ア 会計検査院は、平成13年度から18年度までの間に内閣府が実施したタウンミーティングの運営に関する請負契約について、参議院からの要請に基づき、3項目に関して検査を実施した。
これらの検査結果は、次のとおりである。
(ア) 契約方法、契約手続などの状況
a 13年度の契約について
13年度前期においては、緊急にタウンミーティングの開催準備に取り掛かる必要があることなどから一定の実績のある電通と随意契約の契約方式により、また、13年度後期においては運営業務に関する知見がTM室に十分蓄積されておらず直ちに運営業務を定型化して競争に付すことができなかったことから企画競争を行った後にその評価が最上位であった電通と随意契約の契約方式により、いずれも総価契約を締結していた。
そして、上記の契約については、事業の実施を先行させ、契約を確定させるまでに必要となる見積書の徴取、支出負担行為決議書及び契約書の作成等の手続を事後的に行う処理をして、実際には請負業務を了した後に契約金額を確定させていたと認められた。さらに、支出負担行為決議書、契約書等の日付をさかのぼって記載していたと認められた。
b 14年度以降の契約について
14年度以降においては、13年度にかなりの回数をこなしたことにより運営業務についてのノウハウが蓄積されたことを踏まえ、ある程度定型化した契約を競争入札で行うことが可能となったとして、一般競争により各年度のタウンミーティング開催1回当たりの金額について最も低い金額を入札したものを落札者とすることとし、14年度前期、16年度、17年度及び18年度は朝日広告社、14年度後期及び15年度は電通が落札者となっていた。
そして、その契約形態は、タウンミーティングの基本的な開催形式は定型化されたものであるが、出席閣僚等の対応及び警備に係る人数等が毎回異なりそれに対応するために、標準的な個々の業務ごとに単価を定める単価契約としていた。
このうち、15年度の電通、17年度及び18年度の朝日広告社との契約において、事業の実施を先行させ、契約を確定させるまでに必要となる落札者が開札後速やかに提出することとなっている契約単価内訳書の受領や契約書の作成等の手続を事後的に行う処理をしていたり、契約書等の日付をさかのぼって記載したりしていたと認められた。
特に、契約単価内訳書の受領が事業の開始後になっている事態については、落札者が、員数の実績を確認した後にモデル員数に比べて実際の員数が大きく増加した項目に高い契約単価を設定することを可能とするものであり、発注者に過大な費用を支払うリスクを生じさせるものであった。
(イ) 契約金額、支払金額など契約執行の状況
a 13年度の契約の契約金額、支払金額等について
13年度の契約は、随意契約による総価契約であり、契約金額は支払金額と同額となっていた。そして、この契約金額は、支出負担行為決議書の起案が、実際にはタウンミーティングの事業の終了後であったと認められることなどから、請負業務を了した後に確定させていたと認められた。
各契約に係る仕様書は、実際にはタウンミーティングの事業の終了後に決定されたものであった。
予定価格は、13年度前期はタウンミーティングの事業の開始後に、後期は予定価格調書に記載された日付よりも後に決定されたものであったほか、単価に関し、多くの項目で電通又はその再請負先が作成した資料が根拠となっており、他の取引の実例価格を調査してそれを考慮することは行われていなかった。また、14年度以降の単価契約において設定されている単価項目とおおむね対応すると思料される項目において、一般競争契約となった14年度以降の契約単価より高額となっているものがあるなどしていた。
また、支払金額については、13年度の1回当たりの平均金額は一般競争契約となった14年度以降に比べて高額となっていた。
b 14年度以降の契約の契約金額及び支払金額について
14年度以降の契約の契約形態は、単価契約であるため、契約期間中の総額やタウンミーティング1回当たりの金額が契約金額として定められていない。
支払金額は、14年度前期を除き入札の対象となった単価項目部分の支払金額が落札価格に開催回数を乗じて得た金額よりも多額となるなどの状況となっていた。
また、員数の増加による単価項目部分の支払金額は14年度後期以降、追加費用の支払金額は16年度以降において、それぞれ相当な割合を占めていた。
c 14年度以降の契約の仕様書について
14年度以降の契約の仕様書について、対象となる作業の内容やどのような場合に員数を増加させるかの説明がないなど、単価設定の前提となる条件が明確ではない項目があったり、モデル員数と精算員数との間に継続的に後者が前者を上回るなど相当のかい離が生じていたりしていた。
d 14年度以降の契約の予定価格について
モデル員数と精算員数との間に継続的に後者が前者を上回るなど相当のかい離が生じていたり、単価が他の取引の実例価格を調査してそれを考慮したものとはなっていなかったりしていた。
e 14年度以降の契約の契約単価について
落札者は開札後速やかにあらかじめ仕様書に示されたモデル員数にそれぞれ単価を乗じた合計額が落札金額と一致する範囲内で自由に単価を設定した契約単価内訳書を提出することとされ、契約単価は、この契約単価内訳書に記載された単価を用いることとなっていて、内閣府が関与することなく落札者が決定する仕組みとなっていた。そして、16年度までにおいて単独で項目を設定することが疑問である項目が見受けられたり、特に16年度までにおいて契約単価が大幅に変動しているものが見受けられたりしていた。また、一般管理費についてみると、契約単価内訳書には独立した項目が設定されていないことなどから、どの単価項目にどの程度一般管理費が計上されているか不明となっていた。
このような契約単価の決定方法の下では、ある単価を高額に設定した場合、他の単価が低額に設定されることとなることから、ある特定の単価が高額であることが直ちに支払金額の総額の増加となるものではない。しかし、内閣府が関与することなく落札者が契約単価を決定する方法は、落札者が予定価格算定に用いた単価よりも大幅に高い契約単価を設定した項目について精算員数が増加した場合に、当初の想定より大幅に高い費用を負担するリスクを内閣府が負うこととなる。
