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(4) 学校情報通信技術環境整備事業により小学校等に整備した電子黒板が教員や児童生徒に有効に活用されるとともに、電子黒板を活用した教育に関する調査研究や学びのイノベーション事業の成果を有効に活用して、教育の情報化の促進や教育の質の向上に寄与させるよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)文部科学本省 (項)生涯学習振興費
部局等
文部科学本省
補助等の根拠
予算補助、委託契約
補助事業等
(1) 学校情報通信技術環境整備事業(補助事業)
(2) 電子黒板を活用した教育に関する調査研究(委託事業)
(3) 学びのイノベーション事業(委託事業)
補助事業等の概要
(1) 公立の小学校等に電子黒板を整備する都道府県等に補助金を交付するもの(補助事業)
(2) 電子黒板を活用した教育に関する調査研究の事業を委託するもの(委託事業)
(3) ICT機器等に関する実証研究等の事業を委託するもの(委託事業)
検査の対象とした電子黒板の台数及び契約数
(1) 7,838台(平成21年度)
(2) 63契約(平成21年度)
(3) 9契約(平成23年度~25年度)
上記に係る国庫補助金交付額及び委託費
(1) 18億1269万余円(国庫補助金交付額)
(2) 6億0197万余円(委託費)
(3) 4891万余円(委託費)
上記のうち電子黒板特有の機能が十分活用されていなかったなどの電子黒板の台数及び事例集が有効に活用されていなかったなどの契約数
(1) 5,669台
(2) 63契約
(3) 9契約
上記における国庫補助金交付額及び委託費
(1) 12億8279万円
(2) 6億0197万円(背景金額)
(3) 4891万円(背景金額)

【意見を表示したものの全文】

学校情報通信技術環境整備事業で整備した電子黒板の活用等について

(平成26年10月30日付け 文部科学大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 学校情報通信技術環境整備事業等の概要

(1) 教育の情報化と電子黒板の概要

貴省は、質の高い教育を支える環境の整備を行うために、教育の情報化に関する諸施策の一環として、電子黒板、デジタルテレビ等の情報通信技術(以下「ICT」という。)を備えた機器(以下「ICT機器」という。)の活用等による教員と児童生徒の双方向型等の授業革新を推進することとしている。

ICT機器のうち電子黒板は、デジタルテレビ等に、映し出された教材に専用のペンにより直接書き込みをしたり(以下、この機能を「書込み機能」という。)、映し出された図形、文字、写真等を画面上で直接移動、拡大等したり(以下、この機能を「直接操作機能」という。)、書き込んだ内容を保存して学習記録として蓄積したり(以下、この機能を「保存機能」という。)する機能(以下、これらの3つの機能を「電子黒板特有の機能」という。)を加えたものであり、教員が授業の場面に応じて、従来の黒板と組み合わせて使用したり、児童生徒に答案や課題の発表等を行わせたりして活用するものである。

そして、電子黒板を有効に活用することにより、児童生徒の授業に対する興味、関心を高めるなどの教育効果や教員の授業準備の負担が減るなどの負担軽減効果があるとされている。

(2) 学校情報通信技術環境整備事業の概要

貴省は、「学校情報通信技術環境整備事業費補助金交付要綱」(平成21年文部科学大臣裁定)に基づき、児童生徒等の情報活用能力の育成、教員のICT活用指導力の育成等のために教育の情報化を促進し、もって教育の質の向上を図ることを目的として学校情報通信技術環境整備事業(以下「補助事業」という。)を平成21年度限りで実施しており、公立の小学校、中学校、高等学校等にICT機器を整備する都道府県、政令指定都市及び市町村(特別区及び組合を含む。以下「事業主体」という。)に対して学校情報通信技術環境整備事業費補助金(以下「補助金」という。)を計891億2993万余円交付している。

補助の対象となるICT機器は、電子黒板、デジタルテレビ、教育用コンピュータ等となっており、このうち電子黒板については、事業主体が設置している小学校、中学校、特別支援学校(小学部及び中学部)等(以下、これらを合わせて「小学校等」という。)を対象として、原則、各校に1台整備することとなっている。

