厚生労働省は、「平成21年度地域医療再生臨時特例交付金の交付について」(平成21年厚生労働省発医政第0605003号)等に基づき、都道府県が地域の医療課題の解決等に向けて策定する地域医療再生計画等に基づいて行う事業を支援するために、都道府県が設置する地域医療再生基金の造成に必要な経費として、地域医療再生臨時特例交付金を、平成21年度から24年度までの間に計5549億9792万余円交付している。
また、厚生労働省は、「平成21年度医療施設耐震化臨時特例交付金の交付について」(平成21年厚生労働省発医政第0605004号)等に基づき、災害拠点病院等の医療機関の耐震整備を行い、地震発生時において適切な医療提供体制の維持を図るために、都道府県が設置する医療施設耐震化臨時特例基金の造成に必要な経費として、医療施設耐震化臨時特例交付金を、21年度から24年度までの間に計1959億0750万余円交付している。
地域医療再生基金及び医療施設耐震化臨時特例基金(以下、これらを合わせて「両基金」という。)を活用して行う地域医療再生基金事業及び耐震化整備事業(以下、これらを合わせて「両助成事業」という。)の実施に当たっては、都道府県が、両助成事業における助成金の交付事務に係る手続等を定めた助成要綱を作成することとなっており、両助成事業の内容に合わせて要綱を複数定めるなどしている。
消費税法(昭和63年法律第108号)等に基づき、消費税(地方消費税を含む。以下同じ。)は、事業者が課税対象となる取引を行った場合に納税義務が生ずるが、生産及び流通の各段階の取引で重ねて課税されないように、確定申告において、課税売上げ(消費税の課税対象となる資産の譲渡等)に係る消費税額から課税仕入れ(消費税の課税対象となる資産の譲受け等)に係る消費税額を控除(以下「仕入税額控除」という。)する仕組みとなっている。
また、確定申告をする者は、原則として課税期間(注1)終了後2か月以内に確定申告書を提出することとなっている。
両助成事業の事業者が消費税の課税事業者であり、かつ、両助成事業の対象となる建物の取得、設備機器の購入等の設備投資等により得られる売上げが課税売上げとなるなどの場合には、その設備投資等は課税仕入れに該当する。そして、両助成事業の事業者が確定申告の際に課税仕入れに係る消費税額を仕入税額控除した場合には、当該事業者はこれらに係る消費税額を実質的に負担していないこととなる。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
両助成事業において助成の対象となる経費(以下「助成対象事業費」という。)に対して交付される助成金は毎年度多額に上っており、また、事業者の中に医療法人等の消費税の課税事業者が多数含まれていると見込まれる。
そこで、本院は、合規性、効率性等の観点から、両助成事業における消費税に係る取扱いが適切に行われ、地域医療再生臨時特例交付金及び医療施設耐震化臨時特例交付金(以下、これらを合わせて「両交付金」という。)により造成された両基金が効率的に活用されているかなどに着眼して、両交付金により24都道府県(注2)に造成された48両基金において、21年度から24年度までの間に2,323両助成事業に対して交付された助成金計725億4801万余円を対象として、実績報告書等の書類により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
24都道府県の47両基金により603事業者が実施した1,058両助成事業(助成対象事業費計2315億0830万余円、助成金計479億6944万余円(うち両交付金計414億5010万余円))において、事業者は、消費税の課税事業者であり、両助成事業の対象となる設備投資等により得られる売上げが課税売上げとなることなどから、確定申告により課税売上高に対する消費税額から、上記の助成金に係る消費税額を仕入税額控除していた。
一方、上記の603事業者が実施した1,058両助成事業に係る助成要綱によれば、助成対象事業費に係る消費税額のうち仕入税額控除できる額が確定した場合、事業者は、速やかに都道府県知事等に対して報告書(以下、この報告書を「仕入税額控除報告書」という。)を提出するとともに、仕入税額控除報告書に基づいて都道府県知事等から返還命令を受けた場合、これを都道府県に返還しなければならないこととされている。
しかし、事業者において、仕入税額控除できる額が確定する確定申告書の提出日から、おおむね6か月以上経過しても仕入税額控除報告書を都道府県知事等に提出していなかったり、都道府県において、事業者の仕入税額控除報告書の提出から、おおむね6か月以上経過しても都道府県に報告額を返還させていなかったりしていて、1,058両助成事業において仕入税額控除した消費税額に係る助成金相当額計2億0676万余円(うち地域医療再生臨時特例交付金相当額5939万余円、医療施設耐震化臨時特例交付金相当額1億2895万余円、計1億8835万余円)が事業者に対して交付されたままとなっていた。
これを都道府県別及び基金別に示すと表1のとおりである。
表1 助成要綱に基づく事務処理を適時適切に行っていなかった事態の都道府県別及び基金別内訳
都道府県名 | 基金名 | 助成事業数 | 助成金額(千円) | 仕入税額控除した消費税額に係る助成金相当額(千円) | 左のうち両交付金相当額(千円) |
---|---|---|---|---|---|
北海道 | 地域医療再生基金 | 44 | 887,644 | 2,702 | 2,702 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 6 | 2,239,574 | 12,010 | 6,675 | |
茨城県 | 地域医療再生基金 | 51 | 1,032,297 | 14,079 | 12,352 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 6 | 2,258,294 | 56,263 | 56,263 | |
