【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】
自立支援医療と医療保険の特定疾病制度の併用者に係る障害者医療費国庫負担金の算定について
(平成26年10月17日付け 厚生労働大臣宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。
記
貴省は、障害者自立支援法(平成17年法律第123号。平成25年4月1日以降は、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)に基づき、障害者及び障害児(以下、これらを「障害者等」という。)の福祉の増進を図ることなどを目的として、障害者等の居住地の市町村(特別区を含む。以下同じ。)又は都道府県が、都道府県知事等の指定する病院、薬局等(以下、これらを「指定医療機関」という。)から心身の障害の状態の軽減を図り、自立した日常生活又は社会生活を営むために必要な医療(以下「自立支援医療」という。)を受けた障害者等に対して、自立支援医療に要した費用を支給した場合に、その支給に要する費用の100分の50を障害者医療費国庫負担金(以下「負担金」という。)として交付している。
自立支援医療費の額は、同法に基づき、同一月に受けた自立支援医療につき健康保険の療養に要する費用の額の算定方法により算定した額から、当該障害者等の家計の負担能力、障害の状態等をしんしゃくして政令で定める額(政令で定める額が当該算定額の100分の10に相当する額を超えるときは、100分の10に相当する額。以下「自己負担額」という。)を控除した額とすることとなっている。また、自立支援医療費の支給に当たって、医療保険により同等の給付を受けることが可能な部分について、自立支援医療費の支給の対象とならないこととなっている。
自立支援医療は、その医療の種類等によって、育成医療、更生医療及び精神通院医療に分けられ、このうち更生医療は、肢体不自由、人工透析療法を受ける慢性腎不全等の内臓障害等の身体障害者を対象として、市町村が事業主体となり実施している。
そして、都道府県は、市町村が行う自立支援医療費の支給等が適正かつ円滑に行われるよう、市町村に対して必要な助言、情報の提供その他の援助を行うなどの責務を有することとなっており、また、都道府県知事等は、指定医療機関に対して自立支援医療の実施に関し指導を行うこととなっている。
更生医療に係る自立支援医療費の支給認定を受けようとする者又は支給認定の有効期間が終了して再度の支給認定を受けようとする者は、同法及び「自立支援医療費の支給認定について」(平成18年障発第0303002号。以下「支給認定通知」という。)に基づき、市町村長(特別区にあっては区長。以下同じ。)に申請して、支給認定を受けて、自立支援医療受給者証の交付を受けることとなっている(以下、支給認定を受けた者を「支給認定障害者」という。)。
事業主体は、支給認定障害者が指定医療機関から更生医療を受けたときは、当該支給認定障害者に代わり指定医療機関に自立支援医療費を支払うことができることとなっている。そして、この支払に係る審査及び事務は、社会保険診療報酬支払基金又は国民健康保険団体連合会(以下、これらを「支払基金等」という。)に委託することとなっている。
支払基金等は、毎月指定医療機関から提出される診療(調剤)報酬請求書及び診療(調剤)報酬明細書(以下「レセプト」という。)の内容の審査を行った後、審査結果に基づき支払額を算出した上でレセプト又は連名簿(注1)を事業主体等に送付している。
そして、事業主体は、毎月支払基金等から送付される連名簿等について審査点検を行い、請求に誤りがある場合は支払基金等を通じて過誤調整を行うなどした上で指定医療機関に対して自立支援医療費を支払うことになっている。
医療保険の高額療養費制度は、費用が著しく高額な治療を著しく長期間にわたって継続しなければならない疾病として、厚生労働大臣が定めた人工透析療法を受ける慢性腎不全等(以下「特定疾病」という。)に係る療養を受けた場合の自己負担の限度額(以下「自己負担限度額」という。)を、当該被保険者の負担軽減を図る観点から、特例的に1万円(標準報酬月額等が所定額以上の被保険者で70歳未満の者については2万円)とし、これを超える額全額を保険者が負担するものである(以下、高額療養費制度のうち特定疾病の患者に対するこの負担軽減制度を「医療保険の特定疾病制度」という。)。
そして、医療保険の特定疾病制度を受けようとする被保険者は保険者に対して申請し、保険者は認定した被保険者に対して特定疾病療養受療証を交付しなければならないこととなっている。
特定疾病のうち、人工透析療法を受ける慢性腎不全の患者(以下「人工透析患者」という。)は、市町村長の支給認定を受けると自立支援医療費の支給認定障害者になるとともに、保険者の認定を受けると医療保険の特定疾病制度の対象者にもなる(以下、両制度の認定を受けた人工透析患者を「特定疾病併用者」という。)。
