【改善の処置を要求したものの全文】
農山漁村6次産業化対策事業等における事業効果等について
(平成26年10月24日付け 農林水産大臣宛て)
標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり改善の処置を要求する。
記
貴省は、農山漁村の6次産業化に向けた取組(注1)を推進し、新たな市場・付加価値を創出、農山漁村地域の雇用の確保と農林漁業者の所得向上を推進することを目的として、農山漁村6次産業化対策事業等を実施している。
そして、貴省は、農山漁村6次産業化対策事業実施要綱(平成22年21総合第2074号農林水産事務次官依命通知。以下「実施要綱」という。)等に基づき、農林漁業者と食品の製造等を行う民間事業者(以下「食品産業事業者」という。)とが安定的取引関係を確立し、地域の資源である農林水産物を活用した新商品等の事業化を促進するために、次の事業に対して国庫補助金(平成20年度から23年度までの国庫補助金計35億7502万余円)を交付している。
実施要綱等によれば、上記のいずれの事業においても、公募要領等に基づく公募により事業主体を採択することとされている。また、採択された事業主体は、目標年度(注4)における成果目標を設定するなどして、その成果目標等を記載した事業実施計画を貴省本省又は地方農政局等に提出することとされ、貴省本省及び地方農政局等は、提出された事業実施計画の内容を審査することとされている。
そして、貴省本省及び地方農政局等は、審査の結果、承認基準の要件を全て満たす場合に限り事業実施計画の承認を行うこととなっており、その承認基準は、目標年度において、事業の成果目標の達成が確実と見込まれること、「農商工等連携促進施設整備支援事業における費用対効果分析の実施について」(平成22年21総合第2144号農林水産省総合食料局長通知)等に定める費用対効果分析の手法により妥当投資額を算出し、投資効率が1.0以上となっていることなどとなっている。
農商工連携型事業で食品産業事業者が事業主体となる場合においては、新商品等のセールスポイントを形成する上で不可欠な原材料となる農林水産物(以下「連携農林水産物」という。)について、新商品等の製造計画量に基づいたその取扱金額を成果目標として設定することなどとなっている。そして、成果目標の設定に当たっては、目標年度において、連携農林水産物の取扱金額のうち、安定的取引関係を確立する農林漁業者(以下「連携農林漁業者」という。)からの調達割合(以下「連携率」という。)が50%以上となっていることなどが基準として定められている。
また、農業主導型事業においては、6次産業化法人の農業経営全体に関する売上高が、申請時に比べて3000万円以上増加するか、又は30%以上増加するか、いずれかのうち金額の大きな方を成果目標として設定することなどとなっている。
実施要綱等によれば、事業主体は、投資に対する効果が適正か否かを判断し、投資が過剰とならないよう、事業実施前に費用対効果分析を実施して投資効率等を十分に検討することとされており、事業実施計画において次の算定式により算定された投資効率が1.0以上となっていることが必要となっている。
実施要綱等によれば、事業主体は、成果目標の達成状況等について事業の評価を行い、事業終了年度の翌年度以降目標年度までの間、毎年、事業承認者である貴省本省又は地方農政局等に評価報告書等を提出することなどとされている。
そして、貴省本省及び地方農政局等は、評価報告書等の内容を確認して、成果目標の全部又は一部が事業主体の責めに帰すべき事由により達成されていないと認める場合には、事業主体に対して改善計画を作成させるなどの指導を行うとともに、目標年度の翌年度以降、事業の評価を継続させるなど必要なフォローアップを行うこととされている。
貴省は、農林漁業者等の6次産業化を推進するために、平成23年度から、6次産業化総合推進委託事業により都道府県ごとに6次産業化を推進する支援機関(以下「サポート機関」という。)を設置している。サポート機関には、農林水産物の加工、流通、マーケティング等や6次産業化に関係する商品開発、販売等の分野に精通した者等の多様な分野の専門家で、事業主体等に対して的確に助言する能力を有している者を6次産業化プランナーとして配置するなどして、6次産業化に取り組む農林漁業者等による新商品等の開発、販路の開拓、交流会の開催等の取組に対して支援してきている。