(3) 電子黒板を活用した教育に関する調査研究の概要

貴省は、21年度に、電子黒板を活用した教育に関する調査研究(以下「調査事業」という。)を92県市町に計9億1387万余円で委託して実施している。

調査事業は、「電子黒板を活用した教育に関する調査研究委託要綱」(平成21年生涯学習政策局長決定)によれば、指定された小学校等(以下「指定校」という。)において、電子黒板を全普通教室に1台ずつ設置してこれを活用させることにより、電子黒板と周辺機器との連携モデル活用例(以下「授業実践例」という。)を収集するなどし、これを貴省において都道府県等に示すことにより、電子黒板の活用及び普及促進を図ることを目的としている。また、貴省は、調査事業終了後も、区域内の小学校及び中学校において授業実践を行い、学校現場における電子黒板の活用及び普及促進に寄与させるために、委託先の92県市町に電子黒板を無償で貸し付けている。

(4) 学びのイノベーション事業の概要

貴省は、調査事業終了後の23年度から25年度までに、「学びのイノベーション事業」(以下「実証事業」という。)を34県市町等に計6億9218万余円で委託して実施している。

実証事業は、「学びのイノベーション事業(情報通信技術活用実証研究)委託要綱」(平成23年生涯学習政策局長決定)によれば、ICTを活用し、一斉学習に加え協働学習(子どもたち同士が教え合い学び合う学習)を推進するなどして、ICT機器等に関する実証研究等を行うものである。そして、貴省は、実証事業の一環として収集した事例を基に「教育ICT活用実践事例集」(以下「事例集」という。)等を作成して、これを都道府県等に配布したり、貴省ホームページ上に公開したりすることにより、電子黒板等のICT機器の教育への活用及び普及促進を図ることとしている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、小学校等に整備した電子黒板において電子黒板特有の機能が十分に活用されているか、授業実践例や事例集等が十分に活用されているかなどに着眼して検査した。

検査に当たっては、補助事業については、32都道府県(注1)及び204市区町村の計236事業主体のうち21年度に電子黒板を整備した149事業主体に交付された電子黒板7,838台に係る補助金計18億1269万余円を、調査事業については、21年度に63県市町(以下、調査事業を受託した県市町を「受託者」という。このうち62受託者は補助事業の事業主体と重複している。)が受託した63契約に係る委託費計6億0197万余円を、実証事業については、23年度から25年度までに4市等が受託した9契約について、事例集の作成等に係る委託費計4891万余円をそれぞれ対象として、上記の149事業主体、63受託者並びに3市及び貴省において、実績報告書、成果報告書等を確認するなどして会計実地検査を行った。また、電子黒板の活用状況等については、237市町村等(注2)及びその区域内の小学校等10,052校に電子黒板の活用状況等に関する調書の作成及び提出を求めて、この内容を分析するなどして検査した。

(注1)
32都道府県  東京都、北海道、京都、大阪両府、秋田、山形、茨城、栃木、群馬、千葉、神奈川、富山、福井、長野、岐阜、静岡、愛知、三重、滋賀、奈良、和歌山、岡山、広島、徳島、香川、高知、福岡、長崎、大分、宮崎、鹿児島、沖縄各県
(注2)
237市町村等  236事業主体に補助事業を実施していない1受託者を加えた市町村等の数

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1) 補助事業について

ア 電子黒板特有の機能の活用状況

149事業主体が小学校等6,226校に整備した電子黒板計7,838台について、電子黒板特有の機能の活用状況をみたところ、表1のとおり、授業において電子黒板特有の機能である書込み機能、直接操作機能又は保存機能のいずれかが利用されていた電子黒板は4,569校の計6,106台となっていた。

一方、1,657校の計1,732台(整備台数の22.0%、補助金交付額計3億3633万余円)については、DVD教材を視聴するなどのモニターとしての利用にとどまっていて、電子黒板特有の機能が全く活用されていなかった。

表1 電子黒板特有の機能の活用状況(平成25年度)

整備台数(A) 電子黒板特有の機能を活用していた台数 モニターとしての利用にとどまっていた台数
(A)-(B)
書込み機能を利用 直接操作機能を利用 保存機能を利用 合計(B)
6,226校
7,838台
4,120校
5,550台
3,389校
4,756台
1,296校
2,177台
4,569校
6,106台
1,657校
1,732台

