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  • 平成25年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(4) 防災情報通信基盤整備事業等の実施について、関係機関との調整や文書化した運用マニュアルの整備を行うことなどにより、災害時において不必要な重複を生ずることなく、防災システムの機能を十分活用し迅速な対応を行うことができることとなるよう指導するとともに、今後の同種事業の実施に当たり、参考となるような情報の提供や指導を行うなど事業主体への支援を十分に行うことにより、事業が効率的、効果的に実施されることとなるよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)総務本省 (項)東日本大震災復旧・復興情報通信技術高度利活用推進費
(項)情報通信技術高度利活用推進費
東日本大震災復興特別会計 (組織)総務本省
(項)生活基盤行政復興政策費
部局等
総務本省
補助の根拠
予算補助
補助事業者
(事業主体)
府2、県5、市町村12、計19事業主体
補助事業
災害に強い情報連携システム構築事業、防災情報通信基盤整備事業
補助事業の概要
災害関連情報を一元的に管理し情報の共有化を図るための機能や、防災警報等地方公共団体から住民に提供すべき情報を多様なメディアに一括配信する機能を有する情報通信環境を構築するもの
一斉配信メール機能に不必要な重複が生ずるなどしていた補助事業に係る事業費
18億2650万余円(平成24、25両年度)
上記に係る国庫補助金交付額
8億0926万円(背景金額)

【改善の処置を要求したものの全文】

防災情報通信基盤整備事業等の実施について

(平成26年10月30日付け 総務大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 事業の概要

貴省は、従前から、全国の都道府県、市町村等が実施する防災分野の各種事業を支援するための補助事業等を実施している。そして、東日本大震災からの復興施策の一環として、多様な機関が有する台風や火災等の災害に係る管内の情報(以下「防災情報」という。)を自治体が一元的に管理し、電子メールやテレビ、ラジオ等の多様なメディアを通じて迅速かつ確実に住民に伝達する情報連携システム(以下「防災システム」という。)の構築を支援するために、平成24年度に、東日本大震災の被災地方公共団体等に対して、情報通信技術利活用事業費補助金を交付して災害に強い情報連携システム構築事業を実施している。さらに、24、25両年度に、交付対象を全国の都道府県、同報系防災行政無線(注1)を所有しない市町村等に広げて、防災システムの構築を支援するために、防災情報通信基盤整備事業費補助金を交付して防災情報通信基盤整備事業を実施している(以下、上記二つの補助事業を「補助事業」という。)。上記二つの補助金の交付額は計35補助事業で計16億1389万余円となっている。

また、貴省は、23年7月29日に内閣に設置された東日本大震災復興対策本部において決定された「東日本大震災からの復興の基本方針」にのっとり、貴省が所管する復興施策についての当面の事業計画や工程表を策定し、同年11月に、その内容を「復興施策の取組状況の取りまとめ―公共インフラ以外の復興施策―」(以下「取りまとめ」という。)として公表している。貴省は、取りまとめにおいて、地方公共団体における多様なメディアを重層的に活用した住民への情報伝達手段の多様化及び高度化を実現するための仕組みの効率的かつ効果的な全国展開を図ることを挙げている。

そして、貴省は、防災分野で地域課題を抱える地域が情報通信技術の利活用による地域課題の解決を図り、円滑かつ効率的にシステムを導入及び運用できることを目的として、過去に貴省が実施した各種事業における取組内容等を検証し、類似のシステムの導入等の検討に際して参考となる導入や運用の手順、体制等を定めた仕様書として、24年3月に「情報通信技術及び人材に係る仕様書(平成23年度版)(防災分野)防災情報共有」(以下「23年度仕様書」という。)を作成している。23年度仕様書によれば、防災システムが、住民に対して防災情報を電子メールで一斉に配信する機能(以下「一斉配信メール機能」という。)を有する場合、都道府県又は市町村のいずれが配信するか、関係機関間での調整が必要であるとされている。そして、貴省は、防災システムを構築し運用するに当たって、地方公共団体が、事業主体として中心的役割を担うだけでなく、情報共有等を行うこととなる関係機関との間で防災システムに入力する情報の内容等について綿密な調整及び協議を行うことが必要であるとしている。

さらに、政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(以下「IT総合戦略本部」という。)の「世界最先端IT国家創造宣言 工程表」(平成25年6月策定。以下「工程表」という。)において、貴省は、防災情報通信基盤等を用いた情報収集及び伝達体制の確立を中長期的に行っていくこととしている。

(注1)
同報系防災行政無線  屋外に設置したスピーカー等により、住民へ防災情報を伝達する無線システム

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

貴省は、前記のとおり、復興施策の一環として、被災地方公共団体等に対して、防災システムの構築を支援するための事業を実施するのみならず、災害に備える情報通信基盤の整備の必要性から、事業の対象を全国の都道府県、同報系防災行政無線を所有しない市町村等に広げて同様に実施している。