f 14年度以降の契約に係る精算について
(a) 単価項目に係る業務についての員数の指示や、追加作業を行わせる内閣府の指示を後日の精算に用いるために取りまとめて記録したものは作成されておらず、また、別途協議することとされている追加費用について、追加作業の内容及びこれに係る追加費用の算定方法、請求に当たって付すべき資料等について内閣府と請負業者との協議によりどのように決定されたかを示す記録がほとんどの場合において作成されていなかった。
(b) 契約単価の中で行うべき業務と追加作業の区別が明確でなかったり、請負業者が追加作業として行った事務が、請求書において追加項目として明示されず、単価項目の員数に上乗せすることにより請求、精算が行われ、追加費用が明確とならなくなったりしていた事態が見受けられた。
(c) 員数が式数で設定されている単価項目について、式数の算定方法が仕様書等において明確に示されておらず、統一的な方法で精算が行われていない事態が見受けられた。
(d) 内閣府では、タウンミーティング調査委員会の調査報告書において、精算業務の適正化に向けた措置を速やかに講じるよう指摘されたことなどを踏まえ、同調査報告書公表時に未精算であった18年度のタウンミーティング16回分の精算に当たっては、員数、金額等について、客観的資料を基に裏付け・確認されるものをもって、厳格に精算を行うこととし、実費精算を行うなどしていた。
(ウ) 会計事務処理の状況
a 契約に係る手続について
前記(ア)で記述したとおり、事業の実施を先行させ、契約を確定させるまでに必要となる契約書の作成等の手続を事後的に行う処理をするなどしていたと認められた。
b 員数の指示等の記録について
前記(イ)f(a)で記述したとおり、単価項目に係る業務についての員数の指示や追加作業を行わせる内閣府の指示を後日の精算に用いるために取りまとめた記録が作成されておらず、また、追加作業の内容及びこれに係る追加費用の算定方法等について内閣府と請負業者との協議によりどのように決定されたかを示す記録がほとんどの場合において作成されていなかった。
c 給付の完了の確認について
14年度以降の契約に係る給付の完了の確認をするための検査は、TM室の主担当を確認者として契約業務の履行の確認を行わせ、検査職員である会計課の職員はその確認をもって給付の完了を確認したものとしていた。
そして、確認者による正確な員数等の確認は十分に行われておらず、また、員数等の確認についての書面による記録も作成されていなかった。
d 請求書の審査について
14年度以降の契約に係る請求は、まず仮の請求書が請負業者からTM室の会計担当へ提出され、その審査を経た後に正式の請求書を受領し、その後会計課の職員による審査が行われていた。
しかし、請求書の審査は、単価項目に係る業務についての員数の指示や追加作業を行わせる内閣府の指示を後日の精算に用いるために取りまとめた記録が作成されていなかったこと、追加作業の内容及びこれに係る追加費用の算定方法等について内閣府と請負業者との協議によりどのように決定されたかを示す記録がほとんどの場合において作成されていなかったこと、また、員数等の確認についての書面による記録も作成されていなかったことなどから、TM室の会計担当も会計課も、請求書に記載された個々の員数等を的確に審査することができない状況となっていた。
e 内部監査の実施状況等について
内閣府の所掌に係る会計の監査は、会計課が行うこととされており、会計事務監査実施要領を制定してそれに基づき監査を行い報告書を作成するようになった15年度以降の会計経理に関する会計事務監査報告書によると、会計事務に関して重大な法令違反等は見受けられず、全体としては良好に会計事務が執行されているなどと評価されており、タウンミーティングの請負契約に係る会計経理については、特に個別に取り上げられていなかった。
また、内部牽制についても、結果的に前記(ア)で記述したとおり契約書の日付をさかのぼって記載するなどの不適切な処理を防止することができなかった。
イ 上記の検査の結果を踏まえ、内閣府では、今後の事業の実施に当たっては、以下の点に留意することが必要である。
(ア) タウンミーティングの運営に関する請負契約の契約手続について、事業の実施を先行させ、契約を確定させるまでに必要となる契約書の作成等の手続を事後的に行う処理をしていたり、契約書等の日付をさかのぼって記載したりしていたと認められたものがあり、このような会計法令に反するなど不適切な処理が繰り返されることのないよう、法令遵守の徹底等の再発防止策を講ずること
(イ) 契約金額、支払金額等について、総価契約を締結した13年度において実際には請負業務を了した後に契約金額を確定させていた事態、単価契約を締結した14年度以降において、内閣府が関与することなく落札者が契約単価を決定することとしていた事態、単価設定の前提となる条件が仕様書において明確でなかったり、精算員数がモデル員数を継続的に大幅に上回っていたり、請負業者との協議の記録が残されないまま追加費用が多額に発生していたりして落札価格に比べて多額の費用を支払うこととなっていた事態などはコスト意識が十分であったとは認められず、今後、事業が一層経済的に実施されるよう努めること
(ウ) 請負契約の会計事務処理について、単価項目に係る業務についての員数の指示や追加作業を行わせる内閣府の指示を後日の精算に用いるために取りまとめた記録が作成されていなかったこと、また、員数等の確認についての書面による記録も作成されていなかったことなどから、TM室の会計担当も会計課も、請求書に記載された個々の員数等を的確に審査することができない状況となっており、今後の請負契約においては必要な記録の整備等が的確に行われるよう、会計機関が必要な指示や態勢整備を行うこと
以上のとおり報告する。
そして、会計検査院としては、今後とも、同様の請負契約等が適切に実施されているか多角的な観点から引き続き検査していく。