ページトップ
  • 平成25年度 |
  • 第3章 個別の検査結果|第1節 省庁別の検査結果|第10 農林水産省|意見を表示し又は処置を要求した事項

(5)水産庁が所管する政府開発援助の実施に当たり、援助の効果が十分に発現するなどするよう意見を表示したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)水産庁 (項)食料安全保障確立対策費(平成20年度から22年度までは(項)国際漁業協力推進費、18、19両年度は(項)水産業振興費)
部局等
水産庁
補助の根拠
予算補助
補助事業者
(事業主体)
公益財団法人海外漁業協力財団(平成24年3月31日以前は財団法人海外漁業協力財団)
補助事業
国際漁業振興協力事業
国際漁業振興協力事業の概要
我が国漁業の海外漁場の確保と海外漁業協力を一体的に推進するために、我が国と入漁関係にある開発途上国において民間団体が行う資機材の供与や専門家の派遣等の援助に要する経費の補助等を行うもの
事業数及び事業費
118事業 60億2597万余円(平成18年度~24年度)
上記に対する国庫補助金額
45億0040万余円
援助の効果が十分に発現していなかった事業数及び事業費
7事業 4999万余円(平成18年度~22年度)
上記に対する国庫補助金相当額(1)
3742万円
資機材等についての現状報告を受ける対象となっていなかった事業数及び事業費
35事業 4億8415万余円(平成18年度~24年度)
上記に対する国庫補助金相当額(2)
3億6251万円
(1)及び(2)の純計
37事業 3億8131万円(背景金額)
付加価値税を財団が負担していた事業数及び付加価値税相当額
8事業 435万余円(平成20年度~22年度、24年度)
上記に対する国庫補助金相当額
323万円

【意見を表示したものの全文】

水産庁所管の政府開発援助の実施について

(平成26年9月24日付け 水産庁長官宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 水産庁所管の政府開発援助の概要

(1)水産庁所管の政府開発援助の概要

貴庁は、我が国の政府開発援助の一環として、我が国漁業の海外漁場の確保と水産資源の持続的利用の推進により総合的な食料安全保障の確立を図ることを目的として、国際漁業振興協力事業を実施している。

国際漁業振興協力事業は、貴庁が制定した国際漁業振興協力事業実施要領(昭和48年48水生第3146号)等に基づき、我が国が、排他的経済水域内で漁業を行うなどの入漁関係にある開発途上国(以下「相手国」という。)の水産業の開発、振興等を図るために、資機材の供与や専門家の派遣等の援助を行うものである。そして、貴庁は、国際漁業振興協力事業の実施に当たり、公益財団法人海外漁業協力財団(平成24年3月31日以前は財団法人海外漁業協力財団。以下「財団」という。)等に対して、18年度から24年度までの間に、財団等が実施している援助に要する経費について国庫補助金等を交付している(事業費計91億7257万余円、国庫補助金等計67億7170万余円)。

(2)財団が行う援助の概要

貴庁から国庫補助金の交付を受けた財団は、大洋州、アフリカ、中南米等の各地域において、相手国内の水産施設等の持続的な有効利用等を図るために、これらの施設の修理や資機材の供与等の援助を行っている。そして、上記援助の実施に当たり、財団は、援助の実施前に相手国に専門家を派遣し、相手国側が援助実施後も運営経費を継続して負担できることを確認等するための事前調査を行った上で、援助の対象となる案件を選定して、相手国の政府機関等(以下「相手国実施機関」という。)との間で覚書を締結している。

また、上記各地域のうち大洋州地域における我が国と入漁関係にある全ての国について、財団は、毎年度援助を行っていることなどから、相手国と連絡調整を密にしつつ現地のニーズに応じるために、フィジー共和国(以下「フィジー」という。)及びミクロネシア連邦の2か国に事務所等を設置している。そして、財団は、大洋州地域の相手国との間で、翌年度の援助要請案件に関する協議を行うために、毎年10月頃に相手国実施機関の局長級の責任者をフィジー事務所に招集して協議会を開催し、この協議会において協議された案件について、上記の事前調査を実施している。