そして、特定疾病併用者の自立支援医療費の支給に当たって、前記のとおり、医療保険により同等の給付を受けることが可能な部分については、自立支援医療費の支給の対象とならない。このため、医療保険の特定疾病制度による自己負担限度額を超える額はその全額を医療保険で負担することとなり、特定疾病併用者の自立支援医療費は医療保険の特定疾病制度の対象となっていない支給認定障害者の自立支援医療費と比較して低額となる。
特定疾病併用者に係る自立支援医療費の支給額は、上記のとおり、医療保険の特定疾病制度の対象となっていない支給認定障害者に係る支給額と異なることから、人工透析患者の自立支援医療費の支給認定申請に際して、特定疾病併用者であることなどを確認するために、支給認定通知により、特定疾病療養受療証の写しを市町村長に提出させることとなっている。
貴省は、都道府県等に対して、「医療保険の特定疾病療養受療と自立支援医療を併用する者の自己負担について」(平成18年障精発第0613001号)を発出して、支払基金等において特定疾病併用者に係る自立支援医療費の自己負担額に係る審査が行われないため、連名簿等を確認した際に特定疾病併用者に係る自立支援医療費の自己負担額が適正な額となっていない場合に、指定医療機関に対して返戻又は過誤調整を行うなど、自立支援医療費の適正な給付を図ることを求めている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
自立支援医療費のうち更生医療に係る負担金の額は、制度開始当初の18年度で74億8752万余円であったのに対して24年度で741億3338万余円となっていて、ほぼ10倍に増加し、24年度の更生医療に係る医療費のうち人工透析療法に係る医療費の占める割合は約89%に上っている。
そこで、本院は、合規性等の観点から、更生医療に係る医療費のうち特定疾病併用者に係る自立支援医療費の算定が適正なものとなっているかなどに着眼して、貴省及び16道府県(注2)の446事業主体において、24年度に交付を受けた計119億4725万余円について、事業主体の自立支援医療費の受給者台帳、自立支援医療費に係る支払関係書類等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、表1のとおり、16道府県の235事業主体(注3)において、特定疾病併用者の自立支援医療費について、自立支援医療費の支給の対象とならない医療保険の特定疾病制度による給付対象額が含まれていて、自立支援医療費が過大に支払われている事態が見受けられた。
区分 | 事業主体数 | 当初国庫負担対象額 (A) |
当初国庫負担金 (B)=(A)×50/100 |
自立支援医療費の支給対象とならない額(C) | 修正国庫負担対象額 (D)=(A-C) |
修正国庫負担金 (E)=(D)×50/100 |
過大となっていた国庫負担金 (B-E) |
---|---|---|---|---|---|---|---|
北海道 | 1 | 359,050 | 179,525 | 7,116 | 351,934 | 175,967 | 3,558 |
茨城県 | 2 | 39,275 | 19,637 | 328 | 38,947 | 19,473 | 164 |
栃木県 | 1 | 167,414 | 83,707 | 2,020 | 165,394 | 82,697 | 1,010 |
神奈川県 | 8 | 2,826,523 | 1,413,261 | 3,266 | 2,823,257 | 1,411,628 | 1,633 |
山梨県 | 25 | 1,001,515 | 500,757 | 52,979 | 948,535 | 474,267 | 26,489 |
静岡県 | 6 | 1,222,143 | 611,071 | 9,433 | 1,212,710 | 606,355 | 4,716 |
京都府 | 23 | 4,849,013 | 2,424,506 | 121,811 | 4,727,201 | 2,363,600 | 60,905 |
和歌山県 | 18 | 1,421,205 | 710,602 | 11,298 | 1,409,907 | 704,953 | 5,649 |
香川県 | 16 | 1,011,723 | 505,861 | 10,324 | 1,001,398 | 500,699 | 5,162 |
愛媛県 | 12 | 1,514,666 | 757,333 | 19,956 | 1,494,710 | 747,355 | 9,978 |
高知県 | 21 | 1,691,930 | 845,965 | 22,203 | 1,669,726 | 834,863 | 11,101 |
福岡県 | 31 | 1,705,800 | 852,900 | 42,569 | 1,663,231 | 831,615 | 21,284 |
佐賀県 | 17 | 959,889 | 479,944 | 24,811 | 935,077 | 467,538 | 12,405 |