(注) 1台の電子黒板について、複数の機能を活用している場合があるため、各機能を利用している学校数、台数を合計しても合計欄(B)と一致しない。

イ 電子黒板特有の機能の活用率

前記6,226校の計7,838台について、25年度の電子黒板特有の機能の月平均活用回数(注3)をみたところ、ほぼ毎回の授業で活用されているものがある一方で、上記のようにモニターとしての利用にとどまっていて、全く電子黒板特有の機能が活用されていないものがあった。そして、月平均活用回数を各教科等の授業時数(注4)(小学校78回、中学校84回)で除して電子黒板特有の機能の活用率を算出したところ、表2のとおり、340校の計442台については50%以上となっている一方で、3,747校の計4,215台(整備台数の53.7%、補助金交付額計9億0573万余円)については10%未満と著しく低調となっていた。

(注3)
月平均活用回数  1年間に電子黒板特有の機能を活用して授業を行った回数を月数(12)で除した数
(注4)
各教科等の授業時数  小学校及び中学校の各学年における総授業時数の合計を学年数、月数(12)で除した数

表2 電子黒板特有の機能の活用率(平成25年度)

整備台数 電子黒板特有の機能の活用率 活用率が50%未満
(A)+(B)+(C)
50%以上 30%以上
50%未満
(A)
10%以上
30%未満
(B)
10%未満
(C)
 
モニターとしての利用のみ
6,226校
7,838台
340校
442台
401校
528台
1,738校
2,653台
3,747校
4,215台
1,657校
1,732台
5,886校
7,396台

そこで、電子黒板特有の機能の活用率が著しく低調となっている上記の3,747校に在籍する教員92,837人について、電子黒板を活用していない理由をみたところ、「操作方法が難解」が17.4%と最も高く、次いで「活用のイメージが持てない」が12.7%、「研修等の不足」が12.5%となっていて、電子黒板の操作方法、活用方法等を習得するための機会が不足していることを理由とするものが計42.8%を占めていた。

また、前記6,226校のうち、授業における電子黒板の活用についての方針等を定めた計画(以下「活用計画」という。)を25年度までに自ら策定している442校の電子黒板特有の機能の活用率は平均23.0%となっていて、活用計画を策定していない5,784校の活用率の平均12.0%に比べて高くなっていた。このことから、電子黒板特有の機能を活用する上で、活用計画を策定することは有用であると思料された。

ウ 児童生徒による電子黒板特有の機能の活用状況

電子黒板を有効に活用することは、児童生徒の教育効果や教員の負担軽減効果のほかに、児童生徒の情報活用能力の育成にも資するものであるとされており、そのためには、教員が授業の場面に応じて児童生徒に電子黒板を使用して答案や課題の発表等を行わせる機会を設けることが必要となる。そこで、前記6,226校の電子黒板計7,838台について、授業中の児童生徒による電子黒板特有の機能の活用状況をみたところ、1,907校の計2,972台は発表等に使用されたことがあったものの、4,319校の計4,866台(整備台数の62.0%、補助金交付額計10億9654万余円)は全く使用されていなかった。

なお、ア、イ及びウには重複している事態があり、その重複を除くと、4,982校の計5,669台(補助金交付額計12億8279万余円)となる。

これらの事態について、事例を示すと次のとおりである。

<事例>

横浜市は、平成21年度に小学校等483校に電子黒板を計490台(補助金交付額計7732万余円)整備した。このうち、モニターとしての利用にとどまっていた316校の計321台を含む440校の計447台(整備台数の91.2%、補助金交付額計7051万余円)については、電子黒板特有の機能の活用率が10%未満と著しく低調となっていた。そして同市の小学校等における電子黒板特有の機能の活用率は平均3.2%となっていた。

同市は、各校に対して、電子黒板の具体的な利用方法や設置場所について特段の計画や方針は示しておらず、電子黒板の活用計画も策定していなかった。また、小学校等483校においても活用計画を策定していない状況であった。

(2) 調査事業について

ア 授業実践例の活用状況

貴省は、21年度に92受託者が行った電子黒板を活用した教育に関する調査研究の成果である授業実践例を860事例収集していた。

しかし、貴省は、収集した授業実践例を調査研究の取組内容の確認等のために使用するにとどまっていて、事例集等の形で取りまとめて都道府県等に示しておらず、調査事業の成果を学校における電子黒板の活用及び普及促進を図るという目的に沿って活用していなかった。

