検査対象 | 防衛省(平成19年1月8日以前は内閣府防衛庁) |
航空自衛隊第1補給処における事務用品等の調達の概要 | 航空自衛隊で任務の遂行に必要となるオフィス家具、ОA機器、事務用消耗品、整備用工具、塗料、洗剤、体育訓練用備品等の調達 |
検査の対象とした契約件数及び契約金額 | 5,500件 600億8550万円(平成17年度〜22年度) |
航空自衛隊は、任務の遂行に必要となるオフィス家具(注1) 、ОA機器、事務用消耗品(以下、これらを合わせて「事務用品」という。)、整備用工具、塗料、洗剤、体育訓練用備品等の一般に市販されている物品を毎年度多数調達している。
自衛隊における調達には、装備施設本部が実施する調達と、各自衛隊が実施する調達とがあり、事務用品については、そのほとんどを各自衛隊が実施する調達により行っている。そして、航空自衛隊においては、一部緊急を要するなどの場合に部隊等で直接調達されている事務用品もあるが、大部分は、需品等の保管、補給、整備、調達等に関する事務を所掌している航空自衛隊第1補給処(以下「第1補給処」という。)において調達が行われている。
第1補給処には、第1補給処東京支処(以下「東京支処」という。)等2支処が置かれており、東京支処は、分任支出負担行為担当官が設置され、第1補給処等から要求された事務用品等に係る予定価格の算定、入札・契約事務等を行っている。
また、航空自衛隊には、第1補給処を含めて4補給処が置かれており、担任する装備品等は表1のとおりとなっている。
補給処の名称 | 担任する装備品等 |
航空自衛隊第1補給処 | 需品、車両、航空機の支援器材(標的及びえい航器材を除く。)、化学器材、施設器材及び衛生資材 |
航空自衛隊第2補給処 | 航空機、航空機の機体用部品、エンジン及び同部品 |
航空自衛隊第3補給処 | 通信電子器材、写真器材及び気象器材 |
航空自衛隊第4補給処 | 火器、弾薬並びに標的及びえい航器材 |
さらに、航空自衛隊には、航空自衛隊各補給処の事務の実施の企画及び総合調整並びに各補給処の管理を行う機関として、航空自衛隊補給本部(以下「補給本部」という。)が設置されている。
そして、第1補給処における事務用品等の調達に係る予算執行手続等は次のとおりとなっている。
〔1〕 補給本部長は、各補給処の執行状況を把握し、これらの執行実績も踏まえ、第1補給処と調整するなどして、第1補給処において事務用品等の調達に充てる予算として、予算総括者である航空幕僚長に支出負担行為の計画及び限度額の示達要求の申請を行う。
〔2〕 航空幕僚長は、四半期ごとに支出負担行為の計画の示達の要求総括表を作成し、各省各庁の長である防衛大臣に提出する。
〔3〕 支出負担行為担当官である航空幕僚監部総務部長は、防衛大臣から支出負担行為計画の示達を受けると、分任支出負担行為担当官である東京支処長に支出負担行為の限度額を示達する。
〔4〕 東京支処長に支出負担行為の限度額の示達が行われると、第1補給処長は、各部隊等からの調達要望等も踏まえて事務用品等の調達品目及び数量を決定し、要求のための仕様書等を作成の上、使用する予算科目も示した上で、東京支処長に対して調達要求を行う。
〔5〕 東京支処長は、第1補給処長からの調達要求を受けると、分任支出負担行為担当官として、予定価格の算定、入札・契約事務等を行い、業者に発注する。
防衛省(平成19年1月8日以前は内閣府防衛庁)は、防衛施設庁における入札談合事件の発生等不祥事が重なったことなどを踏まえて、防衛省・自衛隊の全ての組織に対して独立した立場で、予算の適正かつ効率的な執行及び法令遵守の観点から防衛省における職務執行の状況を厳格に監察する組織として、19年9月に防衛大臣直属の防衛監察本部を設置している。そして、防衛監察本部による監察(以下「防衛監察」という。)は、これまで入札談合防止を対象項目の一つとしており、20年度の防衛監察において、第1補給処が17年度から19年度までの間に締結した事務用品等の調達に係る契約計220件、契約金額計約57億円について不自然な入札状況が判明した。
このため、防衛省は、21年5月に、公共事業の入札・契約手続の改善に関する行動計画(平成6年閣議了解)等を踏まえて定められている「談合情報対応マニュアル」に基づき、当該談合情報を公正取引委員会に通知した。
公正取引委員会は、21年6月に、第1補給処、東京支処及び関係事業者に対して、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」(昭和22年法律第54号)第47条第1項第4号の規定に基づく立入検査を行った。
そして、公正取引委員会は、22年3月30日に、航空自衛隊が発注する什器類について、メーカー6社(注2)
