【是正改善の処置を求めたものの全文】
国民年金の第3号被保険者の年金記録不整合問題への対応について
(平成26年10月30日付け 厚生労働大臣
日本年金機構理事長宛て)
標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。
記
日本年金機構(以下「機構」という。)は、日本年金機構法(平成19年法律第109号)等に基づき、厚生労働省の監督の下に、厚生労働省から委任又は委託を受けた国民年金の被保険者の資格の取得又は喪失、年金受給権者の裁定(年金を受給する資格ができたときに必要となる手続をいう。)、国民年金保険料(以下「保険料」という。)の徴収等に係る事務を行っている。
国民年金の被保険者は、20歳以上60歳未満の自営業者等である第1号被保険者、民間サラリーマンや公務員等である第2号被保険者、第2号被保険者に生計を維持されている配偶者(以下「被扶養配偶者」という。)のうち20歳以上60歳未満の者である第3号被保険者から成っていて、国民年金に係る年金記録等は社会保険オンラインシステム(以下「オンラインシステム」という。)において管理されている。また、国民年金法(昭和34年法律第141号)によれば、国民年金を受給するためには、保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が25年以上であることなどが必要とされている。
上記の第3号被保険者は、自ら保険料を納付する必要はないが、その扶養者である第2号被保険者が自営業者等の第1号被保険者になるなどしたことにより第1号被保険者の要件に該当したときには、市区町村に届出を行うなどして第3号被保険者から第1号被保険者に資格を切り替えて(以下、第1号被保険者に資格を切り替えることを「種別変更」という。)、保険料を納付する必要がある。
しかし、第1号被保険者の要件に該当することとなったのに、本人の届出漏れなどによってオンラインシステム上の年金記録(以下「オンライン記録」という。)は第3号被保険者のままとなっていて、オンライン記録と実態に不整合が生じている事案が多数あることが、平成21年12月以降、年金記録問題への対応が進められる中で明らかとなった。
また、保険料を国が徴収する権利は、2年を経過したときは時効によって消滅することとなっている。したがって、第3号被保険者としてのオンライン記録と実態に不整合が生じている期間(以下「不整合期間」という。)を実態に合わせて第1号被保険者としての期間に訂正すると、その時点から遡って2年より前の不整合期間に係る保険料を国が徴収する権利は時効により消滅していることから、これを徴収することはできなくなる。このため、年金額が減額となったり、無年金となったりするおそれがあることが問題となった(以下、このような問題を「第3号被保険者の年金記録不整合問題」という。)。
国民年金制度においては、保険料の納付率が低下するなどしていて、将来、無年金や低年金となる者が多数発生することが見込まれたことから、これを防止するなどのために、「国民年金及び企業年金等による高齢期における所得の確保を支援するための国民年金法等の一部を改正する法律」(平成23年法律第93号。以下「年金確保支援法」という。)が23年8月に成立した。そして、年金確保支援法の附則において、24年10月から27年9月までの時限措置として、被保険者等は機構の承認を受け、当該承認の前月から10年前以内の期間であって、保険料を国が徴収する権利が時効によって消滅している期間に係る保険料相当額に一定額を加算した額の保険料(以下「後納保険料」という。)を納付(以下「追加納付」という。)することができることとなった。
これを受けるなどして、機構では次のような取組を行っている。
ア 機構は、年金確保支援法により24年10月から不整合期間を有する者も過去10年間分の保険料を追加納付することができることになることを踏まえつつ、同月までの間は保険料を国が徴収する権利は時効により2年で消滅することなどから、23年11月に、機構本部がオンライン記録に基づき過去2年以内(21年11月以降)に不整合期間を有する可能性のある者(以下「第1次対象者」という。)133,544名を抽出した。そして、オンライン記録上の現住所を管轄する年金事務所に第1次対象者の納付勧奨対象者明細情報(以下「明細情報」という。)を送付した。
