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  • 平成25年度 |
  • 第3章 個別の検査結果 |
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  • 第11 経済産業省 |
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(4)風力発電事業の発電実績が低迷している事業者の運営状況を十分に把握するとともに、効率的な事業運営に有益と考えられる情報の提供を一層進めることについて検討することなどにより、補助事業により整備した風力発電設備が長期間にわたってより一層有効に活用されるよう意見を表示したもの


所管、会計名及び科目
内閣府、文部科学省、経済産業省及び環境省所管 エネルギー対策特別会計
(エネルギー需給勘定) (項)エネルギー需給構造高度化対策費
(平成19年度から23年度までは、文部科学省、経済産業省及び環境省所管 エネルギー対策特別会計
(エネルギー需給勘定) (項)エネルギー需給構造高度化対策費
15年度から18年度までは、財務省、文部科学省及び経済産業省所管 電源開発促進対策特別会計
(電源利用勘定) (項)電源利用対策費
13、14両年度は、財務省、文部科学省及び経済産業省所管
電源開発促進対策特別会計
(電源多様化勘定) (項)電源多様化対策費
12年度以前は、総理府、大蔵省及び通商産業省所管 電源開発促進対策特別会計
(電源多様化勘定) (項)電源多様化対策費)
部局等
資源エネルギー庁
補助の根拠
予算補助
補助事業
(1)地域新エネルギー等導入促進対策事業
(2)新エネルギー等事業者支援対策事業
補助事業の概要
新エネルギー等の導入促進を行う事業
補助事業により風力発電設備を整備した事業者数及び国庫補助金交付額
(1)67事業者 233億8968万円(平成9年度~23年度)
(2)61事業者 848億8670万円(平成10年度~24年度)
計 128事業者 1082億7639万円(背景金額)

【意見を表示したものの全文】

補助事業により設備を整備した風力発電事業の運営状況について

(平成26年10月30日付け 資源エネルギー庁長官宛て)

標記について、会計検査院法第36条の規定により、下記のとおり意見を表示する。

1 風力発電事業に係る補助制度の概要等

(1)風力発電事業に係る補助制度の概要

貴庁は、新エネルギー等導入加速化支援対策費補助金交付要綱(平成22・03・24財資第20号)等に基づき、内外の経済的社会的環境に応じた安定的かつ適切なエネルギー需給構造の構築を図ることを目的として、平成9年度から24年度までの間に、風力発電等の新エネルギーの導入等を行おうとする地方公共団体、民間事業者等(以下、これらを合わせて「事業者」という。)に対して、表1のとおり、貴庁が直接、又は独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO」という。)若しくは一般社団法人新エネルギー導入促進協議会(以下「NEPC」という。)を経由して、地域新エネルギー等導入促進対策費補助金(以下「地域補助金」という。)及び新エネルギー等事業者支援対策費補助金(以下「事業者補助金」といい、地域補助金と合わせて「補助金」という。)を交付している。

表1 補助制度の概要

種別 主な交付先 年度 交付形態 主な補助の対象 補助率
地域補助金 地方公共団体第三セクター非営利民間団体 平成9年度 直接 定格出力500kW以上の風力発電設備の導入事業に必要な機械装置等の設計費、機械装置等購入費、工事費及び諸経費 原則として1/2以内
10年度~20年度 NEDO経由
21年度~24年度 NEPC経由
事業者補助金 民間事業者 9年度~13年度 NEDO経由 定格出力合計1,500kW以上の風力発電設備の導入事業に必要な機械装置等の設計費、設備費、工事費及び諸経費 原則として1/3以内
14年度~20年度 直接
21年度~24年度 NEPC経由

補助金の交付を受けて風力発電事業を行おうとする事業者は、風況等の調査を踏まえて適地を選定し、電気事業法(昭和39年法律第170号)等の規定に基づく手続等を行うとともに、ブレード(回転羽根)、ナセル(タワーの上部に配置されて発電機等を収納する部分)、タワー、その他電気設備を設置し、保安規程等を整備した後に、稼働を開始することとなる。また、事業者は、貴庁等に対して、原則として稼働後4年間は、発電量、停止時間等を記入した利用状況報告書を提出することとなっており、補助事業で取得した財産については、善良な管理者の注意をもって管理し、補助金交付の目的に従って、その効率的運用を図らなければならないこととなっている。

(2)風力発電をめぐる状況

  • ア 多数の風力発電設備が整備される中で、その故障や事故の発生が報告されていたため、NEDOは20年3月に「日本型風力発電ガイドライン」、23年3月に「故障・事故対策事例集(改訂第3版)」をそれぞれ策定している。また、風力発電所の設備で電気的な要因による火災事故や発電機等の破損事故等の重大な事故が発生した場合には、当該設備の設置者は、電気関係報告規則(昭和40年通商産業省令第54号)の規定に基づき、経済産業省に対して事故の報告等をしなければならないこととなっている。そして、同省は事業者等に対して、当該事故情報を周知するとともに安全を確認するよう注意を喚起している。
  • イ 電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(平成23年法律第108号)に基づき、24年7月から、電気事業者に風力を含む再生可能エネルギー源を用いて発電された電気を買い取ることを義務付ける固定価格買取制度が実施されている。これにより、売電する側は、一定の期間、一定の価格による電気の売却が見込めることから、風力発電事業等に取り組みやすくなったとされている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

