【是正改善の処置を求め及び意見を表示したものの全文】
施設に入所等している被保護者に対する保護費の支給について
(平成26年10月21日付け 厚生労働大臣宛て)
標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正改善の処置を求め、及び同法第36条の規定により意見を表示する。
記
生活保護は、生活保護法(昭和25年法律第144号)等に基づき、生活に困窮する者に対して、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、その最低限度の生活の保障及び自立の助長を図ることを目的として行われるものである。
同法による保護(以下「保護」という。)は、厚生労働大臣の定める基準により測定した保護を必要とする状態にある者(以下「要保護者」という。)の需要を基として、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うこととなっている。そして、厚生労働大臣は、要保護者の年齢別、世帯構成別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであって、かつ、これを超えない基準として、「生活保護法による保護の基準」(昭和38年厚生省告示第158号)を定めており、これによれば、生活扶助、医療扶助等8種類の扶助ごとに最低限度の生活に必要な額が算定されることとされている。
そして、貴省は、都道府県又は市町村(特別区を含む。以下、これらを「事業主体」という。)が保護を受ける者(以下「被保護者」という。)に支弁した保護に要する費用(以下「保護費」という。)の4分の3について生活保護費等負担金(以下「負担金」という。)を交付している。
保護のうち生活扶助は、衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なものなどの範囲内において行われるもので、〔1〕 基準生活費、〔2〕 障害者加算等のように特別の需要がある者に対する各種加算及び〔3〕 臨時的な需要を満たすための一時扶助費で構成され、このうち、基準生活費及び各種加算は、居宅の場合の基準(以下「居宅基準」という。)と医療機関、介護施設、救護施設等に入院又は入所している場合の基準(以下「施設基準」という。)に大別される。
居宅基準の基準生活費は、年齢別の食費、被服費等の個人単位の経費と世帯人員別の光熱費、家具什器等の世帯単位の経費で構成されており、平成24年度の単身世帯であれば、1月当たり49,860円から85,510円までの範囲内で算定される。
そして、介護保険法(平成9年法律第123号)に定める認知症対応型共同生活介護、障害者自立支援法(平成17年法律第123号)に定める共同生活援助又は共同生活介護を行う住居や老人福祉法(昭和38年法律第133号)に定める有料老人ホーム(以下、これらを合わせて「グループホーム等」という。)に入居している者については、居宅基準の基準生活費が算定される。
施設基準の基準生活費は、施設ごとにその基準額が定められており、医療機関に入院する者には入院患者日用品費(24年度23,150円以内)、介護施設に入所する者には介護施設入所者基本生活費(同年度9,890円以内)、救護施設に入所する者には救護施設基準生活費(同年度64,240円等)がそれぞれ算定される。
また、前記の各種加算のうち障害者加算は、障害を抱えることによって生ずる特別な需要に対応するもので、その程度に応じて、〔1〕 身体障害者福祉法施行規則(昭和25年厚生省令第15号)別表第5号に掲げる身体障害者障害程度等級表の1級又は2級に該当する障害のある者等に算定される加算及び〔2〕 同表の3級に該当する障害のある者等に算定される加算に大別される。そして、24年度における施設基準の上記の〔1〕 及び〔2〕 の額は、それぞれ22,340円、14,890円となっている。
貴省は、加算の計上について「入院患者、介護施設入所者及び社会福祉施設入所者の加算等の取扱いについて」(昭和58年社保第51号厚生省社会局保護課長通知。以下「取扱指針」という。)を定めている。そして、取扱指針によれば、介護施設入所者加算若しくは重複調整等の対象となる加算(障害者加算及び母子加算)又は入院患者日用品費若しくは介護施設入所者基本生活費(これに相当するものを含む。)(以下、これらを「加算等」という。)は、原則としてその基準額の全額を計上することとされている。一方、医療機関、介護施設、救護施設等に入院又は入所中の被保護者で、合理的な目的のない手持金の累積が生ずる場合には、前記の「生活保護法による保護の基準」に基づき、その消費の実態に見合った額を計上するのが本来であるとされている。しかし、事務的な理由等から消費の実態に見合った額の計上が困難な場合であって、被保護者において、金銭管理能力がないために医療機関の長等に金銭の管理を委ねていて、かつ、手持金の累積額が加算等の6か月分の額に達しているときは、加算等の計上を停止することとされている。ただし、近い将来医療を受けることに伴って通常必要と認められる経費については、必要最小限の範囲で配慮して差し支えないこととされている。