明細情報の送付を受けた各年金事務所は、全国健康保険協会が管掌する健康保険の被扶養配偶者期間と第3号被保険者期間を突合することにより、真に不整合期間を有することが確認できた者(以下「第1次不整合者」という。)に対して、不整合期間を第1号被保険者としての期間に変更することの届出(以下「変更の届出」という。)を勧奨する通知を送付した。その後、変更の届出があった者については変更の届出に基づき、また、一定の期間が経過しても変更の届出がなかった者については職権で、それぞれ種別変更の処理を行うとともに、種別変更の処理を行った者に対して、時効が未到来であり、国が徴収する権利を有する保険料(以下「未納保険料」という。)の納付書を送付した。
機構は、25年3月末までに、第1次不整合者125,870名の種別変更の処理を行ったとしている。
イ 年金確保支援法の施行により24年10月に追加納付することができるようになったことから、同月から同年11月にかけて機構本部が第1次不整合者のうち、オンライン記録に基づき21年10月以前にも不整合期間を有する可能性のある者(以下「第2次対象者」という。)72,839名を抽出した。そして、オンライン記録上の現住所を管轄する年金事務所に第2次対象者の明細情報を送付した。
明細情報の送付を受けた各年金事務所は、前記と同様の突合を行うなどして、真に不整合期間を有することが確認できた者(以下「第2次不整合者」という。)に対して変更の届出を勧奨する通知を送付して、第2次不整合者からの変更の届出に基づき又は職権により種別変更の処理を行うとともに、種別変更の処理を行った者のうち、年金確保支援法により後納保険料の追加納付が可能とされた14年10月から22年9月までの期間について種別変更の処理を行った者に対して、追加納付を勧奨する通知を送付した。
機構は、25年3月末までに、第2次不整合者69,871名の種別変更の処理を行ったとしている。
前記のとおり、機構本部から明細情報の送付を受けた各年金事務所は、第1次不整合者及び第2次不整合者(以下、これらの者を合わせて「不整合者」という。)に対して、変更の届出を勧奨する通知を送付するなどしている。
そして、不整合者がオンライン記録上の現住所から転出している場合、機構本部が発出した「第3号被保険者不整合記録を有する者に係る種別変更処理事務取扱要領の改訂等(指示・依頼)」(平成23年11月24日国年指2011-411)等(以下「事務取扱要領等」という。)によれば、機構本部から明細情報の送付を受けた各年金事務所は、転出先の住所の確認を行い、転出先の住所が判明した場合には、不整合者に対し速やかに変更の届出を勧奨する通知を再送付するなどすることとされている。その後、転出先の住所を管轄する年金事務所(以下「転出先年金事務所」という。)に種別変更の処理を引き継ぎ、転出先年金事務所は、不整合者からの変更の届出に基づき又は職権により種別変更の処理を行うこととされている。また、転出先年金事務所に種別変更の処理を引き継いだ年金事務所(以下「引継元年金事務所」という。)は、種別変更の処理の進捗管理を行い、機構本部からの明細情報に処理完結年月日等を登録することとされている。
さらに、機構は、「国民年金適用業務処理マニュアル」(平成22年1月1日要領第6号理事長決定)により、引継元年金事務所が転出先年金事務所へ種別変更の処理を引き継ぐ場合に用いる文書の書式として、「被保険者記録補正依頼・回答票兼補正処理票」(以下「依頼票」という。)を定めている。引継元年金事務所は、依頼票に引継内容を記載して転出先年金事務所に送付して、それを受け取った転出先年金事務所は、種別変更の処理の完了後に引継元年金事務所に受け取った依頼票の写しを返送することとなっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
第3号被保険者の年金記録不整合問題については社会的にも大きな関心のあるところであり、年金記録が実態と合致していることが、公的年金制度に対する国民からの信頼の確保等の点から重要である。また、前記のとおり、不整合者に係る種別変更の処理を行った場合、機構は当該者に未納保険料の納付を求めたり、当該者は追加納付等を行ったりすることとなる。
そこで、本院は、合規性等の観点から、機構が23年11月以降取り組んできた不整合者に係る種別変更の処理は適切に行われているか、特に転出先年金事務所に引継ぎが行われた種別変更の処理は適切に行われているかに着眼して、不整合者に係る種別変更の処理の状況を対象として検査した。
