法務省の施設等機関である刑務所、少年刑務所及び拘置所(以下、これらを合わせて「刑事施設」という。)は、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(平成17年法律第50号)に基づき、被収容者に、衣類、寝具、日用品等の物品であって、刑事施設における日常生活に必要なものを貸与し、又は支給している。
「被収容者に係る物品の貸与、支給及び自弁に関する訓令」(平成19年法務省矯成訓第3339号)によれば、刑事施設の長は、被収容者に、寝具として、毛布、掛布団、敷布団、枕等の物品を貸与することとされており、また、刑事施設の所在地の気候、被収容者の身体的状況等に応じて、物品の貸与の方法、時期及び数量を定めることとされている。
法務本省(以下「本省」という。)は、被収容者に貸与する毛布等の物品の一部について一括調達を行い、本省から各刑事施設へ管理換を行うことにより、各刑事施設の整備必要数に対応している。
上記毛布の一括調達に当たり、本省は、毎年度12月又は1月に、各刑事施設から被収容者被服更新整備必要数報告書等(以下「整備必要数報告書」という。)により翌年度の整備必要数を報告させている。そして、報告された整備必要数を集計するなどして、調達数量を算定し、翌年度に一般競争契約により調達している。
各刑事施設の物品管理官は、物品管理法(昭和31年法律第113号)等に基づき、物品管理簿を備えて、毛布等の管理する物品の分類、品目ごとに、前年度繰越数、増減等の異動数量、現在高その他物品の異動に関する事項等を、法務大臣の定めるところにより記録することとなっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、経済性等の観点から、各刑事施設において本省に報告している毛布の整備必要数が適切に算定され、ひいては本省における毛布の調達数量が適切に算定されているかなどに着眼して、全77刑事施設のうち12刑事施設(注)が本省に報告した整備必要数に基づいて、平成23、24、25各年度に本省が一括調達した毛布(調達額計1億1251万余円)を対象として検査した。
検査に当たっては、12刑事施設において、整備必要数報告書、物品管理簿等の書類を確認したり、担当者から毛布の整備必要数の算定方法について聴取したりするなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
12刑事施設は、22、23、24各年度に、計33,378枚の毛布を翌年度の整備必要数として本省に報告し、翌23、24、25各年度に本省が一括調達した計32,471枚の毛布の管理換を受けていた。
そして、12刑事施設のうち、広島、福岡両刑務所は、法務省の内部規程に反して毛布を消耗品として管理したり、前年度繰越数を記録することを失念したりなどしていて物品管理簿を適正に作成しておらず、正確な毛布の現在高を把握できない状況となっていた。
そこで、残りの10刑事施設の24年12月31日現在における毛布の物品管理簿上の現在高についてみたところ、計65,101枚であった。これに対して、同日における被収容者の収容現員に刑事施設の長が定めた一人当たり貸与枚数を乗じて得た被収容者への貸与枚数は計43,945枚であり、いずれの刑事施設においても現在高が貸与枚数を上回っていて、その開差は計21,156枚となっていた(表参照)。
表 毛布の物品管理簿上の現在高と被収容者への貸与枚数との比較(平成24年12月31日現在)
刑事施設名 | 物品管理簿上の現在高 (A) (枚) |
被収容者の収容現員 (B) (人) |
刑事施設の長が定めた一人当たり貸与枚数 (C) (枚) |
被収容者への貸与枚数 (D)=(B)×(C) (枚) |
開差 (E)=(A)-(D) (枚) |
---|---|---|---|---|---|
宮城刑務所 | 6,566 | 918 | 4 | 3,672 | 2,894 |
横浜刑務所 | 6,601 | 1,050 | 3 | 3,150 | 3,451 |
名古屋刑務所 | 9,620 | 2,213 | 3 | 6,639 | 2,981 |
京都刑務所 | 5,897 | 1,436 | 3 | 4,308 | 1,589 |
大阪刑務所 | 11,311 | 2,438 | 3 | 7,314 | 3,997 |
神戸刑務所 | 7,150 | 1,662 | 3 | 4,986 | 2,164 |
加古川刑務所 | 4,360 | 1,170 | 3 | 3,510 | 850 |
東京拘置所 | 7,780 | 1,781 | 3 | 5,343 | 2,437 |
大阪拘置所 | 4,628 | 1,323 | 3 | 3,969 | 659 |
福岡拘置所 | 1,188 | 527 | 2 | 1,054 | 134 |
計 | 65,101 | 14,518 | / | 43,945 | 21,156 |
広島刑務所 | 400 | 1,102 | 2 | 2,204 | △ 1,804 |