なお、大洋州地域以外の地域について、財団は、事務所等を設置していない。

(3)本院の国会からの検査要請事項に関する報告を踏まえて、財団が執った措置の概要

本院は、20年1月に参議院から、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省及び国土交通省の政府開発援助に関する検査の要請を受けて、同年10月にその検査結果を報告している。この報告において、国際漁業振興協力事業として財団が相手国に専門家の派遣や資機材の供与等を行った援助の効果について、相手国側の事情による部分が大きいものの、資機材等が供与後に十分利用されていないなどしている事態が見受けられたことから、専門家の帰国後も事業等が自立的に発展していけるよう、また、供与した資機材等が有効に利用されるよう、相手国の実情に応じた指導又は事業の実施に一層努める必要があるなどとする所見を記載している。

上記の報告を踏まえて、財団は、援助の効果が持続的に発現するよう、援助実施後の状況や供与した資機材の使用状況等を効果的に把握し、問題点を議論するための機会を設ける必要があるとして、20年11月、大洋州地域において、相手国実施機関との間で援助の状況を把握等するための事業フォローアップ協議会をフィジー事務所に設置した。そして、財団は、同地域において供与した資機材等のうち、取得価格50万円以上、かつ、事業終了後5年を経過していない資機材等のリスト(以下「資機材リスト」という。)を作成し、これに記載された資機材等については、事業フォローアップ協議会において相手国実施機関から個別に資機材等の現状についての報告を受け、問題があると財団が判断した場合にはその改善方法等について話し合うなどのフォローアップを行うことにした。

(4)現地で調達する資機材等に賦課される付加価値税の概要

援助の実施に当たり、相手国内において、財団が供与する資機材等の物品や施設の修理等の役務を調達する(以下、相手国内で調達された資機材等の物品や修理等の役務を合わせて「現地調達資機材等」という。)際には、相手国実施機関との間で締結した覚書により、現地調達資機材等に係る付加価値税を、相手国が免除又は負担する場合がある。

2 本院の検査及び現地調査の結果

(検査及び現地調査の観点及び着眼点)

本院は、国際漁業振興協力事業について、経済性、有効性等の観点から、財団が相手国内において修理等した施設等は援助実施後においても十分に利用されているか、フォローアップを適時適切に行っているか、相手国による付加価値税の免除等は適切に行われているかなどに着眼して、検査及び現地調査を実施した。

(検査及び現地調査の対象及び方法)

本院は、貴庁及び財団において、国際漁業振興協力事業のうち、18年度から24年度までの間に、26か国(注1)で実施された118事業(事業費計60億2597万余円、国庫補助金計45億0040万余円)について、補助金実績報告書その他の関連書類を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。

さらに、援助の効果が十分に発現しているかなどを確認するために、5か国(注2)において、18年度から23年度までの間に実施された24事業(事業費計10億5446万余円、国庫補助金計7億8840万余円)について、貴庁及び財団の職員の立会いの下に相手国の協力が得られた範囲内で、相手国実施機関から説明を受けたり、事業現場の状況を確認したりして現地調査を実施した。

(注1)
26か国  ブラジル、カーボヴェルデ、チリ、中国、エクアドル、赤道ギニア、フィジー、ガボン、インドネシア、キリバス、マダガスカル、マーシャル、モーリタニア、モーリシャス、ミクロネシア、モロッコ、モザンビーク、ナウル、パラオ、パプアニューギニア、ペルー、サントメ・プリンシペ、セーシェル、ソロモン、ツバル、タンザニア
(注2)
5か国  マーシャル、モーリシャス、ミクロネシア、パラオ、セーシェル

(検査及び現地調査の結果)

検査及び現地調査を実施したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)援助の効果が十分に発現していない事業について

