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  • 平成25年度|
  • 第3章 個別の検査結果|
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(1) 政府開発援助の実施に当たり、事業の完了前に不具合が発生した場合に建設コンサルタントに対してその原因を適切に究明するよう働きかけるなどして援助の効果が十分に発現するよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)外務本省 (項)経済協力費
部局等
外務本省、独立行政法人国際協力機構
政府開発援助の内容
無償資金協力
検査及び現地調査の実施事業数並びにこれらの事業に係る贈与額計
84事業 416億1623万余円(平成12年度~25年度)
援助の効果が十分に発現していないと認められる事業数及びこれらの事業に係る贈与額計
3事業   10億0229万円(背景金額)(平成20、21、23各年度)
援助の効果が全く発現していないと認められる事業数及び贈与額
1事業      644万円(平成17年度)

【意見を表示したものの全文】

政府開発援助の効果の発現について

(平成26年10月30日付け 外務大臣 独立行政法人国際協力機構理事長宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 政府開発援助の概要

我が国は、国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資することを目的として、政府開発援助を実施している。

そして、政府開発援助について、外務省は、援助政策の企画立案や政策全体の調整等を行っている一方、独立行政法人国際協力機構(以下「機構」という。)は、開発途上にある海外の地域(以下「開発途上地域」という。)に対する技術協力の実施、有償及び無償の資金供与による協力の実施等を行っている。このほか、各府省庁がそれぞれの所掌に係る国際協力として技術協力を実施するなどしている。

無償資金協力は、開発途上地域の政府等又は国際機関に対して、返済の義務を課さないで資金を贈与することにより行われるものである。無償資金協力は、平成20年9月までは外務省が実施し機構がその一部の実施の促進に必要な業務を行っていたが、同年10月以降は、外務省が実施する一部の無償資金協力を除き、機構が実施することとなっている。そして、外務省が実施する無償資金協力のうち、草の根・人間の安全保障無償資金協力は、比較的小規模なプロジェクトに対して、在外公館が資金を贈与するものである。

技術協力は、開発途上地域からの技術研修員に対する技術の研修、開発途上地域に対する技術協力のための人員の派遣、機材の供与等を行うもので、機構(15年9月30日以前は国際協力事業団)や各府省庁が実施することとなっている。

有償資金協力は、開発途上地域の政府等又は国際機関に対して、資金供与の条件が開発途上地域にとって重い負担にならないように金利、償還期間等について緩やかな条件が付されている資金を供与することにより行われるもので、機構(11年9月30日以前は海外経済協力基金。同年10月1日から20年9月30日までは国際協力銀行)が実施することとなっている。

25年度における政府開発援助の実績は、外務省及び機構が実施した無償資金協力1764億9888万余円、機構が実施した技術協力764億2140万余円及び有償資金協力7495億4626万余円となっている。

2 本院の検査及び現地調査の結果

(検査及び現地調査の観点及び着眼点)

本院は、政府開発援助について、外務省又は機構が実施する無償資金協力、技術協力及び有償資金協力(以下、これらを合わせて「援助」という。)を対象として、合規性、経済性、効率性、有効性等の観点から次の点に着眼して検査及び現地調査を実施した。

〔1〕 外務省及び機構は、事前の調査、審査等において、援助の対象となる事業が、援助の相手となる国又は地域(以下「相手国」という。)の実情に適応したものであることを十分に検討しているか、また、交換公文、借款契約等に則して援助を実施しているか、さらに、援助を実施した後に、事業全体の状況を的確に把握、評価して、必要に応じて援助効果発現のために追加的な措置を執っているか。

〔2〕 援助の対象となった施設、機材等は当初計画したとおりに十分に利用されているか、また、事業は援助実施後においても相手国等によって順調に運営されているか、さらに、援助対象事業が相手国等が行う他の事業と密接に関連している場合に、その関連事業の実施に当たり、は行等が生じないよう調整されているか。

(検査及び現地調査の対象及び方法)

本院は、外務本省及び機構本部において協力準備調査報告書等により援助対象事業の説明を聴取するなどして会計実地検査を行うとともに、在外公館及び機構の在外事務所において事業の実施状況について説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。

さらに、本院は、援助の効果が十分に発現しているかなどを確認するために、26年次に11か国(注)において、無償資金協力84事業(贈与額計416億1623万余円)、技術協力45事業(経費累計額143億2058万余円)、有償資金協力8事業(貸付実行累計額4305億2424万余円)、計137事業について、外務省又は機構の職員の立会いの下に相手国等の協力が得られた範囲内で、相手国の事業実施責任者等から説明を受けたり、事業現場の状況を確認したりして現地調査を実施した。また、相手国等の保有している資料で調査上必要なものがある場合は、外務省又は機構を通じて入手した。

(注)
11か国  バングラデシュ人民共和国、カメルーン共和国、ドミニカ共和国、エチオピア連邦民主共和国、キルギス共和国、マレーシア、ルワンダ共和国、東ティモール民主共和国、トンガ王国、トルコ共和国、ザンビア共和国

(検査及び現地調査の結果)

