ページトップ
  • 国会及び内閣に対する報告(随時報告)|
  • 会計検査院法第30条の2の規定に基づく報告書|
  • 平成25年10月

東日本大震災に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境汚染に対する除染について


検査対象
内閣府、環境省、6県
検査の対象とした事業の概要
東京電力福島第一原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境汚染が人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することを目的として、国及び地方公共団体が実施する除染
除染に関する事業の執行額
4692億円(平成23、24両年度)

1 検査の背景

(1) 福島第一原発事故の発生

平成23年3月11日、東北地方太平洋沖地震が発生し、宮城県北部で震度7を観測したほか、東日本を中心に広い範囲で揺れを観測し、また、東北地方から関東地方北部にかけての太平洋沿岸の広い範囲で津波を観測した。この地震とそれが引き起こした津波により、東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)の福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)において大量の放射性物質が放出されるという重大な事故が発生した(以下、この事故を「福島第一原発事故」という。)。

(2) 原子力緊急事態が発生した場合の対応

福島第一原発事故が発生した当時の原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号。以下「原災対策法」という。)によれば、内閣総理大臣は、経済産業大臣から原子力緊急事態(原子力発電所の運転等により放射性物質又は放射線が異常な水準で原子力事業所外へ放出された事態等をいう。以下同じ。)が発生した旨の報告を受けたときは、原子力緊急事態宣言を行い、内閣府に原子力災害対策本部(以下「原災本部」という。)を設置するとともに、緊急事態応急対策(注1)を実施すべき区域を管轄する市町村長及び都道府県知事に対し、避難等の指示を行うこととされていた。この原災本部が設置されるまでの過程は、図1のとおりである。

図1 原災対策法に基づく原災本部が設置されるまでの過程(平成23年当時)

原災対策法に基づく原災本部が設置されるまでの過程(平成23年当時)

(3) 福島第一原発事故後の政府の対応

福島第一原発事故の発生を受け、23年3月11日、原災対策法の規定に基づき原子力緊急事態宣言が発せられ、内閣府に原災本部が設置された。翌12日、原子力災害対策本部長である内閣総理大臣により、福島第一原発から半径20km圏内が避難指示区域に、同月15日には半径20km以上30km圏内が屋内退避区域にそれぞれ設定され、同区域内の住民の避難等が指示された。

そして、4月21日には福島第一原発から半径20km圏内が警戒区域(注2)に設定されたほか、同月22日には、国際放射線防護委員会(以下「ICRP」という。)の勧告を考慮した原子力安全委員会(当時)の意見を受け、福島第一原発から半径20km以遠の地域で福島第一原発事故発生後1年間の積算線量(被ばく線量の累積)が20mSv(注3)を超える可能性がある区域が計画的避難区域(注4)に設定された。また、屋内退避区域で計画的避難区域に該当する区域以外の区域については、緊急時避難準備区域(注5)に設定された(別表1別図1参照)。

その後、原災本部は、23年12月に「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」を決定している。この中で、警戒区域や避難指示区域の設定は、住民や地域社会に多くの困難をもたらすものであり、福島第一原発の安全性の確認や放射線被ばくの危険性の低下など状況に変化が生じた場合には、住民の安全・安心を大前提としつつ、速やかに見直すべきものであるとしている。そして、原災本部は、福島第一原発から半径20km以遠の計画的避難区域を含む避難指示区域を見直し、表1の基本的考え方により、新たな避難指示区域を設定することとしている(別図1参照)。

表1 区域見直し後の新たな避難指示区域に関する基本的考え方(平成23年12月)