そこで、本院は、経済性、効率性、有効性等の観点から、補助事業を実施している地方公共団体(以下「事業主体」という。)に対して貴省が防災システムの構築に関する支援を適切に行っているか、事業主体は防災システムの構築に当たり関係機関との調整や協議等を十分に行っているか、構築された防災システムは有効に活用されているかなどに着眼して検査した。検査に当たっては、24、25両年度に実施した19補助事業(事業費計18億2650万余円、国庫補助金交付額計8億0926万余円)を対象として、貴省本省、7府県(注2)及び12市町村(注3)において、交付申請書、実績報告書、防災システムの仕様書等の関係書類や防災システムの利用状況の確認を行うなどして会計実地検査を行った。

(注2)
7府県  京都、大阪両府、秋田、島根、香川、高知、宮崎各県
(注3)
12市町村  八戸、三沢、千葉、印西、安来、宇和島、豊後高田各市、山武郡九十九里、長生郡白子、伊都郡かつらぎ、苫田郡鏡野各町、稲敷郡美浦村

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた(複数の態様に該当する補助事業があるため、それぞれの態様に係る補助事業数の合計は上記の補助事業数と一致しない)。

(1) 一斉配信メール機能に不必要な重複が生じている事態

5補助事業(国庫補助金交付額計1億6026万余円)

23年度仕様書によれば、防災システムが一斉配信メール機能を有する場合、都道府県又は市町村のいずれが配信するか、関係機関間での調整が必要であるとされている。しかし、5市町村(注4)が実施した5補助事業においては、市町村と県との間で調整が行われていなかったため、県の既存の防災関係のシステムが有する同種の機能との間で不必要な重複が生ずる結果となっていた。

すなわち、上記の5市町村が所在する各県の既存の防災関係のシステムでは、同システムからメールの配信を希望する住民が、同システムに登録されている管内市町村の情報の中から、受信したい市町村の情報を複数選択することができるようになっているのに、市町村と県との間で調整が行われていなかったため、市町村の防災システムは、気象関連の警報や地震情報等の安心・安全に関する情報等を県と重複して配信する仕組みとなっていた。

しかし、災害時等において、同様の情報が複数回にわたり配信された場合には、受信者において当該複数回配信された情報の内容が同一であるかどうかの確認に時間を要することになったり、配信された情報間に相違がある場合には、受信者においてその選択の判断に困惑することになったりするなど、適切な対応を確保する上での障害となるおそれがある。

上記について事例を示すと次のとおりである。

<事例1>

茨城県稲敷郡美浦村は、平成24年度に災害に強い情報連携システム構築事業により、防災システムを事業費2億4514万余円(国庫補助金交付額8171万余円)で構築しており、この防災システムは、一斉配信メール機能を有している。しかし、既に茨城県にも同様の一斉配信メール機能を有するシステムがあり、地震情報や気象情報等、ほぼ同様の情報を重複して配信する仕組みとなっていた。

(注4)
5市町村  千葉、印西両市、山武郡九十九里、伊都郡かつらぎ両町、稲敷郡美浦村

(2) 機能の一部が当初の計画どおりに使用できないなどの状態となっている事態

2補助事業(国庫補助金交付額計1億3027万余円)

23年度仕様書によれば、防災システムを構築し運用するに当たっては、情報共有等を行うこととなる関係機関との間で綿密な調整及び協議が必要であるとされている。しかし、1県1村(注5)が実施した2補助事業においては、防災システムに入力する情報の内容等について、事前に消防署等の関係機関との調整や協議が十分に行われておらず、その妥当性についての検討も行われていなかったため、補助事業により構築した防災システムの機能の一部が当初の計画どおりに使用できない状態となっていた。

また、補助事業により構築した防災システムが継続的に使用されるためには、防災システムに入力すべき情報や担当部署等に関する運用ルールがあらかじめ定められた上で、これを文書化したマニュアルが整備されていることが重要である。さらに、このマニュアルを訓練に活用するなどして、組織内において防災システムの運用を習熟させる必要がある。貴省が作成した23年度仕様書においても、システムの運用に当たっては、実際の業務フロー、詳細な運用手順、運用ルールを整理することとなっている。しかし、上記2補助事業のうち1補助事業においては、補助事業により構築した防災システムの運用に当たり、運用ルールがあらかじめ定められておらず、マニュアルも整備されていなかったため、防災システムの機能の一部が使用されていなかったり、情報の錯そうが生ずるなどして運用に支障が生じたりしている状態となっていた。

上記について事例を示すと次のとおりである。

<事例2>

秋田県は、平成25年度に、防災情報通信基盤整備事業により、防災システムを事業費9711万余円(国庫補助金交付額4855万余円)で構築していた。そして、当初の計画においては、消防関係の情報を消防署等が防災システム上で入力できるようにしていた。

