文部科学本省(以下「本省」という。)は、スポーツ基本法(平成23年法律第78号。平成23年8月23日以前はスポーツ振興法(昭和36年法律第141号))に基づいて策定されたスポーツ基本計画(平成24年3月30日文部科学省策定)に、「夏季・冬季オリンピック競技大会それぞれにおける過去最多を超えるメダル数の獲得」を目標の一つとして掲げている。そして、本省は、その実現を図るなどのために、一般競争契約又は随意契約により独立行政法人日本スポーツ振興センター(以下「センター」という。)に委託して、21年度から25年度までの間に「チーム「ニッポン」マルチ・サポート事業」等を、また、24、25両年度に「メダルポテンシャルアスリート育成システム構築事業」(以下、チーム「ニッポン」マルチ・サポート事業等と合わせて「スポーツ振興委託事業」という。)を、それぞれ実施している。
スポーツ振興委託事業の委託契約に係る国の会計経理は、会計法(昭和22年法律第35号)、予算決算及び会計令(昭和22年勅令第165号)等(以下、これらを合わせて「会計法令」という。)に基づいて行うこととなっている。
会計法令によれば、支出負担行為担当官が支出負担行為(国の支出の原因となる契約その他の行為)をするに当たっては、法令又は予算の定めるところに従って行うこととされており、委託費について支出負担行為として整理する時期は、契約を締結するときとされている。
また、契約を締結する場合には、原則として、契約書を作成しなければならないこととされている。
本院は、合規性等の観点から、スポーツ振興委託事業に係る会計経理が会計法令に基づき適正に実施されているかなどに着眼して、21年度から25年度までの間に締結したスポーツ振興委託事業に係る7契約(以下「7契約」という。)、契約金額計5,925,902,376円を対象として、本省において契約関係書類等を確認するなどして会計実地検査を行った。
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
本省は、7契約について、一般競争契約又は随意契約により契約の相手方をセンターとした上で契約書を作成し、これに記載した契約締結日と同日付けで支出負担行為を行ったとしていた。
しかし、支出負担行為担当官が契約を締結するために行っている決裁(以下「契約決裁」という。)の状況を確認したところ、本来、契約の締結に先立って行われる契約決裁の日付が7契約全てにおいて、契約書上の契約締結日のおよそ2か月後から10か月後となっており、支出負担行為担当官は契約決裁を行った後に、契約決裁の日付から遡った日付を契約締結日とした契約書を作成して契約を締結し、支出負担行為についても一部の変更契約を除き当該契約締結日に行ったこととしていた。そして、本省は、会計法令に定められた契約手続等を経ることなく、7契約全てに係る委託事業をセンターに実施させていた。
したがって、本省は、スポーツ振興委託事業に係る7契約、契約金額計5,925,902,376円において、不適正な会計経理を行っており、会計法令に違背していて不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、本省において、会計法令を遵守して適正な会計経理を行うことへの認識が欠けていたことなどによると認められる。