金融機関の破綻処理においては、預金等の全額保護の措置が執られたことに伴い、特別資金援助等を実施するための資金の一部として交付国債計10兆4326億4320万余円の償還金が使用された。本院は、このように国民負担が生じたことなどを踏まえて、経済性、有効性等の観点から、整理回収機構において、整理回収業務から生じた利益が速やかに預金保険機構を通じて国庫に納付されているか、回収された資金は適切に管理・活用されているかなどに着眼して検査した。
本院は、計算証明規則(昭和27年会計検査院規則第3号)に基づき、預金保険機構及び整理回収機構から本院に提出された財務諸表等の書類により書面検査を行った。また、金融庁、預金保険機構及び整理回収機構において、納付金の納付状況、資金の管理状況等について、関係書類の提出を受け、説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。
(1) 買取資産に係る納付金の納付状況及び回収された資金の状況
整理回収機構における買取資産に係る整理回収業務について、預金保険機構への納付金の納付又は損失の補てんの状況をみると、損失の補てんの実績はなく、表1のとおり、13年度以降において、毎年度、整理回収業務から生じた利益が納付金として納付されており、22年度までの累計額は9071億8193万余円となっている。また、上記の納付金に係る預金保険機構からの国庫納付の状況をみると、表1のとおり、預金保険機構特例業務勘定が廃止された際に同勘定の欠損金と相殺された14年度を除き、整理回収機構から納付金が納付された各年度において、納付された額と同額が国庫納付されている。
表1 買取資産に係る納付金及び国庫納付(平成13年度〜22年度)
(単位:億円)
区分
|
平成
13年度 |
14年度
|
15年度
|
16年度
|
17年度
|
18年度
|
19年度
|
20年度
|
21年度
|
22年度
|
計
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整理回収業務から生じた利益
|
1,526
|
899
|
748
|
1,552
|
1,558
|
1,203
|
806
|
450
|
326
|
/
|
9,071
|
整理回収機構から預金保険機構への納付金の納付
|
―
|
1,526
|
899
|
748
|
1,552
|
1,558
|
1,203
|
806
|
450
|
326
|
9,071
|
預金保険機構から国庫への納付
|
―
|
―
|
899
|
748
|
1,552
|
1,558
|
1,203
|
806
|
450
|
326
|
7,545
|
注(1)
|
整理回収機構から預金保険機構への納付は、整理回収業務の決算が確定した後、翌年度に行われる。
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注(2)
|
平成12年度以前においては納付金の納付実績はない。
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また、整理回収機構特例業務勘定について、21年度の資産、負債及び純資産の状況をみると、表2のとおり、純資産の部に1818億円の利益剰余金が計上されており、資産の部には、現金預け金137億円、コールローン1917億円及び国債(短期国債)569億円、計2624億円の流動性の高い金融資産が計上されている。
表2 整理回収機構特例業務勘定の資産、負債及び純資産の状況(平成21年度)
(単位:億円)
区分
|
金額
|
区分
|
金額
|
||
資産の部
|
現金預け金
|
137
|
負債の部
|
預金
|
0
|
コールローン
|
1,917
|
借用金
|
1,170
|
||
買入金銭債権
|
10
|
その他負債
|
355
|
||
有価証券
|
581
|
退職給付引当金
|
8
|
||
国債
|
569
|
役員退職慰労引当金
|
0
|
||
株式
|
11
|
支払承諾
|
155
|
||
貸出金
|
1,942
|
負債合計
|
1,690
|
||
その他資産
|
19
|
純資産の部
|
資本金
|
120
|
|
支払承諾見返
|
155
|
利益剰余金
|
1,818
|
||
貸倒引当金
|
△ 1,135
|
繰越利益剰余金
|
1,818
|
||
その他有価証券評価差額金
|
0
|
||||
純資産合計
|
1,938
|
||||
資産合計
|
3,629
|
負債及び純資産合計
|
3,629
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注(1)
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整理回収機構特例業務勘定は、整理回収機構が業務上使用している勘定区分であり、銀行法(昭和56年法律第59号)等に基づいて作成している財務諸表上の勘定区分ではない。
