【改善の処置を要求し及び是正改善の処置を求めたものの全文】
経営所得安定対策等における交付金の交付対象面積について
(平成26年10月30日付け 農林水産大臣宛て)
標記について、下記のとおり、会計検査院法第36条の規定により改善の処置を要求し、及び同法第34条の規定により是正改善の処置を求める。
記
貴省は、農業者戸別所得補償制度実施要綱(平成23年22経営第7133号農林水産事務次官依命通知。以下「実施要綱」という。)等に基づき、農業経営の安定と国内生産力の確保を図り、もって食料自給率の向上と農業の多面的機能を維持することを目的として、平成23年度から農業者戸別所得補償制度(25年5月以降26年3月までは経営所得安定対策。26年4月以降は経営所得安定対策及び水田活用の直接支払交付金(注1)。以下同じ。)を実施し、米の所得補償交付金(25年5月以降は米の直接支払交付金で、29年度までの時限措置。以下同じ。)、水田活用の所得補償交付金(25年5月以降は水田活用の直接支払交付金。以下同じ。)(以下、米の所得補償交付金及び水田活用の所得補償交付金を合わせて「交付金」という。)等を交付している。
米の所得補償交付金は、販売農家等に対して、主食用米の作付面積から自家消費等分10aを控除した交付対象面積に交付単価を乗ずるなどして算出した額を、また、水田活用の所得補償交付金は、主食用米を作付けしない水田に麦、大豆等の交付対象作物を作付けする販売農家等に対して、当該交付対象作物の作付面積を交付対象面積として、これに交付単価を乗ずるなどして算出した額を、それぞれ交付するものである。また、水田活用の所得補償交付金には、地域振興作物等の生産を支援するための助成を行う産地資金(26年4月以降は産地交付金。以下同じ。)があり、都道府県等は、国から配分された資金枠の範囲内で、地域の実情に即して、交付対象作物、交付単価等の助成内容を定めることができることとなっている。
販売農家等の交付申請者は、交付金の交付申請に当たり、「農業者戸別所得補償制度の交付金に係る営農計画書」(以下「営農計画書」という。)等を地域農業再生協議会(注2)(以下「協議会」という。)に提出することとなっている。営農計画書には、水田ごとに作付面積等を記載することとなっており、協議会は、当該作付面積を確認するなどした上で地域センター等(注3)に報告し、地域センター等は、報告された作付面積を基に交付対象面積を算定することなどとなっている。
実施要綱等によれば、協議会は、上記作付面積の確認に加えて、営農計画書等を基に、交付金の交付対象となる水田を明確にした水田情報を整理することとされている。この整理において、交付対象となる水田の面積は、本地面積(注4)であって、畦畔等の作物の作付けが不可能な農地は含まないこととされている(以下、作付けが不可能な農地の面積を「畦畔面積」、本地面積と畦畔面積を合わせた水田全体の面積を「水田面積」という。)。そして、協議会は、交付対象となる水田について、その状況を適切に把握することとされており、本地面積については、次のいずれかの方法により、定期的に確認することとされている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
24年度の米の所得補償交付金の交付総額は1552億余円、水田活用の所得補償交付金の交付総額は2223億余円、計3775億余円と多額に上っており、今後も継続して交付されることが見込まれる。
そこで、本院は、合規性、有効性等の観点から、交付対象面積の基本となる本地面積の算定根拠が明確なものとなっているか、交付対象面積の確認が実施要綱等に基づき適切に行われているかなどに着眼して、8農政局等(注7)管内の201協議会において、24年度に確認された交付対象面積延べ48,108,656aに係る米の所得補償交付金431億余円、水田活用の所得補償交付金516億余円、計948億余円を対象として、営農計画書、固定資産課税台帳等の書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた(次の事態の間には重複しているものがある。)。
本地面積については、協議会が、実施要綱上の確認方法に基づき、水田ごとの本地面積を実測したり、畦畔率を設定して水田面積から畦畔面積を差し引いたりするなどして算定している。
しかし、協議会における本地面積の算定方法についてみたところ、73協議会では、管内全ての地区に畦畔率を設定して畦畔面積を算定しているものの、実施要綱等に定められた確認方法に基づき畦畔率を適切に設定しているか根拠資料がないなどのため確認できず、本地面積の算定根拠が明確でなかった。そこで、協議会が設定している畦畔率について、実施要綱等に定められた畦畔率の設定方法の一つである平均畦畔率と比較したところ、41協議会では、管内全ての地区の畦畔率が当該協議会管内の平均畦畔率を下回っており、その差は0.13ポイントから12.50ポイントまでとなっていた。そして、これら41協議会の交付対象面積延べ6,721,564a(交付金交付額計129億3206万余円)について、平均畦畔率を適用した場合の交付対象面積等を試算すると、交付対象面積延べ6,593,395a、交付金相当額計127億0470万余円となり、上記の交付対象面積及び交付金交付額との間に128,168a及び2億2735万余円の開差が生ずることとなる。
<事例1>
あさぎり町地域農業再生協議会(熊本県球磨郡あさぎり町所在)では、管内の畦畔率を一律3.00%と設定し、これを基に本地面積を算定しており、平成24年度の交付対象面積は延べ350,967a、交付金交付額は10億2092万余円となっていた。
