国立障害者リハビリテーションセンター(平成20年9月30日以前は国立身体障害者リハビリテーションセンター。以下「センター」という。)は、厚生労働省組織令(平成12年政令第252号)により設置された厚生労働省の施設等機関であり、障害者のリハビリテーションに関して、相談に応じ、治療、訓練及び支援を行うとともに、調査、研究等を行っている。
センターは、独立行政法人科学技術振興機構(以下「JST」という。)及び独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という。)と委託契約を締結して、研究開発等の業務(以下「受託業務」という。)を実施し、委託費の支払を受けている。
また、センターに勤務する研究者は、前記の調査、研究等の一環として、文部科学省及び独立行政法人日本学術振興会から科学研究費補助金及び学術研究助成基金助成金(以下、両者を合わせて「科研費」という。)の交付を受けて研究を行っている。科研費は、人文・社会科学から自然科学まであらゆる分野における優れた独創的かつ先駆的な研究を格段に発展させることを目的として、個人としての研究者に交付されるものであり、その対象となる経費は、研究の実施のために必要な直接経費と研究機関において必要となる管理費等の間接経費から構成されている。そして、科研費の補助条件によれば、研究者は、間接経費が交付された場合に、速やかに間接経費を所属する研究機関に譲渡しなければならないこととされている。
国の予算については、財政法(昭和22年法律第34号)第14条により、「歳入歳出は、すべて、これを予算に編入しなければならない。」として総計予算主義の原則が定められている。そして、予算の執行については、会計法(昭和22年法律第35号)第2条により、「各省各庁の長は、その所掌に属する収入を国庫に納めなければならない。直ちにこれを使用することはできない。」として収入支出統一の原則が定められている。
本院は、合規性等の観点から、外部の機関から支払を受けた委託費や研究者から譲渡された科研費の間接経費(以下、両者を合わせて「委託費等」という。)に係る会計経理が会計法令に基づき適正に行われているかなどに着眼して、21年度から25年度までの間にセンターがJST及びNEDOと締結した委託契約計14件(委託費計185,212,980円)並びに20年度から24年度までの間にセンターに勤務する研究者から譲渡された科研費の間接経費167件(科研費計268,698,718円のうち間接経費計63,105,858円)を対象として、厚生労働本省及びセンターにおいて、委託契約書、実績報告書等の関係書類を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
検査したところ、次のとおり、適正とは認められない事態が見受けられた。
センターは、JST及びNEDOから支払を受けた委託費を国庫に納付せずに、市中銀行に委託費を受け入れるためのセンター総長名義等の口座を開設してこれを別途に経理して、当該口座から受託業務の実施に必要となる経費を支払うなどしていた。
また、センターは、研究者から譲渡された科研費の間接経費を国庫に納付せずに、市中銀行に上記の間接経費を受け入れるための研究事務担当者名義の口座を開設してこれを別途に経理して、当該口座から新たな研究を実施するのに必要な備品購入費、旅費等を支払っていた。
しかし、受託業務は国の施設等機関であるセンターの事務として実施されていること、科研費の間接経費が交付された場合には速やかに間接経費を所属する研究機関に譲渡しなければならないこととされていることから、センターは委託費等をその所掌に属する収入として国庫に納付し、受託業務の実施に必要となる経費や科研費の間接経費に係る支出を歳出予算から支出すべきであった。
したがって、委託費等を国庫に納付せずにこれを別途に経理している事態は、総計予算主義を定めた財政法や収入支出統一の原則を定めた会計法に違反するものであり、委託費計185,212,980円、科研費の間接経費計63,105,858円、計248,318,838円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、センターにおいて、委託費等に係る会計経理を行うに当たり、国の会計法令を遵守することの認識が欠けていたこと、厚生労働本省において、委託費等に係るセンターの会計経理の状況を把握しておらず、センターを十分に指導していなかったことなどによると認められる。