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  • 平成24年1月

大規模な治水事業(ダム、放水路・導水路等)に関する会計検査の結果について


4 遊水地等

 遊水地は、河川堤防に隣接した堤内に取得した土地の外周に盛土を行うなどして確保した空間に洪水を一時的に貯留できるようにする施設であり、周囲堤(土地の外周に築造した盛土)、囲ぎょう堤(周囲堤の上流端と下流端との間の河川堤防)、越流堤(囲ぎょう堤のうち洪水の一部を自然流入させるために通常の堤防高より低くされた部分)、排水門(河川の水位の低下に応じて貯水を排水させるための水門)等で構成される。通常、遊水地内は貯水されていない状態であり、公園等の公共のスペースとして活用されているものが多く見受けられる。
 遊水地等事業については、22年度において、大規模な治水事業として国が事業主体である千歳川遊水地工事、渡良瀬遊水池調節池化工事(注) 稲戸井遊水池調節池化工事及び上野遊水地事業の計4事業が実施されている。
 これらの事業について検査したところ、次のような状況になっていた。

 遊水 調節池化工事  「渡良瀬遊水 」及び「稲戸井調節 」で施行されている大規模改良工事の正式な事業名は「渡良瀬遊水池調節 化工事」及び「稲戸井遊水池調節 化工事」とされている。

(1) 事業の目的、必要性等についての検討の状況

ア 千歳川遊水地工事

 石狩川水系千歳川は、その中下流域は河床勾配が約1/7,000と極めて緩く広大であること及び石狩川本川からの背水の影響を大きく受けることから、同流域に近年でも約2年に1回の頻度で洪水被害をもたらしている。
 北海道開発局は、石狩川水系河川整備基本方針(平成16年6月策定)、石狩川水系千歳川河川整備計画(平成17年4月策定)等に沿って、戦後最大規模である昭和56年8月上旬降雨により発生した規模の洪水を安全に流下させるようにする対策の一つとして、千歳川流域内に遊水地群を整備する千歳川遊水地工事(計画事業費1150億円)を、平成31年度を完成年度として計画し、20年度に事業計画の承認を受けて、用地買収等の事業に着手している(図表4-1 参照)。

 図表4-1 千歳川遊水地位置図

図表4-1千歳川遊水地位置図

 千歳川における治水対策として、昭和57年、同河川の洪水を太平洋へ放流することを目的として放水路を開削するなどの千歳川放水路事業が計画されて、北海道開発局は事業に着手した。しかし、漁業団体や自然保護団体からの反対等、様々な意見が出され、事業を進めることができない状態が続いた。その後、北海道知事から国に対して放水路計画に代わる治水対策が必要との意見が提出され、国はその意見を受けて検討を行った結果、同事業を平成11年に中止した。そこで、同局は、新たな治水対策の検討を行うため、同年12月に北海道と共同で、有識者及び千歳川流域の市町からなる「千歳川流域治水対策全体計画委員会」を設置し検討した結果、14年3月に、千歳川の流域内での堤防強化及び遊水地群の築造による治水対策案が効果の早期発現等で有利であるとの結論に至った。
 千歳川遊水地工事の事業は、石狩川河川改修工事で実施している千歳川等の堤防を石狩川本川との合流部の石狩川本川堤防と同程度に整備する工事(遊水地の囲ぎょう堤等は同工事により整備する。)及び千歳川の河道の掘削と合わせて、六つの地区において流域内の河川の隣接地総面積1,150haを買収により取得して、総貯水容量4,540万m (6地区)の遊水地を整備するものである。そして、本事業及び石狩川河川改修工事における千歳川等の堤防整備の完成のほかに、千歳川の河道の掘削が完了していることと、石狩川の千歳川合流点の水位が計画高水位以下に抑えられるまで整備されていることを前提とした場合に、昭和56年8月上旬降雨により発生した規模の洪水に対して目標とする水位低下が達成できるとされている。
 石狩川水系千歳川河川整備計画では、千歳川における遊水地の整備について「洪水調節容量が概ね5千万m の遊水地群を千歳川本支川に分散して整備する」と記載されているが、北海道開発局は、この記載内容を説明できる関係資料を保有していないとしている。このことについて、同局は、この関係資料が同局の文書管理規則上、保存期限3年に該当する文書であるとして廃棄したことによるとしている。このため、同局は本事業における遊水地の計画規模、設置箇所等が同河川整備計画の記載内容と整合したものとなっているか明確にできず、事業に対する説明責任が果たせない状況となっていた。
 千歳川遊水地工事の事業計画等の概要は、図表4-2 のとおりである。