福岡刑務所 | 1,300 | 1,656 | 2 | 3,312 | △ 2,012 |
毛布については、予備分として一定の在庫は必要であるが、10刑事施設における開差が被収容者の収容現員に比べて過大であると思料されたため、12刑事施設の毛布の整備必要数の算定方法についてみたところ、12刑事施設は、次のような方法により行ったなどとしていた。
〔1〕 翌年度の収容見込人員数に、刑事施設の長が定めた一人当たり貸与枚数と一人当たり予備分の枚数とを加えた枚数を乗ずるなどして翌年度の必要見込数を算定する。
〔2〕 物品管理簿により整備必要数報告書作成時点の現在高を把握し、これに当該年度末までに本省から管理換を受ける予定の枚数を加え、更に翌年度末までの廃棄見込数を減じて、翌年度末の保有見込数を算定する。
〔3〕 〔1〕で算定した翌年度の必要見込数が〔2〕で算定した翌年度の保有見込数を上回った場合には、その差の数量を整備必要数として本省に報告する。
また、12刑事施設は、一人当たり予備分の枚数について、高齢者への増貸与分、洗濯又は天日干しする際の代替配布分、被収容者が汚損した場合の交換分等を見込んだとしていた。
しかし、12刑事施設は、これらの実績値を把握しておらず、具体的な根拠に基づかずに一人当たり予備分の枚数を算定していた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
大阪刑務所(管下5拘置支所を含めて収容定員3,109人)は、被収容者一人当たり3枚の毛布を貸与するほか、高齢者等の養護を必要とする者については、必要に応じて、個別に増貸与を決定することとしている。同刑務所は、平成23年度の本省への報告に当たり、24年度の収容見込人員数を2,900人として、次のとおり、24年度の必要見込数を算定していた。
すなわち、24年度の収容見込人員数2,900人のうち半数の1,450人に高齢者等として毛布を1枚増貸与すると想定して、一人当たり貸与枚数3枚に一人当たり予備分の枚数0.5枚を加えて3.5枚とし、更にその全体に1.2を乗じて24年度の必要見込数を12,180枚と算定していた。
しかし、同刑務所は、高齢者等への増貸与の実績値を把握しておらず、具体的な根拠に基づかずに一人当たり予備分の枚数を算定していた。また、1.2の数値についても、その算定根拠について合理的に説明することができなかった。
また、大阪刑務所及び東京拘置所は、具体的な根拠に基づかずに廃棄見込数を算定していたため、算定した廃棄見込数が過去の廃棄の実績値を大きく上回っていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
東京拘置所(収容定員3,010人)は、平成24年度の本省への報告に当たり、物品管理簿により整備必要数報告書作成時点(25年1月)の現在高を7,691枚と把握し、これに24年度末までに本省から管理換を受ける予定の997枚を加え、更に25年度末までの廃棄見込数3,200枚を減じて、25年度の保有見込数を5,488枚と算定していた。
そして、この廃棄見込数について、24年度末までに廃棄予定のものを600枚、25年度中の廃棄予定のものを2,600枚、計3,200枚と算定したとしているが、これらはいずれも、具体的な根拠に基づかずに算定していた。
一方、物品管理簿によれば、22年度の廃棄枚数は165枚、23年度の廃棄枚数は164枚となっており、同拘置所の算定した廃棄見込数は実績値と大きくかい離していた。
このように、12刑事施設が22、23、24各年度に本省に報告した整備必要数計33,378枚は適切に算定されていなかった。
前記のように、毛布の一括調達を行うに当たり、本省は、各刑事施設が報告した整備必要数に基づいて調達数量を算定していることから、整備必要数が適切に算定されていなければ、調達数量も適切に算定されないことになる。
このため、12刑事施設において適切に算定されていない前記毛布の整備必要数計33,378枚に基づいて、本省が12刑事施設へ管理換を行うために一括調達した計32,471枚(調達額計1億1251万余円)は、その数量が適切に算定されていないと認められた。
以上のように、12刑事施設において、毛布の整備必要数の算定に用いた予備分の枚数や廃棄見込数が具体的な根拠、実績値等に基づかないなどしていて整備必要数が適切に算定されておらず、ひいては本省において、調達数量が適切に算定されていない事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、12刑事施設において、毛布の整備必要数の算定を適切に行うことなどの重要性に対する認識が欠けていたことにもよるが、本省において、具体的な根拠、実績値等に基づいた整備必要数の算定方法を定めていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、法務省は、26年9月に刑事施設等に事務連絡を発して、刑事施設が本省に報告する毛布の整備必要数について、具体的な根拠、実績値等に基づいた算定方法を定め、これを周知徹底するなどの処置を講じた。