財務省は、国有資産等所在市町村交付金法(昭和31年法律第82号。以下「交付金法」という。)に基づき、国が所有する固定資産で国以外の者が使用している土地、建物等の貸付財産のうち財務省が所管するものについて、原則として国有資産等所在市町村交付金(以下「交付金」という。)を貸付財産が所在する市町村(特別区にあっては東京都。以下同じ。)に対し固定資産税に代わるものとして、毎年度交付している。
交付金として交付すべき金額(以下「交付金額」という。)は、交付金算定標準額に100分の1.4を乗じて得た額とされており、この交付金算定標準額は固定資産の価格とされている。そして、固定資産の価格は、原則として国有財産台帳価格(以下「台帳価格」という。)とされており、財務(支)局及び沖縄総合事務局(以下「財務(支)局等」という。)は、毎年度、当該年度の初日の属する年の前年(以下「前年」という。)の3月31日現在における台帳価格等を前年の11月30日までに貸付財産が所在する市町村に通知することとなっている。
一方、市町村は、交付金法第9条の規定等に基づき、上記により通知された貸付財産に係る台帳価格等が、類似する固定資産で固定資産税を課されるものに係る固定資産税の課税標準の基礎となるべき価格(以下「比準額」という。)と著しく異なると認める場合は、比準額を固定資産の価格として通知すべき旨の申出を前年の12月31日までに、財務(支)局等に行うことができることとなっている。そして、財務(支)局等は、上記の申出があった場合において、正当な理由があると認めるときは、当該固定資産の価格を市町村に通知しなければならないこととなっている(以下、この通知による修正を「9条修正」という。)。
財務省は、交付金の事務処理を国有財産総合情報管理システムのサブシステムである交付金機能(以下「交付金システム」という。)を使用して行っており、交付金システムには交付金の対象となる貸付財産(以下「客体」という。)ごとの台帳価格、貸付料年額、比準額等の交付金の算定に必要なデータが登録された台帳(以下「客体台帳」という。)が備えられている。
そして、財務省理財局国有財産企画課は、交付金事務の適正な執行のために、平成17年9月に「市町村交付金事務マニュアル」(以下「マニュアル」という。)を定めている。
マニュアルによれば、財務(支)局、沖縄総合事務局、財務事務所及び出張所等は、交付金額が貸付料年額を上回る事態(以下「逆ざや」という。)が生じている場合は、何らかの要因から、貸付料が著しく低い又は交付金額が著しく高いと考えられることから、逆ざやとなっている客体を把握するために台帳価格により算出した仮の交付金額が貸付料年額を上回っている客体が載った交付客体チェックリストを交付金システムから出力して、これらの客体について、逆ざやとなっている要因を分析することとされている。
財務省は、普通財産貸付事務処理要領(平成13年財理第1308号)において貸付財産の貸付料の算定方法等を定めている。これによれば、土地等の貸付料の基となる貸付料基礎額は、従前の貸付料に地価変動率等により求めたスライド率を乗ずるなどして算定することとされているが、貸付料基礎額が交付金額を下回る場合であって、その原因が一定地域の民間実例等の実情に照らして低廉な貸付料にあるときは、特例として民間精通者の意見価格等を基礎として貸付料基礎額を修正することなどとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
前記のとおり、逆ざやとなっている客体を把握するために出力される交付客体チェックリストは、台帳価格により算出された仮の交付金額が貸付料年額を上回っている客体を対象として作成することとなっている。一方、9条修正が行われた場合の交付金額は、台帳価格に代えて比準額により算出されるため、交付客体チェックリストの対象ではない客体でも、9条修正によって逆ざやとなる可能性がある。
そこで、本院は、経済性、効率性、有効性等の観点から、9条修正によって逆ざやとなっている客体があるか、その把握及び要因の分析が適切に行われているかなどに着眼して、全国の11財務(支)局等のうち24年度に9条修正を行っていた3財務局(注)において、25年度に支払った交付金に係る客体のうち、9条修正を行っていた8,868件の客体を対象として、客体台帳、9条修正をすべき旨の申出書等の書類により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
前記8,868件の客体について検査したところ、表のとおり、3財務局における269件が9条修正によって逆ざやとなっており、これらの交付金額計2億1848万余円は、貸付料年額計1億4404万余円を計7444万余円上回っていた。そして、交付金システムには、これらの客体に係る比準額も登録されており、これを活用すれば、9条修正によって逆ざやとなる客体の把握が可能であった。
財務局 | 9条修正の件数 | 左のうち逆ざやとなっていたもの | |||
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件数 | 交付金額計 (A) |
貸付料年額計 (B) |
差額 (A-B) |
||
関東財務局 | 7,813 | 230 | 215,537,622 | 142,023,544 | 73,514,078 |
近畿財務局 | 1,044 | 37 | 2,946,652 | 2,020,452 | 926,200 |
中国財務局 | 11 | 2 | 1,474 | 1,225 | 249 |
計 | 8,868 | 269 | 218,485,748 | 144,045,221 | 74,440,527 |
(注) 逆ざやとなっていた269件には、9条修正の申出前から逆ざやとなっていたものを含んでいない。
しかし、3財務局は、交付客体チェックリストがマニュアルに基づき、台帳価格により算出された仮の交付金額が貸付料年額を上回っている客体を対象として作成されていたことから、上記の逆ざやとなっている客体の把握及び逆ざやとなっている要因の分析を行っていなかった。
9条修正によって逆ざやとなっていた事例を示すと次のとおりである。
<事例>
東京財務事務所は、管内に所在する土地(平成23年度末現在の台帳価格20億6579万余円)を貸し付けており、25年度の交付金額算定時の貸付料年額は3172万余円となっていた。そして、同財務事務所は、上記の台帳価格に基づき、仮の交付金額を2892万余円と算定していた。一方、関東財務局は、同土地に係る交付金額について、東京都からの9条修正の申出を受け、東京都が提示した比準額48億1198万余円に基づき6736万余円を支払っていたことから、3564万余円の逆ざやとなっていた。
したがって、財務省において、前記のとおり、逆ざやとなっている客体を把握して、その要因の分析を行い、その原因が一定地域の民間実例等の実情に照らして低廉な貸付料にあるときは、土地等の貸付料の基となる貸付料基礎額を修正するなどとされているにもかかわらず、9条修正によって逆ざやとなる客体の把握及びその要因の分析を行っていなかった事態は、貸付料が低廉なものとなっているなどの状況を看過することにつながることから適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、財務省において、9条修正によって逆ざやとなる客体についても把握を行う必要性についての理解が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、財務省は、26年4月にマニュアルを改訂して、9条修正によって逆ざやとなる客体についても的確に把握し、その要因の分析を適時適切に行うこととする処置を講じた。