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  • 平成25年度 |
  • 第3章 個別の検査結果 |
  • 第1節 省庁別の検査結果 |
  • 第10 農林水産省 |
  • 本院の指摘に基づき当局において改善の処置を講じた事項

(1)東日本大震災復旧・復興予備費を財源とする農畜産業振興対策交付金の未使用額及び返還額を交付先から速やかに国庫に納付させるよう改善させたもの


会計名及び科目
一般会計 (組織)農林水産本省 (項)国産農畜産物・食農連携強化対策費
部局等
農林水産本省
交付の根拠
予算補助
東日本大震災復旧・復興予備費を財源とする農畜産業振興対策交付金の概要
東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力株式会社の福島第一原子力発電所の事故により汚染された稲わらが原因で牛肉から暫定規制値を超える放射性セシウムが検出されたことを踏まえて、肉用牛肥育農家等が安心して経営できる環境を整えるなどのために、肉用牛肥育経営緊急支援事業等に要する経費を交付するもの
交付先
独立行政法人農畜産業振興機構
上記交付金の交付額
863億3444万余円(平成23年度)
上記のうち有効に活用できないのに国庫に納付させていなかった未使用額及び返還額
731億7466万円(平成25年11月末現在)

1 東日本大震災復旧・復興予備費を財源とする農畜産業振興対策交付金の概要

農林水産省は、東北地方太平洋沖地震に伴う東京電力株式会社の福島第一原子力発電所の事故により汚染された稲わらが原因で牛肉から暫定規制値を超える放射性セシウムが検出されたことを踏まえて、肉用牛肥育農家等が安心して経営できる環境を整えるなどのために、平成23年度に、東日本大震災復旧・復興予備費を財源とする農畜産業振興対策交付金(以下「復旧・復興交付金」という。)863億3444万余円を独立行政法人農畜産業振興機構(以下「機構」という。)に対して交付している。復旧・復興交付金は、東日本大震災に係る復旧・復興に関連する経費以外には使用しないこととなっている。

そして、機構は、復旧・復興交付金の交付の対象となる肉用牛肥育経営緊急支援事業、国産牛肉信頼回復対策事業及び原子力発電所事故被災者稲わら等緊急供給支援対策事業の3事業の実施要綱をそれぞれ制定して、復旧・復興交付金(事業別の予算額は、肉用牛肥育経営緊急支援事業費761億1439万余円、国産牛肉信頼回復対策事業費25億9005万余円、原子力発電所事故被災者稲わら等緊急供給支援対策事業費76億3000万円)等を財源として事業を実施する畜産関係団体等に対して補助金を交付している。

上記3事業の主な内容は、表1のとおりとなっている。

表1 肉用牛肥育経営緊急支援事業等の主な内容等

事業の主な内容 事業の実施期間
〔1〕 肉用牛肥育経営緊急支援事業
汚染された稲わらを与えられて出荷制限、全頭検査等の対象となった地域の肉用牛を飼養する肥育農家に対して、喫緊の資金繰りのために畜産関係団体が肉用牛1頭当たり5万円以内を交付するなどのもの
平成
23年8月~24年9月
〔2〕 国産牛肉信頼回復対策事業
食肉流通団体が、汚染された稲わらを与えられた肉用牛の肉のうち、既に流通している牛肉を処分したり、国の出荷制限の指示を受けた地域から出荷され流通段階で停滞している牛肉を保管したりするもの
23年4月~24年3月
〔3〕 原子力発電所事故被災者稲わら等緊急供給支援対策事業
稲わらや牧草の汚染により飼料の不足が懸念される畜産農家に対して、飼料を供給する生産者団体が代替飼料を供給するもの
23年4月~26年6月

なお、いずれの事業においても、実施要綱に基づき、機構から事業に必要な経費に充てるための補助金の交付を受けた畜産関係団体等は、東京電力株式会社からの賠償金を受領するなどした後に、補助金の全額を機構に返還することとなっている。

そして、復旧・復興交付金については、農畜産業振興対策交付金交付要綱(平成15年15生畜第2866号)に基づき、機構はその目的の使途に使用されなかった額(以下「未使用額」という。)及びその目的の使途に使用された後に機構に返還された額(以下「返還額」という。)を国庫に納付することとなっており、機構に交付された復旧・復興交付金は最終的に全額が国庫に納付されることになる。また、同交付要綱に基づき、機構は復旧・復興交付金の実績報告書を提出して、使用額等を農林水産省に報告することとなっている。

2 検査の結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、復旧・復興交付金の未使用額及び返還額が速やかに国庫に納付されているかなどに着眼して、復旧・復興交付金交付額計863億3444万余円を対象として、農林水産本省及び機構において実績報告書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)未使用額の国庫への納付状況

前記のとおり、未使用額は国庫に納付されることとなっているが、事業の実施期間終了後の肉用牛肥育経営緊急支援事業及び国産牛肉信頼回復対策事業に係る復旧・復興交付金の未使用額は、それぞれ571億3773万余円、24億1438万余円と多額に上っていた。しかし、農林水産省は、両事業の実施期間の終了後1年以上にわたり、機構に対してこれらの未使用額を国庫に納付させていなかった。

(2)返還額の国庫への納付状況

前記のとおり、返還額は国庫に納付されることとなっているが、肉用牛肥育経営緊急支援事業及び国産牛肉信頼回復対策事業に係る復旧・復興交付金の返還額は、表2のとおり、それぞれ134億4688万余円、1億7566万余円となっていて使用額のうち大半の額又は全額が機構に返還されていた。

表2 返還額の状況(平成25年11月末現在)

(単位:千円)
事業名 使用額(a) 返還額(b) 今後生ずる返還額
(a)-(b)
肉用牛肥育経営緊急支援事業 18,976,661 13,446,881 5,529,780
国産牛肉信頼回復対策事業 175,669 175,669

しかし、農林水産省は、上記の返還額について、畜産関係団体等から機構に順次返還されていて、1年以上経過しているものもあるのに、機構に対してこれらの返還額を速やかに国庫に納付させていなかった。

なお、肉用牛肥育経営緊急支援事業については、表2のとおり、畜産関係団体からの補助金の返還に伴い今後機構に返還額が生ずることになる。また、原子力発電所事故被災者稲わら等緊急供給支援対策事業(予算額76億3000万円)については、前記のとおり、26年6月まで実施された後は、事業の終了に伴い機構の未使用額が確定するとともに、生産者団体からの補助金の返還に伴い機構に返還額が生ずることになる。

このように、農林水産省が、機構に対して、使途に制限があり有効に活用できない復旧・復興交付金の未使用額及び返還額を速やかに国庫に納付させていない事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。

(発生原因)

このような事態が生じていたのは、農林水産省において、機構から復旧・復興交付金の実績報告書の提出を受けたり、使用額等を報告させたりしていて、機構に多額の未使用額及び返還額が生じていることを把握していたのに、速やかに国庫に納付させることについての検討が十分でなく、具体的な納付の手続を定めていなかったことなどによると認められた。

3 当局が講じた改善の処置

上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省は、機構に対して、肉用牛肥育経営緊急支援事業等に係る25年度末までに生じた未使用額及び返還額について、国産牛肉信頼回復対策事業については25年12月、肉用牛肥育経営緊急支援事業及び原子力発電所事故被災者稲わら等緊急供給支援対策事業については26年4月に国庫に納付させるとともに、同月に通知を発するなどして、今後生ずることとなる復旧・復興交付金の未使用額及び返還額についても四半期ごとに国庫に納付させることとする処置を講じた。