最高裁判所が、23、24両年度に支払を行った情報システムに係る契約(会計法令上、少額であることを理由として随意契約としたものを除く。)の件数及び契約金額は、計289件、88億0141万余円であり、23、24両年度の支払金額は、図表2-1-1のとおり、計77億7922万余円となっている。このうち、年間支払金額が1000万円以上の契約は、計147件、71億2855万余円となっていて、件数で50.9%、金額で91.6%を占めている。
図表1-2-1 調達手続の基本的な流れ(一般競争契約の例)
(単位:件、百万円、%)
平成23年度 | 24年度 | 計 | |||||||||||||
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件数 | 構成比 | 支払金額 | 構成比 | 件数 | 構成比 | 支払金額 | 構成比 | 件数 | 構成比 | 支払金額 | 構成比 | ||||
140 | 100 | 3,565 | 100 | 152 | 100 | 4,213 | 100 | 289 | 100 | 7,779 | 100 | ||||
上記のうち年間支払金額1000万円以上のもの | |||||||||||||||
73 | 52.1 | 3,242 | 90.9 | 77 | 50.7 | 3,886 | 92.2 | 147 | 50.9 | 7,128 | 91.6 |
なお、前記のように、23年報告は25府省等の業務・システム最適化計画の実施等に係る契約を対象としているのに対して、今回の検査の対象は裁判所のみである一方、業務・システム最適化計画の実施等に係る契約以外の契約も対象としている。このため両者を単純に比較することはできないものの、23年報告においても契約方式、落札率等の状況について分析していることから、参考として23年報告の数値との比較も行っている。
今回検査の対象とした上記の289件(以下「289契約」という。)を契約方式別にみると、図表2-1-2のとおりとなっている。
図表2-1-2 契約方式の状況
契約方式 | ||||||||||||
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平成23年度 | 24年度 | |||||||||||
件数 | 構成比 | 契約金額 | 構成比 | 件数 | 構成比 | 契約金額 | 構成比 | 件数 | 構成比 | 契約金額 | 構成比 | |
競争契約 | 162 | 56.1 | 5,220 | 59.3 | 83 | 59.3 | 2,395 | 65.0 | 79 | 53.0 | 2,825 | 55.2 |
随意契約 | 127 | 43.9 | 3,580 | 40.7 | 57 | 40.7 | 1,290 | 35.0 | 70 | 47.0 | 2,290 | 44.8 |
計 | 289 | 100 | 8,801 | 100 | 140 | 100 | 3,685 | 100 | 149 | 100 | 5,115 | 100 |
上記のうち年間支払金額1000万円以上のもの | ||||||||||||
競争契約 | 71 | 48.3 | 4,811 | 59.0 | 40 | 54.8 | 2,199 | 65.4 | 31 | 41.9 | 2,612 | 54.6 |
随意契約 | 76 | 51.7 | 3,339 | 41.0 | 33 | 45.2 | 1,163 | 34.6 | 43 | 58.1 | 2,175 | 45.4 |
計 | 147 | 100 | 8,150 | 100 | 73 | 100 | 3,363 | 100 | 74 | 100 | 4,787 | 100 |
23年報告(年間支払金額1000万円以上の契約) | ||||||||||||
競争契約 | 950 | 56.6 | 674,055 | 72.2 | ||||||||
随意契約 | 727 | 43.4 | 259,437 | 27.8 | ||||||||
計 | 1,677 | 100 | 933,492 | 100 |
289契約のうち競争契約は全て一般競争契約で、その件数と契約金額は、162件、52億2070万余円であり、全体に占める割合は件数で56.1%、金額で59.3%となっている。このうち年間支払金額が1000万円以上の契約は71件、契約金額48億1181万余円であり、年間支払金額が1000万円以上の契約147件、契約金額81億5086万余円に占める割合は件数で48.3%、金額で59.0%となっていて、289契約全体に占める競争契約の割合と比べて、件数においては若干低く、金額においてはほぼ同等となっている。また、23年報告の件数56.6%、金額72.2%より件数では8.3ポイント、金額では13.2ポイント低くなっている。
289契約のうち随意契約は127件、契約金額35億8071万余円であり、全体に占める割合は件数で43.9%、金額で40.7%となっている。この127件のうち、競争に付しても入札者がないとき、又は再度の入札をしても落札者がないときに行われる随意契約(以下「不落随契」という。)は46件、契約金額12億9527万余円となっていて、これを除いた81件、22億8543万余円について、随意契約とした理由を態様別に分類すると次のとおりである。