しかし、防災システムの運用の段階で、消防関係の情報の中に住所等の個人情報が含まれていることが判明したため、消防署等による防災システムへの入力を当面行わないこととしていた。

また、災害時に管内市町村が被害状況等を県に報告する際に、防災システムに管内市町村が直接入力することにより、被害状況等を報告することが可能となっていたが、防災システムの試験運用を開始した25年10月以降、管内の全ての市町村は、防災システムを一度も使用することなく、従来どおりの電話やファクシミリによる報告を行っていた。

さらに、同県は、26年1月の大雪に対応するために災害対策本部を設置していたが、設置についての情報を防災システムに入力していなかったり、住民に対する雪下ろし作業の際の注意喚起に関する情報を、同県の二つの部署がそれぞれ防災システムに入力したことから、放送事業者へ同種の事態について二つの情報が配信され、同事業者において、これらの情報をどのように扱うかについて混乱が生じ、同県は同事業者から事実確認の照会を受けていたりしていて、運用に支障が生ずる事態となっていた。

(注5)
1県1村  秋田県、稲敷郡美浦村

なお、検査した19補助事業のうち、上記の2補助事業を含む3県7市町村(注6)が実施した10補助事業において、補助事業により構築した防災システムの運用に当たり、運用ルールを文書化したマニュアルが整備されていなかった。

(注6)
3県7市町村  秋田、香川、宮崎各県、八戸、印西、宇和島各市、山武郡九十九里、伊都郡かつらぎ、苫田郡鏡野各町、稲敷郡美浦村

(3) 防災システムの構築に関する支援が十分なものとなっていない事態

19補助事業(国庫補助金交付額計8億0926万余円)

貴省は、防災分野で地域課題を抱える地域が円滑かつ効率的にシステムを導入及び運用できることを目的として23年度仕様書を作成しており、これをホームページやセミナー等を通じて公表していたとしているものの、検査した19補助事業の全てにおいて、事業主体に対して23年度仕様書の直接の提供は行っておらず、事業主体に対する支援が十分なものとなっていなかった。

(改善を必要とする事態)

上記のとおり、補助事業の実施に当たり、一斉配信メール機能に不必要な重複が生じていたり、構築した防災システムの機能の一部が当初の計画どおりに使用できないなどの状態となっていたり、また、貴省において、事業主体に対して23年度仕様書の直接の提供を行っておらず、事業主体に対する支援が十分なものとなっていなかったりしている事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

ア 事業主体において、防災システムの構築に当たり、県と管内市町村との間で一斉配信メール機能についての調整が十分に行われていないこと

イ 事業主体において、防災システムの構築に当たり、入力する情報の内容等についての関係機関との調整及び協議並びに入力する情報の内容の妥当性に関する検討が十分でないこと

ウ 事業主体において、防災システムに入力すべき情報や担当部署等に関する運用ルールを明確に定めることについての必要性に対する理解が十分でないこと

エ 貴省において、事業主体に対して、防災システムの構築及び運用に当たり参考となる情報の提供や指導を十分に行っていないこと

3 本院が要求する改善の処置

補助事業については25年度に終了するものの、災害関連等の情報通信基盤整備については、貴省による取りまとめやIT総合戦略本部の工程表において、中長期的に実現すべき取組として明記されていることなどから、今後も、引き続き関連事業が実施されることが見込まれる。また、地方公共団体においては、東日本大震災等を契機として防災関連の業務が増加傾向にあり、事業の効率的な実施に当たっては、国からのきめ細かい支援が不可欠となっている。

ついては、貴省において、防災関連の情報通信基盤整備事業を経済的、効率的、効果的に実施し、地域住民の災害時の迅速かつ適確な対応に資するよう、次のとおり改善の処置を要求する。

ア 事業主体に対して、一斉配信メール機能について、市町村と県との間で不必要な重複を生ずることがないように調整を行うよう、また、構築した防災システムの機能の一部が計画どおりに利用できないなどの事業主体に対して、その解決に努めるよう、指導を行うこと

イ 事業主体に対して、災害時等に防災システムの保有する機能を十分活用し迅速な対応を行うことを可能とするために、防災システムに入力すべき情報や担当部署等を定めた運用ルールを文書化した運用マニュアルを整備するよう、指導を行うこと

ウ 地方公共団体に対して、今後の同種事業の実施に当たり、参考となるような情報提供を十分に行ったり、指導を行ったりするとともに、不必要な機能の重複が生じないように関係する地方公共団体等と事前の協議をしたり、防災システムの構築に当たって入力する情報の内容の妥当性を十分に検討したりすることなどの必要性について更なる周知を行うこと