大洋州地域及びアフリカ地域において、次のとおり、財団が修理等した施設等が稼働を停止しているなどして持続的な有効利用が図られておらず、援助の効果が十分に発現していない事業が、18年度から22年度までの間に、7事業(マーシャル諸島共和国(以下「マーシャル」という。)5事業、パラオ共和国(以下「パラオ」という。)及びセーシェル共和国(以下「セーシェル」という。)各1事業、事業費計4999万余円、国庫補助金相当額計3742万余円)あった。

ア マーシャル製氷施設及び冷蔵施設修理等事業

財団は、マーシャルのマジュロ環礁デラップ地区等3地区において、製氷施設又は冷蔵施設の修理等を、18年度から22年度までの5か年度にわたり、各年度1事業計5事業を実施した。

調査したところ、マジュロ環礁デラップ地区において、18、19両年度に事業費計1909万余円(国庫補助金相当額計1429万余円)で修理等した冷蔵施設は、電気代が高騰したため、20年には稼働を停止していたが、財団は、同地区で行われた別の案件の事前調査(21年4月)を実施するまで稼働を停止していたことを把握していなかった。その後も相手国実施機関に対する稼働に向けての働きかけは特段行っておらず、冷蔵施設は、本院の現地調査実施時(24年11月)においても稼働を停止していた。

また、上記のほか、同地区、アルノ環礁イネ地区及びクワジェリン環礁イバイ地区において、18年度及び20年度から22年度までの間に事業費計2586万余円(国庫補助金相当額計1937万余円)で修理等した製氷施設又は冷蔵施設は、近隣に新たな製氷機が設置されたり、燃油代が高騰したりしたことなどにより、本院の現地調査実施時(24年11月)において、稼働を停止していた。

なお、相手国実施機関の説明によれば、状況が改善された際にはすぐに再稼働ができるよう、上記各施設の機能維持のための整備を行っているとのことであった。

イ パラオ製氷施設修理等事業

財団は、パラオのメルケオク州において、製氷施設の修理等を、18年度に、事業費258万余円(国庫補助金相当額193万余円)で実施した。

調査したところ、18年12月末までに製氷施設の修理等は完了していたが、同州政府から委託を受けた施設の管理者が電気代を滞納し続けたことから電力会社により電気の供給を強制的に停止され、製氷施設は19年3月末には稼働を停止していた。財団は、施設管理者が既に電気代を滞納していた18年4月に本事業の事前調査を行っていたが、財団が派遣した専門家は、相手国側が援助実施後も運営経費を継続して負担できることを確認等すべきであるにもかかわらず、事前調査時に製氷施設が稼働していたことから、援助の効果が持続的に発現することを妨げる要因となる電気代の滞納状況を確認していなかった。そして、製氷施設は、本院の現地調査実施時(24年11月)においても稼働を停止していた。

ウ セーシェル水産加工用機材供与事業

財団は、セーシェルにおいて、水産加工品の研究開発等のための成型機等の資機材の供与を、20年度に、事業費245万余円(国庫補助金相当額183万余円)で実施した。

調査したところ、相手国実施機関は、援助終了後も独自に水産加工品等の開発に取り組み、成型機を使用していたが、部品が消耗したことなどにより、25年11月以降、使用できない状況となっていた。相手国実施機関の担当者は、成型機の交換部品の入手方法の詳細について知らず、財団に相談もしていなかったため、修理ができず、本院の現地調査実施時(26年4月)においても成型機を使用できない状態だった。

(2)フォローアップのための資機材リストの対象について

財団は、前記のとおり、援助の効果が持続的に発現するよう、大洋州地域に設置した事業フォローアップ協議会において、資機材リストに記載された資機材等について、相手国実施機関から個別に現状報告を受けるなどのフォローアップを行うことにしている。

検査したところ、財団が2(1)アのマジュロ環礁デラップ地区で18年度に実施した事業において交換した冷媒用のユニット(取得価格計360万円、国庫補助金相当額269万余円)は、取得価格が50万円を超えるにもかかわらず、資機材リストに記載されていなかった。これは、資機材リストの作成に当たり、取得価格が50万円以上であっても施設等の本体に組み込まれ単体では利用されることのない資機材等については、記載の対象としないことにしていたためであった。

