【意見を表示したものの全文】
独立行政法人福祉医療機構の労災年金担保貸付勘定における政府出資金の規模について
(平成26年10月17日付け 厚生労働大臣
独立行政法人福祉医療機構理事長宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。
記
独立行政法人福祉医療機構(以下「機構」という。)は、平成16年4月、労働福祉事業団の解散に伴い、独立行政法人労働者健康福祉機構法(平成14年法律第171号)に基づき、同事業団が行っていた労災年金担保貸付事業(16年度期首貸付残高4,491件、45億1940万余円。以下「労災貸付事業」という。)に係る権利及び義務を承継している。そして、機構が上記の権利及び義務を承継したときに、機構が承継する資産の価額から負債の金額を差し引いた額が政府から機構に対して出資されたもの(以下「政府出資金」という。)とすることとなっており、労災貸付事業に係る政府出資金の額は58億3123万余円となっている。
機構は、独立行政法人福祉医療機構法(平成14年法律第166号。以下「機構法」という。)に基づき、政府出資金を原資として労災貸付事業を行っており、労災年金担保貸付勘定を設けて経理している。
機構法等によれば、労災貸付事業は、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に基づく年金たる給付(以下「労災年金」という。)の受給権者に対し、その受給権を担保として小口の資金の貸付けを行うものとされている。そして、貸付金の使途は、保健医療、介護・福祉、住宅改修等、教育、冠婚葬祭、事業維持、債務等の一括整理に必要な資金のほか、これらのいずれにも該当しない資金(以下「臨時生活資金」という。)とされている。また、貸付金の額は、貸付対象者が必要とすると認められる額であるが、貸付対象者が無理なく返済できるよう、貸付限度額が設定されている。
独立行政法人通則法(平成11年法律第103号。以下「通則法」という。)が22年に改正され、通則法第8条第3項の規定に基づき、独立行政法人は、業務の見直し、社会経済情勢の変化その他の事由により、その保有する重要な財産であって主務省令で定めるものが将来にわたり業務を確実に実施する上で必要がなくなったと認められる場合には、当該財産(以下「不要財産」という。)を処分しなければならないこととなっている。そして、通則法第46条の2第1項の規定に基づき、不要財産であって、政府からの出資又は支出に係るものについては、遅滞なく、主務大臣の認可を受けて、これを国庫に納付することとなっている。
国は、22年12月に、行政サービスの水準向上を目的に発足した独立行政法人が、創設後約10年が経過し、必要のない事業の継続、不要な資産の保有など非効率な業務運営があることが指摘されていることを踏まえ、独立行政法人の抜本改革の第一段階として、その業務の特性等を踏まえながら、全ての独立行政法人の全事務・事業及び全資産を精査し、「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」(平成22年12月閣議決定。以下「基本方針」という。)として講ずべき措置について取りまとめた。
基本方針によれば、独立行政法人の資産・運営については、国の資産を有効かつ効率的に活用する観点から、独立行政法人の利益剰余金や保有する施設等について、そもそも当該独立行政法人が保有する必要性があるか、必要な場合でも最小限のものとなっているかについて厳しく検証し、不要と認められるものについては速やかに国庫納付を行うこととされている。なお、基本方針で個別に措置を講ずべきとされたもの以外のものについても、各独立行政法人は、貸付資産等も含めた幅広い資産を対象に、自主的な見直しを不断に行うこととされている。
そして、基本方針において、機構が講ずべき措置として、年金担保貸付事業及び労災貸付事業については廃止することとされ、その具体的内容として、十分な代替措置の検討を早急に進め、具体的な工程表を22年度中に作成するとともに、現行制度における貸付限度の引下げ等による事業規模の縮減方針を年内に取りまとめることとされた。また、政府出資金の国庫返納として、業務廃止後、労災年金担保貸付勘定の不要資産(約58億円)を国庫に納付することとされている。
上記の基本方針を受けて、厚生労働省は、23年3月に、「年金担保貸付制度の廃止に向けた今後の対応方針」(以下「対応方針」という。)を策定し、23年度においては、貸付限度額の引下げとして〔1〕 1回の年金支給当たりの返済額の上限を1回の年金支給額の全額未満から1回の年金支給額の1/2以下とし、〔2〕 年金額対比の限度額を年金額の1.2倍以内から年金額の1.0倍以内とし、〔3〕 一律250万円とされている定額限度額を臨時生活資金については100万円とするとともに、他制度の周知の徹底等を行うこととした。また、24年度においては、主たる代替措置である生活福祉資金貸付制度(注)の今後の予算規模や実施体制等を見極めつつ、廃止に向けた検討を行い、具体的な計画を立案することとした。そして、機構は、23年12月に、年金担保貸付事業及び労災貸付事業の貸付限度額の引下げ等の措置を講じていた。
さらに、厚生労働省は、対応方針に基づいて、25年3月に、年金担保貸付事業廃止計画(以下「廃止計画」という。)を策定し、年金担保貸付事業の円滑な廃止に向けて、事業規模縮小等の措置を段階的に進め、これらの措置の進捗状況も踏まえ、28年度に具体的な廃止時期を判断することとしており、労災貸付事業についても同様の考え方で対応を行うこととしていた。