74件契約金額21億5742万余円
4件同9942万余円
2件同2527万余円
1件同330万余円
上記のうち、大半を占めている① の態様の契約(以下「実質的な複数年度契約」という。)については、調達の初年度には競争入札を行っていて、次年度以降については、これを前提に随意契約を行っているものであり、形式としては毎年度改めて契約を締結しているものである。そして、このような契約の方法については、国の行政効率化関係省庁連絡会議が取りまとめた「行政効率化推進計画」(平成16年6月)において、「パソコン等の物品について、購入する場合や単年度賃貸借を行う場合と比較して複数年度のリース契約を行うことに合理性が認]められる場合には、国庫債務負担行為による複数年契約によることとする」、「複数年度にわたる情報システムの開発等について、原則として国庫債務負担行為による複数年契約により実施することとする」とされている。最高裁判所は、国庫債務負担行為の適用条件が必ずしも明確にされておらず、活用の指針が示されていなかったなどとして、国庫債務負担行為の活用については「(事項)文書管理システム用電子計算機等借入れ」等の一部にとどまっていたが、24年3月に「国庫債務負担行為の活用に関する手引き」(内閣府公共サービス改革担当事務局)が出されたことなどを受けて、平成25年度予算においては、「(事項)司法情報通信システム運用等」等8事項について国庫債務負担行為による契約を実施することとしている。
② については、民間の研究所が運営している営繕積算システムの利用料やプログラムのライセンスの追加購入等の競争の余地のないものである。
③については、いずれも最高裁判所が元年度に運用を開始した「少年事件処理システム」に係る23年度の保守等であり、開発業者が著作権を所有している製品を基盤として開発されているため、開発業者以外の者には実施できないとしていたものであるが、24年度からは、請負業者が開発業者の許諾を得ることを仕様に盛り込むことにより、競争入札に移行している。また、最高裁判所は、次期システムに更新する際には広く公開された規格や仕様に従ったシステムを開発することとしている。
④ については、24年9月に裁判所ホームページが改ざんされたことによる影響等についての調査等を委託するために緊急に調達する必要があったため、競争に付することができなかったものである。
契約金額の予定価格に対する比率(以下、随意契約も含めて「落札率」という。)は、予定価格の妥当性や契約方式の特性等から、その高低だけをもって一律に評価できない面はあるものの、契約の競争性や契約金額の経済性等を評価する際の指標の一つと考えられる。
そこで、289契約について、平均落札率を契約方式別にみたところ、図表2-1-3のとおり、競争契約162件の平均落札率が79.6%であるのに対して、随意契約127件は99.6%となっていた。このうち年間支払金額が1000万円以上の契約についてみると、競争契約71件の平均落札率が81.6%であるのに対して、随意契約76件は99.8%となっていて、競争契約の場合は23年報告の平均落札率87.3%より低くなっているものの、随意契約の場合は23年報告の98.6%とほぼ同等となっている。
図表2-1-3 契約方式別の平均落札率
契約方式 | |||||||||
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平成23年度 | 24年度 | ||||||||
件数 | 構成比 | 平均落札率 | 件数 | 構成比 | 平均落札率 | 件数 | 構成比 | 平均落札率 | |
競争契約 | 162 | 56.1 | 79.6 | 83 | 59.3 | 80.2 | 79 | 53.0 | 78.9 |
随意契約 | 127 | 43.9 | 99.6 | 57 | 40.7 | 99.6 | 70 | 47.0 | 99.5 |
計 | 289 | 100 | 88.4 | 140 | 100 | 88.1 | 149 | 100 | 88.6 |
上記のうち年間支払金額1000万円以上のもの | |||||||||
競争契約 | 71 | 48.3 | 81.6 | 40 | 54.8 | 80.9 | 31 | 41.9 | 82.4 |
随意契約 | 76 | 51.7 | 99.8 | 33 | 45.2 | 100.0 | 43 | 58.1 | 99.7 |
計 | 147 | 100 | 91.0 | 73 | 100 | 89.5 | 74 | 100 | 92.4 |
23年報告(年間支払金額1000万円以上の契約) | |||||||||
競争契約 | 950 | 59.2 | 87.3 | ||||||
随意契約 | 654 | 40.8 | 98.6 | ||||||
計 | 1,604 | 100 | 91.9 |
随意契約の平均落札率が高いのは、随意契約の大半を占めている実質的な複数年度契約において、調達の際に予定される期間全体に係る総額で入札を行っていることから、初年度の契約の時点で次年度以降の支払金額も定まっているため、予定価格と契約金額が同じになっていたり、不落随契において、予定価格の制限に達した価格の入札がないときに最低価格で入札した者と予定価格の範囲内で価格交渉が行われるため、予定価格と契約金額の差が小さくなっていたりすることによると考えられる。