しかし、同協議会では畦畔率の設定に当たり、過去に実測を行ったとしているものの根拠資料は全く残っておらず、実施要綱等に定められた確認方法に基づき畦畔率を適切に設定しているか確認できなかった。そこで、同協議会管内の平均畦畔率である7.00%を適用して交付対象面積等を試算すると、交付対象面積延べ336,494a、交付金相当額9億7882万余円となり、上記の交付対象面積及び交付金交付額との間に14,472a及び4209万余円の開差が生ずることとなる。
前記のとおり、実施要綱等において、本地面積の確認方法の一つとして水稲共済細目書との照合が定められており、多くの協議会では、この方法が採られている。
しかし、ほとんどの場合、水稲共済細目書と交付金の交付申請に当たり提出される営農計画書とは複写式となっていて、両者には全く同じ情報が記載されていることから、実質的に本地面積を照合して確認するものとなっていない。また、農業共済組合等では、水稲共済細目書に記載された本地面積について確認していなかったり、水稲共済細目書において変更があった水田について目視による確認のみを行ったりしていて、水稲共済細目書においても本地面積が必ずしも適切に把握されているとは限らない。
そこで、水稲共済細目書以外の公的資料との照合が十分に実施されておらず、公的資料との照合が適切とは認められない53協議会において、交付金交付額の大きい上位20販売農家等の交付対象面積延べ2,822,729a(交付金交付額計59億3000万余円)を抽出するなどして、固定資産課税台帳等に記載された確定測量済の水田面積と営農計画書の作付面積を比較したところ、作付面積が水田面積以上となっている水田が見受けられ、本地面積が適切に確認されていなかった。
これらの水田について、固定資産課税台帳等の水田面積に平均畦畔率を適用するなどした場合の交付対象面積等を試算すると、交付対象面積延べ2,797,755a、交付金相当額計58億7904万余円となり、上記の交付対象面積及び交付金交付額はこれに比べて24,973a及び5096万余円過大となっていた。
農地が農地以外のものへ転用される場合等には、農業委員会を経由して都道府県知事の許可等が行われた後、土地の登記簿や固定資産課税台帳等の公的資料に転用後の減少した農地の面積が記載されることになる。
そこで、水田の転用等により水田面積が減少した場合に、本地面積にその減少が反映されているかについて、農業委員会からの情報を基にするなどしてみたところ、89協議会では、土地の登記簿等との照合を十分に行っていなかったことなどにより、水田面積の減少が本地面積に反映されておらず、本地面積が適切に確認されていなかった。そして、これらの水田について、土地の登記簿等における水田面積に協議会が設定した畦畔率等を適用した場合の交付対象面積等を試算すると、実際の交付対象面積及び交付金交付額は、5,954a及び1208万余円過大となっていた。
水田活用の所得補償交付金のうち産地資金の交付対象となる野菜や果樹等の作物には、ビニールハウス等の園芸施設で作付けされるものがあり、その場合においても、作付面積を交付対象面積とすることとなっている。しかし、営農計画書上では、園芸施設で作付けされていることやその場合の作付面積となる園芸施設の設置面積等が明らかではない場合がある。そこで、園芸施設で作付けされる作物に対して産地資金を交付している147協議会(交付金交付額計6億1996万余円)についてみたところ、12協議会では、園芸施設の設置面積等を交付対象面積としていたが、135協議会では、通常、本地面積の全てに園芸施設が設置されることはないのに、園芸施設の設置面積等を把握せずに本地面積等を交付対象面積としていた。
そして、135協議会において、園芸施設で作付けされる作物のうち作付面積が最も大きい1作物等に係る交付対象面積計249,120a、交付金交付額計2億9627万余円を抽出した上で、これについて園芸施設の設置面積等を交付対象面積として試算すると、交付対象面積計187,777a、交付金相当額計2億1879万余円となり、上記の交付対象面積及び交付金交付額はこれに比べて61,342a及び7747万余円過大となっていた。
<事例2>
真岡市農業再生協議会(栃木県真岡市所在)では、いちごなどを産地資金の交付対象作物としている。そして、同協議会管内においては、交付対象となるいちごは全てビニールハウス等の園芸施設で作付けされている。
しかし、同協議会では園芸施設の設置面積を確認しておらず、本地面積等を交付対象面積としていた。そこで、平成24年度のいちごに係る交付対象面積36,459a、交付金交付額3281万余円について、園芸施設の設置面積を交付対象面積として試算すると、交付対象面積18,840a、交付金相当額1689万余円となり、上記の交付対象面積及び交付金交付額はこれに比べて17,618a及び1591万余円過大となっていた。
(改善及び是正改善を必要とする事態)
(1)のとおり、本地面積の算定の根拠が明確でない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。また、(2)及び(3)のとおり、本地面積が適切に確認されていなかったり、(4)のとおり、園芸施設で作付けされる作物に対して産地資金を交付する際に本地面積等を交付対象面積としたりしている事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
貴省は、26年度以降も引き続き経営所得安定対策等を実施することとしている。
ついては、貴省において、交付対象面積の確認等が適切に実施されるよう、次のとおり改善の処置を要求し及び是正改善の処置を求める。