また、貴省は、救護施設基準生活費については、加算等のうち取扱指針に定める「これに相当するもの」に該当しないとしているが、そのことを明確に示していない。
事業主体は、保護の決定又は実施のため必要があるときは、要保護者の資産状況その他の事項を調査するために、要保護者について、当該職員に、その居住の場所に立ち入り、これらの事項を調査させることができることとなっており、生活状況等の把握、保護の要否及び程度の確認等を目的として実施する訪問調査は、「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和38年社発第246号厚生省社会局長通知)によれば、少なくとも1年に2回以上訪問することなどとされている。
そして、事業主体は、訪問調査だけでなく、保護の決定又は実施のために必要があるときは、要保護者の資産及び収入の状況につき、要保護者の関係人に、報告を求めることができることとなっている。
事業主体は、被保護者が保護を必要としなくなったときは、速やかに、保護の停止又は廃止を決定することとなっている。そして、「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」(昭和38年社保第34号厚生省社会局保護課長通知。以下「課長通知」という。)によれば、原則として、保護の停止は、当該世帯における臨時的な収入の増加等により、一時的に保護を必要としなくなった場合であって、おおむね6か月以内に再び保護を要する状態になることが予想されるときなどに行い、保護の廃止は、おおむね6か月を超えて保護を要しない状態が継続すると認められるときなどに行うこととされている。
課長通知によれば、保護費のやり繰りによって生じた預貯金等の取扱いについて、事業主体は、当該預貯金等の使用目的を聴取して、使用目的が保護の趣旨目的に反すると認められる場合は、最低生活の維持のために活用すべき資産として、収入認定や要否判定を行って保護の停止又は廃止を行うこととされている。
また、貴省は、グループホーム等に入居している被保護者(以下「グループホーム等入居者」という。)の手持金も、上記の預貯金等と同様に取り扱うとしており、使用目的のない手持金は、上記の最低生活の維持のために活用すべき資産に該当するものとしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
近年、被保護世帯の高齢者世帯数、障害者世帯数はいずれも増加している。そして、著しい障害があるなどのため救護施設に入所している被保護者(以下「救護施設入所者」という。)のほかに、高齢化の進行等により、グループホーム等入居者は相当数に上っている。また、グループホーム等入居者の中には、障害等のため金銭の管理を委ねている被保護者もいる。
そこで、本院は、合規性、経済性、有効性等の観点から、救護施設入所者について加算等の計上の停止の検討を適切に行っているか、グループホーム等入居者について手持金の保有状況を把握した上で保護費の支給を行っているかなどに着眼して、貴省及び36都道府県(注)の325事業主体において、25年3月末における救護施設入所者6,950人、グループホーム等入居者27,274人について、24年度の保護費の支給決定等に係る関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、36都道府県の199事業主体において、次のような事態が見受けられた。
176事業主体 951人
計上された障害者加算の額 2億0700万余円(うち負担金相当額1億5525万余円)
25年3月末における救護施設入所者6,950人のうち、金銭の管理を委ねている者は306事業主体において6,726人見受けられた。そして、これらのうち手持金の額が30万円(障害者加算の1年間の計上額を目安として設定した額)以上の者1,890人に係る障害者加算の計上の状況についてみたところ、障害者加算の計上の停止が行われていない者が1,077人見受けられた。さらに、これらのうち、24年4月から25年3月までの1年間を通じて障害者加算が計上された者が、189事業主体において1,015人見受けられた。
そして、上記の189事業主体に対して、救護施設入所者の加算等の計上を停止する基準について確認したところ、176事業主体は手持金の額が救護施設基準生活費と障害者加算を合わせた額の6か月分の額に達したときに加算等の計上の停止を行うと認識していた。
そこで、取扱指針に定める「近い将来医療を受けることに伴って通常必要と認められる経費」を考慮せずに、25年3月末の手持金の額が24年度に計上された各月の障害者加算によって累積したと仮定して試算すると、上記の176事業主体は、951人について手持金の額が障害者加算の6か月分の額に達しているのに、障害者加算2億0700万余円(負担金相当額1億5525万余円)を計上していたことになる。