図表4-2 千歳川遊水地工事における事業計画等の概要
事業期間 計画事業費 主な機能等 主な施設等
面積 貯水容量
  億円 ha 百万m3  
平成20年度〜31年度 1,150 1,150 45.4 周囲堤
排水門
遊水地
22.6km
6基
6地区
 

イ 渡良瀬遊水池調節池化工事

 渡良瀬遊水地は、明治時代から渡良瀬川上流の足尾銅山での産銅量が飛躍的に伸び、精錬に必要な木炭を得るために山林の乱伐を重ねた結果、頻発する洪水によって鉱毒被害が渡良瀬川をはじめとする下流域に広がったことを契機に、明治43年から大正11年までの間に河川改修事業として整備を進め、旧谷中村の廃村移転等を実施するなどしてほぼ現在の大きさで概成されていた。
 関東地方整備局は、昭和22年9月のカスリーン台風により利根川流域では大きな洪水の被害を受けたことから、この洪水の規模に対応する治水対策を実施しており、45年に、利根川水系工事実施基本計画(昭和40年策定)に沿って、渡良瀬遊水地内において、渡良瀬川、思川及び巴波川(うずまがわ)の洪水流量を調節して利根川の計画高水流量に影響を及ぼさないようにする渡良瀬遊水池調節池化工事を計画した。そして、事業計画の承認を受けて、第2・第3排水門、第3調節池の囲ぎょう堤、越流堤等をそれぞれ整備している。
 渡良瀬遊水地は、総面積3,300ha(第1〜第3調節池のほか、遊水地内の河川及び河川敷を含む。)、総貯水容量1億7180万m であり、渡良瀬貯水池(谷中湖)を含む第1、第2及び第3の三つの調節池で構成されている(図表4-3 参照)。

 図表4-3 渡良瀬遊水地位置図

図表4-3渡良瀬遊水地位置図

 しかし、利根川水系では河川整備計画が未策定であり、平成18年2月に策定された利根川水系河川整備基本方針において、本遊水地は、「下流部の洪水流量軽減のため、利根川の支川である渡良瀬川からの合流量が利根川本川の計画高水流量に影響を与えないよう、洪水調節機能を果たすもの」として利根川水系工事実施基本計画の内容が踏襲されているが、同方針には渡良瀬遊水地として必要とされる具体的な貯水容量等については記載されていない。
 また、関東地方整備局は、渡良瀬遊水池調節池化工事について、昭和14年の利根川改修計画策定からかなりの期間が経過しているなどのため、事業計画本体も含めて関係資料を保有していないとしていて、事業の目的、必要性等についての検討の有無や計画規模が適切なものとなっているかなどについて明確にできないまま、事業を実施している。
 渡良瀬遊水池調節池化工事の事業計画等の概要は、図表4-4 のとおりである。

図表4-4 渡良瀬遊水池調節池化工事における事業計画等の概要
事業期間 計画事業費 主な機能等 主な施設等
面積 貯水容量
  億円 ha 百万m3  
昭和45年度〜平成36年度 700 3,300 171.8 第2、第3排水門、越流堤、囲ぎょう堤

ウ 稲戸井遊水池調節池化工事

 利根川では、22年9月の洪水による水害により大きな被害が生じたことから、24年に利根川改修改訂計画が策定され、その中で、稲戸井調節池については田中、菅生両調節池と合わせて、洪水時に鬼怒川の流量2,000m /sの合流が利根川の計画高水流量に影響を与えないようにすることとされている。稲戸井遊水池調節池化工事は、40年に策定された利根川水系工事実施基本計画にも踏襲され、45年に事業計画の承認を受け、平成18年に策定された利根川水系河川整備基本方針にも記載されていて、22年度末現在、事業を継続して実施している(図表4-5 参照)。