群馬県 | 地域医療再生基金 | 28 | 2,418,558 | 5,883 | 5,883 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 3 | 2,082,046 | 4,260 | 2,692 | |
東京都 | 地域医療再生基金 | 24 | 278,900 | 1,524 | 1,184 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 5 | 472,224 | 5,271 | 5,271 | |
神奈川県 | 地域医療再生基金 | 134 | 786,292 | 3,847 | 3,847 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 6 | 1,118,146 | 4,111 | 4,111 | |
新潟県 | 地域医療再生基金 | 1 | 23,693 | 54 | 54 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 3 | 915,541 | 2,024 | 2,024 | |
山梨県 | 地域医療再生基金 | 14 | 136,765 | 1,159 | 1,159 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 1 | 712,387 | 3,531 | 3,531 | |
岐阜県 | 地域医療再生基金 | 47 | 606,788 | 1,138 | 914 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 1 | 3,433 | 9 | 9 | |
静岡県 | 地域医療再生基金 | 23 | 804,360 | 2,423 | 2,423 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 2 | 281,590 | 1,070 | 1,070 | |
愛知県 | 地域医療再生基金 | 12 | 820,891 | 5,138 | 4,404 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 8 | 2,474,375 | 7,234 | 7,234 | |
京都府 | 地域医療再生基金 | 3 | 1,848 | 33 | 33 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | ― | ― | ― | ― | |
大阪府 | 地域医療再生基金 | 72 | 889,720 | 4,781 | 4,781 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 6 | 2,487,844 | 6,054 | 6,054 | |
兵庫県 | 地域医療再生基金 | 48 | 94,583 | 259 | 259 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 3 | 1,594,213 | 4,859 | 4,859 | |
和歌山県 | 地域医療再生基金 | 17 | 827,126 | 5,192 | 5,192 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 1 | 19,609 | 53 | 53 | |
鳥取県 | 地域医療再生基金 | 103 | 494,360 | 1,435 | 1,435 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 2 | 98,016 | 193 | 193 | |
岡山県 | 地域医療再生基金 | 89 | 2,191,386 | 6,000 | 4,514 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 12 | 3,080,756 | 7,076 | 4,004 | |
香川県 | 地域医療再生基金 | 6 | 29,208 | 68 | 68 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 1 | 157,837 | 404 | 212 | |
愛媛県 | 地域医療再生基金 | 35 | 1,088,871 | 2,408 | 2,347 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 6 | 3,485,528 | 4,467 | 2,784 | |
高知県 | 地域医療再生基金 | 5 | 306,421 | 1,739 | 349 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 1 | 651,148 | 756 | 469 | |
福岡県 | 地域医療再生基金 | 119 | 688,828 | 1,931 | 1,725 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 7 | 2,437,030 | 4,963 | 4,963 | |
佐賀県 | 地域医療再生基金 | 26 | 331,482 | 726 | 682 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 2 | 793,733 | 1,238 | 1,238 | |
長崎県 | 地域医療再生基金 | 18 | 350,732 | 1,211 | 1,211 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 8 | 1,641,985 | 4,280 | 4,280 | |
