(2件 不当と認める国庫補助金 12,758,195円)
部局等 | 補助事業者等 | 間接補助事業者等 | 補助事業等 | 年度 | 事業費 | 左に対する国庫補助金等交付額 | 不当と認める事業費 | 不当と認める国庫補助金等相当額 | |
千円 | 千円 | 千円 | 千円 | ||||||
(262) | 農林水産本省 | 静岡県 (事業主体) |
― | 農山漁村地域整備交付金 | 22、23 | 36,350 | 18,175 | 15,449 | 7,724 |
(263) | 関東農政局 | 山梨県 (事業主体) |
― | 農業体質強化基盤整備促進 | 24、25 | 31,813 | 17,497 | 9,151 | 5,033 |
(262)(263)の計 | 68,163 | 35,672 | 24,601 | 12,758 |
これらの補助事業等は、2県が、農業用水を確保することなどを目的として、ファームポンド(注1)等を整備する工事を実施したものである。
これらのファームポンドは、側壁、底版等が剛結されている本体部と、本体部の側壁の一部を共有して底版を他の部分より低くして内部にためた農業用水を配水するなどのためのピット部から成る一体の鉄筋コンクリート構造物で、掘削した地盤上に築造したものである。
2県は、ファームポンドの設計を、「土地改良事業設計指針「ファームポンド」」(農林水産省構造改善局建設部制定)に基づいて行っていた。そして、ファームポンドの本体部の側壁等に作用する土圧、水圧等を考慮して計算した結果、側壁の内側及び底版の上面側の主鉄筋に生ずる引張応力度(注2)が許容引張応力度(注2)を下回ることから、応力計算上安全であるとして、これにより施工していた。
しかし、2県において、ファームポンドの設計に当たり、ピット部を含めた側壁の高さで応力計算を行っていなかったり、設計計算書どおりの配筋図を作成していなかったりしていた事態が見受けられた。
そこで、ファームポンドについて改めて応力計算を行ったところ、側壁の内側及び底版の上面側に配置されている主鉄筋に生ずる引張応力度は、許容引張応力度を大幅に上回っていて、応力計算上安全とされる範囲に収まっておらず、ファームポンドはいずれも所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る国庫補助金等相当額計12,758,195円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、2県において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
静岡県は、静岡市清水区加瀬沢地区において、ファームポンド、管理用道路等を整備する工事を実施していた。
このうち、ファームポンドは、側壁の高さが5.5mの本体部と、本体部の側壁の一部を共有して底版を他の部分より0.7m低くしたピット部からなる一体の鉄筋コンクリート構造物(参考図参照)であり、同県は、その設計に当たり、側壁の高さを5.5mとして側壁等に作用する土圧、水圧等を考慮して計算した結果、ファームポンドの側壁及び底版に配置する主鉄筋については、径19㎜と径16㎜の鉄筋を2本束ねるなどして配置すれば主鉄筋に生ずる引張応力度が許容引張応力度を下回ることなどから、応力計算上安全であるとしていた。
しかし、ピット部を含めた側壁の高さは6.2mとなり、これに作用する土圧及び水圧は、側壁の高さが5.5mの箇所より増加することとなることから、同県は、これを考慮した応力計算を行う必要があった。また、設計計算書によると、ファームポンドの側壁及び底版の主鉄筋は、径19㎜と径16㎜の鉄筋を2本束ねるなどして配置することとされていたが、配筋図では、誤って、径19㎜の鉄筋一本のみを、ピット部を含めて一律に配置することとし、同県はこれにより施工していた。
そこで、ピット部を含めた側壁の高さや実際に施工された配筋に基づいて応力計算を行ったところ、側壁の内側及び底版の上面側に配置されている主鉄筋に生ずる引張応力度は、それぞれ常時213N/mm2、296N/mm2(ピット部は328N/mm2、413N/mm2)、地震時329N/mm2、362N/mm2(ピット部は396N/mm2、435N/mm2)となり、いずれも常時の許容引張応力度157N/mm2、地震時の許容引張応力度264N/mm2を大幅に上回っていて、応力計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。
したがって、本件ファームポンド(工事費相当額15,449,905円、交付金相当額7,724,952円)は、設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態になっていた。
<ファームポンドの概念図>
<主鉄筋の配置概念図>