検査及び現地調査を実施したところ、無償資金協力3事業(贈与額計10億0229万余円)については援助の効果が十分に発現しておらず、また、無償資金協力1事業(贈与額644万余円)については援助の効果が全く発現していなかった。

(1) 援助の効果が十分に発現していない事業

ア 一般プロジェクト無償資金協力:リビングストン市道路整備計画

(ア) 事業の概要

この事業は、ザンビア共和国(以下「ザンビア」という。)において、リビングストン市から南部の国境に至る幹線道路であり、経年等による路面の損傷が激しいモシ・オツンヤ道路(延長13.0km)の機能を回復させるために、全区間にわたる舗装の打換えなどを行うものである。

外務省は、20年7月にザンビア政府との間で取り交わした交換公文に基づき、この事業に必要な資金として20年度4億1557万余円、21年度5億6724万余円、計9億8282万余円をザンビア政府に贈与している。

そして、ザンビア政府は、日本の建設コンサルタント及び施工業者とそれぞれ契約を締結して、当該道路の舗装の打換えなどの設計、施工等を実施している。

(イ) 検査及び現地調査の結果

検査及び現地調査を実施したところ、機構は、建設コンサルタントから、しゅん工前にアスファルト舗装の一部に凹凸等が生ずる不具合が発生していた旨の報告を受け、建設コンサルタントに対して不具合の原因を究明して補修するよう働きかけを行っていた。これに対して、建設コンサルタント及び施工業者は、路盤表面処理剤の散布が若干多くなった箇所に、昼間の舗装面の高温化、トラック荷重等の外部要因が絡んだことが不具合の原因であるとして、不具合の発生箇所を補修して、22年3月にしゅん工させていた。

しかし、しゅん工直後から、同様の不具合が新たに発生し、車両の安全走行に支障を来すこととなったため、機構、建設コンサルタント及び施工業者が調査したところ、施工業者が舗装に用いたアスファルト合材の配合が契約の仕様から逸脱していたことが確認された。

そこで、外務省及び機構は、施工業者に対して、24年11月から一定期間、政府開発援助事業への参加を認めないとする措置を講じた。また、外務省及び機構は、施工業者に対して当該道路の全区間を対象として補修を実施するよう働きかけたが、補修は実施されなかった。

そして、ザンビア政府は、別途に資金(邦貨換算額約15億円)を投じて、道路の大部分(延長計12.7km)について補修等を実施して、25年7月から供用を開始した。

イ 草の根・人間の安全保障無償資金協力:貧困女性と青少年のためのバングラデシュ福祉協会職業訓練センター建設計画

(ア) 事業の概要

この事業は、バングラデシュ人民共和国(以下「バングラデシュ」という。)中部のナラヤンガンジ県において、貧困女性と青少年に縫製等の技術を身に付けさせて同県の地域全体の経済状況を向上させるために、宿泊施設を伴う職業訓練センターとして、将来的には増築する予定の建物の1階及び2階部分(延床面積計約716m2)を先行して建設するものである。

在バングラデシュ日本国大使館(以下「バングラデシュ大使館」という。)は、この事業の事業実施機関であるバングラデシュ福祉協会との間で22年1月に贈与契約を締結して、同月に職業訓練センターの建設のための資金として94,009米ドル(邦貨換算額968万余円)を贈与している。

(イ) 検査及び現地調査の結果

検査及び現地調査を実施したところ、事業実施機関は、職業訓練センターの完成後に増築工事を行っていたり、バングラデシュの国政選挙を控えて街頭活動が頻発して受講生の募集等に手間取って職業訓練の開始が遅れたりしたことなどから、同センターが完成した24年1月から26年2月までの約2年間、同センターを全く使用していなかった。

しかし、バングラデシュ大使館は、26年2月にフォローアップ調査を実施するまで職業訓練センターが使用されていないことを把握していなかった。

そして、26年2月に職業訓練センターにおける職業訓練が開始され、バングラデシュ大使館は、事業実施機関に対して受講生を増加させるよう働きかけを行っているとしているが、本院の現地調査実施時(26年5月)における同センターの受講生の受入れ状況からすると、受講生の受入れは、計画の年間960人に対して240人程度にとどまると見込まれた。

ウ 草の根・人間の安全保障無償資金協力:アディスアベバ市北山エグジアブレヘブ教会小学校拡張計画

(ア) 事業の概要

この事業は、エチオピア連邦民主共和国(以下「エチオピア」という。)のアディスアベバ市グラレ副都市において、低所得者層の子供用に低価な学費で運営している小学校を拡張することによって教育環境の改善及び教育機会の拡大を図るために、新たに校舎2棟の建設等を行うものである。

在エチオピア日本国大使館(以下「エチオピア大使館」という。)は、この事業の事業実施機関であるエチオピア正教会デブレシナ・キディス・エグジアブレヘブ教会との間で24年3月に贈与契約を締結して、同月に校舎の建設等のための資金として109,969米ドル(邦貨換算額978万余円)を贈与している。

