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  • 第3章 個別の検査結果 |
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  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(7)追加的信用供与補助事業における補助金の算定方法について、農業信用基金協会が保証する債務の代位弁済の発生状況等を十分に踏まえて見直すとともに、各協会の最大負担額を上回って保有している助成金に係る補助金を適時適切に国庫に返還させるよう改善の処置を要求したもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)農林水産本省 (項)農業経営対策費(平成20年度から22年度までは(項)担い手育成・確保対策費、19年度は(項)農業・食品産業強化対策費)
部局等
農林水産本省、7農政局、沖縄総合事務局
補助の根拠
予算補助
補助事業
追加的信用供与補助事業(平成19年度から21年度までは追加的信用供与事業)
補助事業の概要
経営体育成支援計画等に基づき農業者等に対して融資機関から行われる融資が円滑に行われるよう農業信用基金協会に対し当該融資に係る保証債務の弁済及び求償権の償却に伴う費用を補填するための経費を助成するもの
上記の助成を受けていた農業信用基金協会
33協会
追加的信用供与補助事業に係る国庫補助金交付額
33億6053万余円(平成19年度~25年度)
上記の国庫補助金による助成金交付額
33億6053万余円(平成19年度~25年度)
上記のうち平成25年度末に協会が保有する助成金残高
33億5744万余円
上記のうち協会の最大負担額を上回る額に係る補助金
4億0579万円

【改善の処置を要求したものの全文】

追加的信用供与補助事業について

(平成26年10月17日付け 農林水産大臣宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。

1 追加的信用供与補助事業の概要等

(1)農業信用保証保険制度の概要

農業信用基金協会(以下「協会」という。)は、各都道府県に47協会設置され、農業信用保証保険法(昭和36年法律第204号。以下「保証保険法」という。)に基づき、農業者等の農業経営等に必要な資金の融通を円滑にするために、農業者等が農業協同組合その他の融資を行う機関(以下「融資機関」という。)から農業経営に必要な資金を借り入れる場合に、その債務の保証(以下「債務保証」という。)を行っている。

協会は、債務保証を付した融資を受けた農業者等が債務不履行に陥った場合に、協会の会員である農業者及び地方公共団体からの出資金、毎事業年度の剰余金を繰り入れた繰入金等から成る基金等から、当該農業者等に代わって融資機関に債務の弁済(以下「代位弁済」という。)を行い、当該農業者等に対する求償権を取得することとなる。

また、債務保証については、協会の負担を軽減するために、保証保険法に基づき、原則として独立行政法人農林漁業信用基金(以下「信用基金」という。)により保険が付されており、協会が代位弁済を行った場合、信用基金から協会に対して代位弁済額に所定の割合(主に70%)を乗じて得た額が保険金として支払われることとなっている。

(2)追加的信用供与補助事業の概要

貴省は、今後の地域農業の担い手の育成や確保を図るなどのために、経営体育成支援事業実施要綱(平成23年22経営第7296号農林水産事務次官依命通知)等(以下「実施要綱等」という。)に基づき、平成19年度から21年度までの間に地域担い手経営基盤強化総合対策実験事業における追加的信用供与事業(平成20年度補正予算による地域雇用拡大型農業経営確立緊急対策事業における追加的信用供与事業を含む。)、22年度に経営体育成交付金における追加的信用供与補助事業、23年度から経営体育成支援事業における追加的信用供与補助事業をそれぞれ実施している(以下、これらの各事業を合わせて「追加的信用供与補助事業」という。)。

追加的信用供与補助事業は、市町村が策定した地域農業の担い手の育成や確保に関する経営体育成支援計画等に基づいて、地域農業の担い手である農業者等に対する融資機関による融資が円滑に行われるように、信用基金による保険が付された債務保証を協会が引き受けた場合に、貴省が、協会に対して、代位弁済及び求償権の償却に伴う費用への補填に充てるための経費を助成するものである(以下、協会が債務保証を引き受けた経営体育成支援計画等に基づく融資を「保証付プロジェクト融資」という。)。