が同法第3条の規定により禁止されている不当な取引制限を行っていたとして、このうち5社に対して、同法第7条第2項の規定に基づく排除措置命令及び同法第7条の2第1項の規定に基づく課徴金納付命令を行った。また、同日に、第1補給処が調達を希望するメーカーについて、第1補給処の職員がその意向をメーカー6社に対して示すなど「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律」(平成14年法律第101号。以下「入札談合等関与行為防止法」という。)に規定する入札談合等関与行為を行っていた事実が認められたとして、防衛大臣に対して、同法第3条第2項の規定に基づき、当該入札談合等関与行為が排除されたことを確保するために必要な改善措置を講ずるよう求めた。さらに、同日に、第1補給処が予算の執行余剰分によって調達する物品について、取引実績等を考慮し、事業者別の調達目標をあらかじめ設定して調達要求を行っていて、改善措置要求の対象となった什器類以外の物品についても、入札談合等関与行為防止法上の問題を生じさせるおそれがあるとして、防衛省に対して、同法の趣旨及び内容の周知徹底、入札の実態についての再点検や必要な場合には改善を行うことなどの再発防止のための所要の措置を講ずるよう要請を行った。
会計検査院に対しては、上記の命令と同日付けで、公正取引委員会から、防衛省に対して入札談合等関与行為が排除されたことを確保するために必要な改善措置を速やかに講ずるよう求めた旨の通知が行われている。
防衛省は、外部の有識者を加えた「航空自衛隊第1補給処オフィス家具等の事務用品談合事案調査・検討委員会」を設置するなどして、事実関係の調査、背景・原因の解明及び改善措置の検討を行い、談合事案に係る調査結果及び改善措置を取りまとめて、22年12月14日に、「航空自衛隊第1補給処におけるオフィス家具等の調達に係る談合事案に関する調査報告書」(以下「調査報告書」という。)として、これを公表した。
調査報告書における調査結果の主な内容は、以下のとおりである。
ア 16年度以前においては、装備施設本部で実施する航空自衛隊要求分の調達及び各補給処で実施する調達分の予算の執行残分の大半が第4四半期に判明するため、これらを航空自衛隊の予算の年度執行計画で予定されていなかった計画外予算として、第1補給処において事務用品等の調達に充てていた。そして、第1補給処では、この年度末に集中する計画外予算を使い切るため、随意契約の公表基準額としていた500万円以下の額に契約を分割し、年度末に集中的に随意契約により調達を行っていた。
しかし、17年度以降、随意契約に関する事務の取扱い等について(平成17年2月25日財計第407号。以下「財務省通達」という。)により、物品の購入については、予定価格が160万円を超える随意契約については公表することとされたことなどから、これらの随意契約を一般競争へと移行せざるを得ないこととなった。これに際して、補給本部の副本部長は、第1補給処資材計画部長に対して、航空自衛隊OBが在籍する会社やこれまで無理な予算執行を支えてきた使い勝手の良い会社が急激なダメージを受けないよう配慮すべきとの意向を示した。
第1補給処資材計画課は、17年度の計画外予算の執行に際して、計画外予算の発生見積額に応じたメーカー等別の調達要求目標額を設定した一覧表を作成した。そして、この目標額を達成するため、第1補給処が調達を希望する特定のメーカーに対して本来自らが実施すべき同等品調べ(注3)
を依頼し、メーカーから自社のものが最も安価となるような結果の提出を受け、これに基づき作成した調達品目表を仕様書に記載して入札を行うことによって、当該メーカー等を落札させる仕組みを確立させた。
イ オフィス家具以外の物品の調達においても、18年度以降、オフィス家具と同様に、調達要求目標額に基づき調達要求を管理していた。これらについてオフィス家具のような入札談合行為の仕組みは確認できなかったが、コピー機関係の入札で、特定の5社のシェアがいずれも20%前後であるなど不自然な状況が見受けられた。
ウ 第1補給処でのオフィス家具の調達に係る予算について、予算科目の観点から法令に準拠しているとは認められない執行が17年度から20年度までの間において、311件75億余円中、216件59億余円確認された。
調査報告書によると、22年6月までに各調達機関で以下の改善措置等が講じられたとされている。
ア 入札談合防止に対する更なる周知を図るため、職員の意識と入札談合関連法令等の理解度を高めるための教育・研修の実施
イ 入札公告期間の十分な確保、公告のホームページ掲載や掲示場所の増加、入札条件の緩和や計画的な調達による競争入札の拡大、入札情報の充実等による競争性の確保
ウ 過去数年分の調達データの整備及び複数の職員による自己点検や部内監査を利用した検証態勢の強化
また、調査報告書によると、入札談合等関与行為や当該調査の過程で付随的に判明した会計経理上の問題等に関して上記に加えて新たに以下の改善措置を執るとされている。
ア 談合関連企業への再就職の自粛
イ 調達組織における再就職支援のための援護業務の廃止
ウ 航空自衛隊の補給・整備組織の見直し
エ 事務用品の調達における、競争の導入による公共サービスの改革に関する法律(平成18年法律第51号)に基づく民間競争入札(注4) (以下「民間競争入札」という。)の実施
オ 仕様書の作成要領の見直し
カ 予算執行のチェック機能の強化
キ 入札談合等関与行為防止法等の法令遵守に関する教育の徹底
ク 調達等関係業務に同一の職員が長期にわたって就くことがないようにするなどの人事管理の徹底
ケ 公益通報制度の周知・徹底
コ 入札過程の監視、入札結果の検証、会計監査・業務監査等のチェック機能の強化
サ 損害賠償請求に関する厳正な対処