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  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成25年7月

東日本大震災からの復旧・復興事業における入札不調について


4 所見

(1) 検査の状況の概要

東日本大震災に係る復旧・復興事業の早期の実施が求められている中、地震及び津波により甚大な被害を受けた東北3県における復旧・復興事業に係る工事において、入札不調が発生している。そして、今後も多額の復旧・復興事業の実施が見込まれていることから、入札不調の発生を抑制し、速やかに復旧・復興事業が実施されることが重要である。

会計検査院は、直轄事業及び補助事業に係る工事の入札等において、入札不調はどの程度発生しており、その原因は何か、国が講じている入札不調対策は事業主体にどの程度導入されているか、また、入札不調対策は入札不調の発生を抑制するために効果的なものとなっているかなどに着眼して検査を行ったところ、次のような状況が見受けられた。

  • 23年10月から24年9月までに入札に付すなどされた復旧・復興事業等に係る工事の入札不調の発生割合は、直轄事業と補助事業を合わせて件数で21.1%となっていた。
  • 入札不調が発生した場合には、再度公告入札を実施するまでに工事内容等の見直しなどのために相応の時間を要することになるが、東北3県等の工事において確認できた267件についてみると、再度公告入札準備期間が3か月を超えている工事は59件、このうち6か月を超えている工事は9件となっていた。
  • 東北3県においては、震災後、技能者等が不足して、公共工事設計労務単価が上がったり、生コンクリート等の建設資材の需給がひっ迫して価格が上昇したりしていた。
  • 東北地方整備局、東北農政局及び東北3県については、ほとんどの入札不調対策は導入され活用されているが、一部の市町については、導入されていない対策も見受けられた。また、入札不調対策が導入されているものの、活用率の低い対策も見受けられた。
  • 被災地で不足する技術者や技能者を広域的な観点から確保するための復興JV制度については、同制度が試行されてから1年以上が経過しているが、東北地方整備局においては、復興JVを対象として入札が行われた工事件数63件のうち復興JVが入札に参加した工事件数は9件となっており、また、東北農政局においては、これまで復興JVが参加できる入札を行っていなかった。
  • 事業主体の中には、入札不調対策として当初の入札から地域要件、施工実績要件及び等級要件の緩和を行っている事例が見受けられた。
  • 東北3県の沿岸部における25年度から28年度までの生コンクリートの需要予測によると、需要量が供給可能量を大幅に上回る地区が見受けられ、事業主体の中には、二次製品を活用したり、骨材を遠隔地から調達したりするなどの取組を行っている事例が見受けられた。
  • 東北3県及び近隣3県の各県の登録建設事業者に対して復旧・復興事業に係る工事の入札不調対策等に対する意識調査を実施したところ、次のとおりとなっていた。
    • (ア) 東北3県の建設事業者において、入札参加資格があるのに一般競争入札への参加を見合わせるなどしたことがあるとした者は7割程度となっており、その理由は自社の技術者が手一杯であるとした者が7割超と相当の割合を占めるなど労働者関係の理由が大半を占めていた。
    • (イ) 受注後に費用が増加し赤字になるという建設事業者の懸念を払拭するための建設資材の遠隔地からの調達に伴う設計変更の導入等の対策について、知らないとしている者が東北3県の建設事業者において5割程度、近隣3県の建設事業者において6割を超えていた。
    • (ウ) 東北3県の建設事業者において、国が講じている入札不調対策について、効果があるとやや効果があるとを合わせた者が復興JV制度については4割程度となっている一方で、急激な物価変動に伴う請負代金額の変更、建設資材の遠隔地からの調達に伴う設計変更の導入等のその他の対策については6割程度となっていた。
    • (エ) 東北3県の建設事業者において受注余力がないなどとしている者が5割程度を占めており、また、近隣3県の建設事業者の5割程度は復旧・復興事業に係る工事への参入意欲がある状況となっていた。
    • (オ) 東北3県の建設事業者において、入札参加資格の緩和について、賛成と災害復旧事業に限定するなどの条件付きで賛成とを合わせた者が5割を超えていた。

(2) 所見

東日本大震災の被災地では、速やかな復旧・復興が待ち望まれているが、東北3県における復旧・復興事業に係る工事において、技術者、技能者等の人材、砂、砕石、生コンクリート等の建設資材の不足が生ずることなどにより、入札不調が高い割合で発生している。さらに、同一の工事について、入札不調が繰り返されることにより発注担当者の業務量が増えることはもとより、工事の完成が遅れることも懸念される。

これに対して、事業主体は、国土交通省及び農林水産省から発出された通知等を受けて、入札不調を解消すべく各種の対策を実施しているが、東北3県においては、海岸、河川、下水道等の災害復旧事業に加えて、住民の生活に直結する仮設住宅の入居者等のための災害公営住宅の整備、三陸沿岸道路の整備等の復興事業が予定されており、これらを合わせると27年度までの集中復興期間を中心に工事の発注量が膨大なものになることが見込まれることから、今後の発注量の増加等に伴い入札不調の割合は高水準で推移するおそれがある。

一方、復旧・復興事業の財源は、国民の税金をもって賄われるものであることから、事業の効率性、有効性等にも配慮をしつつ進めることが必要である。

以上の検査の状況を踏まえて、国土交通省及び農林水産省において、引き続き、次の点に留意して、入札不調に対して実効性のある対策を講ずることにより、円滑かつ迅速な復旧・復興事業の実施に努める必要がある。

  • 被災地の雇用を維持しつつ広域的な観点から技術者等の確保を図るための復興JV制度が更に活用されるよう、入札不調の発生状況等に応じて復興JVを対象とする入札件数を増やすことなどを検討する。
  • 建設資材について、引き続き需給の動向の把握に努めるとともに、ひっ迫の程度に応じて供給量の増大や広域的調達等が図られるよう適切に対策を検討する。
  • 地方公共団体に対して次のような要請等を行う。
    • (ア) 東北3県において、実施している入札不調対策を管内に所在する建設事業者に周知したり、国の示した入札不調対策をいまだ導入していない管内の市町村に改めて周知したりする。
    • (イ) 近隣3県において、被災地において実施している入札不調対策を管内に所在する建設事業者に周知する。
  • 東北3県及び管内の市町村において、復旧・復興事業に係る工事を発注する際に、工事の品質を確保しつつより多くの建設事業者の参入が容易になるよう、地域の実情等に応じて、地域要件、施工実績要件又は等級要件を緩和している事例等を参考にするよう連絡協議会等において情報提供を行う。

会計検査院としては、27年度までの集中復興期間において復旧・復興事業に係る相当量の工事の発注が続く見込みであることから、東北3県における入札不調の状況の推移、その対策の実施状況、効果等について引き続き注視していくこととする。