そして、貴省は、この助成を行うために、表1のとおり、19年度に農業・食品産業強化対策事業推進費補助金4億0488万余円を地域担い手育成総合支援協議会(注1)(以下「地域協議会」という。)に、20、21両年度に担い手育成・確保対策事業費補助金として20年度6億9182万余円、21年度9億9601万余円を地域協議会に、22年度に担い手育成・確保対策推進交付金3億3592万余円を道県に、23、24両年度に農業経営対策事業費補助金として23年度3億0923万余円、24年度2億7829万余円を地域協議会等に、25年度に農業経営対策地方公共団体事業費補助金3億4436万余円を道県を通じて市町村に、それぞれ交付している(以下、補助金の交付を受けた道県、市町村、地域協議会等を合わせて「市町村等」という。)。

(注1)
地域担い手育成総合支援協議会  担い手育成総合支援協議会設置要領(平成17年16経営第8837号経営局長通知)に基づき、市町村、農業協同組合、農業委員会等を会員として設置される、地域段階において農業の担い手の育成や確保の取組を総合的に行う協議会

表1 平成19年度から25年度までの間の事業名、補助金等名、補助金等交付額、補助金等交付先及び助成金交付先

年度 事業名 補助金等名 補助金等交付額
(千円)
補助金等交付先 助成金交付先
平成
19
地域担い手経営基盤強化総合対策実験事業における追加的信用供与事業 農業・食品産業強化対策事業推進費補助金 404,881 地域協議会 協会
20 担い手育成・確保対策事業費補助金 691,826
21 996,014
22 経営体育成交付金における追加的信用供与補助事業 担い手育成・確保対策推進交付金 335,927 道県
23 経営体育成支援事業における追加的信用供与補助事業 農業経営対策事業費補助金 309,231 地域協議会等
24 278,297
25 農業経営対策地方公共団体事業費補助金 344,363 道県を通じて市町村

そして、これらの補助金計33億6053万余円の交付を受けた市町村等は、同額の計33億6053万余円を、47協会のうち保証付プロジェクト融資に係る債務保証を引き受けている33協会に対して助成していて、各協会に対する助成金交付額は表2のとおりとなっている(以下、貴省が市町村等に交付している補助金を「補助金」、市町村等が協会に対して助成している助成金を「助成金」という。)。

表2 33協会の保証付プロジェクト融資に係る保証引受及び助成金交付額(平成19年度から25年度までの累計)

(単位:件、千円)
協会名 保証付プロジェクト融資に係る保証引受 助成金交付額   協会名 保証付プロジェクト融資に係る保証引受 助成金交付額
件数 金額 件数 金額
北海道協会 2,592 8,703,905 1,160,416 滋賀県協会 1 770 102
青森県協会 42 219,930 29,314 奈良県協会 1 19,700 2,626
秋田県協会 7 24,232 3,229 鳥取県協会 1 2,680 338
山形県協会 696 1,870,569 249,330 島根県協会 81 301,098 40,130
茨城県協会 187 587,783 78,262 岡山県協会 5 23,390 3,118
栃木県協会 4 21,000 2,800 広島県協会 25 89,050 11,274
埼玉県協会 1 9,000 1,200 香川県協会 1 1,800 240
千葉県協会 70 241,060 32,137 高知県協会 2 2,710 361
長野県協会 21 121,853 16,243 福岡県協会 24 106,316 14,175
静岡県協会 30 104,750 13,966 佐賀県協会 188 658,806 87,830
新潟県協会 535 1,657,563 220,764 長崎県協会 504 1,376,320 183,480
富山県協会 55 313,927 41,758 熊本県協会 1,949 5,496,821 732,540
石川県協会 254 1,000,870 133,411 大分県協会 12 81,304 10,838
福井県協会 49 377,670 49,339 宮崎県協会 35 174,580 22,471
岐阜県協会 45 184,567 25,324 鹿児島県協会 325 1,249,000 165,296
愛知県協会 30 198,612 26,479 沖縄県協会 1 1,960 261
三重県協会 3 11,160 1,487 33協会計 7,776 25,234,757 3,360,539