本院は、有効性等の観点から、補助金の交付を受けて設備を整備した風力発電事業の発電実績はどのような状況となっているか、風車の稼働停止の抑制等に有益と考えられる取組が実施されているかなどに着眼して検査した。

そして、9年度から24年度までの間に貴庁等から交付された補助金のうち、地域補助金については風力発電事業を中止した事業者を除く67事業者に交付された計233億8968万余円、事業者補助金については10基以上の風車を設置している61事業者に交付された計848億8670万余円、計128事業者に交付された合計1082億7639万余円を対象として、貴庁、NEDO、NEPC及び33事業者において、補助金交付申請書、実績報告書、利用状況報告書、稼働停止状況や発電実績に関する資料等の関係書類及び現地の状況を確認するなどして会計実地検査を行うとともに、貴庁を通じて、128事業者から風力発電事業の運営状況に関する調書の提出を受けて、その内容を分析するなどして検査した。

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)風車の稼働状況

128事業者が設置した風車計1,207基の20年度から25年度までの6年間(風力発電設備の耐用年数17年の約3分の1に相当する期間)における稼働状況をみたところ、82事業者が設置した362基の風車において、落雷、乱流等による機器等の損傷、想定を上回る劣化に伴う機器等の故障、事故が発生した風車と同機種についての保安上の措置としての停止等の原因により、延べ486回、90日以上連続して稼働を停止していた(表2参照)。

表2 風車の稼働停止の状況(平成20年度~25年度)

種別 90日以上
180日未満
180日以上
365日未満
365日以上
730日未満
730日以上
  (停止日数) (基) (事業者)
地域補助金 41 34 10 6 91 (24,699) (60) (31)
事業者補助金 183 161 47 4 395 (90,455) (302) (51)
224 195 57 10 486 (115,154) (362) (82)

(2)風力発電事業による発電の実績

128事業者について、補助金交付申請書に記載した計画発電量に対する20年度(20年4月1日に稼働していない発電所については稼働開始翌年度)から25年度までの6年間の発電量の実績をみたところ、表3のとおり、各年度にわたり、地域補助金ではおおむね8割、事業者補助金ではおおむね9割の事業者がそれぞれ計画発電量に対して50%以上の発電量となっていた。

表3 計画発電量に対する発電量の実績(平成20年度~25年度)

計画発電量に対する発電量の実績の割合 地域補助金の事業者 事業者補助金の事業者
平成
20年度
21年度 22年度 23年度 24年度 25年度 20年度 21年度 22年度 23年度 24年度 25年度
100%以上(達成) 7 7 5 8 7 7 6 9 9 14 16 15
90%以上100%未満 6 9 10 7 13 10 5 5 8 10 9 10
80%以上90%未満 6 6 8 8 10 8 5 15 9 7 11 13
70%以上80%未満 11 7 12 8 10 16 11 7 10 14 12 11
60%以上70%未満 6 14 7 14 7 5 6 1 8 4 5 2
50%以上60%未満 5 4 7 7 10 9 1 3 1 5 4 5
小計(50%以上) 41
73.2%
47
82.4%
49
83.0%
52
88.1%
57
87.6%
55
84.6%
34
85.0%
40
90.9%
45
88.2%
54
91.5%
57
95.0%
56
91.8%
40%以上50%未満 9 4 6 4 1 5 2 2 2 1 2 2
30%以上40%未満 3 2 3 0 4 0 2 1 3 2 0 2
20%以上30%未満 2 2 1 0 2 2 0 0 1 2 0 1
10%以上20%未満 0 1 0 3 1 1 1 1 0 0 1 0
10%未満 1 1 0 0 0 2 1 0 0 0 0 0
56 57 59 59 65 65 40 44 51 59 60 61
(注)
地域補助金のうち、2事業者は、発電量が不明なため本表には含めていない。

しかし、継続的に発電量が低迷している事業者も見受けられ、特に、地域補助金の3事業者、事業者補助金の2事業者、計5事業者については、表4のとおり、各年度の発電量が全て50%未満となっていた。

表4 計画発電量に対する発電量の実績が50%未満の事業者(平成20年度~25年度)

地域補助金分で計画発電量に対する発電量の実績の割合(%) 事業者補助金分で計画発電量に対する発電量の実績の割合(%)
事業者 平成
20年度
21年度 22年度 23年度 24年度 25年度 事業者 20年度 21年度 22年度 23年度 24年度 25年度
A 32.8 27.7 38.7 12.8 21.4 26.3 D 35.3 41.4 41.1 37.4 42.0 39.9
B 30.4 19.7 42.6 15.3 32.6 1.8 E 11.2 14.5 32.7 21.6 17.1 29.2
C 6.1 7.2 22.9 16.1 20.5 18.2  