 図表4-5 稲戸井調節池位置図

図表4-5稲戸井調節池位置図

 そして、稲戸井遊水池調節池化工事では、面積448ha、貯水容量3,080万m の調節池を整備することとされている。
 しかし、関東地方整備局は、本事業について、昭和24年の利根川改修改訂計画策定からかなりの期間が経過しているなどのため、事業計画本体も含めて関係資料を保有していないとしていて、前記(1)イ の渡良瀬遊水池調節池化工事と同様の状況となっていた。
 稲戸井遊水池調節池化工事の事業計画等の概要は、図表4-6 のとおりである。

図表4-6 稲戸井遊水池調節池化工事における事業計画等の概要
事業期間 計画事業費 主な機能等 主な施設等
面積 貯水容量
  億円 ha 百万m3  
昭和45年度〜平成30年度 438 448 30.8 周囲堤、囲ぎょう堤、越流堤、排水門

エ 上野遊水地事業

 淀川水系木津川は、上流域の上野盆地において、服部川及び柘植川の2支川と合流していること、また、同盆地の直下流に岩倉峡という狭さく部があることから、同盆地に恒常的に洪水被害をもたらす結果となっている。このため、43年に、上野盆地より下流への流量を増加させることなく、同盆地での氾濫を防除することを目的として、同盆地に被害をもたらした戦後最大の洪水である昭和28年台風13号洪水による氾濫面積(540ha)を前提に、遊水地のみ、岩倉峡の開削と河川改修との組合せなどの複数の案を検討した結果、将来の土地利用や治水効果等を考慮して上流のダム整備とともに250ha程度の遊水地を設けることなどが計画された。
 そして、近畿地方整備局は、木津川の左右岸に各1地区(長田地区、木興(きこ)地区)、支川である服部川の左右岸に各1地区(小田(おた)地区、新居地区)の計4地区の遊水地等を整備する上野遊水地事業を実施している(図表4-7 参照)。
 上野遊水地は、総面積248ha、総貯水容量900万m であり、上記4地区の遊水地から構成されている。そして、淀川水系河川整備計画において、上野遊水地と川上ダムの完成とともに、木津川、服部川及び柘植川の河道掘削等の河川改修を実施することにより、戦後最大規模の洪水を安全に流下させることができるとされている。

 図表4-7 上野遊水地位置図

図表4-7上野遊水地位置図

 なお、上野遊水地事業は、遊水地整備に必要な用地の全てを買収するのではなく、上野盆地における田畑を残すために、遊水地内の土地については、地権者が農地として利用できる一方、河川区域としての土地利用規制と農作物への浸冠水の容認に対し、地役権を設定し、その対価(土地評価額の30%)を地権者に補償する方法を採用している。
 しかし、近畿地方整備局は、本事業について、43年の計画策定からかなりの期間が経過しているなどのため、事業計画本体を含めて関係資料を保有していないとしていて、前記(1)イ の渡良瀬遊水池調節池化工事と同様の状況となっていた。
 上野遊水地事業の事業計画等の概要は、図表4-8 のとおりである。

図表4-8 上野遊水地事業における事業計画等の概要
事業期間 計画事業費 主な機能等 主な施設等
面積 貯水容量
  億円 ha 百万m3  
昭和44年度〜平成26年度 717 248 9.0 周囲堤、囲ぎょう堤、越流堤、排水門

(2) 事業の実施状況

ア 千歳川遊水地工事

 千歳川遊水地工事の計画事業費及び平成22年度末までの執行済事業費等は図表4-9 のとおりとなっている。

図表4-9 千歳川遊水地工事の進捗状況
計画事業費 執行済事業費 執行率 主な実施済事業 今後実施が予定されている主な事業
億円 億円    
1,150 99 8.6 用地測量等(6地区)、用地買収(4地区)、掘削工(2地区)、周囲堤工(1地区) 用地買収(5地区)、掘削工、周囲堤工、補償道路工、排水門工