検査に当たっては、厚生労働本省並びに機構本部及び142年金事務所において会計実地検査を行うとともに、312年金事務所全てから調書を徴して、転出先年金事務所における種別変更の処理状況を確認するなどの方法により検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
種別変更の処理を転出先年金事務所に引き継いで処理することとしていた286年金事務所の不整合者8,367名のうち、112年金事務所の655名(未納保険料計283万余円、後納保険料相当額計4億3743万余円)(上記不整合者に占める割合7.8%)については、種別変更の処理が行われていなかった。
これらを態様別に示すと、次のとおりである(3年金事務所は、ア及びイの両方に該当している。)。
<事例1>
中福岡年金事務所は、平成24年11月に機構本部から明細情報の送付を受けた第2次不整合者315名のうち、オンライン記録上の現住所から転出している62名に対して転出先の住所を確認の上、変更の届出を勧奨する通知を再送付した。その後、一定の期間が経過しても変更の届出がなかったことから、転出先年金事務所に種別変更の処理の引継ぎを順次行うこととしたが、事務取扱要領等において引継元年金事務所が引継ぎを的確に行うための具体的な方法が明示されていなかったことなどから、種別変更の処理の進捗管理を十分に行っていなかった。このため、上記62名のうち42名の種別変更の処理の引継ぎが行われていなかった。
<事例2>
鹿屋年金事務所は、第2次不整合者が加治木年金事務所が管轄する市に転出したことを把握したため、平成24年11月に加治木年金事務所に依頼票を送付して、当該者の種別変更の処理を引き継いだ。
しかし、加治木年金事務所において、適切に種別変更の処理を行うことについての担当者の認識が欠けていたことなどから、26年1月の会計実地検査の時点で種別変更の処理を行っていなかった。また、鹿屋年金事務所は、引継後相当期間が既に経過していて、加治木年金事務所から依頼票の写しが返送されていないのに、種別変更の処理状況について確認していなかった。
ア及びイの事態は、不整合期間が適切に解消されずにその状態が継続することとなり、機構が未納保険料の納付を求める期間及び年金額が減額となることなどを防止するために不整合者が追加納付することができる対象期間が短縮することにつながるものである。
なお、ア及びイの事態についての本院の指摘に基づき、機構は、種別変更の処理が行われていなかった計655名の処理を26年9月までに全て完了している。
(是正改善を必要とする事態)
機構において、不整合者について速やかに種別変更の処理を行う必要があるのに、引継元年金事務所がオンライン記録上の現住所から転出した者について転出先年金事務所に種別変更の処理を引き継いでいなかったり、転出先年金事務所が速やかに種別変更の処理を行っていなかったりしている事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
第3号被保険者の年金記録不整合問題について、その種別変更の処理が適切に行われない状態が継続すると保険料の納付等の機会を逸することとなり、将来、不整合期間を有する者の年金額が減額となったり、無年金となったりするおそれがあること、年金記録が実態と合致していない状態が継続することにより、公的年金制度に対する国民からの信頼が失われることにもつながりかねないことなどから、種別変更の処理は適切に行われる必要がある。
また、第3号被保険者の年金記録不整合問題については、「公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部を改正する法律」(平成25年法律第63号)に基づき抜本的な改善策が進められており、機構では、25年6月に不整合期間を有する可能性のある者約53万5000名を抽出して、第1次対象者等と同様の確認を行うなどしていて、これに伴う種別変更の処理の件数のうち、相当数が転出先年金事務所に引き継がれることが想定される。
ついては、機構において、転出先年金事務所に種別変更の処理を引き継ぐ場合の具体的な引継方法等を事務取扱要領等において明示し、各年金事務所に種別変更の処理を事務取扱要領等に従って適切に行うことを周知徹底するよう、また、厚生労働省において、不整合期間を有する者に係る種別変更の処理状況を適切に把握して、機構に対して必要に応じて指導を行うよう是正改善の処置を求める。