そして、25年度から、農山漁村6次産業化対策事業等の実施に当たり、都道府県や市町村との連携を強化するために、地域の実情に精通した都道府県をサポート機関の設置主体とすることとして、貴省は都道府県に対して6次産業化ネットワーク活動交付金を交付している。また、地方農政局等においても、都道府県域を越える6次産業化の取組支援等を関係都道府県、サポート機関等と連携しながら行うこととしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、有効性等の観点から、農山漁村6次産業化対策事業等において、成果目標が達成されるなど事業効果が発現しているか、事業実施計画の作成に当たっての費用対効果分析が適切に実施されているかなどに着眼して、25年度以前を目標年度とする事業実施計画に基づき、貴省本省及び9農政局等(注8)が20年度から23年度までの間に実施した農商工連携型事業82事業、農業主導型事業19事業、計101事業(事業費計48億0524万余円、国庫補助金計22億6493万余円)を対象として検査を実施した。
検査に当たっては、貴省本省及び9農政局等において、事業実施計画の事業内容、評価報告書等の達成状況等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
農商工連携型事業82事業について、目標年度の連携農林水産物の取扱金額の実績値を計画値で除した達成率により成果目標の達成状況をみたところ、表1のとおり、目標年度において成果目標を達成していたのは82事業のうちの4事業(全体の4.8%)にとどまり、残りの78事業は成果目標を達成していなかった。
表1 農商工連携型事業に係る目標年度における成果目標の達成状況
成果目標の達成率 | 100%以上 | 50%以上 100%未満 |
30%以上 50%未満 |
10%以上 30%未満 |
10%未満 | 事業中止 | 合計 | 50%未満 | |
うち0% | |||||||||
事業数 | 4 | 17 | 11 | 19 | 26 | (10) | 5 | 82 | 61 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
割合(%) | 4.8 | 20.7 | 13.4 | 23.1 | 31.7 | (12.1) | 6.0 | 100.0 | 74.3 |
そして、78事業のうち61事業(事業費27億5829万余円、国庫補助金計13億1494万余円)は、達成率50%未満と低調になっており、中には達成率10%未満となっている事業が26事業あった。また、5事業については、食品産業事業者の経営不振等の理由から会計実地検査時点において事業を中止しており、これらが事業を中止した時期は、事業実施後わずか約1年2か月から約4年(平均2年11か月)となっていた。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
A会社は、平成22年度に、連携農林漁業者により生産された米を活用した米麺を新商品として製造及び販売するための設備を整備している(事業費7948万余円、国庫補助金3711万余円)。
しかし、同会社は、新商品を商品化したものの、製造技術等が安定しないなどの理由から計画どおり生産できなかったため、目標年度の成果目標に対する達成率が3.9%と低調な状況となっていた。
一方、目標年度における成果目標の達成率が50%以上となっている21事業について、連携農林漁業者との連携状況をみたところ、7事業(事業費2億2963万余円、国庫補助金計1億1196万余円)が連携率50%未満となっていて、かつ、連携農林漁業者から仕入れる連携農林水産物の取扱金額の目標値に達していなかった。そこで、連携率が低調となっている要因を事業主体に確認したところ、事業実施計画における成果目標の設定に当たり、連携農林水産物の仕入数量の確保等を事前に十分に検討していなかったことなどによるとしている。
農業主導型事業は、前記のとおり、6次産業化法人の農業経営全体に関する売上高を基準とした成果目標を設定することとされていることから、19事業について、目標年度における農業経営全体に関する売上高の実績値を計画値で除した達成率により成果目標の達成状況をみたところ、8事業(全体の42.1%)が達成率100%以上となっていた。