そして、計画発電量を各年度全て達成していた12事業者を除く116事業者は、計画発電量を達成できない要因として、想定したより風況が悪く待機時間が長くなること、機器等の不具合等により稼働停止期間が長くなることなどを挙げていた。

(3)風車の稼働停止の抑制等のための事業者の取組

128事業者について、稼働停止を抑制するための取組の実施状況をみたところ、〔1〕 部品の摩耗等による鉄粉の混入の有無等を確認するために油(グリース)を分析すること、〔2〕 悪天候時に風車を早めに停止すること、〔3〕 主要な機器等の交換に当たり時期の目安や優先順位をあらかじめ設定した上で実施することなどが挙げられていたが、これらについて実施していた事業者の割合はそれぞれ〔1〕 57.0%、〔2〕 51.5%、〔3〕 48.4%にとどまっていた。

また、稼働停止期間を短縮するための取組の実施状況をみたところ、〔1〕 修理計画の決定から機器等の調達までの期間を短縮するための予備品の保有、〔2〕 修理作業期間を短縮するためのナセル内で修理できる技術の向上、〔3〕 原因の特定までの期間を短縮するための社内又はグループ内の故障事例情報の蓄積や共有等が挙げられていたが、これらについて実施していた事業者の割合はそれぞれ〔1〕 56.2%、〔2〕 42.9%、〔3〕 35.1%にとどまっていた。

このように、上記のような風車の稼働停止の抑制等のために有益と考えられる取組であっても、実際に実施するに至っていない事業者が多数見受けられる状況となっていた。

一方、128事業者のうち118事業者は、風力発電事業を今後も継続する予定であるとしている。また、前記のとおり固定価格買取制度が実施されていることにより、123事業者において、売電単価は従前と比較して50%以上増加しており、事業者の財務状況は好転して保守、点検等に対する取組を強化しやすい環境になっていると考えられる。

(4)貴庁等における風力発電事業に対する対応等

貴庁等は、最近の事故の発生状況や産業構造審議会保安分科会電力安全小委員会新エネルギー発電設備事故対応・構造強度ワーキンググループでの有識者の意見を踏まえて、最近の事故に対応して発電用風力設備の技術基準の解釈を改正したり、風圧等に対する風力発電設備の耐力を事業者が確認するための検査、解析等の費用に対する補助制度を設けたりしている。一方で、前記の利用状況報告書の提出期間の終了後において、貴庁等が把握している風力発電事業の運営状況は、重大な事故等が発生した場合等に情報を得ている事業者に関するものにとどまっていて、貴庁等において、発電実績が低迷している事業者に関するものまでは十分に把握していなかった。

また、前記のとおり、風車の稼働停止の抑制等のために有益と考えられる取組を実施するに至っていない事業者も多数見受けられた。そして、128事業者のうち123事業者が、効率的な事業運営をしている事業者の取組事例を参考にしたいとしており、中には、事業者間で協力等ができる場合の有益な取組として、トラブル対策事例の情報の共有、国内修理業者及び部品購入先の情報の共有を挙げる事業者も見受けられた。

しかし、貴庁は、事業者に対して、効率的な事業の運営に有益な情報を提供することについて、十分に対応していなかった。

(改善を必要とする事態)

発電実績の低迷は、基本的に、自然条件や事業者の事業運営上の問題に起因するが、固定価格買取制度が実施されて事業者が発電実績の向上のための取組を行いやすい環境となっている中で、貴庁において、風力発電事業の運営状況の把握が重大な事故等が発生した場合等に情報を得ている事業者にとどまっていたり、風力発電事業の効率的な運営のために有益な情報を提供することについて十分に対応していなかったりしている事態は適切ではなく、改善の要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴庁において、発電実績が低迷している事業者についても事業の運営状況を把握したり、事業者に効率的な事業運営に有益な情報を提供したりすることについての検討が十分でないことなどによると認められる。

3 本院が表示する意見

風力発電は今後とも有望なエネルギー源であると見込まれており、90%を超える事業者は今後も事業の継続を予定している。そして、固定価格買取制度の実施により、事業者にとっては事業運営に関する見通しを従前より立てやすくなり、発電実績の向上のための取組も行いやすくなっている。

ついては、貴庁において、重大な事故等が発生した場合等に情報を得ている事業者にとどまらず、発電実績が低迷している事業者についても事業の運営状況を十分に把握するとともに、事業者に対して効率的な事業運営のために有益と考えられる情報の提供を一層進めることについて検討して必要とされる方策を策定することにより、多額の補助金を交付して整備された風力発電設備が長期間にわたってより一層有効に活用されるよう意見を表示する。