1件 不当と認める国庫補助金 268,635,000円
民間スポーツ振興費等補助金は、スポーツ基本法(平成23年法律第78号。平成23年8月23日以前はスポーツ振興法(昭和36年法律第141号))に基づき、我が国のスポーツの振興に寄与することを目的として、公益財団法人日本オリンピック委員会(23年3月31日以前は財団法人日本オリンピック委員会。以下「JOC」という。)等が行う選手強化事業等に要する経費に対して、その一部を国が補助するものである。この補助金の交付額は、上記の選手強化事業等を実施するために必要な経費のうち文部科学大臣が認める経費を補助対象経費として、予算の範囲内で定額となっている。
JOCは、選手強化事業の一環として、JOCに加盟する競技団体(以下「スポーツ団体」という。)に所属するオリンピック強化指定選手及びナショナルチームの強化を目的とする強化合宿事業等の事業(以下「選手強化NF事業」という。)、JOCがスポーツ団体からの推薦に基づき専任コーチングディレクター、専任メディカルスタッフ等(以下「専任コーチ等」という。)を設置し、世界で活躍するトップアスリートの育成を目的とする専任コーチ等設置事業等を行っている。
本院が、JOC及び17スポーツ団体(注)において会計実地検査を行ったところ、次のような事態が見受けられた。
部局等 | 事業主体 | 補助事業 | 年度 | 補助対象経費 | 左に対する国庫補助金交付額 | 不当と認める補助対象経費 | 不当と認める国庫補助金 | 摘要 | |
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千円 | 千円 | 千円 | 千円 | ||||||
(43) | 文部科学本省 | 公益財団法人日本オリンピック委員会 | 選手強化 | 21~24 | 14,732,862 | 9,791,050 | 403,071 | 268,635 | 不適正な経理処理など |
選手強化NF事業は、JOCがスポーツ団体に委託して実施する事業であり、JOCが選手強化NF事業に関して定めた要項(以下「NF要項」という。)によれば、選手強化NF事業の対象経費となる経費については、全てスポーツ団体が支払ったものであることを明確に説明できる証拠書類を整備することとされており、その対象経費の内容は、選手等の渡航費、滞在費、旅費、謝金等とされている。このうち、選手等を海外に派遣する際の宿泊費等に相当する滞在費については、1人当たり1泊2万円が対象経費の上限となっていて、次の書類を証拠書類として整備することとされている。
(ア) 海外遠征等の参加者個人に支給する場合は受領者個人による直筆の領収証
(イ) スポーツ団体が宿泊施設等へ直接宿泊費等を支払う場合は当該宿泊施設の発行した利用明細、請求書、領収証
しかし、社団法人日本フェンシング協会等10スポーツ団体(以下「10スポーツ団体」という。)は、23、24両年度に実施した選手強化NF事業で滞在費を計上している計478事業のうち、計347事業に係る滞在費計393,615,854円(国庫補助金計262,332,000円)において、実際には選手等の個人に滞在費の全部又は一部を支給していないのに、当該選手等にこれを支給したとする事実と相違する領収証を作成、提出させ、これを基に滞在費の額を算定していた。そして、10スポーツ団体は、この事実と相違する領収証を証拠書類として添付した実施報告書をJOCに提出し、滞在費に係る委託金の交付を受けていた。
上記の事実と相違する領収証を基に交付を受けていた滞在費の額及びこれに対する国庫補助金を、スポーツ団体別に示すと表のとおりである。
表 事実と相違する領収証を基に交付を受けていた滞在費の額及びこれに対する国庫補助金のスポーツ団体別の内訳
スポーツ団体名 | 事実と相違する領収証を基に交付を受けていた滞在費の額 | 左に対する国庫補助金 |
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財団法人全日本スキー連盟 | 107,459,000円 | 71,618,000円 |
公益財団法人日本テニス協会 | 19,101,900円 | 12,726,000円 |
財団法人日本体操協会 | 30,162,400円 | 20,101,000円 |
公益財団法人日本スケート連盟 | 21,503,000円 | 14,325,000円 |
公益財団法人日本セーリング連盟 | 51,180,000円 | 34,119,000円 |
一般社団法人日本ウエイトリフティング協会 | 11,364,000円 | 7,574,000円 |
社団法人日本フェンシング協会 | 69,397,478円 | 46,254,000円 |
公益財団法人全日本柔道連盟 | 32,029,151円 | 21,344,000円 |
公益社団法人日本カヌー連盟 | 33,808,925円 | 22,533,000円 |
公益社団法人日本カーリング協会 | 17,610,000円 | 11,738,000円 |
計 | 393,615,854円 | 262,332,000円 |
専任コーチ等設置事業は、JOCが専任コーチ等に委嘱して実施する事業であり、JOCは、JOCが専任コーチ等設置事業に関して定めた要項等(以下「専任コーチ等要項」という。)に基づき、毎月、各専任コーチ等に謝金を支払っている。この専任コーチ等に対する謝金の支払は、JOCが国庫補助金を財源として3分の2を負担し、残りの3分の1をスポーツ団体が負担することとなっている(以下、スポーツ団体が負担する分を「団体負担金」という。)。
しかし、JOCが21年度から23年度までの間に実施した社団法人日本ホッケー協会(以下「ホッケー協会」という。)に係る専任コーチ等設置事業において、ホッケー協会は、団体負担金の負担の回避を目的として、専任コーチ等2名がJOCから受領した謝金の一部をホッケー協会の関係団体に寄附させており、後にこの関係団体が同額をホッケー協会に寄附していて(以下、専任コーチ等2名が行った寄附を「負担回避目的の寄附」という。)、専任コーチ等2名はこれらに係る謝金計9,456,000円を実質的に受領していなかった。
したがって、ア及びイのとおり、選手強化NF事業において、10スポーツ団体が事実と相違する領収証を基に交付を受けていた滞在費計393,615,854円に係る国庫補助金計262,332,000円が不適正に支払われており、また、専任コーチ等設置事業において、ホッケー協会が行わせていた負担回避目的の寄附により専任コーチ等2名が実質的に受領していなかった謝金計9,456,000円に係る国庫補助金計6,303,000円が過大に交付されていて、国庫補助金合計268,635,000円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、10スポーツ団体において事実に即した適正な証拠書類を基に滞在費の額を算定して適正に実施報告を行うという認識が欠けていたこと、ホッケー協会において専任コーチ等要項を遵守するという認識が欠けていたこと、JOCにおいてスポーツ団体及び専任コーチ等に対するNF要項又は専任コーチ等要項の遵守に関する指導等が十分でなかったことなどによると認められる。