しかし、6次産業化法人の農業経営全体に関する売上高を基準とした成果目標では、新たな取組による新商品等の売上高のほか既存の商品等の売上高の増減の影響も受けることとなるため、新たな取組のために整備された機械、施設等による事業効果を必ずしも適切に測ることができないものとなっている。
そこで、新たな取組による新商品等の売上高の実績値を計画値で除した達成率の状況をみたところ、表2のとおり、19事業のうち15事業が計画値を達成しておらず、これらのうち9事業(事業費計4億1624万余円、国庫補助金計1億9437万余円)は、達成率50%未満と低調になっていて、中には達成率10%未満となっている事業が2事業あった。
表2 農業主導型事業における新商品等の売上高に係る計画値の達成率の状況
計画値の達成率 | 100%以上 | 50%以上 100%未満 |
30%以上 50%未満 |
10%以上 30%未満 |
10%未満 | 合計 | 50%未満 |
事業数 | 4 | 6 | 4 | 3 | 2 | 19 | 9 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
割合(%) | 21.0 | 31.5 | 21.0 | 15.7 | 10.5 | 100.0 | 47.3 |
ア及びイのように、目標年度における成果目標の達成率が50%未満と低調になっているなどしていたり(農商工連携型事業61事業、農業主導型事業9事業、計70事業。事業費計31億7453万余円、国庫補助金計15億0931万余円)、連携率が低調となっていたり(農商工連携型事業7事業。事業費2億2963万余円、国庫補助金計1億1196万余円)していて、事業効果が十分に発現していないと認められる。
ア及びイにおいて成果目標の達成率が低調となっているなどしている70事業のうち、事業を中止していて事業主体に確認できなかった5事業を除く65事業について、実績が計画を下回った要因を事業主体に確認したところ、新商品等の販路の開拓を事前に十分に検討していなかったことが最大の要因であるとしたものが34事業(52.3%)、新商品等の原材料となる農林水産物の仕入数量等を事前に十分に検討していなかったことが最大の要因であるとしたものが15事業(23.0%)などとなっていた。
そして、新商品等の販路の開拓を事前に十分に検討していなかったことが最大の要因であるとした34事業における販売先との事前交渉等の状況について確認したところ、農商工連携型事業27事業のうち9事業、農業主導型事業7事業のうち6事業が、事業実施前に、販売先との新商品等の取扱いに係る事前交渉等を行っていなかったとしていた。
前記のように、成果目標の達成状況が低調であることなどから、事業主体が提出した事業実施計画についての貴省本省及び地方農政局等における審査及び確認の状況をみたところ、全体として、事業実施計画の記載内容について形式的な確認にとどまっていた。すなわち、成果目標の達成に必要な新商品等の販路や連携農林漁業者からの連携農林水産物の仕入等の検討状況について具体的な審査及び確認が十分に行われていない状況となっていた。例えば、農商工連携型事業における食品産業事業者は、実施要綱等に基づき、連携農林漁業者との間で確立された取引関係に係る契約書等(以下「契約書等」という。)を作成して事業実施計画の根拠資料として添付することとなっているのに、契約書等が添付されていなかったり、契約書等に連携農林水産物の取扱量や取扱金額が明記されていなかったりしているものが多数あり、連携農林漁業者との連携に係る計画の確実性等が十分に確認できない状況となっていた。
検査の対象とした計101事業の事業実施計画の作成に当たっての費用対効果分析による投資効率の算定状況について確認したところ、53事業(全体の52.4%。事業費計26億8181万余円、国庫補助金計12億7778万余円)において、年効果額が過大に算出されるなどしていて、投資効率が適切に算定されていなかった。このうち11事業については、事業実施計画の記載内容等に基づき投資効率を試算したところ、事業の採択要件を満たすために必要な投資効率1.0を下回る結果となった(注9)。