 千歳川遊水地工事は、17年8月から、遊水地の所在する各自治体が主体となって住民への説明会を順次開催しながら、北海道開発局が20年度に事業に着手しており、計画事業費の範囲内で、予定どおり31年度までに完成できるとしている。
 しかし、北海道開発局は、上記の説明会において、議事録等を作成していないとしており、事業の進捗等に影響する住民等からの意見等の有無について明確にできない状況となっていた。
 また、本事業の事業計画では、土砂掘削、排水門及び遊水地内の水路等を施工することとなっており、北海道開発局は、遊水地の完成後に生ずる周囲堤等で囲われた広大な低平地を出水時以外において有効に活用するため、その方法等について、遊水地が所在する各自治体とそれぞれ協議しながら、事業を実施している。
 そして、北海道開発局は、掘削工事のしゅん工後間もない遊水地内に雨水等がたまるなどした事象について、本事業の施工上問題はない旨を関係自治体等に対して説明し協議を行ったとしているが、それを確認できる協議記録等を作成していないとしている。
 また、将来、遊水地内の土地を有効活用する際に何らかの対策が必要となった場合、費用負担について関係自治体との間で合意を得る際には、それまでの協議の経緯について互いに適切に把握することが必要となる。
 しかし、北海道開発局は、前記のように住民への説明会等での議事録等や関係自治体との協議記録等を作成していないとして、同意・合意の有無や協議の経緯に関する事実について明確にできない状況となっていた。

イ 渡良瀬遊水池調節池化工事

 渡良瀬遊水池調節池化工事の計画事業費及び22年度末までの執行済事業費等は図表4-10 のとおりとなっている。

図表4-10 渡良瀬遊水池調節池化工事の進捗状況
計画事業費 執行済事業費 執行率 主な実施済事業 今後実施が予定されている主な事業
億円 億円    
700 424 60.7 第2、第3排水門、囲ぎょう堤、越流堤 護岸工

 渡良瀬遊水池調節池化工事は、22年度末現在で、周囲堤等の断面が不足している堤防の整備及び当該部分の護岸工(延長24,611m)を残すのみとなっていて事業は概成している。そして、関東地方整備局は、遊水地内の湿地再生の在り方・保全についての調査、検討を行っていることなどを理由に16年度以降、本事業として支出は行っておらず、事業は進捗していない。

ウ 稲戸井遊水池調節池化工事

 稲戸井遊水池調節池化工事の計画事業費及び22年度末までの執行済事業費等は図表4-11 のとおりとなっている。

図表4-11 稲戸井遊水池調節池化工事の進捗状況
計画事業費 執行済事業費 執行率 主な実施済事業 今後実施が予定されている主な事業
億円 億円    
438 365 83.4 周囲堤、囲ぎょう堤、越流堤、排水門 調節池内の掘削

 稲戸井遊水池調節池化工事について、関東地方整備局は、22年度末現在で、調節池内の掘削を行うため、試験掘削を行って環境への影響を調査している。調節池の用地については、22年度末までに約246haを買収し、今後、約70haの買収を行うこととしているが、調節池内の土地は多数の所有者が存在していることから、所有者の特定作業を行いながら買収を進めている。

エ 上野遊水地事業

 上野遊水地事業の計画事業費及び22年度末までの執行済事業費等は図表4-12 のとおりとなっている。
 上野遊水地事業の用地については、遊水地内の土地176haに対する地役権補償(73億円)が20年度までに、囲ぎょう堤、周囲堤等の整備に要する用地112haに対する買収(58億円)が22年度までにそれぞれ完了している。

図表4-12 上野遊水地事業の進捗状況
計画事業費 執行済事業費 執行率 主な実施済事業 今後実施が予定されている主な事業
億円 億円    
717 551 76.9 周囲堤(4地区)、囲ぎょう堤(2地区)、排水門(4地区)等の整備、用地買収、地役権補償 囲ぎょう堤(2地区)、越流堤(4地区)、河道掘削、橋りょうの架け替え

 上野遊水地事業は、22年度末現在で、4地区の周囲堤が概成し、未完成の囲ぎょう堤等を越水したとしても周囲堤の外に氾濫することはない状況となっている。
 そして、今後実施が予定されている工事としては、越流堤4地区、橋りょうの架け替え1か所、河道の掘削約10万m 等となっており、一部の河道掘削等を除き、遊水地の概成は、26年度を予定している。
 なお、近畿地方整備局は、今後予定している工事を含めても計画事業費717億円を超えることはないとしている。

