財務省は、国有資産等所在市町村交付金法(昭和31年法律第82号)に基づき、国が所有する固定資産で国以外の者が使用している土地、建物等(以下「貸付財産」という。)について、原則として国有資産等所在市町村交付金(以下「交付金」という。)を貸付財産が所在する市町村等に対して固定資産税に代わるものとして毎年度交付している。国家公務員宿舎法(昭和24年法律第117号)に基づき国が国家公務員等に貸与する宿舎(以下「宿舎」という。)については、職員の居住の用に供されることから、原則として、貸付財産として交付金の対象となっている。
そして、財務(支)局及び沖縄総合事務局(以下「財務(支)局等」という。)は、宿舎のうち、2以上の府省等の職員に貸与する目的で設置し、財務(支)局等、財務事務所及び出張所(以下、これらを「財務局等」という。)が管理している宿舎(以下「合同宿舎」という。)について、その交付金算定標準額(以下「算定標準額」という。)に100分の1.4を乗じた額を当該合同宿舎の所在する市町村等に対して交付金として交付している。算定標準額は、原則として交付金交付年度の初日の属する年の前年の3月31日(以下「基準日」という。)現在の合同宿舎の土地等の国有財産台帳価格の6分の1の額等となっている。また、廃止決定された合同宿舎について、基準日現在で1棟内全ての被貸与者が退去している場合(基準日に退去が完了した場合を含む。)は、その棟に係る土地、建物等は当該基準日の属する年度の翌々年度の交付金の対象としないこととなっている。
財務省は、合同宿舎を老朽化等のため廃止する際には、当該宿舎について廃止することを決定して、新規の入居を停止し、「宿舎の廃止に伴い被貸与者に対して宿舎の明渡しを請求する場合の取扱い等について」(平成14年財理第3761号財務省理財局長通達)に基づき、被貸与者に対して一定の期間内に退去するよう要請することとしている(以下、この要請のことを「退去要請」という。)。同通達によれば、退去要請の期間については、被貸与者の家族構成等の家庭の状況に配慮し、代替宿舎の確保の状況等を考慮した上で、おおむね2年から3年の期間で設定することとされている(以下、このようにして設定した退去期限のことを「退去期限日」という。)。そして、各財務局等は上記により合同宿舎の退去期限日を設定している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、廃止決定された合同宿舎の退去期限日は基準日を考慮して設定されているかなどに着眼して、28財務局等(注1)が管理する合同宿舎のうち廃止決定されて退去期限日が平成23年度又は24年度に設定されていた計325棟を含む72住宅について24年度又は25年度に交付された交付金(24年度計3億8436万余円、25年度計1億1467万余円、合計4億9904万余円)を対象として検査した。検査に当たっては、17財務局等(注2)において棟別の被貸与者の退去状況を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、残りの財務局等については、上記と同様の内容を書面にて確認するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
28財務局等は、廃止決定した合同宿舎について、前記の通達に基づき、おおむね2年から3年の期間を設定して被貸与者に対する退去要請をしていた。前記の325棟を退去期限日の設定時期別に分類すると、表のとおり、161棟は退去期限日が基準日である3月31日を経過後3か月以内の第1四半期(156棟は4月30日、残りの5棟は5月11日)に設定されており、これらの退去期限日の設定に当たり、基準日が考慮されていなかった。
年度 | 退去期限日の設定時期 | 計 | |||
---|---|---|---|---|---|
第1四半期 | 第2四半期 | 第3四半期 | 第4四半期 | ||
平成23年度 | 棟 | 棟 | 棟 | 棟 | 棟 |
96 | 30 | 46 | 9 | 181 | |
53.0% | 16.6% | 25.4% | 5.0% | 100.0% | |
24年度 | 65 | 33 | 0 | 46 | 144 |
45.1% | 22.9% | 0.0% | 32.0% | 100.0% | |
計 | 161 | 63 | 46 | 55 | 325 |
49.5% | 19.4% | 14.2% | 16.9% | 100.0% |
(注) 下段は、棟数の年度計又は総計に対する比率である。
そして、このうち11財務局等(注3)が管理する127棟は、被貸与者が退去期限日の直前の基準日である3月31日までに全て退去せず、当該基準日が属する年度の翌々年度の交付金の対象になっていた。
しかし、退去要請の期間はおおむね2年から3年の期間で設定されており、退去期限日までに十分な猶予期間があることなどから、退去期限日をその直前の基準日である3月31日以前に設定して、その日までに全ての被貸与者が退去していれば、当該基準日に対応する交付金を交付する必要がなくなるため、退去期限日を3月31日以前に早めて設定することができないか検討する必要がある。
このように、基準日を考慮することなく退去期限日を設定していて、交付金の節減の可能性を検討していなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(節減できた交付金の交付金額)
退去期限日を第1四半期に設定していた127棟について、交付金の節減の可能性を検討することにより、退去期限日をその直前の基準日である3月31日以前に設定して、その日までに全ての被貸与者が退去していれば、交付金の交付金額を24年度6204万余円、25年度3882万余円、計1億0086万余円節減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、合同宿舎の管理を行う財務局等において、廃止決定した合同宿舎の退去期限日の設定に当たり、交付金の節減の可能性を検討することの認識が欠けていたことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、財務省は、26年8月に各財務(支)局等に事務連絡を発して、各財務局等が廃止決定した合同宿舎の退去期限日の設定に当たり、被貸与者の事情や宿舎の事情に加えて、交付金の節減の可能性についても検討するよう周知する処置を講じた。