この工事は、近畿地方整備局紀南河川国道事務所(以下「事務所」という。)が、平成23、24両年度に、和歌山県田辺市中万呂地先において、近畿自動車道紀勢線建設事業の一環として、道路の盛土により遮断される既存の農道の機能を維持するなどのために、土工、地盤改良工、ボックスカルバート(以下「カルバート」という。)の築造等を工事費247,327,500円で実施したものである。
このうちカルバートは、農道が道路下を横断する箇所に築造するものであり、全延長68.6m、高さ7.5m、外幅7.0m(内空断面の高さ5.1m、幅5.0m)の現場打ち鉄筋コンクリート構造物として設計し、全延長を第1から第6までのブロックに分けて施工するものとなっている。また、カルバートの基礎工については、地盤をセメントにより固結して安定させるセメント安定処理による地盤改良(幅9.0m、深さ2.1m)をカルバートの全延長にわたって施工するものとなっている(参考図参照)。
カルバートの設計は、「道路土工 カルバート工指針」(社団法人日本道路協会編。以下「指針」という。)等に基づいてブロックごとに最大土被り厚等に応じて行うこととなっており、事務所は、これを設計コンサルタントに委託し、設計業務委託の成果品の提出を受けている。
上記の成果品においては、カルバートのうち第5ブロック(全延長68.6mのうち12.2m)について、その最大土被り厚を8.5m、その鉛直土圧係数(注1)を1.0としてカルバートに作用する鉛直土圧を計算するなどしていた。そして、事務所は、頂版下面側及び底版上面側に配置する主鉄筋については、頂版下面側では径19㎜の鉄筋を、底版上面側では径22㎜の鉄筋を、それぞれ25㎝間隔に配置すれば、主鉄筋に生ずる引張応力度(注2)(常時(注3))が許容引張応力度(注2)(常時)を下回ること、また、頂版及び底版のコンクリートの厚さについては、頂版では1.1m、底版では1.3mとすれば、頂版及び底版のコンクリートに生ずるせん断応力度(注4)(常時)が許容せん断応力度(注4)(常時)を下回ることなどから、いずれも所要の安全度が確保されるとして、設計図面を作成して、これにより施工していた。
本院は、合規性等の観点から、本件工事の設計が指針等に基づき適切に行われているかなどに着眼して、事務所において会計実地検査を行った。そして、本件工事について、設計図面、設計計算書、施工写真等の書類及び現地の状況を確認するなどして検査したところ、本件カルバートのうち第5ブロックの設計が、次のとおり適切でなかった。
すなわち、指針等によれば、本件カルバートのように、基礎工としてセメント安定処理のような剛性の高い地盤改良をカルバートの外幅程度に行う場合において、土被り厚をカルバートの外幅で除した値が1以上となる場合には、鉛直土圧係数を1.0から割り増しして鉛直土圧を計算することとされている。このため、第5ブロックの鉛直土圧係数及び鉛直土圧については、最大土被り厚8.5mをカルバートの外幅7.0mで除した値が1以上2未満となることから、指針等による正しい鉛直土圧係数が1.2となり、その結果、鉛直土圧が過小に計算されていた。
そこで、正しい鉛直土圧係数1.2により鉛直土圧を求めるなどして第5ブロックの頂版下面側及び底版上面側の主鉄筋並びに頂版及び底版のコンクリートについて、改めて応力計算を行ったところ、次のとおり、応力計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。
したがって、本件カルバートのうち第5ブロックは設計が適切でなかったため、第5ブロック、同ブロック内の舗装等は、所要の安全度が確保されていない状態になっていて工事の目的を達しておらず、これらに係る工事費相当額17,213,000円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、事務所において、委託した設計業務の成果品に誤りがあったのに、これに対する検査が十分でなかったことなどによると認められる。
カルバートの概念図
カルバート断面概念図