機構は、労災貸付事業等については、厚生労働大臣から指示された中期目標において、基本方針に基づいて、国において立案される計画に従って適切な措置を講じることとされていることを踏まえ、25年3月に策定した第3期中期目標期間(25年4月から30年3月まで)に係る中期計画(以下「中期計画」という。)において、労災年金担保貸付勘定に係る政府出資金について、業務廃止後、金銭納付により国庫に納付すると定めている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
前記のとおり、基本方針において、機構の労災貸付事業を廃止することとされたことから、機構では、貸付限度額の引下げ等の措置を講じて事業規模の縮減を図っている。
そこで、本院は、経済性、有効性等の観点から、労災貸付事業に係る政府出資金の規模は、縮減策を講じた後の労災貸付事業の実績を考慮するなどして適切に見直されているかなどに着眼して検査した。検査に当たっては、厚生労働省において、労災貸付事業に係る今後の方針、事業の廃止時期、今後の貸付けの見込みなどについて説明を聴取するなどして会計実地検査を行った。また、機構において、16年度から25年度までの間の貸付額、貸付残高等の実績について、機構の関係書類を精査したり、事業の推移等に係る説明を聴取したりして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
機構は、基本方針等を受けて、労災貸付事業の規模の縮小を図るために、前記のとおり、23年12月に貸付限度額の引下げ等の措置を講じている。そこで、貸付限度額の引下げ等の措置を講ずる前の22年度と貸付限度額の引下げ等の措置を講じた後の25年度の貸付件数、貸付額及び期末貸付残高を比較すると、22年度は貸付件数3,441件、貸付額44億9197万円、期末貸付残高48億0567万余円となっているのに対し、25年度は貸付件数2,409件(対22年度比70.0%)、貸付額26億8002万円(同59.6%)、期末貸付残高34億4400万余円(同71.6%)となっており、労災貸付事業の規模は、上記の貸付限度額の引下げ等の措置の影響により大幅に減少している(表1参照)。
区分 | 平成21年度 | 22年度 | 23年度 | 24年度 | 25年度 | |
---|---|---|---|---|---|---|
期首貸付残高 | 件数 | 6,116 | 6,166 | 6,034 | 5,844 | 5,620 |
金額(千円) | 5,025,137 | 4,952,559 | 4,805,673 | 4,415,163 | 3,793,448 | |
貸付額(実行額) | 件数 | 3,731 | 3,441 | 2,969 | 2,617 | 2,409 |
金額(千円) | 4,986,720 | 4,491,970 | 3,644,170 | 2,976,090 | 2,680,020 | |
回収額(元本) | 件数 | 3,681 | 3,573 | 3,159 | 2,841 | 2,706 |
金額(千円) | 5,059,298 | 4,638,855 | 4,034,679 | 3,597,805 | 3,029,462 | |
期末貸付残高 | 件数 | 6,166 | 6,034 | 5,844 | 5,620 | 5,323 |
金額(千円) | 4,952,559 | 4,805,673 | 4,415,163 | 3,793,448 | 3,444,006 |
機構の労災年金担保貸付勘定における資産のほとんどは、政府出資金を原資としている。このうち、貸付けに使用している資産については長期貸付金等として経理されている。また、貸付けに使用しない資産の多くは、現金及び預金、買現先勘定及び有価証券となっていて、通則法に基づき、業務上の余裕金として、短期運用するなどしている。貸借対照表によると、(1)のとおり、22年度末から25年度末の貸付残高は、22年度末の48億0567万余円から34億4400万余円となって大幅に減少している一方で、25年度末の現金及び預金、買現先勘定及び有価証券の合計額は22年度末の11億4323万余円から24億6320万余円となって大幅に増加している状況となっている(表2参照)。
年度
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科目 |
平成22年度末 | 23年度末 | 24年度末 | 25年度末 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
資産の部 | ||||||||
I 流動資産 | ||||||||
現金及び預金…〔1〕 | 143,277 | 129,276 | 148,756 | 263,205 | ||||
買現先勘定 …〔2〕 | 199,953 | 1,399,704 | ― | ― | ||||
有価証券 …〔3〕 | 800,000 | ― | 2,000,000 | 2,200,000 | ||||
(〔1〕 +〔2〕 +〔3〕 ) | (1,143,230) | (1,528,980) | (2,148,756) | (2,463,205) | ||||
1年以内回収予定長期貸付金 | 3,234,005 | 3,009,271 | 2,487,492 | 2,242,595 | ||||
その他 | 14,571 | 15,701 | 15,380 | 14,920 | ||||
