行ったほか、73.0人日を要して内閣府並びにその請負先である電通及び朝日広告社に対する会計実地検査を行った。