【是正改善の処置を求めたものの全文】
刑事施設における診療所管理運営業務委託費の支払について
(平成26年10月24日付け 法務大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
貴省の施設等機関である刑務所、少年刑務所及び拘置所(以下、これらを合わせて「刑事施設」という。)は、被収容者が負傷し、又は疾病にかかったときなどには、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成17年法律第50号。以下「刑事収容施設法」という。)の規定に基づき、原則として刑事施設内に設けられた診療所等において当該施設の職員である医師等により診療を行うこととなっている。
しかし、刑事施設の中には、様々な事情により、当該施設の職員である医師を確保することが困難である施設も見受けられる。このような状況を考慮するなどして、全77刑事施設のうち、月形刑務所、喜連川社会復帰促進センター、長野刑務所、島根あさひ社会復帰促進センター及び美祢社会復帰促進センター(以下、これらを合わせて「5刑事施設」という。)は、平成19年5月から22年4月にかけて、順次、所在地域の医療法人又は地方公共団体と診療所管理運営業務委託契約を締結し、刑事施設内に設けられた診療所における被収容者の診療、健康診断等の業務を当該医療法人又は地方公共団体に委託している。
委託契約書等によれば、月形刑務所は20年4月から、喜連川社会復帰促進センターは24年6月から、長野刑務所は22年4月から、島根あさひ、美祢両社会復帰促進センターは24年4月から、それぞれ診療所管理運営業務に要する経費を、〔1〕被収容者に対する診療等の医療費の部分と、〔2〕非常勤職員雇用費、諸経費等の医療費以外の部分とに区分し、〔1〕については、診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号。以下「厚生労働省告示」という。)により算定した所定の診療点数に1点当たりの単価(5刑事施設のうち月形刑務所は4.71円(注1)、残りの4刑事施設は10円)を乗じた額を委託先が5刑事施設に対して請求することとされている。そして、5刑事施設は、請求内容を審査した上、適当であると認めた場合に委託費を支払うこととされている。
刑事収容施設法において、刑事施設は、被収容者の健康等を保持するため、社会一般の医療の水準に照らし適切な医療上の措置を講ずると規定されている。
また、厚生労働省告示等は、本来、保険診療(公的医療保険の保険給付として行われる診療をいう。以下同じ。)の診療報酬の算定要件等を定めたものであるが、自由診療の医療費の算定基準としても広く用いられている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、効率性等の観点から、診療所管理運営業務委託費の支払に際して、医療費の請求が、厚生労働省告示等に定められた算定要件に基づいて適正に算定された請求額により行われているかなどに着眼して、5刑事施設のうち長野刑務所については23、24両年度、残りの4刑事施設については24年度にそれぞれ支払われた診療所管理運営業務委託費計9億4315万余円のうち、医療費計5億9847万余円を対象として検査した。
検査に当たっては、5刑事施設において、診療所管理運営業務の委託先である医療法人又は地方公共団体(以下「医療法人等」という。)から毎月の請求書に添付して提出された診療報酬明細書(レセプト)の請求内容と、刑事施設の医務部門に保管されている診療録(以下「カルテ」という。)に記載された診療内容とを突合したり、刑事施設の職員を通じて医療法人等の医療費の算定方法等を確認したりするなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
5医療法人等(注2)は、厚生労働省告示等に定められた算定要件を満たしていないのに、診療行為に係る診療点数を算定し、これに1点当たりの単価を乗じた額を医療費として請求していた。
そして、5刑事施設は、委託費の支払に当たり、これらの請求を適当であると認め、計1億8548万余円の医療費を支払っていた(表参照)。
表 5刑事施設における厚生労働省告示等に定められた算定要件を満たしていない医療費の支払状況
刑事施設名 | 年度 | 医療費の項目 | 医療法人等が厚生労働省告示等に定められた算定要件を満たしていないのに診療点数を算定していた件数(注) | 左に係る医療費の支払額 |
---|---|---|---|---|
月形刑務所 | 平成 24 |
特定疾患療養管理料 | 13,529 | 14,337,352 |
計 | 13,529 | 14,337,352 | ||
喜連川社会復帰促進センター | 24 | 生活習慣病管理料 | 778 | 8,263,700 |
特定疾患療養管理料 | 13,245 | 29,801,250 | ||
その他 | 15,110 | 1,511,000 | ||
計 | 29,133 | 39,575,950 | ||
長野刑務所 | 23 | 生活習慣病管理料 | 3,022 | 32,442,850 |
通院・在宅精神療法料 | 4,260 | 14,058,000 | ||
その他 | 12,734 | 1,273,400 | ||
計 | 20,016 | 47,774,250 | ||
24 | 生活習慣病管理料 | 2,958 | 31,835,050 | |
特定疾患療養管理料 | 454 | 1,021,500 | ||