(3) 事業費の推移及び事業計画の変更等に伴う見直し等の状況

ア 千歳川遊水地工事

 千歳川遊水地工事の事業計画については、19年度に計画事業費、事業期間、年度別計画事業費等が算定されていたが、北海道開発局は、これらの内容を説明できる関係資料については、同局の文書管理規則上、保存期間3年に該当する文書であるとして、22年度末まで保管していたものの23年度には廃棄したとしている。
 また、事業に着手した20年度から22年度までの過去3年間の年度別執行済事業費等の推移は図表4-13 のとおりである。

図表4-13 千歳川遊水地工事における過去3年間の年度別執行済事業費等
年度
項目
平成20 21 22
  百万円 百万円 百万円
年度別執行済事業費 689 4,073 5,147
年度末執行済事業費 689 4,763 9,910
計画事業費 115,000 115,000 115,000
執行率 0.6% 4.1% 8.6%

 千歳川遊水地工事は20年度に事業に着手したばかりであり、22年度末現在で、事業計画等の変更、事業の見直しなどは行われていない。また、12年5月に設置された北海道開発局事業審議委員会の22年度の審議資料では、計画段階におけるコスト縮減として、遊水地周囲堤及び千歳川の堤防整備等に必要となる土砂について、遊水地の用地を全地買収方式で取得し、当該用地の掘削で発生した土砂を流用することなどによって約80億円のコスト縮減を図ると記載されている。しかし、この縮減額は、当該施工箇所の条件に適合した現行の工法と現行より施工条件の厳しい箇所に用いられる工法とを比較したものであることから、実際に千歳川遊水地工事の計画事業費1150億円の一部が縮減されることには必ずしもならないものとなっていた。
 千歳川遊水地工事は、図表4-14 のとおり、事業計画の変更は行っていない。

図表4-14 千歳川遊水地工事における事業計画の変更等の状況
計画 計画事業費 変更等実施年月 事業期間 主な変更内容 変更理由等
当初 億円
1,150
平成20年4月 平成20年度〜31年度

イ 渡良瀬遊水池調節池化工事

 渡良瀬遊水池調節池化工事における過去10年間の年度別執行済事業費等の推移は図表4-15 のとおりである。

図表4-15 渡良瀬遊水池調節池化工事における過去10年間の年度別執行済事業費等
年度
項目
平成13 14 15 16 17 18 19 20 21 22
  百万円 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円
年度別執行済事業費 41 13 15
年度末執行済事業費 42,449 42,462 42,477 42,477 42,477 42,477 42,477 42,477 42,477 42,477
計画事業費 70,000 70,000 70,000 70,000 70,000 70,000 70,000 70,000 70,000 70,000
執行率 60.6% 60.7% 60.7% 60.7% 60.7% 60.7% 60.7% 60.7% 60.7% 60.7%
(注)
 平成16年度以降の支出はない。

 渡良瀬遊水池調節池化工事について、事業継続中であった昭和45年に大規模改良工事の制度ができ、事業計画を当時の建設大臣が承認したことについては、国土交通本省における会計実地検査時に確認している。しかし、関東地方整備局は、承認を受けた事業計画に係る申請書、承認書等の所在が不明であるとしていた。また、計画事業費については、当初は167億円を想定していたが、平成22年度末現在で、築堤断面等の見直しなどにより700億円に増額されている。しかし、物価変動や個別事情による計画事業費の増減の内訳について、同局は関係資料を保有していないとしていた。さらに、昭和46年度から50年度までの間の用地取得については、取得年月日、地番等は用地の売買契約ごとに確認できるが、支出された科目は確認できないため、渡良瀬遊水池調節池化工事の予算で取得したのかどうか明確にできないとしていた。
 上記のとおり、関東地方整備局は、本事業について、計画事業費の算定根拠等、今後の事業再評価を実施する上でも重要となる複数の事実関係について明確にできず、事業に対する説明責任が果たせない状況となっていた。
 渡良瀬遊水池調節池化工事の事業計画の変更等の状況は、図表4-16 のとおりである。