長崎県 | 13 | 2,030,412 | 1,015,206 | 56,626 | 1,973,786 | 986,893 | 28,313 |
熊本県 | 28 | 2,669,049 | 1,334,524 | 35,507 | 2,633,541 | 1,316,770 | 17,753 |
鹿児島県 | 13 | 424,888 | 212,444 | 4,944 | 419,943 | 209,971 | 2,472 |
16道府県 | 235 | 23,894,503 | 11,947,251 | 425,197 | 23,469,305 | 11,734,652 | 212,598 |
これらの事業主体は、人工透析患者からの自立支援医療費の支給認定申請に際して、特定疾病療養受療証の写しを提出させ自己負担限度額等の特定疾病併用者に係る情報を把握していたのに、連名簿等について、その情報を活用した十分な審査を実施していなかった。
このため、これらの事業主体において、自立支援医療費計4億2519万余円が過大に支払われており、これに係る負担金2億1259万余円が過大に交付されていたと認められる。
上記の事態について一例を示すと、次のとおりである。
<事例>
長崎県五島市は、平成24年度の更生医療に係る医療費の請求2,555件計3535万余円を支払基金等を通じて指定医療機関へ支払っていた。
しかし、上記の請求のうち、人工透析患者に係る請求2,264件2812万余円は特定疾病併用者に係る請求であり、さらに、これらのうち612件1459万余円は、医療保険の特定疾病制度の給付対象とすべき額を誤って自立支援医療費として請求したものであった。同市は、当該人工透析患者について、自立支援医療費の支給認定申請時に特定疾病療養受療証の写しを提出させて、特定疾病併用者に係る情報を把握していたのに、その情報を活用した連名簿等の審査を行わないまま上記の請求どおりに自立支援医療費を支払っていた。
このため、これに係る負担金729万余円が過大に交付されていた。
また、表2のとおり、1県の14事業主体(注4)において、特定疾病併用者に係る自立支援医療費の審査が全く実施されておらず、その額が適正かどうか検証できない状況となっている事態が見受けられた。
表2 特定疾病併用者に係る自立支援医療費の額が適正かどうか検証できないもの
区分 | 事業主体数 | 支給した自立支援医療費 (a) |
左のうち人工透析患者に係るもの
(b) |
左のうち医療保険に加入していない世帯に係るもの
(c) |
適正かどうか検証できないもの
(d)=(b)-(c) |
(d)に係る国庫負担金相当額
(d)×50/100 |
||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | 件数 | 金額 | |||
福岡県 | 14 | 11,554 | 7,437,531 | 9,237 | 6,313,753 | 1,375 | 3,563,795 | 7,862 | 2,749,958 | 1,374,979 |
これらの事業主体は、人工透析患者からの自立支援医療費の支給認定申請に際して、特定疾病療養受療証の写しを全く提出させていなかったり、提出させていても連名簿等の審査に必要な医療保険の特定疾病制度に係る自己負担限度額等の情報を受給者台帳等に記録していなかったりしていた。
このため、これらの事業主体が支給した自立支援医療費のうち、医療保険に加入している人工透析患者に係る支給額計27億4995万余円(うち国庫負担金相当額13億7497万余円)については、特定疾病併用者に係る自立支援医療費の額の審査を全く実施しないまま支給していて、特定疾病併用者に係る自立支援医療費の額が適正かどうかの検証ができず、著しく適切ではない状況となっていた。
(是正及び是正改善を必要とする事態)
自立支援医療費の支給対象とならない医療保険の特定疾病制度による給付対象額が含まれるなどしていたため、自立支援医療費が過大に支給されている事態及び事業主体において特定疾病併用者に係る自立支援医療費の額の審査を全く実施していないため、その額が適正かどうか検証できない状況となっている事態は適切ではなく、是正及び是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、指定医療機関において、制度の理解が十分でなく、自立支援医療費の額を誤って請求していることにもよるが、次のことなどによると認められる。
自立支援医療費のうち、更生医療に係る額は制度開始当初に比べて大きく増加しており、さらに、このうち人工透析療法に係る医療費の割合が大部分を占めていること、また、人工透析患者のうち、特定疾病併用者の割合が大部分を占めていることなどから、特定疾病併用者に係る自立支援医療費の支給に係る適正な審査の重要性は高まっている。
ついては、貴省において、特定疾病併用者に係る自立支援医療費の額の算定が適正に行われるよう、アのとおり是正の処置を要求し、イ及びウのとおり是正改善の処置を求める。