また、前記の農業信用保証保険制度及び追加的信用供与補助事業の仕組みについては、のとおりとなっている。

図 農業信用保証保険制度及び追加的信用供与補助事業の仕組み

農業信用保証保険制度及び追加的信用供与補助事業の仕組み 画像

(3)補助金の額の算定方法

実施要綱等によれば、貴省が市町村等に交付する補助金の額は、保証付プロジェクト融資の融資金額の合計を「15」で除し、「2」を乗じて算定することとされている。貴省は、この補助金の額の算定における「15」は、各協会が代位弁済の発生率等を考慮して設定した保証倍率を基としており、保証付プロジェクト融資の融資金額の合計を保証倍率15で除すことにより、協会が代位弁済を行うための資金として必要な額を算定するとしている。また、「2」を乗ずることとしているのは、代位弁済の発生率を算定するために必要となる実績が少ないことから安全率を考慮したためとしている。そして、安全率を2としているのは、協会の主務大臣である農林水産大臣及び金融庁長官が定めた「農業信用基金協会の経営の健全性を判断するための基準」(平成18年金融庁・農林水産省告示第5号)において、協会が保証した債務に過去10年の代位弁済累計額等を基に算出する償還事故率を乗じた額に対して、弁済に充てることが可能な額の比率が200%以上あれば、協会の弁済能力は適当であるとされていることによるとしている。

(4)協会における助成金の管理と精算

実施要綱等によれば、協会は、助成金を保証付プロジェクト融資に係る債務保証のための資金として、他の事業等の経費と区分して管理し、保証付プロジェクト融資に係る代位弁済及び求償権の償却に伴う費用への補填に充てることとされている。

また、保証付プロジェクト融資に係る代位弁済の発生状況、協会における助成金の残高等については、実施要綱等に基づき、管轄する農政局等に毎年度報告されることとなっている。

そして、各協会において、対象とする区域内の全ての保証付プロジェクト融資に係る保証債務の償還が終了した時点又は代位弁済により取得した求償権の回収若しくは償却が終了した時点で、協会は、助成金から求償権の償却に伴う費用を除いた補助金相当額を国庫へ返還することとなっている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、補助金の額の算定方法は適切か、協会が保有する助成金は適正な規模となっているかなどに着眼して、追加的信用供与補助事業が開始された19年度から25年度までの間に実施された保証付プロジェクト融資に係る債務保証7,776件及び市町村等に交付された補助金計33億6053万余円を対象として、農林水産本省において補助金の額の算定方法等について確認し、また、助成金計33億6053万余円(補助金同額)の交付を受けている前記33協会のうち6協会(注2)において、実績報告書、実績管理表等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、残りの27協会から実績管理表等の提出を受けるなどして検査した。

(注2)
6協会  青森県、山形県、千葉県、静岡県、富山県、鹿児島県の各協会

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)協会における代位弁済の発生状況等

前記の保証付プロジェクト融資に係る債務保証7,776件、補助金交付額計33億6053万余円(助成金交付額同額)のうち、協会が代位弁済を行っていた債務保証は熊本県の協会における2件、代位弁済額計680万余円のみとなっていて、他の32協会においては、代位弁済を行った債務保証は見受けられなかった。また、熊本県の協会においては、代位弁済によって取得した求償権により債務者から債権を回収することが可能であることなどから、求償権の償却を行っていない状況となっていた。

このように、追加的信用供与補助事業が開始されて7年が経過した段階においても、なお保証付プロジェクト融資における債務不履行がほとんど発生しておらず、代位弁済の発生が一部の債務保証にとどまっており、求償権の償却も行われていないにもかかわらず、貴省は、補助金の交付額の算定に当たり代位弁済の発生状況等を踏まえた算定方法の見直しについて特段の検討を行っていなかった。

(2)協会における助成金の保有状況

33協会における25年度末の助成金の残高は、表3のとおり、計33億5744万余円となっており、25年度末までの助成金交付額計33億6053万余円とほぼ同額となっている。また、33協会における25年度末の保証付プロジェクト融資の保証債務残高は計103億5098万余円となっている。