図表4-16 渡良瀬遊水池調節池化工事における事業計画の変更等の状況
計画 計画事業費 変更等
実施年月
事業期間 主な変更内容 変更理由等
当初 億円
167
昭和45年9月 不明
現行 700 不明 不明〜平成36年度 築堤断面等の見直し 築堤断面を一枚法化したため
(注)
  一枚法化  小段(堤防の法面の途中にある平場)がない勾配の緩やかな状態にすること

ウ 稲戸井遊水池調節池化工事

 稲戸井遊水池調節池化工事における過去10年間の年度別執行済事業費等の推移は図表4-17 のとおりである。

図表4-17 稲戸井遊水池調節池化工事における過去10年間の年度別執行済事業費等
年度
項目
平成13 14 15 16 17 18 19 20 21 22
  百万円 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円
年度別執行済事業費 1,763 2,257 2,583 1,319 1,181 1,631 2,081 1,168 1,318 1,136
年度末執行済事業費 21,851 24,109 26,692 28,011 29,192 30,823 32,904 34,072 35,390 36,526
計画事業費 43,800 43,800 43,800 43,800 43,800 43,800 43,800 43,800 43,800 43,800
執行率 49.9% 55.0% 60.9% 64.0% 66.6% 70.4% 75.1% 77.8% 80.8% 83.4%

 稲戸井遊水池調節池化工事は、事業継続中であった45年に大規模改良工事の制度ができ承認を受けたが、関東地方整備局は、その事業計画の所在は不明であるとしている。
 そして、45年には計画事業費53億円とされていたが、平成22年度末現在で、計画事業費438億円とされており、また、本事業は、30年度を完成予定として、貯水容量3,080万m を有する調節池を整備することとしており、現況の貯水容量を1,910万m としていることから残り1,170万m の掘削が必要とされている。
 しかし、関東地方整備局は、計画事業費の増額については、事業計画の変更が行われた年月、理由、内容、計画事業費の算定根拠等の関係資料を、また、今後必要な掘削量の妥当性については、現況の貯水容量の算定根拠、算定に使用したデータ等の関係資料をそれぞれ保有していないとしていて、前記(3)イ の渡良瀬遊水池調節池化工事と同様の状況となっていた。
 稲戸井遊水池調節池化工事の事業計画の変更等の状況は、図表4-18 のとおりである。

図表4-18 稲戸井遊水池調節池化工事における事業計画の変更等の状況
計画 計画事業費 変更等実施年月 事業期間 主な変更内容 変更理由等
当初 億円
53
昭和45年9月 不明
現行 438 不明 不明〜平成30年度 不明 不明

エ 上野遊水地事業

 上野遊水地事業における過去10年間の年度別執行済事業費等の推移は、図表4-19 のとおりである。

図表4-19 上野遊水地事業における過去10年間の年度別執行済事業費等
年度
項目
平成13 14 15 16 17 18 19 20 21 22
  百万円 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円 百万円
年度別執行済事業費 2,419 2,407 778 1,473 717 538 924 675 2,049 2,023
年度末執行済事業費 43,550 45,957 46,735 48,208 48,925 49,463 50,387 51,062 53,112 55,135
計画事業費 71,700 71,700 71,700 71,700 71,700 71,700 71,700 71,700 71,700 71,700
執行率 60.7% 64.1% 65.2% 67.2% 68.2% 69.0% 70.3% 71.2% 74.1% 76.9%

 上野遊水地事業は、昭和44年に着手しており、平成22年度末現在で、計画事業費を717億円、事業期間を一部の河道掘削等を除き遊水地が概成する26年度までとし、当初から現在に至るまで計画変更を行っていないとしている。
 しかし、近畿地方整備局は、事業継続中であった昭和45年12月に、当時の建設大臣が発した大規模改良工事の事業計画の承認書は保有しているものの、事業計画本体については、平成12年度に同局の文書管理規則に基づく保存期間が満了したため廃棄したとしている。このため、同局は、事業計画の当初の内容、変更状況及び事業の見直し状況について明確にできず、事業に対する説明責任が果たせない状況となっていた。
 上野遊水地事業の事業計画の変更等の状況は、図表4-20 のとおりである。