そこで、大洋州地域の9か国(注3)において修理等を実施した63事業を対象に同種の事態がないか検査したところ、資機材リストに記載されなかったため事業フォローアップ協議会において資機材等の現状について報告を受ける対象となっておらず、問題があるかどうか財団が判断し、必要に応じて改善方法を話し合うなどのフォローアップを十分に行うことができないものが、18年度から24年度までの間に、7か国(注4)で実施された35事業において見受けられた(フォローアップを十分に行うことができない資機材等に係る事業費計4億8415万余円、国庫補助金相当額計3億6251万余円。なお、2(1)アと金額に一部重複がある。)。

(注3)
9か国  フィジー、キリバス、マーシャル、ミクロネシア、ナウル、パラオ、パプアニューギニア、ソロモン、ツバル
(注4)
7か国  フィジー、キリバス、マーシャル、ミクロネシア、ナウル、パラオ、ツバル

(3)付加価値税の免除又は負担について

相手国による付加価値税の免除又は負担の実施状況について検査したところ、20年度から22年度までの間及び24年度に、アフリカ地域及び中南米地域の6か国(注5)で実施された8事業における現地調達資機材等に係る付加価値税について、覚書で相手国が免除又は負担することとなっているのに、財団が相手国実施機関の要望を受けて付加価値税を負担していた(付加価値税相当額計435万余円、国庫補助金相当額計323万余円)。

(注5)
6か国  カーボヴェルデ、チリ、ガボン、モーリシャス、モザンビーク、ペルー

(改善を必要とする事態)

以上のとおり、施設が稼働を停止するなどしており援助の効果が十分に発現していない事態、資機材等の現状について報告を受ける対象となっていないなどのためフォローアップを十分に行うことができない事態及び相手国が免除又は負担することとなっている現地調達資機材等に係る付加価値税を財団が負担している事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、相手国の事情にもよるが、次のことなどによると認められる。

ア 補助事業者である財団において、

  • (ア)修理等した施設等が稼働を停止するなど援助の効果が十分に発現していない事態を把握しているのにその要因を解消するための相手国への働きかけが適時適切に行われていなかったり、事前調査において援助の効果が持続的に発現することを妨げる要因の把握が十分でなかったり、援助の効果を十分に発現させるための方策に関する相談等を受け付けることについて相手国実施機関に対する周知が十分でなかったりなどしていること
  • (イ)大洋州地域におけるフォローアップのための資機材リストの作成対象についての検討が十分でないこと
  • (ウ)付加価値税の免除又は負担について適切な対処がなされるよう相手国に十分に働きかけていないこと

イ 貴庁において、アについて、財団に対する指導監督が十分でないこと

3 本院が表示する意見

我が国の水産物の安定供給等のためには、相手国への援助を通じて我が国の漁船の海外漁場での操業が確保されることが必要であり、そのためには、我が国の援助に対して相手国から一層の信頼が得られるよう、援助の効果を十分に発現させることが重要である。また、近年の我が国の財政は、厳しい状況にあることから、援助の実施に当たっては、より一層経済的、効果的に実施することが求められている。

ついては、貴庁において、援助の効果が十分に発現するなどするよう、次のとおり意見を表示する。

  • ア 財団に対して、援助の効果が十分に発現していない要因を解消するための相手国への助言を適時適切に行わせたり、事前調査において援助の効果の持続的な発現を妨げる要因の把握をさせたり、援助の効果を発現させる方策に関して必要に応じて相談等を行うよう相手国に周知させたりすること
  • イ 財団に対して、単体では利用されることのない資機材等もフォローアップできるよう資機材リストの作成対象を見直させること
  • ウ 財団に対して、付加価値税についての適切な対処がなされるよう相手国に働きかけさせること
  • エ ア、イ及びウについて、財団に対する指導監督の徹底を図ること