また、投資効率が適切に算定されていなかった上記の53事業について、計算を誤っていた年効果額を項目別にみると、表3のとおり、製造量向上効果の年効果額の計算が適切でなかったものが42件と全体の約半数を占めており、42件の態様は、売上高に対する利益の比率である純益率、機械、施設等の整備後の製造量等により計算される効果発生量及び品目単価の算定を誤っていたものなどであった。
態様
\
効果額の項目
|
純益率の算定を誤っていたもの | 効果発生量の算定を誤っていたもの | 品目単価の算定を誤っていたもの | 効果が重複して計上されていたもの | 運営に係る経費等を計上していなかったもの | その他 | 合計 | ||
農林水産物等の生産向上に係る効果 | 農業生産向上効果 | 作付増加効果 | 7 | 5 | ― | 3 | ― | 3 | 18 |
単収増加効果 | ― | 2 | ― | 2 | ― | ― | 4 | ||
品質等向上効果 | ― | 1 | 1 | 3 | ― | ― | 5 | ||
農産物加工効果 | 2 | 2 | 2 | 2 | ― | ― | 8 | ||
食品等製造の向上に係る効果 | 製造量向上効果 | 17 | 13 | 11 | 1 | ― | ― | 42 | |
品質向上効果 | 1 | ― | ― | 1 | ― | ― | 2 | ||
維持管理費等節減効果 | ― | ― | ― | 1 | 4 | 1 | 6 | ||
その他の効果等 | ― | ― | ― | ― | ― | 10 | 10 | ||
合計 | 27 | 23 | 14 | 13 | 4 | 14 | 95 |
前記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
B会社は、平成22年度に、連携農林漁業者により生産された古代米を活用したあめ、茶等を新商品として製造及び販売するための設備を整備している(事業費計973万余円、国庫補助金463万余円)。そして、同会社は、費用対効果分析において、目標年度の売上高1117万余円に純益率20%を乗じて、製造量向上効果の年効果額(223万余円)を算定し、投資効率が1.91であるとしていた。
しかし、上記の純益率20%は、目標年度の営業利益を売上高で除する際に、誤って営業利益に補助事業で整備する設備の減価償却費を加算して算出されていた。
したがって、減価償却費を除いて計算すると、純益率は7.4%となり、これにより投資効率を計算すると0.68となり、事業採択の要件である1.0を下回ることとなる。
貴省本省及び地方農政局等における投資効率の審査及び確認の状況をみたところ、妥当投資額を算出するために必要な効果発生量、純益率等の数値と事業主体から提出される事業実施計画における商品製造計画等や同計画に添付されている収支計画等の基礎資料等の数値とを突合するなどの確認が十分に行われていなかった。また、事業主体から提出された事業実施計画や同計画に添付されている基礎資料等に、製造量向上効果等の年効果額の確認に必要となる新たな販路の開拓、商品開発の実現性等を確認することができる事前の取組状況等の情報がないなど、投資効率の審査及び確認に必要となる資料等が十分に提出されていない状況となっていた。
(改善を必要とする事態)
前記のとおり、農山漁村6次産業化対策事業等の実施に当たり、目標年度における成果目標等の達成率が低調になっているなどしていて、事業効果が十分に発現していない事態、事業実施計画の作成に当たり費用対効果分析が適切に実施されていない事態は、いずれも適切ではなく、改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
貴省は、24年度以降も、農商工連携型事業及び農業主導型事業と同様に食品の加工・販売施設、農林漁業用機械施設の整備等を行う6次産業化ネットワーク活動整備事業等のほか、都道府県等を間接補助事業者とする6次産業化ネットワーク活動整備交付金事業を実施している(以下、これらの事業を合わせて「6次化整備事業」という。)。そして、6次化整備事業について、貴省本省及び地方農政局等は、各都道府県に設置されたサポート機関等と連携して、6次産業化に取り組む農林漁業者等を支援することにしている。
ついては、貴省において、農山漁村の6次産業化に対する取組の重要性を踏まえて、6次化整備事業の事業効果の発現に資するよう、また、事業実施計画の作成に当たっての費用対効果分析が適切に実施されるよう、次のとおり改善の処置を要求する。