図表4-20 上野遊水地事業における事業計画の変更等の状況
計画 計画事業費 変更等実施年月 事業期間 主な変更内容 変更理由等
当初 億円
不明
昭和45年12月 不明
現行 717 不明 昭和44年度〜
平成26年度
不明 不明

(4) 事業再評価時における投資効果等の検討の状況

ア 千歳川遊水地工事

 北海道開発局は、千歳川遊水地工事の事業再評価として、図表4-21 のとおり、石狩川水系河川整備計画が策定されたことを受けた19年度に、同事業を含め石狩川水系で計画されている全事業を対象とした水系単位等での評価を実施している。また、22年度には大規模改良工事である千歳川遊水地工事単体について個別に事業再評価を実施している。

図表4-21 千歳川遊水地工事における事業再評価等の概要
事業再評価等 総便益(B) 総費用(C) 費用便益比(B/C) 対応方針
実施年度 対象事業 金額 内容 金額 内容
    億円 億円 億円 億円    
平成19 石狩川水系
河川改修
134,718
対象期間
昭和40年度〜平成98年度
対象便益
 被害軽減期待額
:  134,657
残存価値 : 60
23,045
対象期間
昭和40年度〜平成98年度
対象費用
 建設費
:  21,087
 維持管理費 : 1,957
5.8 継続
平成22 千歳川遊水地工事 2,184
対象期間
平成32年度〜81年度
対象便益
 被害軽減期待額
:  2,151
 残存価値 : 32
1,010
対象期間
平成20年度〜81年度
対象費用
 建設費
:  979
 維持管理費 : 30
2.2 継続

(残事業)
2,184
対象期間
平成32年度〜81年度
対象便益
 被害軽減期待額
:  2,151
 残存価値 : 32
960
対象期間
平成22年度〜81年度
対象費用
 建設費
:  929
 維持管理費 : 30
2.3 継続
(注)
 平成22年度の千歳川遊水地工事に係る事業再評価は、被害軽減期待額の算定において「夕張シューパロダム」、「幾春別川総合開発」及び「砂川遊水地」が完成した状態を前提として行われている。

 北海道開発局は、千歳川遊水地工事について、石狩川水系単位での評価と事業単体での評価を実施している。これらの評価についてみると、19年度は、昭和40年度以降の費用及び便益を計上した評価を行っているが、平成22年度は、20年度以降の費用及び32年度以降の便益を計上した評価を行っている。また、22年度は、同年度以降の費用及び32年度以降の便益を計上した残事業評価も行っていて、これら三つの評価における費用及び便益の対象期間が異なっていた。
 また、22年度に実施している事業単体の評価についてみると、費用として、20年度以降の建設費を計上したり、便益として、千歳川流域分と千歳川との合流点よりも下流の石狩川流域分を合算するなどして被害軽減期待額を算定したりしていた。
 以上のように、千歳川遊水地工事の事業再評価は、評価の対象や総費用及び総便益の計上方法が評価ごとに異なっているものとなっていた。

イ 渡良瀬遊水池調節池化工事

 関東地方整備局は、渡良瀬遊水池調節池化工事については、14年度と19年度に、同工事を含む利根川及び江戸川における河川改修事業全体を対象とした事業再評価を実施しており、本事業単体としての費用便益比を算出していなかった。
 各事業再評価の概要は、図表4-22 のとおりである。

図表4-22 渡良瀬遊水池調節池化工事及び稲戸井遊水池調節池化工事における事業再評価等の概要
事業再評価等 総便益(B) 総費用(C) 費用便益比(B/C) 対応方針
実施年度 対象事業 金額 内容 金額 内容
    億円 億円 億円 億円    
平成14 利根川・
江戸川改修
587,781
昭和55年度〜平成191年度
 被害軽減期待額 :  587,781
23,742
昭和55年度〜平成191年度
 建設費 :  15,694
 維持管理費 : 8,048
残存価値 : △0
24.8 継続