(イ) 検査及び現地調査の結果

検査及び現地調査を実施したところ、事業実施機関は、当初、25年3月までに既存校舎の校庭内に新校舎を建設し、同年9月に使用を開始する計画であったが、建設場所を既存校舎に隣接した空地に変更した上で、25年6月に新校舎を完成させるなどしていた。

しかし、エチオピア国内では、学校の校舎の周囲にはフェンスを整備する必要があり、事業実施機関は、新校舎の建設場所の変更に伴い、自らの負担で新たにフェンスを整備する必要があったのに、その整備ができていなかった。このため、新校舎については、一時的に会合等で使用されることはあるものの、学校として使用できない状況となっていた。

(2) 援助の効果が全く発現していない事業<草の根・人間の安全保障無償資金協力:トゥカ水供給・公衆衛生改善計画>

ア 事業の概要

この事業は、エチオピアのオロミア州トゥカ村等4村において、地域住民に安全な飲料水を供給するために、手動ポンプ付井戸6本の掘削等を行うものである。

エチオピア大使館は、この事業の事業実施機関であるオロミア州政府水資源局との間で17年8月に贈与契約を締結して、同年12月に井戸の掘削等のための資金として60,278米ドル(邦貨換算額644万余円)を贈与している。

イ 検査及び現地調査の結果

検査及び現地調査を実施したところ、事業実施機関は、地下の水源調査を実施した上で、最初に井戸3本を掘削したが、全て枯れ井戸であった。そして、事業実施機関は、改めて周辺の地下の水源調査等を実施したが、新たな井戸の掘削は困難と判断し、20年12月に計画の変更をエチオピア大使館に申請し、井戸に代えてため池を建設することとした。

その後、エチオピア大使館は、事業の進捗状況について事業実施機関から報告を受けたり、事業実施機関に赴いたりするなどしてモニタリングを行ったとしているが、事業は進捗せず、25年7月に、事業実施機関から計画を再度変更して、ダムを建設するとした計画書の提出を受けた。しかし、エチオピア大使館は、この計画の内容が、変更前のため池を建設する計画の内容と全く異なるものであったことなどから、25年10月に、この事業を中止することにした。

(改善を必要とする事態)

以上のように、援助の効果が十分発現していない事態及び援助の効果が全く発現していない事態は適切ではなく、外務省及び機構において必要な措置を講じて効果の発現に努めるなどの改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。

ア リビングストン市道路整備計画については、施工業者がしゅん工後に発生した不具合を補修しなかったことにもよるが、機構において、しゅん工前に発生した不具合について、建設コンサルタントに原因の究明をさせていたものの、アスファルト合材の配合が契約の仕様から逸脱していたことを確認できなかったこと

イ 貧困女性と青少年のためのバングラデシュ福祉協会職業訓練センター建設計画については、外務省において、職業訓練センターが使用されていないことを把握しておらず、同センターを計画どおりに使用させるための働きかけが遅れたこと

ウ アディスアベバ市北山エグジアブレヘブ教会小学校拡張計画については、外務省において、校舎の建設場所の変更に伴い、事業実施機関が自らの負担で実施することとなった施設の整備についての進捗に向けた働きかけが十分でなかったこと

エ トゥカ水供給・公衆衛生改善計画については、外務省において、事業実施機関が井戸の掘削前に行った地下水源調査の結果の確認が十分でなかったこと及び事業実施機関に対して計画変更された事業が長期化しないための働きかけが必ずしも十分でなかったこと

3 本院が表示する意見

援助の効果が十分に発現するよう、次のとおり意見を表示する。

ア リビングストン市道路整備計画については、機構において、今後、施設整備を伴う一般プロジェクト無償資金協力を実施するに当たっては、事業の完了前に不具合が発生した場合、建設コンサルタントに対してその原因を適切に究明するよう働きかけるとともに、その報告内容を十分に確認すること

イ 貧困女性と青少年のためのバングラデシュ福祉協会職業訓練センター建設計画については、外務省において、受講生を増加させるよう事業実施機関に対して引き続き働きかけるとともに、今後、草の根・人間の安全保障無償資金協力で宿泊施設を伴う職業訓練施設を建設する事業を実施するに当たっては、施設が計画どおりに使用されているかを随時確認し、計画どおりに使用されていない場合、事業の目的が達成されるよう適時適切な働きかけを行うこと

ウ アディスアベバ市北山エグジアブレヘブ教会小学校拡張計画については、外務省において、新校舎を早急に使用できるようにするため、事業実施機関に対してフェンスの整備を促すとともに、今後、草の根・人間の安全保障無償資金協力を実施するに当たっては、建設場所を変更するなどして当初想定していた条件が変更になり、事業実施機関が自己負担で施設の整備を行うなどの場合、これによる事業費の増加等が及ぼす事業への影響を十分に検討すること

エ トゥカ水供給・公衆衛生改善計画については、外務省において、今後、草の根・人間の安全保障無償資金協力で井戸を掘削する事業を実施するに当たっては、事業実施機関が井戸の掘削前に行う地下水源調査の結果を十分に確認するとともに、当初の計画を変更する場合、事業費の増加等を調査するなどした上で事業が長期化しないよう事業実施機関に十分に働きかけを行うこと