通院・在宅精神療法料 | 4,258 | 14,051,400 | ||
その他 | 13,419 | 1,341,900 | ||
計 | 21,089 | 48,249,850 | ||
島根あさひ社会復帰促進センター | 24 | 生活習慣病管理料 | 1,730 | 13,089,450 |
特定疾患療養管理料 | 1,306 | 2,938,500 | ||
その他 | 5,526 | 3,482,920 | ||
計 | 8,562 | 19,510,870 | ||
美祢社会復帰促進センター | 24 | 生活習慣病管理料 | 1,191 | 8,477,000 |
特定疾患療養管理料 | 2,644 | 5,949,000 | ||
通院・在宅精神療法料 | 153 | 504,900 | ||
その他 | 189 | 1,100,950 | ||
計 | 4,177 | 16,031,850 | ||
合計 | 96,506 | 185,480,122 |
これらについて、その主な態様を医療費の項目の別に示すと次のとおりである。
生活習慣病管理料は、厚生労働省告示等によれば、脂質異常症、高血圧症又は糖尿病を主病とする患者に対して治療計画を策定し、作成した療養計画書に基づき、生活習慣に関する総合的な治療管理を行った場合に、月1回に限り算定することとされている。
しかし、4医療法人等は、療養計画書を作成していないなど、厚生労働省告示等に定められた算定要件を満たしていないのに同管理料を算定していた。また、このうち1医療法人等は、同管理料を月2回算定していた。
特定疾患療養管理料は、厚生労働省告示等によれば、高血圧性疾患、胃炎等の厚生労働大臣が定める疾患を主病とする患者に対して、治療計画に基づき、服薬、運動、栄養等の療養上の管理を行った場合に算定することとされている。また、当該療養上の管理を行った場合は、管理内容の要点をカルテに記載することとされている。
しかし、5医療法人等は、管理内容の要点をカルテに記載していないなど、厚生労働省告示等に定められた算定要件を満たしていないのに同管理料を算定していた。
通院・在宅精神療法料は、厚生労働省告示等によれば、当該療法を、精神科を標ぼうする医療機関の精神科を担当する医師が行った場合に限り算定することとされている。また、当該療法を行った場合は、その要点をカルテに記載することとされている。
しかし、2医療法人等は、カルテの記載によると、精神科を担当する医師以外の医師が当該療法を行うなどしていて、厚生労働省告示等に定められた算定要件を満たしていないのに同療法料を算定していた。また、2医療法人等は、行った療法の要点をカルテに記載していなかった。
そして、これらの請求については、カルテに治療管理、療養上の管理、精神療法等の内容が記載されていなかったなどのため、そもそも、治療管理、療養上の管理、精神療法等が実際に行われたかどうかについても確認できない状態となっていた。
一方、医療法人等は、刑事施設における診療は自由診療であって、このような厚生労働省告示等に定められた算定要件を満たしていない医療費の算定は、刑事施設と適宜協議した上で行っているものであり、当該算定方法については刑事施設との間に合意があったなどとしている。また、刑事施設も、合意に関する記録等は残していないものの、医療法人等との間でそのような合意があったなどと説明している。
しかし、刑事施設における診療は自由診療であるが、診療所管理運営業務委託における医療費の支払額の妥当性を確保するためには、その医療費の算定は、社会一般で行われる保険診療の診療報酬の算定に用いられる厚生労働省告示等に定められた算定要件を満たして行われる必要があり、刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがある場合を除き、厚生労働省告示等に定められた算定要件によらないなどの例外的な取扱いを認めるべきではないと認められた。
現に、刑事施設が被収容者を刑事施設外の病院等に通院又は入院させた場合の診療も自由診療であるが、この場合、刑事施設は当該病院等から厚生労働省告示等により算定した医療費の請求を受け、これを支払っている。
したがって、厚生労働省告示等に定められた算定要件を満たしていないのに、当該診療行為に係る診療点数を算定していた医療費1億8548万余円については、その支払額の妥当性が確保されていないと認められる。
(是正改善を必要とする事態)
このように、5刑事施設の診療所管理運営業務委託契約について、厚生労働省告示等に定められた算定要件を満たしていないのに、当該診療行為に係る医療費を支払っている事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、5刑事施設において、診療所管理運営業務委託の適正な運用についての理解が十分でないことにもよるが、貴省において、診療所管理運営業務委託に当たり、厚生労働省告示等に定められた算定要件によって医療費を支払うことの必要性についての認識が欠けており、5刑事施設に対して適切な指導を行っていないことなどによると認められる。
診療所管理運営業務委託契約に基づく被収容者に対する診療については、国の費用により行われていることから、その医療費の支払額の妥当性を確保することが強く求められている。
ついては、貴省において、5刑事施設に対して指導を行い、医療費の算定は、刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがある場合を除き、厚生労働省告示等に定められた算定要件を満たす場合に限ることを契約書等に明記するなどするよう是正改善の処置を求める。