競争契約162件の応札者数についてみると、最多で9者、平均で2.6者となっていて、図表2-1-4のとおり、1者応札も65件と、割合にして40.1%を占めている。このうち年間支払金額が1000万円以上の契約における1者応札の割合は49.3%となっており、23年報告の66.4%と比較すると低い状況となっている。
また、平均落札率を応札者数別にみると、複数応札の69.0%に比べて1者応札は95.4%と高くなっている。このうち年間支払金額が1000万円以上の契約についてみても、やはり複数応札の68.5%に比べて1者応札は95.0%と高くなっていて、図表2-1-3の随意契約における平均落札率99.8%や23年報告の1者応札における平均落札率96.0%と同等の高い比率となっている。このことは、23年報告と同様に、競争契約であっても1者応札の場合は、実質的な競争性を確保しにくい状況を示している。
図表2-1-4 応札者数別の平均落札率
区分 | |||||||||
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平成23年度 | 24年度 | ||||||||
件数 | 構成比 | 平均落札率 | 件数 | 構成比 | 平均落札率 | 件数 | 構成比 | 平均落札率 | |
1者応札 | 65 | 40.1 | 95.4 | 34 | 41.0 | 97.3 | 31 | 39.2 | 93.3 |
複数応札 | 97 | 59.9 | 69.0 | 49 | 59.0 | 68.3 | 48 | 60.8 | 69.6 |
計 | 162 | 100 | 79.6 | 83 | 100 | 80.2 | 79 | 100 | 78.9 |
上記のうち年間支払金額1000万円以上のもの | |||||||||
1者応札 | 35 | 49.3 | 95.0 | 17 | 42.5 | 96.4 | 18 | 58.1 | 93.7 |
複数応札 | 36 | 50.7 | 68.5 | 23 | 57.5 | 69.5 | 13 | 41.9 | 66.7 |
計 | 71 | 100 | 81.6 | 40 | 100 | 80.9 | 31 | 100 | 82.4 |
23年報告(年間支払金額1000万円以上の契約) | |||||||||
1者応札 | 631 | 66.4 | 96.0 | ||||||
複数応札 | 319 | 33.6 | 70.1 | ||||||
計 | 950 | 100 | 87.3 |
1者応札となった65件における入札説明会の参加者数(入札説明会を行っていない契約においては、入札説明書を配布した業者の数)は、4者から34者までとなっており、複数の業者が入札に対して興味を持っていたことが見て取れる。しかし、結果的に1者しか応札しなかった理由としては、保守等の対象となっているハードウェアが当該業者が取り扱っていないメーカーの製品であったり、他者が開発したシステムの運用、保守等を行うことについてのリスクを考慮したりして、他の業者が応札しなかったことなどが考えられる。
このほか、仕様書の記載が初めから特定の業者しか参加できないような内容になっていることも考えられることから、1者応札となった65件及び不落随契46件のうち入札の際に1者応札であった38件、計103件の契約を対象に、ハードウェアの調達については特定メーカーの特定機種を指定することにより、また、システムの運用、保守等についてはシステム構成等を示していないため当該システムの開発業者にしか理解できないものとすることにより、仕様書の記載が応札可能な業者を明確に限定するような内容になっていないかという点について検査したところ、そのような記載は見受けられなかった。
289契約について、契約ごとの業務内容(複数の業務内容を含んだ契約の場合は当該業務内容に係る金額が最も大きいもの)をみると、① ハードウェアの調達99件(契約金額30億9021万余円)、② ハードウェアの保守16件(同5億1231万余円)、③システムの設計・開発35件(同9億3140万余円)及び④ システムの運用、保守等39件(同20億1657万余円)が主なものとなっている。
このうち競争契約は、① ハードウェアの調達23件(契約金額8億3610万余円)、② ハードウェアの保守11件(同4億0911万余円)、③ システムの設計・開発31件(同7億9816万余円)及び④ システムの運用、保守等26件(同14億6576万余円)となっている。これらの応札者数をみると、図表2-1-5のとおり、① ハードウェアの調達及び③ システムの設計・開発については複数応札の方が多く、ある程度の競争性が確保されていると見受けられるものの、④ システムの運用、保守等については1者応札と複数応札が同程度、② ハードウェアの保守については複数応札が1件もない状況となっている。これは、当初のシステム開発やハードウェアの調達で落札できないとその後の保守や運用に関しては入札に参加しにくい状況になっており、特にハードウェアの保守は、交換部品の確保等の点においてメーカー系の業者や機器を取り扱っている業者が有利であることなどから、競争性の確保が難しいことによると考えられる。
図表2-1-5 業務内容別の応札者数