イ 電子黒板の活用及び普及促進の状況

調査事業における指定校には電子黒板が全普通教室に1台ずつ設置されており、63受託者に係る指定校79校における電子黒板特有の機能の活用率をみると平均42.9%と高くなっていることから、電子黒板を増やすことは重要であると思料される。貴省においても、電子黒板の活用及び普及促進に寄与させることを目的として、事業終了後の22年度以降も、受託者に電子黒板を無償で貸し付けている。

そこで、上記63受託者の区域内の小学校等における電子黒板の増加数についてみたところ、全体としては25年度までの増加数が4,137台となっていた。しかし、これを個々の受託者ごとにみれば100台以上増加させている13受託者によるものが計3,445台と増加数の大半を占めていて、30受託者については増加数が10台以下にとどまっており、このうち13受託者については全く増加していない状況となっていた。

(3) 実証事業について

貴省は、23、24両年度に3市が行った実証研究の一環として収集した事例を基にするなどして事例集等を作成して、これを都道府県等に配布したり、貴省ホームページ上に公開したりなどしている。そこで、237市町村等及びその区域内の小学校等10,052校の教員221,938人が事例集等を研修、授業等に活用しているかをみたところ、事例集等を活用していたのは95市町村等(40.0%)及び教員18,914人(8.5%)となっていて、事例集等を配布するなどすることにより電子黒板等のICT機器の教育への活用及び普及促進を図るとする事業の趣旨に沿った結果とはなっていなかった。

(改善を必要とする事態)

補助事業において、小学校等に整備した電子黒板について電子黒板特有の機能の活用率や児童生徒の活用が低調となっている事態、調査事業において収集した授業実践例が目的に沿って活用されていなかったり、調査事業の受託者において電子黒板の活用及び普及促進が十分でなかったりしている事態及び実証事業において作成した事例集等が活用されていない事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、事業主体及び小学校等において、電子黒板を活用することによる児童生徒の教育効果及び教員の負担軽減効果、児童生徒の情報活用能力の育成に資することへの理解や電子黒板の活用に事例集等が有用であることへの理解が十分でないことにもよるが、主として貴省において次のことなどによると認められる。

ア 補助事業において電子黒板を整備した事業主体に対して、電子黒板特有の機能を活用することによる効果や児童生徒の情報活用能力の育成に資することを十分に周知したり、電子黒板の活用に関する研修の実施、電子黒板の活用計画の策定等の重要性を周知したりしていないこと

イ 調査事業により収集した授業実践例を活用するための検討が十分でないこと及び調査事業の受託者に対して、電子黒板の活用及び普及促進を図るよう促していないこと

ウ 都道府県等に対して、実証事業の一環として作成した事例集等を有効に活用するよう十分に周知していないこと

3 本院が表示する意見

貴省は、教育の情報化が情報教育、教科指導におけるICT機器の活用及び校務の情報化を推進することにより、教育の質の向上を目指している。そして、貴省において教育の情報化を推進するための諸施策の一環として電子黒板の活用及び普及促進を図る事業を引き続き実施していくとともに、今後も都道府県等において電子黒板をはじめとしたICT機器の整備を継続して進めていくことが見込まれる。

ついては、貴省において、小学校等に整備した電子黒板が教員や児童生徒に有効に活用されるとともに、調査事業や実証事業の成果を活用して、ICT機器の教育への活用及び普及促進を図ることにより教育の情報化の促進や教育の質の向上に寄与する措置が執られるよう、次のとおり意見を表示する。

ア 補助事業において電子黒板を整備した事業主体に対して、電子黒板特有の機能を活用することによる効果や児童生徒の情報活用能力の育成に資することを周知したり、研修の実施、電子黒板の活用計画の策定等を促したりすること

イ 調査事業において収集した授業実践例の活用を検討するとともに、調査事業の受託者に対して、電子黒板の活用及び普及促進を図るよう促すこと

ウ 都道府県等に対して、実証事業において作成した事例集等を有効に活用することについて周知することにより、電子黒板等のICT機器の教育への活用及び普及促進を図ること