流動資産合計 | 4,391,807 | 4,553,953 | 4,651,629 | 4,720,721 | ||||
II 固定資産 | ||||||||
1有形固定資産 | 585 | 466 | 327 | 249 | ||||
2無形固定資産 | 1,405 | 1,528 | 963 | 1,615 | ||||
3投資その他の資産 | 1,555,536 | 1,389,800 | 1,295,256 | 1,195,743 | ||||
長期貸付金 | 1,557,197 | 1,389,861 | 1,295,286 | 1,196,409 | ||||
破産債権・再生債権等の債権 | 14,470 | 16,030 | 10,669 | 5,001 | ||||
貸倒引当金 | -16,131 | -16,092 | -10,699 | -5,666 | ||||
固定資産合計 | 1,557,528 | 1,391,794 | 1,296,546 | 1,197,608 | ||||
資産合計 | 5,949,335 | 5,945,748 | 5,948,176 | 5,918,330 | ||||
負債の部 | ||||||||
I 流動負債 | 62,815 | 57,465 | 57,835 | 53,458 | ||||
II 固定負債 | 8,356 | 7,885 | 9,387 | 8,216 | ||||
負債合計 | 71,172 | 65,350 | 67,222 | 61,675 | ||||
純資産の部 | ||||||||
I 資本金(政府出資金) | 5,831,238 | 5,831,238 | 5,831,238 | 5,831,238 | ||||
II 利益剰余金 | 46,925 | 49,159 | 49,715 | 25,416 | ||||
純資産合計 | 5,878,163 | 5,880,398 | 5,880,954 | 5,856,654 | ||||
負債純資産合計 | 5,949,335 | 5,945,748 | 5,948,176 | 5,918,330 |
前記のとおり、厚生労働省は、廃止計画において、労災貸付事業の円滑な廃止に向けて、事業規模縮小等の措置を段階的に進め、これらの措置の進捗状況を踏まえて、28年度に具体的な廃止時期を判断することとしている。
したがって、少なくとも28年度までは事業が継続されることなどから、今後も更に貸付残高は減少していくことが見込まれる一方で、貸付けに使用されない資産のうち現金及び預金、有価証券等の業務上の余裕金が増加していくことが見込まれる。
上記のとおり、23年度以降、大幅に貸付残高は減少してきており、また、厚生労働省は今後も縮減策を講ずることとしていることから、更なる貸付残高の減少が見込まれる。
そこで、労災貸付事業の実施に必要な政府出資金の額を試算したところ、これまでの労災貸付事業の実績を踏まえるとともに、一時的な貸付需要の増加の可能性等を考慮したとしても、次のとおり、本件政府出資金のうち相当部分に係る資産は将来も使用することが見込まれないと認められる。
すなわち、直近の25年度末の貸付残高は、34億4400万余円まで減少しているが、今後の一時的な貸付需要の増加等の可能性に備えるための余裕を考慮するために、直近3か年の貸付残高に基づき計算することとして、23年度から25年度までの各年度の最も多額となった日の貸付残高(23年度48億7524万余円、24年度44億7062万余円、25年度38億4705万余円)を平均した額を貸付事業に真に必要な政府出資金の額とすると、43億9764万余円となる。そして、25年度末の政府出資金58億3123万余円のうち、この43億9764万余円を上回る14億3359万余円に係る資産については、将来も貸付金の原資に使用されることが見込まれないと認められる。
(改善を必要とする事態)
通則法により政府出資等に係る不要財産については、遅滞なく、国庫に納付するものとされているのに、厚生労働省において、通則法及び基本方針の趣旨にのっとって事業規模に見合った資産規模を十分に検証しておらず、このため、機構において、貸付金の原資として使用される見込みのない多額の政府出資金に係る資産を保有している事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、機構において、基本方針で業務廃止後に労災年金担保貸付勘定の政府出資金を国庫に納付することとされていることから、事業規模に見合った資産規模の見直しを行っていないことにもよるが、機構が労災貸付事業の規模の縮減を図っていて、貸付残高が減少しているのに、厚生労働省において、通則法及び基本方針の趣旨にのっとって労災貸付事業の実績を考慮するなどして、事業規模に見合った資産規模の見直しを速やかに行うことの必要性の認識が欠けていることなどによると認められる。
労災貸付事業は、基本方針において廃止することとされ、機構において貸付限度額の引下げ等の措置を講じたことから、貸付残高は年々減少しており、多額の政府出資金が今後も貸付金の原資として使用される見込みがない状況となっている。
ついては、厚生労働省において、労災貸付事業の実績及び今後の事業規模を考慮するなどして真に必要となる政府出資金の額を機構と検討し、必要額を超えて保有されていると認められる政府出資金については、機構において通則法に基づき、不要財産として速やかに国庫に納付することにより、政府出資金が適切な規模のものとなるよう意見を表示する。