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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成25年7月

東日本大震災からの復旧・復興事業における入札不調について


検査対象
国土交通省、農林水産省、東北地方整備局、東北農政局、3県、21市町
事業の根拠
公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法(昭和26年法律第97号)等
災害復旧事業等 の概要
東日本大震災における地震及び津波により被災した河川、海岸、道路等の公共土木施設等を復旧する事業等
災害復旧事業等に係る工事の入札等の件数及び契約金額
入札等の件数   4,538件
契約金額   5622億9170万円
(平成23年10月から24年9月まで)
直轄事業 1,123件   2576億1636万円
補助事業 3,415件   3046億7534万円
(国庫補助金等相当額 2081億8133万円)

1 検査の背景

(1) 東日本大震災の概要

平成23年3月11日に三陸沖を震源地として宮城県北部で最大震度7を観測するなどの巨大地震が発生した。そして、同地震及びこれにより発生した津波により、岩手県、宮城県及び福島県(以下「東北3県」という。)を中心に太平洋沿岸部及び内陸部の広範囲にわたり、河川や海岸の堤防、橋りょうなどの公共土木施設等が全壊するなどの被害を受けることとなった。

(2) 国の復旧・復興計画への取組

東日本大震災からの復旧・復興は我が国の大きな課題となっており、国は、地方公共団体、民間等と連携し、ライフライン、河川、道路、港湾、下水道等の社会基盤の復旧を急ぐとともに、将来を見据えた復興への取組を進めていかなければならないなどとして、東日本大震災からの復興の円滑かつ迅速な推進と活力ある日本の再生を図ることを目的として、東日本大震災復興基本法(平成23年法律第76号)を制定している。そして、国は、23年7月29日に、同法に基づき「東日本大震災からの復興の基本方針」を決定して、被災各県の復興計画等を踏まえ、復興期間を23年度から32年度までの10年間とし、特に、被災地の一刻も早い復旧・復興を目指す観点から、復興需要が高まる当初の5年間(23年度から27年度まで)を集中復興期間としている。

また、国は、5年間の集中復興期間に実施する事業等の規模については、国と地方(公費分)とを合わせて少なくとも23.5兆円程度と見込んでいる。

そして、23年度から25年度までの国土交通省及び農林水産省の復旧・復興に係る予算の推移は、表1のとおりとなっている。

表1 復旧・復興に係る予算の推移(平成23年度から25年度まで)

(単位:億円)
所管 年度
平成23年度 24年度 25年度
1次
補正予算
2次
補正予算
3次
補正予算
当初予算 補正予算 当初予算
国土交通省 1兆1489 7864 4162 73 5078
農林水産省 2881 198 7223 958 32 3048
1兆4371 198 1兆5088 5120 106 8127

(注)平成24年度の当初予算からは東日本大震災復興特別会計の分(東日本大震災復興交付金は除く。)が含まれている。

(3) 災害復旧事業等の概要

国は、災害の速やかな復旧を図ることを目的として、河川、海岸、道路、港湾、下水道、漁港等の施設が被災した場合には公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法(昭和26年法律第97号。以下「負担法」という。)により、農業用施設等が被災した場合には農林水産業施設災害復旧事業費国庫補助の暫定措置に関する法律(昭和25年法律第169号)により、公営住宅が被災した場合には公営住宅法(昭和26年法律第193号)により、地方公共団体の財政力に適応するよう、復旧に係る費用の一部を負担することとしている(以下、国又は地方公共団体が負担法等の対象となっている上記の公共土木施設等を復旧する事業を「災害復旧事業」という。)。

そして、国は、地方公共団体から提出された資料、実地調査の結果等により、災害復旧事業費等を決定している(以下、決定された災害復旧事業費等を「査定決定額」という。)。

東北3県における東日本大震災に伴う事業別の被災の査定箇所数及び査定決定額は、表2のとおり、直轄事業及び補助事業の合計で、岩手県が4,366か所、6594億余円、宮城県が15,848か所、1兆5092億余円、福島県が7,864か所、3160億余円となっており、23年度から災害復旧事業が実施されている。

表2 被災の査定箇所数及び査定決定額の状況

(単位:箇所、百万円)
事業名 岩手県 宮城県 福島県
直轄事業 補助事業 直轄事業 補助事業 直轄事業 補助事業
箇所数 金額 箇所数 金額 箇所数 金額 箇所数 金額 箇所数 金額 箇所数 金額
河川 9 609 161 94,288 133 130,091 337 247,127 13 433 292 35,354
海岸 155 271,529 5 112,341 391 266,394 135 99,413
砂防 16 96 9 777 10 232
道路 118 10,460 1,587 24,030 137 16,771 5,752 166,436 99 6,521 2,523 31,468
港湾 26 84,190 145 16,690 13 10,360 215 36,477 22 49,040 115 20,544
下水道 55 13,902 743 290,422 136 19,108
公園 18 512 1 464 150 5,646 73 1,148
住宅 321 96 5,120 2,998 3,035 2,338
漁港 1,254 138,978 2 14,584 1,302 136,961 133 16,745
農業 501 4,047 7 47,714 1,531 23,695 2 3,983 1,276 29,689
153 95,260 4,213 564,172 298 332,327 15,550 1,176,938 136 59,978 7,728 256,044
直轄と補助の合計 箇所数  4,366

