農林水産省は、土地改良法(昭和24年法律第195号)等に基づき、ため池堤体の断面不足や堤体からの漏水の解消等のために、都道府県、市町村等(以下「事業主体」という。)が実施するため池改修工事に対して、地域自主戦略交付金事業等により、交付金等を交付している。
そして、事業主体は、ため池改修工事において、波による堤体の貯水側法面の浸食を防止するための法面を保護する工事(以下「法面保護工」という。)を実施している。
また、ため池の供用に当たっては、受益者によって組織された水利組合等が、堤体の草刈り、堤体の陥没等の変状や漏水の状況の点検等の維持管理を行っている。
農林水産省は、ため池改修工事の設計に係る技術基準として、「土地改良事業設計指針「ため池整備」」(平成18年17農振第505号農村振興局整備部長制定。以下「設計指針」という。)を制定しており、事業主体は、ため池改修工事の設計に当たり、これを適用するなどしている。設計指針によれば、ため池改修工事の設計においては、〔1〕 施設として構造上安全であること、〔2〕 施工が容易で、かつ、経済的であること、〔3〕 施工後の維持管理を考慮したものであることなどの基本的要件を考慮することとされている。
設計指針によれば、法面保護工については、満水時の水位の半分の位置から設計上の洪水時の水位に波の打上げ高さを加えた位置まで、捨石、石張り、コンクリートブロック張(以下「張ブロック」という。)等を施すこととされている。
このうち、張ブロックによる工法は、基礎コンクリートを打設し、裏込め砕石を敷設するなどした上でコンクリート製のブロックを設置するものであるが、法面保護工のその他の工法として、ブロックマット(合成繊維製のマットの上に小型のコンクリート製のブロックを接着剤で接着させたもの)による工法や、布製型枠(袋状となっている合成繊維製の生地の中にモルタルなどを注入して固化させるもの)による工法があり、これらの工法は、基礎コンクリートの打設や裏込め砕石の敷設等に替えて、アンカーピン等を用いてブロックマット等を堤体に固定するものである。
農林水産省は、「農林水産省土地改良工事積算基準(土木工事)平成25年度」(農林水産省農村振興局整備部設計課監修。以下「積算基準」という。)等において、張ブロック及びブロックマットの単位面積当たりの施工歩掛かりを定めており、事業主体はこれを採用するなどして法面保護工に要する施工費(以下「法面保護工費」という。)の積算を行っている。そして、積算基準等では、張ブロック及びブロックマットを設置するために使用する建設機械が定められており、標準張ブロックについてはクレーン機能付バックホウ2.9t吊、大型張ブロック及びブロックマットについては車体の長さが10mを超えるラフテレーンクレーン25t吊をそれぞれ用いることなどとなっている。また、布製型枠を施工する場合は、事業主体は、布製型枠を製造している企業で構成される協会が作成した資料における歩掛かりを採用するなどして法面保護工費の積算を行っている。そして、積算基準等によると、ブロックマットや布製型枠を施工する場合は、張ブロックを施工する場合に比べて、少人数での施工が可能となっている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
法面保護工については、近年、比較的新しい工法であるブロックマットや布製型枠等による工法が普及してきている。そして、ブロックマットや布製型枠を施工する場合の法面保護工費は、基礎コンクリートの打設や裏込め砕石の敷設が不要であること、また、少人数での施工が可能であることなどから、張ブロックを施工する場合よりも一般的には安価となる。そこで、本院は、経済性等の観点から、ため池改修工事の実施に当たり、法面保護工の設計が経済的なものとなっているかに着眼して検査した。
検査に当たっては、31府県(注1)の61事業主体において、平成23年度から25年度までの間に実施された法面保護工のうち景観や環境に配慮した工法を選定しているものを除く369工事(工事費計148億3207万余円、交付金等相当額計75億9971万余円)を対象として、設計図書等の書類、現地の状況等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、369工事(施工面積計約197,000㎡)の工法の内訳は、張ブロック277件、ブロックマット40件、布製型枠36件等となっており、張ブロックが施工面積比で68.8%を占めていた(369工事の中には二つの工法を採用しているものが3工事含まれている。)。そして、このうち22府県(注2)の48事業主体において実施された276工事においては、工法の選定に当たって複数の工法による経済比較が行われていなかった。
上記の276工事について、経済比較が行われていなかった理由を事業主体に確認したところ、以前から張ブロックによる工法で施工しているためなどとしており、269工事が張ブロックによる工法で施工されていた。
しかし、前記のとおり、法面保護工の工法として、近年、張ブロックによる工法よりも一般的に安価となる、ブロックマットによる工法や布製型枠による工法が普及してきている。
そこで、前記の269工事を実施した事業主体から、ブロックマットの設置に必要な前記の建設機械を現場まで走行、配置させることが可能であるかなどについて、また、維持管理を行っている水利組合等から、布製型枠を施工した場合において堤体の陥没等の変状に的確に対応した維持管理が可能であるかなどについて、それぞれ見解を聴取するなどしたところ、18府県(注3)の42事業主体が実施した237工事(施工面積計約119,200㎡、法面保護工費の積算額計10億0530万余円)については、ブロックマットによる工法や布製型枠による工法を選定できる状況であった。したがって、これらの工事については、現地の状況等を考慮し、経済比較を行うことによって張ブロックによる工法に替えてこれらの工法を選定することとすれば、より経済的な設計とすることができたと認められた。
このように、ため池改修工事の実施に当たり、法面保護工について、経済比較を行った上で工法を選定していなかったため、経済的な設計となっていなかった事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(低減できた法面保護工費の積算額)
前記の237工事における法面保護工費の積算額について、張ブロックによる工法に替えてブロックマットによる工法又は布製型枠による工法を選定したとして計算すると、その積算額は計7億5235万余円となり、前記の積算額計10億0530万余円と比べて約2億5290万円(交付金等相当額1億3076万余円)低減できたと認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、事業主体において、ため池改修工事の実施に当たり、法面保護工について、経済比較を行った上で工法を選定することにより経済的な設計を行う必要性についての理解が十分でなかったこと、農林水産省において、事業主体に対して、経済比較を行った上で工法を選定することについての周知が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省は、26年9月に都道府県に対して通知を発して、法面保護工の設計において、設計指針に沿って、経済的であることなどを総合的に勘案して工法を選定するよう周知徹底を図るとともに、都道府県を通じて市町村等に対して周知するなどの処置を講じた。