(単位:件、%)
区分 | ① ハードウェアの調達 | ② ハードウェアの保守 | ③ システムの設計・開発 | ④ システムの運用、保守等 | ||||
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件数 | 構成比 | 件数 | 構成比 | 件数 | 構成比 | 件数 | 構成比 | |
一者応札 | 8 | 34.8 | 11 | 100.0 | 11 | 35.5 | 11 | 42.3 |
複数応札 | 15 | 65.2 | 0 | - | 20 | 64.5 | 15 | 57.7 |
計 | 23 | 100 | 11 | 100 | 31 | 100 | 26 | 100 |
会計法令等に基づき算定する予定価格は、契約を締結するに当たり、公正に契約金額を決定するための基準であるとともに、入札価格が市場価格等を反映した妥当な価格であるか否かを判断する基準でもある。そこで、情報システムに係る契約における予定価格の算定方法をみると、おおむね次のようになっていた。
購入の場合は、仕様を満たして納入が想定される機器を定めた上で、入札参加予定業者から徴した参考見積書、入札参加予定業者以外から徴した参考見積書及び過去の調達実績から機器ごとの単価を比較して採用単価を決定し、調達数量を乗ずるなどして積算額を算出して、予定価格を算定している。リースの場合は、この積算額に更に金利、リース期間等を考慮して月額リース料を算出して、予定価格を算定している。
予定価格を算定する上で、保守対象機器にメーカー等の保守価格が設定されている場合は、当該価格を実際の保守期間に換算して積算額を算出している。保守価格が設定されていない場合は、保守対象機器等の標準価格に、最高裁判所が独自に定めた保守料率を乗ずるなどして積算額を算出している。そして、このようにして算出した積算額と入札参加予定業者から徴した参考見積書の見積金額とを比較するなどして予定価格を算定している。
予定価格を算定する際に、入札参加予定業者から参考見積書を徴し、当該見積書の工数に最高裁判所が独自に定めた技術者単価(以下「独自技術者単価」という。)を乗ずるなどして積算額を算出している。そして、このようにして算出した積算額と入札参加予定業者から徴した参考見積書の見積金額とを比較するなどして予定価格を算定している。また、運用、保守等で仕様が前年度と同様である場合は、前年度の工数の実績と参考見積書の工数を比較するなどして算出した工数に独自技術者単価を乗ずるなどして積算額を算出している。そして、積算額と入札参加予定業者から徴した参考見積書の見積金額とを比較するなどして予定価格を算定している。
1件の契約に上記ア、イ、ウの複数の内容を含む場合は、それぞれの方法で積算した上で合算したものを予定価格としている。
そして、289契約のうち、支払金額で91.6%を占めている年間支払金額が1000万円以上の契約147件を対象に、予定価格の内訳に不合理な点はないか、予定価格の算定の際に不適切な手順が採られていないかなどについて、予定価格調書の内訳や算定の手順を確認するなどして検査したところ、特に報告すべき事態は見受けられなかった。
最高裁判所は、随意契約等の一層の適正化を図るために政府が取りまとめた「公共調達の適正化に向けた取り組みについて」(平成18年2月公共調達の適正化に関する関係省庁連絡会議)に基づき各府省が随意契約の緊急点検及び見直しを行ったことを受けて、18年6月に「随意契約見直し計画」(平成19年1月改訂)を策定している。この中で、「リース契約等、複数年度を前提に契約を行っているが、初年度に係る契約のみ一般競争を行い、次年度以降は随意契約を行っていたものは、次期更新時から競争入札へ移行する」こと、「システム開発等と不可分な関係にある保守点検業務等は、仕様書等の見直しを図り、次期調達時から競争入札等へ移行する」こととしている。また、最高裁判所は、行政コストの節減、効率化等についての検討結果を指摘事項として取りまとめた「指摘事項~ムダ・ゼロ政府を目指して~」(平成20年12月行政支出総点検会議)に基づき各府省が1者応札や1者応募となった契約について応札者を増やし実質的な競争性を確保するための改善方策を公表したことを受けて、21年3月に「「1者応札・1者応募」となった契約の類型及び改善方策について」を策定している。この中では、情報システムに係る契約については、1者応札や1者応募となった理由と、これに対する改善方策として、次の点を挙げている。
① システム改修及び保守については、「システムに習熟するために費用と時間がかかり、プログラムの解析が困難な場合には契約後に要求仕様を満たせない可能性があるなど、応札した場合のリスクが大きいと考えている可能性がある」と分析した上で、「システムの理解が容易になるように、できるだけ長い期間、設計書等を閲覧する機会を設けるほか、業者が広く参加できるように仕様等の見直しを検討する」こと
② リースについては、「システム用の機器の更新に当たっては、システムや既存機器との整合性が求められ、業者によっては要求仕様を満たす機器を提案できない場合があると考えられる」と分析した上で、「業者が広く参加できるよう仕様等の見直しを検討する」こと
このようにして、最高裁判所は、情報システムに係る契約における競争性の確保に取り組んでいる。