林野庁は、森林法(昭和26年法律第249号)に基づき、地域の特性に応じた造林、樹木の保育及び伐採の計画的な推進等による森林の適正な整備を目的として、森林作業道等の路網(以下「路網」という。)の整備や間伐等を行う森林環境保全整備事業を実施する都道府県に対して森林環境保全直接支援事業費補助金を交付している。当該補助金の交付を受けた都道府県は、自ら間伐等の事業を実施するほか、市町村、森林組合等が事業主体として実施する事業に対して補助金を交付している。
また、林野庁は、平成23年11月21日に成立した平成23年度第3次補正予算により、東日本大震災の復興に必要な木材を安定供給する体制を構築することなどを目的として、森林整備加速化・林業再生基金を活用することによって、復興に必要な木材の確保に資する路網の整備、間伐等を行う復興木材安定供給等対策(以下、復興対策等のために造成する基金を「復興対策基金」、同基金により行われる事業を「復興対策基金事業」という。)を実施することとし、東京都、神奈川県を除く45道府県に対して森林整備加速化・林業再生事業費補助金を交付している。当該補助金の交付を受けた道府県は、森林整備加速化・林業再生基金に、新たに復興対策基金としての区分を設けて基金の造成等を行うとともに、23年度から26年度までの期間において、復興対策基金を取り崩して、自ら間伐等の事業を実施するほか、市町村、森林組合等が事業主体として実施する事業に対して補助金を交付している。
林野庁は、森林環境保全整備事業及び復興対策基金事業(以下、これらを合わせて「森林整備事業等」という。)における間伐等の実施に当たって、効率的で低コストな森林の整備を行っていく必要があるとし、「多様な森林整備推進のための集約化の促進について」(平成19年18林整整第1250号林野庁長官通知。平成22年4月改正。以下「集約化通知」という。)に基づき、一定の地域内で複数の施業地を取りまとめて集約的に間伐等を実施する集約化施業を加速するために、路網の整備、高性能林業機械の活用等による間伐等の施業の効率化を推進するとしている。
集約化通知によれば、事業主体は森林整備事業等の実施に当たり、集約化実施計画を作成して都道府県又は市町村の承認を受けるものとされている。また、間伐等の実施について、「集団的であること又は路網により一体的な連続性があること」、すなわち隣接していて一体的な連続性のある施業地において行うことなどが要件とされている。そして、これらの要件を踏まえて事業主体は施業地の選定を行って集約化施業を推進している。
さらに、復興対策基金事業として実施する間伐等については、復興に必要な木材を安定供給する体制を構築することなどを目的としていることから、集約化通知の要件に加えて、「森林整備加速化・林業再生基金事業実施要領の運用について」(平成21年21林整計第87号林野庁長官通知。平成23年11月改正)において、1事業当たり、伐採した原木を搬出する間伐(以下「搬出間伐」という。)による搬出総材積量を施業地の総面積で除した値が1ha当たり平均20m3以上であることなどを、当該事業の採択基準としている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、事業主体が、森林整備事業等における間伐等の実施に当たって集約化施業が可能な施業地を適切に選定しているか、さらに、復興対策基金事業における間伐等の実施に当たって復興に必要な木材を安定供給するという趣旨に沿って適切な施業地を選定しているかなどに着眼して検査した。検査に当たっては、24、25両年度に19道県(注1)管内の723事業主体において実施した間伐等49,721.62ha、事業費計307億2372万余円(国庫補助金相当額計112億3036万余円)を対象として、集約化実施計画、間伐等の実施状況報告書等により検査するとともに、間伐等を実施した現地に赴いてその実施状況を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
19道県のうち沖縄県を除く18道県管内の237事業主体が24、25両年度で実施した間伐等3,420.54ha、事業費計18億3880万余円(国庫補助金相当額計5億8155万余円)は、点在していて路網による連続性がない施業地(以下「点在地」という。)であり、高性能林業機械を効率的に活用するなどの集約的な間伐等が実施可能なものとなっていなかった。しかし、事業主体は、上記の点在地を、「隣接していて一体的な連続性のある施業地」に含めていたり、小規模な点在地同士を合算していたりなどして施業地を選定していた(図参照)。
さらに、上記の237事業主体が実施した間伐等3,420.54haのうち、復興対策基金事業により12道県(注2)管内の48事業主体が実施した間伐等926.08ha、事業費計1億3169万余円(国庫補助金相当額計7011万余円)については、施業地全体では採択基準である1ha当たり平均20m3以上の搬出材積量を確保しているものの、伐採してその場に切り捨てるため、原木の増産につながらない間伐(以下「切捨間伐」という。)を実施している施業地となっていた。しかし、このような切捨間伐を実施している施業地については、復興に必要な木材を安定供給する体制を構築するという復興対策基金事業の趣旨に沿ったものとは認められない。
以上のように、森林整備事業等において集約化施業が可能な施業地を適切に選定していない事態、さらに、復興対策基金事業において搬出間伐の施業地とは無関係な点在地において切捨間伐を実施している事態は、いずれも適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、次のようなことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、林野庁は、26年4月に都道府県に対して事務連絡を発し、集約化施業における間伐等を実施する際の施業地の選定基準を具体的に示すとともに、事業主体に対して、森林整備事業等における集約化施業の必要性や復興対策基金事業における間伐等は搬出間伐が主目的であることを都道府県を通じて周知徹底を図る処置を講じた。