平成23年3月11日に三陸沖を震源とする国内観測史上最大のマグニチュード9.0の巨大地震(以下「東北地方太平洋沖地震」という。)が発生して最大震度7を観測し、東北地方から関東地方北部までを中心に太平洋沿岸の広い範囲で津波が発生した。東北地方太平洋沖地震発生以降も、多数の余震が発生しており、同年3月12日には余震活動域外の長野県北部においても最大震度6強の地震が発生している。
東北地方太平洋沖地震等による災害及びこれに伴う東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故による災害(以下、これらを合わせて「東日本大震災等」という。)による建物(現実に居住のため使用していない建物を除く。以下同じ。)の被害は、25年3月11日現在、全壊128,801戸、半壊269,675戸、一部破損756,814戸等となっている。
東日本大震災等により多くの被災者が住宅を失うなどして避難所等において避難生活を余儀なくされることになったため、国及び地方公共団体は被災者に対する当面の住宅として応急仮設住宅の供与を推進することとしており、被災者が入居している応急仮設住宅の戸数は、25年4月1日現在、建設された仮設住宅が48,102戸、民間賃貸住宅の借上げによる仮設住宅が59,098戸、雇用促進住宅が4,535戸、公営住宅等が5,736戸の計117,471戸となっている。応急仮設住宅の供与期間は、原則として2年以内とされているが、24年4月に恒久的な住宅の整備に時間を要することを理由として1年間延長されて、25年4月以降も、安全上、防火上及び衛生上支障がない場合には、都道府県等の判断で延長できることとなっている。
国は、内閣に設置した東日本大震災復興対策本部において、23年7月に「東日本大震災からの復興の基本方針」を決定しており、被災各県の復興計画等を踏まえて23年度から32年度までの10年間を復興期間、復興需要が高まる当初の5年間(23年度から27年度まで)を集中復興期間として、被災者及び被災した地方公共団体の意向等を踏まえつつ、各府省一体となって、被災地域の復旧・復興及び被災者の暮らしの再生のための施策を実施するとしている。また、復興を担う主体は、住民に最も身近で、地域の特性を理解している市町村が基本となるとしている。そして、応急仮設住宅等に居住する被災者については、自力再建に対する支援策を講ずる一方、自力再建が困難な被災者の居住の安定確保を図るために、応急仮設住宅を退去した後の恒久的な住宅として、災害公営住宅を整備することとしている。
公営住宅は、公営住宅法(昭和26年法律第193号)等に基づき、市町村又は都道府県(以下「市町村等」という。)が建設するなどして、住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸することなどにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とするものである。
市町村等は、同法の規定により、災害により滅失した住宅の戸数が一定規模以上であるとき、滅失した住宅の戸数の3割に相当する戸数を上限として、災害公営住宅の建設、買取り又は借上げを行うことができるとされている。さらに、著しく激甚である災害が発生して住宅の滅失戸数が多大であり、「激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律」(昭和37年法律第150号。以下「激甚法」という。)等で定める基準に該当する市町村等は、滅失戸数の5割に相当する戸数を上限として災害公営住宅の建設等を行うことができるとされている。
また、公営住宅の入居者の資格要件として、公営住宅法等により収入基準が設けられているが、被災市街地特別措置法(平成7年法律第14号)により、災害発生の日から3年間に限りその基準が緩和されており、当該災害により滅失した住宅に居住していた者であれば収入にかかわらず入居できることとされている。さらに、東日本大震災復興特別区域法(平成23年法律第122号。以下「特別区域法」という。)に基づき、一定の要件を満たした場合は、最長10年間収入基準が緩和される。そして、これらの期間経過後は、収入が基準を上回るなど入居者の資格要件を満たさなくなった場合でも、一定期間居住は可能ではあるが、家賃や明渡しなどの取扱いは一般の公営住宅と同様とされている。
さらに、福島復興再生特別措置法(平成24年法律第25号)等によれば、公営住宅法の特例として、避難指示区域に存在する住宅に23年3月11日において居住していた住民(以下「居住制限者」という。)については、これまで居住していた住宅が必ずしも物理的に滅失している訳ではないものの、現に居住する住宅がない点においては災害により滅失した住宅に居住していた者と同様であるため、現に居住に困窮している状況にあれば、収入の多寡にかかわらず、公営住宅に入居できることとされている。