保証付プロジェクト融資について協会が債務保証を行う場合には、信用基金が当該債務保証に係る協会の代位弁済額の70%を補填する保険を引き受けている。

そこで、各協会における保証債務残高を基にして、各協会が保証している債務の全てが不履行となり全額を代位弁済するとした場合において各協会が負担することとなる額(以下「協会の最大負担額」という。)を試算したところ、表3のとおりとなり、33協会における協会の最大負担額の合計額は、31億0529万余円となる。

これを協会別に見ると、20協会において、協会の最大負担額を上回る助成金を保有していることとなり、その上回る額は計4億0579万余円となっていて、多額の助成金に係る補助金が効果的に活用されていない状況となっていた。

表3 協会の助成金残高、保証債務残高、協会の最大負担額等(平成25年度末)

(単位:件、千円)
協会名 助成金残高
(A)
保証債務残高 協会の最大負担額
(C)=(B)×30%
助成金残高が協会の最大負担額を上回っている額
(A)-(C)
件数 金額(B)
北海道協会 1,160,416 1,719 3,240,714 972,214 188,201
青森県協会 29,314 18 50,209 15,062 14,251
秋田県協会 3,229 5 8,532 2,559 669
茨城県協会 78,262 135 254,395 76,318 1,943
栃木県協会 2,800 1 1,500 450 2,350
埼玉県協会 1,200 1 1,285 385 814
千葉県協会 32,137 31 61,555 18,466 13,670
新潟県協会 220,764 341 672,346 201,703 19,060
富山県協会 41,758 10 37,423 11,227 30,530
石川県協会 133,411 159 292,762 87,828 45,582
福井県協会 49,339 29 118,811 35,643 13,695
愛知県協会 26,479 16 62,929 18,878 7,600
滋賀県協会 102 1 316 94 7
鳥取県協会 338 1 1,000 300 38
岡山県協会 3,118 4 5,912 1,773 1,344
広島県協会 11,274 10 14,079 4,223 7,050
高知県協会 361 2 766 229 131
福岡県協会 14,175 8 13,552 4,065 10,109
佐賀県協会 87,830 98 138,056 41,416 46,413
大分県協会 10,838 10 28,344 8,503 2,334
20協会 計 1,907,145 2,599 5,004,491 1,501,347 405,797
助成金残高が協会の最大負担額を下回っている
13協会 計
1,450,304 2,767 5,346,493 1,603,947
33協会 合計 3,357,449 5,366 10,350,984 3,105,295
(注)
協会の最大負担額は、保証債務残高から、当該保証債務残高全額について代位弁済が行われた場合に保険金から補填される額(保証債務残高の70%相当額)を控除した額である。

(改善を必要とする事態)

貴省において、追加的信用供与補助事業が開始されてから相当期間が経過しているにもかかわらず、協会における代位弁済の発生状況等を補助金交付額の算定に反映させる検討を行っていない事態、及び20協会において保証付プロジェクト融資に係る協会の最大負担額を上回る助成金を保有していて、助成金に係る補助金が効果的に活用されていない事態は適切ではなく、改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴省において、協会における代位弁済の発生状況等に応じて補助金の算定方法を見直すことなどの重要性に対する認識が欠けているとともに、追加的信用供与補助事業が開始されてから相当期間が経過し、協会から代位弁済の発生状況、助成金残高等の報告を受けているにもかかわらず、各協会において代位弁済のために必要な助成金残高を十分に把握していないことなどによると認められる。

3 本院が要求する改善の処置

追加的信用供与補助事業は、27年度以降も実施される見込みであることから、このまま推移すると、各協会には今後も多額の助成金が活用されずに保有されることになると見込まれる。

ついては、貴省において、国費の効果的活用に資するために、次のとおり改善の処置を要求する。

  • ア 追加的信用供与補助事業における補助金の算定方法について、代位弁済の発生状況等を十分に踏まえて見直すこと
  • イ 協会の最大負担額を上回る額の助成金を保有している協会に対して、当該上回る額に係る補助金を適時適切に国庫に返還させること