農林水産省は、主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(平成6年法律第113号)に基づき、麦の需給及び価格の安定を図るために、麦の供給が不足する事態に備えた備蓄の円滑な運営を図るとともに、麦の適切な輸入及び売渡しを行うこととしている。これにより、同省は、国家貿易により一元的に麦の輸入を行い、主な輸出国からの麦の供給が不足する事態に備えて、国における食糧用輸入小麦(以下「輸入小麦」という。)を備蓄することとしている。
年間を通じての輸入小麦の備蓄数量は、主な輸出国からの供給が不足する事態が生じた場合に、他の輸出国からの代替輸入に要する期間が、必要な数量を確保してから船積み、海上輸送、荷揚げ、安全性検査等を行うまでに4.3か月と見込まれ、また、このうち2か月間については、既契約分に係る輸入小麦を輸送する船舶が順次入港することにより需要を賄うことができると見込まれることから、国における輸入小麦の年間需要量の2.3か月分(平成24年度93万t、25年度94万t)とされている。
輸入小麦の備蓄方式は、22年9月以前は、国の年間需要量の0.5か月分が輸入小麦の買受資格者である製粉業者等において通常在庫として保有されていると見込み、同省において、国の年間需要量の1.8か月分以上の輸入小麦を民間のサイロ業者に寄託するなどして備蓄することとしていた。同年10月以降は、業務の大幅な効率化等を目的として従前の備蓄方式を変更し、上記のとおり、輸入小麦の輸入には約4か月の期間を要することから、毎月、同省において、製粉業者等から4か月後の輸入小麦の買受け申込みを受けて輸入した後、製粉業者等に直ちに販売して、製粉業者等において国の年間需要量の2.3か月分を備蓄することを促す食糧麦備蓄対策事業(以下「備蓄事業」という。)を実施している。
備蓄事業を行う製粉業者等(以下「事業主体」という。)は、食糧麦備蓄対策事業実施要綱(平成22年22総食第435号農林水産事務次官依命通知)等によれば、輸入小麦の年間需要量の2.3か月分に相当する数量(以下「備蓄計画数量」という。)等を記載した食糧麦備蓄対策事業実施計画を農林水産省に提出して承認を受けることとされている。そして、前記のとおり、備蓄計画数量のうち0.5か月分は事業主体が通常在庫として保有していると見込まれることから、事業主体が上記の事業実施計画に基づき、備蓄計画数量以上の輸入小麦を年間を通じて備蓄した場合に、同省は輸入小麦の年間需要量の1.8か月分を上限として実際の備蓄数量に係る保管料相当額を食糧麦備蓄対策費補助金(以下「補助金」という。)として交付することとしている。
また、24年度以降は、各月末時点における備蓄数量(以下「月末備蓄数量」という。)が備蓄計画数量を下回ると見込まれる場合において、同省は、その理由や4か月後に備蓄計画数量以上の備蓄数量を保有するための計画が記載された備蓄見込報告書を事業主体から当月中に提出させ、備蓄見込報告書に記載の理由が需要の変動やその他のやむを得ないものであるかなどについて審査することとなっている。そして、同省が備蓄見込報告書の内容を不適当と認めた場合には、補助金の交付決定の取消しを行い、事業主体に支払った補助金を全額返納させることとしている。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、有効性等の観点から、補助金の交付に当たり備蓄見込報告書の審査が適切に行われているかなどに着眼して、24、25両年度に82事業主体が実施した計155備蓄事業(国庫補助金交付額計85億7128万余円)を対象として、農林水産本省及び23事業主体において、備蓄見込報告書等の関係書類を確認するなどして会計実地検査を行った。また、59事業主体については、同省から関係書類を徴するなどして検査した。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
24、25両年度に上記の計155備蓄事業の実施に当たり、82事業主体から農林水産省に提出された延べ450か月分の備蓄見込報告書について、月末備蓄数量が備蓄計画数量を下回ると見込まれる理由を確認したところ、その多くは、輸入小麦を輸送する船舶の遅延等のやむを得ないと認められるものとなっていた。一方、需要の変動を理由としているものが14事業主体において延べ20か月分(国庫補助金交付額計1億6033万余円)見受けられた。
そこで、延べ20か月分について、補助金の交付の審査に当たり、需要の変動に係る事実確認をどのように行っていたかについて確認したところ、同省は、事業主体から協力を得られる範囲内で資料の提出を求めたり、電話により聴取したりして確認を行っていたとしていたが、事業主体に確認する事項や提出させる資料について統一的に定めた基準がない状況となっていた。そして、上記の延べ20か月分のうち12か月分について、同省は、事業主体に対して、需要の変動を理由として備蓄見込報告書が提出された月(以下「需要変動月」という。)の4か月前の時点における需要変動月の小麦の加工見込み数量(以下「当初加工見込数量」という。)が記載された資料を提出させて、当初加工見込数量よりも、備蓄見込報告書が提出された時点における小麦の加工見込み数量(以下「直近加工見込数量」という。)が多くなっているなどとして、需要の変動が生じていると判断していた。
しかし、同省は、上記の当初加工見込数量の設定根拠を確認できる資料を提出させておらず、上記の判断の根拠が明確でなかった。
なお、事業主体が備蓄事業完了後に同省に提出した年間備蓄実績報告により、前記12か月の前年度同月の加工実績数量をみると、全ての月において、上記の当初加工見込数量は前年度同月の加工実績数量よりも少なくなっていた。また、需要変動月の加工実績数量についても、10か月において、前年度同月の加工実績数量よりも少なくなっていた。
一方、残りの延べ8か月分について、同省は、事業主体に対して、当初加工見込数量が記載されている資料すら提出させていなかった。
<事例>
株式会社はくばくは、平成24年度に、年間需要量の2.3か月分に相当する数量3,685tを備蓄計画数量として備蓄事業を実施しており、これに対して、農林水産省は、補助金16,015,319円を同会社に交付していた。同会社は、24年12月に、営業組織の強化などにより小麦粉の販売数量が増加したことから、同月末の備蓄数量3,243tが上記の備蓄計画数量3,685tを442t下回る見込みになるとして、備蓄見込報告書を提出していた。そして、同省は、同会社の同年8月における当初加工見込数量1,100tよりも備蓄見込報告書の提出時点(同年12月)の直近加工見込数量1,689tが多くなっていることから、需要の変動が生じていると判断して、同月分に係る補助金1,324,011円を同会社に交付していた。
しかし、同省は、同会社に当初加工見込数量1,100tの設定根拠を確認できる資料を提出させておらず、上記の判断の根拠が明確でなかった。
なお、24年12月の当初加工見込数量1,100tは、前年度同月の加工実績数量よりも917t少なくなっていた。また、24年12月の加工実績数量についても、前年度同月の加工実績数量よりも361t少なくなっていた。
以上のとおり、前記の延べ20か月分について、同省において、需要の変動が生じていると判断したことに対する根拠が明確でないなど、需要の変動に係る事実確認を適切かつ十分に行わないまま補助金を交付している事態は適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、農林水産省において、補助金の交付に係る審査に当たり、需要の変動に係る事実確認を適切かつ十分に行うために必要な提出資料や確認方法等を定めた基準が定められていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、農林水産省は、26年9月に、需要の変動に係る事実確認を適切かつ十分に行うために必要な審査マニュアルを定め、同年10月から当該審査マニュアルに基づいて、補助金の交付に係る審査を行うこととするなどの処置を講じた。