災害公営住宅の整備に関する予算は、23年度第1次補正予算に、災害対応公共事業関係費1兆2019億余円の一部として1115億余円が計上されており、23年度第3次補正予算では、復興交付金事業計画に基づく事業又は事務(以下「復興交付金事業」という。)の実施に要する経費に充てるための東日本大震災復興交付金(以下「復興交付金」という。)1兆5611億余円に含めて計上されている。また、24、25両年度の当初予算における災害公営住宅の整備に関する予算は、復興交付金2867億余円及び5917億余円のそれぞれに含めて計上されている。
復興交付金は、特別区域法により市町村等が自ら作成する復興交付金事業計画に基づき、復興に必要な各種施策が実施できる交付金であり、市町村等は、基金を造成して復興交付金事業計画の計画期間(23年度から27年度まで)内にこれを取り崩して復興交付金事業を実施したり、基金を造成せずに単年度事業として実施したりすることができることとされている。
復興交付金事業としては、内閣府及び関係各省(文部科学省、厚生労働省、農林水産省、国土交通省及び環境省)が定めた「東日本大震災復興交付金制度要綱」(以下「制度要綱」という。)において、国土交通省等関係5省が所管する40の基幹事業等が定められており、災害公営住宅整備事業、用地取得造成事業、災害対応改修事業、災害復興型地域優良賃貸住宅整備事業及び高齢者生活支援施設等整備事業からなる災害公営住宅整備事業等はこの基幹事業の一つとされている。
また、制度要綱によれば、市町村等は、災害公営住宅整備事業等に係る復興交付金事業計画の進捗状況を復興庁に報告するとともに公表することとなっている。そして、復興庁は、市町村等別の災害公営住宅の整備計画戸数、完成予定年度等を取りまとめ、「住まいの復興工程表」(以下「工程表」という。)として公表している。
災害公営住宅の整備に係る補助率等は、表1のとおりとなっており、補助率は一般の公営住宅に比べて引き上げられている。そして、激甚法等に基づき指定された激甚災害の場合は、整備戸数の上限とともに補助率が更に引き上げられており、例えば、激甚災害の指定を受けた地域で災害公営住宅を建設する場合、一般災害の場合は補助率が3分の2であるのに対して、激甚災害の場合は4分の3と高くなっている。さらに、復興交付金を充当する場合の特例として、市町村等の負担額の半分が国費で措置されることとなっており、実質の補助率は8分の7となっているほか、東日本大震災等の特例として、用地の取得及び造成に要する費用も補助の対象とされている。
また、前記の居住制限者向けに災害公営住宅を整備する場合は、上記と同様の補助率の引上げが行われている。
表1 災害公営住宅等の整備に係る補助率等
\ | 災害公営住宅 | 一般の公営住宅 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
激甚災害 | 一般災害 | |||||
一般の補助金 | 東日本大震災等 | |||||
指定要件 | 災害要件 | ①被災地全域でおおむね4,000戸以上の住宅が滅失等 | ①被災地全域で500戸以上の住宅が滅失 | - | ||
地域要件 | ②1市町村の区域内で100戸以上又はその区域内の住宅戸数の1割以上が滅失 | ②1市町村の区域内で200戸以上又はその区域内の住宅戸数の1割以上が滅失 | ||||
全体要件 | ①かつ② | ①又は② | ||||
入居者の資格要件 | 当該災害により滅失した住宅に居住していた者(災害発生の日から3年間は収入基準要件等が不要。ただし、東日本大震災等の場合は、特別区域法に基づき延長可能) | 当該災害により滅失した住宅に居住していた者であって、政令の基準を参酌して地方公共団体が条例で定める収入の範囲内の者(滅失戸数が基準を満たす場合、災害発生の日から3年間は収入基準要件等が不要。ただし、東日本大震災等の場合は特別区域法に基づき延長可能) | 政令の基準を参酌して地方公共団体が条例で定める収入の範囲内の者 | |||
整備戸数の上限 | 滅失戸数の5割 | 滅失戸数の3割 | - | |||
補助率 | 建設・買取 | 3/4 | 3/4 (7/8) | 2/3 (5/6) | 45% | |
借上(共同施設整備) | 2/5 | 3/5 (7/10) | 2/5 (3/5) | 2/3×45% | ||
用地取得、造成 | - | 3/4 (7/8) | - ( - ) | - |