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注(2)
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特別資金援助終了後に株式会社足利銀行の破綻処理として買い取った資産に係る経理も含まれている。
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そこで、上記の利益剰余金の計上の経緯について検査したところ、当該利益剰余金は、整理回収機構が発足した11年度及び翌12年度の整理回収業務から生じた利益に係るものであることが判明した。
すなわち、前記のとおり、11、12両年度において整理回収業務から利益が生じた場合の納付金の額は、既往年度において特例業務基金を損失の補てん等に使用した場合の当該使用額を限度とするとされていたが、実際には特例業務基金は損失の補てん等に使用されることはなかったことから当該利益は整理回収機構から預金保険機構に納付することを要しないこととされ、13年度以降、利益剰余金として計上されていた。そして、11、12両年度の整理回収業務から生じた利益の金額は、合計で1837億7314万余円となっていた。
整理回収機構は、上記の利益に係る資金について、公的な性格を有するものと考えて、当該利益が生じた年度以降、余裕資金として他の資金と区分して管理しており、その流動性を確保するためにコールローン等の短期運用の金融資産により運用していたとしている。
このように、上記の11、12両年度の整理回収業務から生じた利益に係る資金については、13年4月1日(法の改正の施行日)前に生じたものであり、法の規定及び協定上、その取扱いは従前の例によるとされたことから、現在、整理回収機構が整理回収機構特例業務勘定に余裕資金として保有している事態となっている。
(2) 11、12両年度の整理回収業務から生じた利益に係る資金の取扱い
金融庁は、13年4月1日(法の改正の施行日)前に整理回収業務から生じた利益についての取扱いが従前の例によることとされたのは、次の理由によるとしている。
ア 11、12両年度の整理回収業務から生じた利益は、法の改正当時、金融機関の破綻が相次いで発生する状況下にあって、整理回収機構が預金保険機構と協定を締結した銀行として、経営基盤の強化等を目的として保有する必要があったこと
イ 預金保険機構と協定を締結して業務を行っている一銀行から法の改正前に生じた利益を遡って納付させることは、企業の利益を奪うことになるため一般的に法的安定性の観点から不適切であると考えられること
しかし、法の改正当時と比べて、状況が変化してきており、以下の理由から、整理回収機構において、11、12両年度の整理回収業務から生じた利益に係る資金を余裕資金として今後も保有する必要性は低くなっていると認められる。
ア 整理回収機構は、整理回収業務から利益が生じた場合には、預金保険機構に納付金として納付する一方で、損失が生じた場合には、預金保険機構が当該損失の補てんを行うことができるとされている。このような財務上の仕組みとなっていることに加えて、整理回収機構が、必要に応じて預金保険機構と協定を締結した銀行として救済金融機関となることがあることについても、金融機関の破綻件数が大きく減少しているなど、12年頃の金融機関の破綻が相次いで発生していた法の改正当時と比べて金融情勢等が変化してきていること
イ 整理回収機構は、株式会社の形態はとっているものの、預金保険機構の全額出資法人であり、また、11、12両年度の整理回収業務から生じた利益は、そもそも法の規定に基づいて金融機関の破綻処理のための業務の一環として、預金保険機構が政府保証を受けて調達した資金等を財源に、特別資金援助等の業務として預金保険機構からの委託を受けて買い取った資産から生じたものであること
なお、現在、上記の11、12両年度の整理回収業務から生じた利益を除くと、整理回収機構全体の決算では債務超過となるが、これは、整理回収機構の住専勘定において多額の欠損金が生じていることによるものであり、住専勘定は、前記のとおり、住専法に基づき債権処理会社としての業務に係る経理を他の業務に係る経理と区分して整理している勘定で、住専勘定における損失は住専法等の枠組みにより処理することとされている。そして、住専法に基づく債権処理会社としての業務は23年12月を目途として完了することとされている。
12年頃の金融機関の破綻が相次いで発生していた法の改正当時と比べて金融情勢等が変化してきているなどの状況において、11、12両年度の整理回収業務から生じた利益1837億7314万余円に係る資金が、整理回収機構において、整理回収機構特例業務勘定に余裕資金として保有されている事態は、適切とは認められず、改善の要があると認められる。
このような事態が生じているのは、13年4月施行の法の改正において、11、12両年度の整理回収業務から生じた利益が預金保険機構への納付金の納付の対象とされなかったこと、このため、金融庁において、当該資金の取扱いは既に法的に整理済みであると認識していたことなどによると認められる。