国は、電源立地対策の一環として、昭和57年度から平成13年度までの間及び25年度に、企業立地資金貸付事業(以下「貸付事業」という。)を実施する19県(注1)に対して、その実施に必要な資金として、電力移出県等交付金等計251億3037万余円を交付している。貸付事業は、電源立地地域対策交付金交付規則(平成23年文部科学省・経済産業省告示第1号)等によれば、発電用施設等が所在する市町村等の住民が通常通勤することができる地域(以下「事業地域」という。)に立地する企業(以下「立地企業」という。)に対する設備の取得等に要する費用に充てるための資金の貸付けに係る事業とされている。
19県は、交付された資金を原資として回転型の基金である企業立地資金貸付基金(以下「貸付基金」という。)を造成しており、25年度末における貸付基金の残高(注2)は、計198億5548万余円となっている。そして、19県は、「電源立地地域対策交付金の運用について(通達)」(16文科開第951号、平成16・09・24資庁第3号。以下「通達」という。)により、貸付けの都度、当該貸付けに充てる資金を貸付基金から原則として無利子で金融機関等に預託し、当該金融機関等が預託された資金に自己資金を加えて貸付けを実施するなどしている。
通達では、貸付限度額、貸付期間等の貸付事業における原則的な貸付条件等が規定され、実際の貸付条件等は、通達の規定の範囲内で事業地域ごとの実情に応じて都道府県ごとに定めることとなっている。資源エネルギー庁は、貸付事業の実績が低調に推移していたことなどから、20年4月に通達を改正して、2億円以内とされていた貸付限度額を5億円以内、また、10年以内とされていた貸付期間を15年以内とするなど貸付条件等の見直しを行った(以下、この改正後の通達を「20年改正通達」という。)。
また、資源エネルギー庁は、23年3月に発生した東日本大震災を契機とする都道府県における状況の変化等に対応するために、25年1月に通達を改正し、電源立地対策に係る交付金で造成した貸付基金等の各種基金について、社会的経済的事情の変動により、他の施設又は事業に当該基金を充当する必要が生じた場合には、主務大臣の承認を受けて、他の施設又は事業に充当すること(以下「他事業への充当」という。)ができるようにした(以下、この改正後の通達を「25年改正通達」という。)。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、有効性等の観点から、貸付基金の原資とするために交付した資金が有効に活用されているかなどに着眼して、前記19県のうち宮城、福島両県を除く17県が造成した貸付基金を対象として検査をした。検査に当たっては、資源エネルギー庁において、貸付基金の利用実績についての各県からの報告等を確認するなどの方法により、また、17県において、貸付事業の実施状況等について関係書類等を確認するなどの方法により会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
17県における貸付基金の残高は、25年度末現在、計177億0508万余円となっており、立地企業に貸し付けるために金融機関等に預託している額(以下「預託残高」という。)は計15億3825万余円、貸付基金の残高に占める預託残高の割合(以下、この割合を「預託率」という。)は、8.7%にとどまっていて、差引き161億6682万余円の貸付基金が実際には立地企業への貸付けに活用されていない状況となっていた。
また、14年度から25年度までの12年間における貸付事業における新規貸付けの状況をみたところ、17県のうち15県において新規貸付けの1年間当たりの平均件数が1件未満となっており、新規貸付けの実績は、低調なままで推移している状況となっていた。
特に、三重、島根、岡山、山口、大分の5県では、25年度末において、預託率が0%であり、貸付基金を活用した立地企業に対する貸付けが全く行われていなかった。また、このうち三重、岡山、山口の3県では、15年間以上にわたり新規貸付けが全く行われていなかった。
上記の事態について、事例を示すと次のとおりである。
<事例>
山口県は、昭和57年度から平成4年度にかけて、電力移出県等交付金計8億5000万円を原資として貸付基金を造成し、貸付事業を実施していた。そして、25年度末の貸付基金の残高は、9億5928万余円となっていた。
同県では、新規貸付けが元年度に最多の6件に上り、元年度末の預託件数は19件、預託率は86.8%に達するなど、従前は貸付基金が一定程度活用されていた。しかし、4年度に新規貸付けが2件行われたのを最後に、5年度以降は21年間以上にわたって新規貸付けがなく、金融機関等からの預託金償還の完了により、14年度以降は預託残高がない状態が継続していた。
20年改正通達を踏まえた貸付条件等の見直しの状況についてみたところ、富山、和歌山、鹿児島の3県は、貸付条件等の見直しを行っていなかった。
また、貸付条件等の見直しを行っていた14県における貸付条件等の見直し後の預託率についてみたところ、見直し後に預託率が増加していたのは4県にとどまっており、残りの10県は預託率が低下し又は預託残高が全くない状況が継続していた。したがって、20年改正通達を踏まえた貸付条件等の見直しの効果は十分なものとはなっておらず、貸付基金を活用した立地企業に対する貸付けを増やすためには、貸付条件等の見直しを含めた更なる貸付事業の見直しが必要であると認められた。
25年改正通達を踏まえた他事業への充当の状況についてみたところ、他事業への充当を行ったのが1県、計画中が2県であるのに対して、検討したものの実施しないこととしたのが4県、検討自体を行っていないのが10県となっており、多くの県で他事業への充当を可能とした25年改正通達への対応が十分に行われていない状況となっていた。
また、検討したものの他事業への充当を実施しないこととした4県や検討自体を行っていない10県にそれぞれその理由を確認したところ、他事業への充当を行うための具体的な手法、他事業への充当の事例、他県の対応状況等の情報が不足していることなどによるとしていた。
上記のとおり、長期にわたって貸付けが低調となっていて多額の貸付基金が実際には立地企業への貸付けに活用されていなかったり、貸付事業の更なる見直しや他事業への充当等が進んでおらず、交付した資金の有効活用を促進するための取組が十分に行われていなかったりしている事態は、国が交付した資金が有効に活用されておらず、また、今後とも有効に活用されないおそれがあることから適切ではなく、改善の必要があると認められた。
(発生原因)
このような事態が生じていたのは、県において、貸付事業の見直しや他事業への充当等の必要性及び重要性に対する理解が十分でなかったり、基金規模の適正性等について自ら検証していなかったりなどしていたことにもよるが、資源エネルギー庁において、各県に対して資金の有効活用や基金規模の適正性等の検証に資する情報を提供するなどの交付した資金の有効活用を促進するための取組を十分に行っていなかったことなどによると認められた。
上記についての本院の指摘に基づき、資源エネルギー庁は、26年5月及び6月に、各県に対して事務連絡を発するなどして、国が交付した資金の有効活用を図るよう、次のような処置を講じた。