見直し後の避難指示区域 内容
避難指示解除準備区域
  • 避難指示区域のうち、年間積算線量が20mSv以下となることが確実であると確認された地域
  • 当面の間は、引き続き避難指示が継続されることとなるが、除染、インフラ復旧等の復旧・復興のための支援策を迅速に実施し、住民が一日でも早く帰還できるための環境整備を目指す区域
居住制限区域
  • 避難指示区域のうち、年間積算線量が20mSvを超えるおそれがあり、住民の被ばく線量を低減する観点から、引き続き避難の継続を求める地域
  • 将来的には住民が帰還し、コミュニティが再建されることを目指して、除染、インフラ復旧等を計画的に実施する区域
  • 住民が受ける年間積算線量が20mSv以下となることが確実であると確認された場合には、避難指示解除準備区域に移行
帰還困難区域
  • 長期間、住民の帰還が困難となることが予想される区域
  • 福島第一原発事故後5年間を経過してもなお、年間積算線量が20mSvを下回らないおそれのある年間積算線量が50mSv超の地域
  • 長期化する避難生活や生活再建のあり方等について国が責任を持って対応
(注1)
緊急事態応急対策  原災対策法に基づいて、原子力緊急事態が発生した場合に、原子力災害の拡大を防止するために実施される原子力緊急事態宣言の発出、災害に関する情報収集・伝達、避難勧告・指示、放射線量の測定、被災者の救助・保護、緊急輸送の確保等の措置
(注2)
警戒区域  原災対策法第28条第2項において読み替えて適用される災害対策基本法(昭和36年法律第223号)第63条第1項の規定に基づく警戒区域で、原則として立入りが禁止される。その全部又は一部が警戒区域に設定された市町村は、田村市、南相馬市、楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、川内村、葛尾村となっている。
(注3)
Sv(シーベルト)  人体の被ばくによる生物学的影響の大きさ(線量当量)を表す単位。なお、1時間被ばくを受け続けた場合に、どの程度の線量当量を受けるかを表す線量率の単位が「Sv/h」である。1日のうち屋外に8時間、屋内(遮へい効果(0.4倍)のある木造家屋)に16時間滞在したと仮定して、1年間の追加被ばく線量(自然界からの被ばく線量及び医療被ばくを除いた被ばく線量)1mSvを1時間当たりに換算すると0.19μSv/hとなり、これに自然界からの放射線のうち大地からの放射線に係る線量率0.04μSv/hを加えると、0.23μSv/hとなる。
(注4)
計画的避難区域  原災対策法第20条第3項に基づいて設定された区域で、原則としておおむね1か月程度の間に順次当該区域外へ計画的に避難することが求められる。その全部又は一部が計画的避難区域に設定された市町村は、南相馬市、川俣町、浪江町、葛尾村、飯舘村となっている。
(注5)
緊急時避難準備区域  原災対策法第20条第3項に基づいて設定された区域で、緊急時に避難のための立ち退き又は屋内等への退避の準備を行うことが求められる。なお、当該区域は、23年9月30日に解除された。

(4) 放射性物質汚染対処特措法及び緊急実施基本方針による除染の枠組み

このような中、福島第一原発事故により放出された放射性物質(以下「事故由来放射性物質」という。)による環境汚染が生じていることに鑑み、当該環境汚染への対処に関し、国、地方公共団体、関係原子力事業者等が講ずべき措置について定めることなどにより、環境汚染が人の健康や生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することを目的として、「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年法律第110号。以下「放射性物質汚染対処特措法」という。)が23年8月30日に公布されるとともに、一部の規定については同日施行され、24年1月1日に全面施行された。

放射性物質汚染対処特措法において、環境大臣は、事故由来放射性物質による環境の汚染が著しいと認められる地域として一定の要件に該当する地域を除染特別地域に、事故由来放射性物質による環境の汚染の状況について重点的に調査測定をすることが必要な地域を汚染状況重点調査地域に、それぞれ指定することができるなどとされている。

そして、環境省は、除染特別地域に指定された地域について、関係地方公共団体の意見を聴くなどして、除染等の措置等(注6)の対象及びスケジュール、除染等の措置等に関する方法及び工程等を定めた特別地域内除染実施計画(以下「特別地域内計画」という。)を策定し、これに基づき除染等の措置等を実施することとされている。