このように手持金の額が障害者加算の6か月分の額に達しているのに、障害者加算について計上の停止の検討をすることなく計上を続けている事態は適切とは認められない。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
被保護者Aは、昭和46年8月から救護施設に入所して、同施設の長に金銭の管理を委ねており、平成25年3月末における手持金の額は394,880円であった。
事業主体Bは、24年4月及び10月に手持金の調査を行っており、それぞれの手持金の額は101,425円、235,743円となっていた。しかし、事業主体Bは、同年10月の調査において、手持金の額が障害者加算(22,340円)の6か月分の額(134,040円)に達しているにもかかわらず、取扱指針に定める「これに相当するもの」に救護施設基準生活費が該当すると認識して、手持金の額が救護施設基準生活費(61,030円)と障害者加算(22,340円)を合わせた額(83,370円)の6か月分の額(500,220円)に達していなかったため、障害者加算について計上の停止の検討をすることなく計上を続けていた。
そして、近い将来医療を受けることに伴い必要となる経費を考慮せずに、25年3月末の手持金の額が24年度に計上された各月の障害者加算によって累積したと仮定して試算すると、手持金の額が障害者加算の6か月分の額に達しているのに、障害者加算245,740円(11か月分の額)を計上していたことになる。
69事業主体 292人
支給された保護費の額 5億2915万余円(うち負担金相当額3億9686万余円)
25年3月末におけるグループホーム等入居者27,274人のうち、金銭の管理を委ねている者は295事業主体において17,263人見受けられた。そして、これらのうち188事業主体は、グループホーム等入居者の手持金の保有状況について、調査を行うこととしておらず把握していなかった。
そこで、上記の188事業主体における金銭の管理を委ねている11,697人について、手持金の保有状況等をみたところ、69事業主体において、25年3月末に手持金の額が100万円(60歳の単身者の1年間の生活扶助費の計上額を目安として設定した額)以上の者が、292人見受けられた。
そして、上記の69事業主体は、手持金の保有状況を把握しないまま24年度に保護費5億2915万余円(負担金相当額3億9686万余円)を支給していた。
また、前記292人の手持金の合計額は5億3076万余円であり、最高額は627万余円となっていた。
このように手持金の保有状況を把握しないまま保護費を支給すると、手持金が最低生活の維持のために活用されることなく保護を要しない者等に保護費が支給されてしまうおそれがあると認められる。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
被保護者Cは、平成12年11月に保護開始と同時に知的障害者グループホームに入居し、入居時から同グループホームの事業所に金銭の管理を委ねており、保護開始時の手持金の額は3,684円であった。そして、事業主体Dは、24年度の保護費として、最低生活費125万余円から収入認定額97万余円を控除した28万余円を支給していた。
事業主体Dは、グループホームにおいて、手持金の額が多額に上るという認識がなかったことから、保護開始時から26年2月まで手持金の調査を行っておらず、被保護者Cの手持金の保有状況を把握していなかった。しかし、26年2月に事業主体Dを通じて、手持金を確認したところ、その額が684万余円(25年3月末現在627万余円)となっていた。
なお、被保護者Cは、上記の手持金を活用することにより、保護を要しないと判断されて、26年2月に保護廃止となった。
(是正改善及び改善を必要とする事態)
上記のように、金銭の管理を委ねている救護施設入所者について、取扱指針に基づき、手持金の額が加算等の6か月分の額に達しているのに、加算等について計上の停止の検討をすることなく計上を続けている事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。また、金銭の管理を委ねているグループホーム等入居者について、多額の手持金を保有しているのに手持金の保有状況を把握しないまま保護費を支給している事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
近年、保護費、高齢者世帯数等が増加傾向にあり、引き続き保護の適正な実施が強く求められている。
ついては、貴省において、金銭管理能力がなく金銭の管理を委ねている被保護者について、合理的な目的のない手持金が生ずることのないよう、アのとおり是正改善の処置を求め、イのとおり意見を表示する。