(1件 不当と認める国庫補助金 18,744,034円)
部局等 | 補助事業者等 (事業主体) |
補助事業等 | 年度 | 事業費 (国庫補助対象事業費) |
左に対する国庫補助金等交付額 | 不当と認める事業費 (国庫補助対象事業費) |
不当と認める国庫補助金等相当額 | |
千円 | 千円 | 千円 | 千円 | |||||
(357) | 熊本県 | 山鹿市 | 河川等災害復旧 | 23 | 28,757 (28,757) |
19,181 | 28,102 (28,102) |
18,744 |
この補助事業は、山鹿市が、同市鹿北町椎持地内において、地すべりにより被災した市道星原線を復旧するために、アンカー付き山留め式擁壁(延長33.3m。以下「擁壁」という。)の築造等を実施したものである。
このうち、擁壁は、H鋼杭(杭長9.5m~13.5m)計20本を建て込むなどして構築する山留壁からアンカー計10本を背面地山の斜め下方向に打ち込み、ブラケット(上下2段、各20個)、腹起し材を設置した後に、アンカー頭部に鋼製台座等を設置して築造したものである。そして、腹起し材は、山留壁からの荷重を鋼製台座を介してアンカーに伝えるためにH形鋼を水平方向に2段設置したものであり、ブラケットは、この腹起し材を支えるために三角形に組み立てた等辺山形鋼を、H鋼杭にすみ肉溶接(注1)により固定したものである(参考図参照)。
同市は、本件擁壁の設計を「グラウンドアンカー設計・施工基準,同解説」(社団法人地盤工学会編。以下「基準」という。)等に基づいて行っている。そして、基準等によれば、下段ブラケットには、アンカーの張力による鉛直力等が作用することから、これらの荷重に対して安全であることを確認する必要があるとされている。このため、同市は、地山の形状、アンカーの打設角や張力等により擁壁全体を3区間に分割して設計しており、ブラケットについては、区間ごとに板厚12㎜又は8㎜の等辺山形鋼を使用することとしていた。そして、ブラケットをH鋼杭に溶接する際の脚長については、基準等において、ブラケットの板厚より短くすることとなっていることから、板厚12㎜のブラケットを使用する場合は10㎜、板厚8㎜のブラケットを使用する場合は6㎜として、上記のそれぞれの区間について設計計算を行い、下段ブラケットとH鋼杭との溶接部に作用するせん断応力度(注2)が許容せん断応力度(注2)を下回ることなどから、応力計算上安全であるとしていた。
しかし、同市は、工事契約締結後に、請負人との協議により、アンカーの打設角を見直すなどの設計変更を行っており、これにより擁壁全体を4区間に分割して再度設計計算を行っていた。その結果、10本全てのアンカーの張力が当初の設計を上回ることなどにより、下段ブラケットとH鋼杭との溶接部に作用するせん断応力度も増加することとなったのに、許容せん断応力度を下回るかの確認を行っていなかった。
また、同市は、請負人からブラケットの板厚を4区間とも10㎜に統一したいとの協議を受けた。そして、この変更によりブラケットの板厚が薄くなる区間については、H鋼杭との溶接の脚長が当初設計より短くなるのに、その影響を確認しないまま板厚の変更を認め、これを受けて請負人は、同区間についても他のブラケットと同じ脚長6㎜で溶接していた。
そこで、本件下段ブラケットについて、改めて設計計算を行ったところ、下段ブラケットとH鋼杭との溶接部に作用するせん断応力度は72.1N/mm2から159.5N/mm2となり、許容せん断応力度72N/mm2を大幅に上回っていて、応力計算上安全とされる範囲に収まっていなかった。
したがって、本件擁壁(工事費相当額28,102,000円)は、設計が適切でなかったため、所要の安全度が確保されていない状態になっており、これに係る国庫補助金相当額18,744,034円が不当と認められる。
このような事態が生じていたのは、同市において、アンカーの打設角等の見直しによる設計計算に対する確認が十分でなかったこと、ブラケットの板厚変更による影響を確認していなかったことなどによると認められる。
アンカー付き山留め式擁壁の概念図
アンカー頭部の概念図
溶接の脚長の概念図(アンカー頭部の概念図のA―A’断面)