また、汚染状況重点調査地域に指定された地域では、市町村長等は、地域内の環境汚染の状況について調査測定をした結果等により、空間線量率が0.23μSv/h以上となる区域について除染実施計画を定めることとされている。そして、同計画には、除染実施計画の対象となる区域、除染等の措置等の実施者及び当該実施者が除染等の措置等を実施する区域等を盛り込むこととされていて、国、都道府県、市町村等は、この除染実施計画に基づき、除染等の措置等を実施しなければならないこととされている。

(注6)
除染等の措置等放射性物質汚染対処特措法において、「土壌等の除染等の措置並びに除去土壌の収集、運搬、保管及び処分」と規定されている。また、「土壌等の除染等の措置」とは、「事故由来放射性物質により汚染された土壌、草木、工作物等について講ずる当該汚染に係る土壌、落葉及び落枝、水路等に堆積した汚泥等の除去、当該汚染の拡散の防止その他の措置」と規定されている。

そして、放射性物質汚染対処特措法の枠組みに基づく計画的かつ抜本的な除染が実施されるまでには、一定の期間が必要となる。そこで、原災本部は、23年8月26日に、今後2年間に目指すべき目標等を取りまとめた「除染に関する緊急実施基本方針」(以下「緊急実施基本方針」という。)を決定している。緊急実施基本方針では、放射性物質汚染対処特措法の枠組みによる除染が実施されるまでの間は、この緊急実施基本方針に基づいて除染を緊急的に推進することとされ、放射性物質汚染対処特措法が全面施行された以降は、この緊急実施基本方針に定められている内容を順次放射性物質汚染対処特措法の枠組みに移行することとされている。

緊急実施基本方針では、ICRPの勧告等を踏まえて、除染の実施に当たっての暫定目標や除染の進め方等が示されており、その主な内容は、図2のとおりとなっている。

これら緊急実施基本方針の枠組みの中で実施される除染に関する事業に要する経費については、内閣府において予算措置されている。

図2 緊急実施基本方針の主な内容

緊急実施基本方針の主な内容

そして、23年12月には、除染特別地域に、警戒区域又は計画的避難区域の指定を受けたことがある地域として、表2のとおり、福島県内の11市町村が指定された。

表2 除染特別地域として指定された市町村

都道府県名 市町村数 市町村名
福島県 11 楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、及び飯舘村。また、田村市、南相馬市、川俣町、川内村で警戒区域又は計画的避難区域であったことのある地域

また、23年12月に、102市町村が、空間線量率が0.23μSv/h以上の地域として、汚染状況重点調査地域に指定された。その後、24年2月に2町が指定され、同年12月に3町村の指定が解除されたことにより、24年度末現在、表3及び別図2のとおり、8県において計101市町村が指定されている。

表2 除染特別地域として指定された市町村

都道府県名 市町村数 市町村名
岩手県 3 一関市、奥州市、平泉町
宮城県 9 石巻市、白石市、角田市、栗原市、七ケ宿町、大河原町、丸森町、亘理町、山元町
福島県 40 福島市、郡山市、いわき市、白河市、須賀川市、相馬市、二本松市、田村市、南相馬市、伊達市、本宮市、桑折町、国見町、川俣町、大玉村、鏡石町、天栄村、会津坂下町、湯川村、柳津町、三島町、会津美里町、西郷村、泉崎村、中島村、矢吹町、棚倉町、矢祭町、塙町、鮫川村、石川町、玉川村、平田村、浅川町、古殿町、三春町、小野町、広野町、川内村、新地町
茨城県 20 日立市、土浦市、龍ケ崎市、常総市、常陸太田市、高萩市、北茨城市、取手市、牛久市、つくば市、ひたちなか市、鹿嶋市、守谷市、稲敷市、鉾田市、つくばみらい市、東海村、美浦村、阿見町、利根町
栃木県 8 佐野市、鹿沼市、日光市、大田原市、矢板市、那須塩原市、塩谷町、那須町
群馬県 10 桐生市、沼田市、渋川市、安中市、みどり市、下仁田町、中之条町、高山村、東吾妻町、川場村
埼玉県 2 三郷市、吉川市
千葉県 9 松戸市、野田市、佐倉市、柏市、流山市、我孫子市、鎌ケ谷市、印西市、白井市
101