金額 659,432
箇所数  15,848

金額 1,509,265
箇所数  7,864

金額 316,023

注(1) 直轄事業は東北地方整備局、東北農政局等の合計であり、補助事業は県及び市町村の合計である。

注(2) 本表は、震災後から平成25年2月25日までの査定決定額等である。

注(3) 海岸には河川海岸、港湾海岸、漁港海岸及び農地海岸が含まれている。

注(4) 砂防には砂防設備、地すべり防止施設及び急傾斜地崩壊防止施設が含まれている。

注(5) 道路には道路及び橋りょうが含まれている。

そして、東北3県及び管内市町村は、被災した海岸、河川、下水道等の公共土木施設等の災害復旧事業については、おおむね27年度の完了を目指すこととしている(福島県内の帰還困難区域等を除く。)。

また、国は、東日本大震災による被災者の居住の安定確保を図るための災害公営住宅整備事業、三陸沿岸道路の緊急整備事業、津波に対してより強度のある堤防等の整備事業等の復興事業について、復興に係る費用を負担することとしている。

そして、津波による被害を受けた沿岸部の市町村においては、復興に向けたまちづくり計画を策定するなどして、計画的に復興事業を実施することとしており、今後、災害復旧事業に続き復興事業に係る相当量の公共工事の発注が見込まれている。

(4) 国及び地方公共団体の入札及び契約制度

国は、会計法(昭和22年法律第35号)、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号。以下「予決令」という。)等に従い、地方公共団体は、地方自治法(昭和22年法律第67号)、地方自治法施行令(昭和22年政令第16号。以下「施行令」という。)等に従い、それぞれ入札及び契約の事務を実施しており、契約を締結する場合には、原則として一般競争入札に付さなければならないとされている。ただし、契約の性質又は目的により競争に加わるべき者が少数で一般競争入札に付す必要がない場合、一般競争入札に付すことが不利と認められる場合等においては、指名競争入札に付すことができるとされている。また、契約の性質又は目的が競争を許さない場合、緊急の必要により競争に付すことができない場合等は随意契約によることができるとされている。

そして、国は、予決令により、必要があるときは、契約の種類ごとに、その金額等に応じ、工事等の実績、経営の規模等について一般競争入札に参加する者に必要な資格を定めることができるなどとされている。また、地方公共団体は、施行令により、必要があるときは、一般競争入札に参加する者に必要な資格として、契約の種類及び金額に応じ、工事等の実績、経営の規模等を要件とする資格を定めることができるなどとされている。

これにより、事業主体となる国及び地方公共団体は、建設事業者の施工能力に応じた発注を行い、適正な工事の施工を確保するなどのために、あらかじめ入札に参加を希望する者を対象に資格審査を行い、その結果により、建設事業者を4段階等の等級に区分するとともに、各等級ごとに発注可能な標準的な工事金額を定めたり(以下「発注標準」という。)、工事の予定価格から発注標準に基づき、入札参加資格として入札に参加できる等級を指定したり(以下「等級要件」という。)している。

また、事業主体は、地域における公共施設の新設、維持管理、災害対応、除雪等を担い、また、地域の雇用を維持するなどの役割を果たす地元の建設事業者の受注機会の確保等に配慮して、入札参加資格として事業所の所在地を一定の地域内に限定する要件(以下「地域要件」という。)を定めたり、当該工事の規模や技術的難易度等に応じて、建設事業者の施工実績、配置予定技術者の工事経験等の技術的な要件(以下「施工実績要件」という。)を定めたりなどしている。

そして、事業主体は、指名競争入札及び随意契約においても、一般競争入札と同様に、一定の等級に属する者、一定の地域内に事業所を有する者、一定の施工実績を有する者を指名したり、見積書の提出を依頼したりしている。

なお、一般競争入札における落札者の決定方法には、原則として最低価格の入札者を落札者とする方式と、公共工事の品質を確保する観点から、価格だけでなく性能、機能その他の要素を総合的に評価して落札者を決定する方式(以下「総合評価落札方式」という。)とがある。

(5) 国の入札不調への対応

東北3県において、労働者が不足したり、労務費が上昇したりなどして、災害復旧事業及び復興事業(以下「復旧・復興事業」という。)に係る工事の入札について、応札者がいなかったり、応札者はいるが入札価格が予定価格を上回ったりすることなどによる入札の不成立、又は、随意契約について、見積書の提出者がいなかったり、提出者はいるが見積価格が予定価格を上回ったりすることによる契約の不成立(以下、これらの事態を合わせて「入札不調」という。)が増加するなどしており、復旧・復興事業の円滑な施工の確保が課題となっている。

このような入札不調の発生を抑制するとともに、復旧・復興のための人材の確保や予定価格の適切な算定等に連携して取り組むために、国土交通省、農林水産省等の関係省庁、東北3県、仙台市、事業者団体等で構成する「復旧・復興事業の施工確保に関する連絡協議会」(以下「連絡協議会」という。)が23年12月に発足し、連絡協議会は25年5月までの計6回にわたり復旧・復興事業の施工の確保に関して協議を行っている。

また、25年3月には、国土交通省、農林水産省等の関係省庁、東北3県、仙台市、事業者団体等による復興加速化会議が開催され、同会議は復旧・復興事業について、事業の進捗状況、これまでに執られた復旧・復興事業の円滑化に係る各種の対策及び現状、沿岸部における生コンクリートの需給見通し及び対策等について協議を行っている。