熊本県 | 地域医療再生基金 | 29 | 500,123 | 1,510 | 1,449 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 6 | 2,042,859 | 8,961 | 8,961 | |
鹿児島県 | 地域医療再生基金 | 9 | 255,258 | 416 | 416 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 5 | 1,075,137 | 1,996 | 1,996 | |
24都道府県 計 |
地域医療再生基金 | 957 | 15,846,137 | 65,668 | 59,394 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 101 | 32,123,305 | 141,094 | 128,957 | |
合計 | 1,058 | 47,969,442 | 206,763 | 188,352 |
9都道府県(注3)の10両基金により139事業者が実施した226両助成事業(助成対象事業費計273億6484万余円、助成金計59億8147万余円(両交付金同額))において、事業者は、消費税の課税事業者であり、両助成事業の対象となる設備投資等により得られる売上げが課税売上げとなることなどから、確定申告により課税売上高に対する消費税額から、上記の助成金に係る消費税額を仕入税額控除していた。
しかし、上記の139事業者が実施した226両助成事業に係る助成要綱には、事業者が確定申告を行い、助成対象事業費に係る消費税額のうち仕入税額控除できる額が確定した場合、その額に係る助成金を返還することなどの規定が定められていなかった。このため、226両助成事業において仕入税額控除した消費税額に係る助成金相当額計1779万余円(地域医療再生臨時特例交付金相当額886万余円、医療施設耐震化臨時特例交付金相当額893万余円、計1779万余円)が事業者に対して交付されたままとなっていた。
これを都道府県別及び基金別に示すと表2のとおりである。
表2 助成要綱に消費税の取扱いを定めていなかった事態の都道府県別及び基金別内訳
都道府県名 | 基金名 | 助成事業数 | 助成金額(千円) | 仕入税額控除した消費税額に係る助成金相当額(千円) | 左のうち両交付金相当額(千円) |
---|---|---|---|---|---|
北海道 | 地域医療再生基金 | 48 | 2,649,411 | 6,333 | 6,333 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | ― | ― | ― | ― | |
東京都 | 地域医療再生基金 | 3 | 343,173 | 722 | 722 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | ― | ― | ― | ― | |
神奈川県 | 地域医療再生基金 | 3 | 295,447 | 190 | 190 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | ― | ― | ― | ― | |
愛知県 | 地域医療再生基金 | 5 | 272,951 | 109 | 109 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | ― | ― | ― | ― | |
京都府 | 地域医療再生基金 | 143 | 480,913 | 1,402 | 1,402 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 6 | 1,858,043 | 8,931 | 8,931 | |
鳥取県 | 地域医療再生基金 | 15 | 27,244 | 91 | 91 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | ― | ― | ― | ― | |
愛媛県 | 地域医療再生基金 | 1 | 3,937 | 7 | 7 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | ― | ― | ― | ― | |
福岡県 | 地域医療再生基金 | 1 | 50,000 | 6 | 6 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | ― | ― | ― | ― | |
佐賀県 | 地域医療再生基金 | 1 | 350 | 2 | 2 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | ― | ― | ― | ― | |
9都道府県計 | 地域医療再生基金 | 220 | 4,123,427 | 8,867 | 8,867 |
医療施設耐震化臨時特例基金 | 6 | 1,858,043 | 8,931 | 8,931 | |
合計 | 226 | 5,981,470 | 17,798 | 17,798 |
(1)及び(2)のように、仕入税額控除した消費税額に係る助成金相当額が事業者に交付されたままとなっていて、この結果、両基金が効率的に活用されないこととなっている事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、厚生労働省は、26年3月及び8月に都道府県に対して事務連絡を発して、事業者から都道府県に返還されていない仕入税額控除した消費税額に係る助成金相当額については、速やかに返還の処理を行わせる処置を講じた。そして、両助成事業の助成要綱に基づき消費税に係る取扱いを適時適切に行うことを都道府県から事業者に周知させるとともに、都道府県に対して速やかな事務処理の徹底を行うよう周知した。また、両助成事業の助成要綱に仕入税額控除した消費税額に係る助成金相当額の取扱いを明確にすることを徹底するよう都道府県に周知する処置を講じた。