そして、23年11月には、放射性物質汚染対処特措法に基づき、「事故由来放射性物質による環境の汚染への対処に関する基本的な方針」(以下「環境汚染対処基本方針」という。)が閣議決定された。これによれば、除染特別地域においては、追加被ばく線量が特に高い地域(追加被ばく線量が年間50mSvを超える地域)を除き、26年3月末までに、住宅、事業所、公共施設等の建物等、道路、農用地、生活圏周辺の森林等において土壌等の除染等の措置を行い、発生する除去土壌等を適切に管理された仮置場へ逐次搬入することを目指すとされている。また、追加被ばく線量が年間20mSv未満の地域においては、長期的な目標として、同線量が年間1mSv以下となることを目指すとされている。さらに、汚染状況重点調査地域のうち、追加被ばく線量が比較的高い地域においては、必要に応じて、表土の削り取り及び建物の洗浄等を行うことが適当であるとされ、追加被ばく線量が比較的低い地域においても、周辺に比して高線量を示す箇所があることから、子供の生活環境を中心とした対応を行うとともに、地域の実情に十分に配慮した対応を行うことが適当であるなどとされている。

そして、これら放射性物質汚染対処特措法の枠組みの中で実施される除染に関する事業に要する経費については、環境省等において予算措置されている。

なお、放射性物質汚染対処特措法に基づいて講じられる措置は、原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年法律第147号。以下「原賠法」という。)の規定により関係原子力事業者が賠償する責めに任ずべき損害に係るものとして、当該関係原子力事業者の負担の下に実施されるものとされており、また、当該関係原子力事業者は、この法律に基づき講じられる措置に要する費用について請求又は求償があったときには、速やかに支払うよう努めなければならないこととされている。

(5) 除染特別地域における除染の方針(除染ロードマップ)

環境省は、前記のとおり、23年12月に原災本部が避難指示区域の見直しに関する基本的考え方を示したことなどを踏まえ、24年1月に、区域見直し後の新たな避難指示区域に対応した除染の実施方針等を示す「除染特別地域における除染の方針(除染ロードマップ)」を公表した。そして、これ以降は、除染ロードマップを基本として、市町村等の関係者と協議・調整を行いつつ、具体的で実効性のある特別地域内計画の策定とその実施に取り組むこととしている。

新たな避難指示区域における放射線量に応じた除染の実施順序とその完了目標時期は、除染ロードマップの工程表において示されていて、避難指示解除準備区域及び居住制限区域については、図3のとおり、26年3月末までに除染を完了させることとしている。

図3 新たな避難指示区域ごとの除染工程表

新たな避難指示区域ごとの除染工程表

出典:「除染特別地域における除染の方針(除染ロードマップ)について」(平成24年1月26日環境省)

また、除染に着手するまでには、土地所有者等の関係人の把握から始まり、除染の実施に対する関係人の同意取得に至るまでの一連の準備作業が必要となる(除染が終了するまでの除染工程の一連の流れは図4参照)。

図4 除染工程の一連の流れ

除染工程の一連の流れ

出典:「除染特別地域における除染の方針(除染ロードマップ)について」(平成24年1月26日環境省)

そして、特別地域内計画の策定作業と並行して、除染に着手するための前提条件となる上記の準備作業を進めるとともに、除染により発生する除去土壌等を一時的に保管する仮置場の確保を進め、これらの条件が整ったところから順次除染に着手することとしている。