事業所内保育施設設置・運営等支援助成金(平成23年8月以前は事業所内保育施設設置・運営等助成金。以下「助成金」という。)は、雇用保険で行う事業のうちの雇用安定事業の一環として、職業生活と家庭生活の両立支援に対する事業主の取組を促し、もってその労働者の雇用の安定に資することを目的として、自ら雇用する労働者等の子の保育を行うために一定基準を満たす事業所内保育施設(以下「保育施設」という。)の設置、運営等を行った雇用保険の適用事業主等(以下「事業主等」という。)に対して、都道府県労働局(以下「労働局」という。)が支給しているものである。
厚生労働省が定めた両立支援助成金支給要領(平成24年4月雇児発0401第5号。24年3月以前は平成23年9月雇児0901第13号等。以下「支給要領」という。)によれば、助成金の支給の要件は、専任の保育士を常時2名以上配置すること、保育施設の利用者の中に自ら雇用する労働者が1名以上いることなどとされている。
助成金の支給対象となる費用には、保育施設の設置費、運営費等がある。これらのうち、設置費を支給対象とする助成金(以下「設置費助成金」という。)の助成率は保育施設の建築等に要した費用の3分の2等で、その支給限度額は2300万円となっており、事業主等は、労働局の認定を受けた事業所内保育施設設置・運営計画に基づき保育施設を設置した後、保育施設の設置費等を記載した事業所内保育施設設置・運営等支援助成金支給申請書(23年8月以前は事業所内保育施設設置・運営等助成金支給申請書。以下「支給申請書」という。)に、工事請負契約書(工事費内訳書を含む。)、設置費等の領収書等を添付して労働局へ提出することとなっている。
また、運営費を支給対象とする助成金(以下「運営費助成金」という。)の支給期間は、保育施設の運営開始日から10年間などとなっており、その助成率は保育施設の運営に要した費用(専任の保育士等の人件費等)の合計額に対して、1年目から5年目までは3分の2等で、その支給限度額は保育施設の運営の形態等に応じた額となっている。そして、事業主等は、毎年1月から12月までの運営費等を記載した支給申請書に、保育士の賃金台帳、出勤簿、保育の実施状況を明らかにする保育日誌等を添付して翌年1月中に労働局に提出することとなっている。
支給要領によれば、支給申請書等の提出を受けた労働局は、支給申請書に記載された設置費等の金額が領収書や賃金台帳等から算出される金額と合致するかなど支給申請書等の内容を審査して、適切なものであると認めた場合、これらの書類に基づき助成金の額を算定した上で支給決定を行い、これに基づいて助成金の支給を行うこととされている。そして、労働局は、支給の要件を満たしていなかったことが支給後に判明したり、事業主等が偽りその他不正の行為により本来受けることのできない助成金の支給を受け、又は受けようとしたりなどした場合は、支給決定を取り消した上で支給した助成金を返還させることなどとされている。
本院は、合規性等の観点から、事業主等に対する設置費助成金等の支給決定が適正に行われているかなどに着眼して、全国47労働局のうち、16労働局において会計実地検査を行い、22年度から25年度までの間に設置費助成金等の支給を受けた事業主等から57事業主等を選定して、設置費助成金等の支給の適否について事業主等から提出された支給申請書等の書類を確認するなどの方法により検査した。
検査の結果、4労働局管内における5事業主が、設置費助成金の支給申請に当たり、設置費助成金の支給対象とはならない部分に係る設置費を含めるなどしたり、運営費助成金の支給申請に当たり、専任の保育士を常時2名以上配置することとする支給の要件を満たしているように見せるために、実際には配置していない保育士を配置したなどとした虚偽の出勤簿を添付するなどしたりしているのに、4労働局は、これらの事業主に対して支給決定を行っていた。したがって、これら5事業主に対する設置費助成金等計56,012,000円のうち、19,929,000円は支給の要件を満たしていなかったもので支給が適正でなく、不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、助成金の支給申請に係る審査に当たり、上記の4労働局において、事業主から提出された支給申請書や出勤簿等の記載内容が事実と相違するなどしていたのに、これに対する調査確認が十分でないまま支給決定を行っていたことなどによると認められる。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
埼玉労働局は、平成23年度に、管内の事業主Aから保育施設(267.66m2)の設置費を18,760,571円とする支給申請書、工事請負契約書、領収書等の提出を受けて、これに基づき算定した設置費助成金10,920,000円をAに支給していた。しかし、この設置費18,760,571円はAの施設全体の面積(293.67m2)に係る設置費であり、設置費助成金の支給対象とはならないAの業務で使用する事務室(26.01m2)に係る設置費も含まれていたことから、当該事務室(26.01m2)に係る設置費助成金968,000円は支給の要件を満たしていなかった。
また、同局は、24年1月から12月までの12か月分に係る運営費助成金について、Aから支給申請書、保育士の出勤簿等の提出を受けて、これに基づき算定した運営費助成金6,750,000円をAに支給していた。しかし、Aは、支給申請に当たり、専任の保育士を常時2名以上配置することとする支給の要件を満たしているように見せるために、実際には配置していない保育士を配置したなどとした虚偽の出勤簿を添付するなどしていたことから、運営費助成金6,750,000円全額が支給の要件を満たしていなかった。
なお、これらの適正でなかった支給額については、本院の指摘により、全て返還の処置が執られた。
以上を労働局ごとに示すと次のとおりである。
労働局名 | 本院の調査に係る事業主数 | 不適正受給事業主数 | 左の事業主に支給した助成金 | 左のうち不当と認める助成金 | 摘要 | |
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千円 | 千円 | |||||
(64) | 北海道 | 3 | 1 | (1)8,824 | (1)8,824 | 保育施設を目的外に貸し付けていたもの |
(65) | 埼玉 | 6 | 1 | (1)10,920 (2)6,750 |
(1)968 (2)6,750 |
専任の保育士を常時2名以上配置することとする支給の要件を満たしていなかったものなど |
(66) | 神奈川 | 6 | 2 | (1)3,066 (2)5,457 |
(1)245 (2)2,049 |
保育施設の利用者の中に自ら雇用する労働者が1名以上いることとする支給の要件を満たしていなかったものなど |
(67) | 大阪 | 7 | 1 | (1)20,995 | (1)1,093 | 助成金の支給対象外となる経費を含めていたもの |
(64)―(67)の計 | 22 | 5 | (1)43,805 (2)12,207 |
(1)11,130 (2)8,799 |
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合計 | 56,012 | 19,929 |