(残事業)
170,804
平成14年度〜191年度
 被害軽減期待額 :  170,804
18,030
平成14年度〜191年度
 建設費 :  11,183
 維持管理費 : 6,847
残存価値 : △1
9.5 継続
平成19 利根川・
江戸川改修
692,145
昭和55年度〜平成191年度
 被害軽減期待額 :  692,145
残存価値 : 0
27,359
昭和55年度〜平成191年度
 建設費 :  17,914
 維持管理費 : 9,445
25.3 継続

(残事業)
184,593
平成20年度〜191年度
 被害軽減期待額 :  184,592
残存価値 : 1
17,391
平成20年度〜191年度
 建設費 :  14,313
 維持管理費 : 3,078
10.6 継続

 また、費用便益比、総便益及び総費用の数値は事業評価監視委員会の資料に記載されているが、関東地方整備局は、総便益の内訳である農業等に係る被害軽減期待額等の算定根拠の関係資料を保有していないとしていて、過去の事業再評価における総便益の算定の妥当性を明確にできず、説明責任が果たせない状況となっていた。また、大規模改良工事については、事業費も多額で事業期間も長期にわたることから、当該事業を実施する河川における河川改修事業全体を対象として事業再評価を行うだけでなく、事業単体でも事業再評価を行うことにより、当該事業による効果等を明らかにして、その必要性等を検証する必要があると認められる。

ウ 稲戸井遊水池調節池化工事

 関東地方整備局は、稲戸井遊水池調節池化工事についても、利根川水系全体での事業再評価を実施しているが、その状況等は前記(4)イ の渡良瀬遊水池調節池化工事と同様となっていた。

エ 上野遊水地事業

 上野遊水地事業の事業再評価等の概要は、図表4-23 のとおりである。

図表4-23 上野遊水地事業における事業再評価等の概要
事業再評価等 総便益(B) 総費用(C) 費用便益比(B/C) 対応方針
実施年度 対象事業 金額 内容 金額 内容
    億円 億円 億円 億円    
平成10 上野遊水地 115
対象期間 不明
 被害軽減期待額 :  119
維持管理費 : △4
40
対象期間 不明
 建設費 :  40
3.1 継続
平成15 上野遊水地 239
対象期間 不明
 被害軽減期待額 :  239
173
対象期間 不明
 建設費 :  159
 維持管理費 : 17
残存価値 : △3
1.4 継続
平成15 淀川水系
河川改修
94,421
対象期間 不明
 被害軽減期待額 :  94,421
3,074
対象期間 不明
 建設費 :  2,628
 維持管理費 : 482
残存価値 : △36
30.7 継続
平成20 淀川水系
河川改修
14,069
平成20年度〜99年度
 被害軽減期待額 :  14,044
残存価値 : 25
2,494
平成20年度〜99年度
 建設費 :  2,043
 維持管理費 : 450
5.6 継続
(注)
 平成10年度に実施された事業再評価の費用便益比(3.1)は、事業評価書に記載されているものであるが、総便益(115億円)を総費用(40億円)で除しても、その数値とは一致しない。その理由について近畿地方整備局は、当該事業評価書の算定根拠となった関係資料等を保有していないとしていることから、確認できていない。

 近畿地方整備局は、上野遊水地事業については、10年度、15年度及び20年度に事業再評価を実施している。そして、10年度には上野遊水地事業単体での事業再評価を実施し、その評価の方法は、全体事業評価となっていた。15年度には上野遊水地事業単体での事業再評価と同事業を含む淀川水系における事業全体を対象とした事業再評価とを実施し、その評価の方法は、共に残事業評価となっていた。また、大規模改良工事については事業費も多額で事業期間も長期にわたるのに、20年度は、水系全体でのみ事業再評価を実施しており、上野遊水地事業単体としての費用便益比を算出していなかった。
 上記のように、上野遊水地事業の事業再評価は評価ごとにその評価の対象や方法が異なるものとなっていた。
 また、近畿地方整備局は、10年度及び15年度における費用便益比の算出根拠等の関係資料を保有していないとしていて、過去の事業再評価における総費用及び総便益の算定の妥当性を明確にできず、説明責任が果たせない状況となっていた。