農林水産省は、主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(平成6年法律第113号。以下「食糧法」という。)等に基づき、国内産米穀の生産量の減少によりその供給が不足する事態に備えるために、100万t程度の国内産米穀を備蓄することとしており、原則として、毎年20万t程度の国内産米穀の買入れを行って、5年間程度備蓄した後、非主食用として販売している。また、農林水産省は、平成5年のガット・ウルグアイ・ラウンド農業合意を受けて、毎年度一定量(77万t)の外国産米穀を輸入して、非主食用として販売している(以下、これらの国内産米穀及び外国産米穀を合わせて「政府所有米穀」という。)。
農林水産省は、政府所有米穀の販売、保管等の業務(以下「販売等業務」という。)の大幅な効率化等を目的として、22年10月以降、包括的に民間の事業体に販売等業務を委託している(以下、販売等業務に係る委託契約を「委託契約」といい、その相手方である民間の事業体を「受託事業体」という。)。そして、同省は、政府所有米穀の備蓄中に生じ得る変質等の危険性やそれによる損失を分散させるために、複数者を受託事業体として選定する必要があるとして、22年度は随意契約により、また、委託契約に係る複数落札入札制度(注1)が整備された23年度以降は一般競争入札により、各年度、それぞれ3受託事業体と原則として契約期間を5年半程度とする委託契約を締結している。
23年度以降の一般競争入札では、競争の導入による公共サービスの改革に関する法律(平成18年法律第51号)に基づき閣議決定される「公共サービス改革基本方針」に従って定められた各年度の「政府所有米穀の販売等業務における民間競争入札実施要項」により、応札者が入札価格となる1t当たりの販売手数料及び入札数量となる外国産米穀の取扱希望数量を入札書に記載して入札し、入札価格の低い者から順に、当該者の外国産米穀の取扱希望数量の合計が委託予定数量(60万t)に達するまで落札者として複数決定することとなっている。そして、国内産米穀の取扱予定数量は、委託予定数量(20万t)を落札者ごとの外国産米穀の取扱予定数量の割合に応じて配分することとなっている。
委託契約における委託費の項目(以下「委託費項目」という。)には、販売に係る計画の作成、営業等の費用である販売手数料のほかに、物品管理手数料(保管状況の把握等に必要な経費)、保管経費(備蓄に必要な倉庫の経費等)等があるが、販売手数料以外の委託費項目はいずれも入札等の対象となっておらず、農林水産省が設定した単価(以下「設定単価」という。)に数量を乗じて支払うことなどとなっている。また、受託事業体は、販売手数料及び物品管理手数料以外の委託費項目について、同省が支払った委託費の額が業務に要した実費を上回る場合にはその差額を返還することなどとなっている。
受託事業体は、委託契約に基づき、販売等業務の総合的な企画、政府所有米穀の販売等の所定の業務については自ら行っているが、これ以外の業務については、あらかじめ農林水産省の承認を得た上で倉庫業者等の第三者に再委託している。そして、同省は、必要に応じて再委託先の倉庫業者に対する巡回指導を行うなどしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、経済性等の観点から、委託契約の入札方法等が適切なものとなっているか、委託契約の競争性、透明性等が十分に確保されているかなどに着眼して、23年度から25年度までに農林水産省が5受託事業体と締結した委託契約計9件(支払額計235億1438万余円)を対象として、農林水産本省及び5受託事業体(注2)において、契約書、入札執行調書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
販売手数料は、入札の対象とされている唯一の委託費項目であるが、販売手数料の単価の入札価格をみると、表のとおり、23年度は入札参加者5者のうち1者が1円、24年度は同6者のうち1者が0円で3者が1円、25年度は同6者の全てが0円としていた。
入札結果の順位 | 入札価格(円/t) | 備考 | ||
---|---|---|---|---|
平成23年度 | 24年度 | 25年度 | ||
1 | 1 | 0 | 0 | 落札者 |
2 | 400 | 1 | 0 | 落札者 |
3 | 590 | 1 | 0 | 落札者 |
4 | 700 | 1 | 0 | |
5 | 1,100 | 200 | 0 | |
6 | ― | 200 | 0 |
受託事業体によれば、販売手数料の単価を著しく低額又は0円として入札を行った理由については、販売手数料に係る収入が少額又は0円であっても、物品管理手数料に係る収入により販売等業務に要する人件費等の支出を賄えると判断したためなどとしていた。また、前記のとおり、販売手数料及び物品管理手数料以外の委託費項目については、農林水産省が支払った委託費の額が業務に要した実費を上回る場合には受託事業体は差額を返還することなどとなっていて、これらの委託費項目に係る収入で他の委託費項目に係る支出を賄うことはできないことになっている。
一方、物品管理手数料の設定単価をみると、23、24両年度は1t当たり1,000円、25年度は同500円となっていて、23年度から25年度までの支払額は計19億0763万余円となっていた。
このように、受託事業体は実質的に販売手数料に係る収入で賄うべき支出を物品管理手数料に係る収入により賄っており、物品管理手数料の設定単価は、受託事業体における販売等業務の実態を十分に反映していないと認められた。
保管経費の23年度から25年度までの支払額は計145億9591万余円となっていて、全体の支払額の約6割を占めているが、前記のとおり、保管経費は入札の対象とされておらず、設定単価(25円/100㎏)により算定された額を上限として業務に要した実費が支払われることから、受託事業体に再委託費の低減を促す仕組みとなっていなかった。その結果、業務に要したとされる実費が設定単価により算定された額と同額になっていた。
農林水産省は、保管経費を入札の対象としていないのは、入札の対象とすると、政府所有米穀の保管数量の変動による経費の大幅な変動の可能性があり、このため応札者が保管業務の実施に必要な経費を的確に見込むことができない場合には、再委託先の倉庫業者における品質管理等がおろそかになる可能性があるためなどとしていた。
しかし、農林水産省において、食糧法等に基づき年間の国内産米穀の備蓄数量等を定めているほか、過去の政府所有米穀の在庫や販売等業務を委託する以前における保管経費等の実績を入札前に開示するなどしており、また、再委託先の倉庫業者に対する巡回指導を行うなどして倉庫業者における政府所有米穀の品質管理等に留意していることから、応札者が保管数量の予定数量等を一定程度把握すること、さらには、保管経費を入札の対象とすることは可能であると認められた。
このように、委託費項目のうち販売手数料のみが入札の対象とされていて、物品管理手数料及び保管経費(23年度から25年度までの支払額計165億0355万余円)が合理的な理由もなく入札の対象とされていないことなどにより、委託契約の競争性及び透明性が十分に確保されておらず、競争の利益を十分に享受できていない事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、農林水産省において、委託契約に係る入札の対象とする委託費項目を拡大して競争性及び透明性を高めることなどについての検討が十分でなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省は、26年3月に、26年度の「政府所有米穀の販売等業務における民間競争入札実施要項」を決定して、販売手数料に加えて物品管理手数料及び保管経費を入札の対象とする処置を講じた。