ページトップ
  • 平成25年度 |
  • 第3章 個別の検査結果 |
  • 第1節 省庁別の検査結果 |
  • 第12 国土交通省 |
  • 不当事項 |
  • 補助金 |
  • (5)工事の実施計画が適切でなかったもの

沈砂池ポンプ棟の耐震補強工事において、耐震補強の目的を達していなかったもの[埼玉県](362)


(1件 不当と認める国庫補助金 99,109,500円)

  部局等 補助事業者等
(事業主体)
補助事業等 年度 事業費
(国庫補助対象事業費)
左に対する国庫補助金等交付額 不当と認める事業費
(国庫補助対象事業費)
不当と認める国庫補助金等相当額
          千円 千円 千円 千円
(362) 埼玉県 埼玉県 地域自主戦略交付金 24、25 198,219
(198,219)
99,109 198,219
(198,219)
99,109

この交付金事業は、埼玉県が、下水道総合地震対策事業の一環として、比企郡川島町大字伊草地内において、川島南中継沈砂池ポンプ棟(以下「ポンプ棟」という。)の耐震性能を確保するために、基礎杭の増設、建物内部の底版及び壁の増厚等の耐震補強工事を実施したものである。

同県は、本件工事の実施に先立ち、「下水道施設の耐震対策指針と解説」(社団法人日本下水道協会編)等に基づき、ポンプ棟の耐震性能を照査した結果、基礎部及び建物内部の沈砂機械室、ポンプ室等の底版や壁について、地震時における所要の耐力を有していないことが判明したことから、所要の耐力を確保するために、ポンプ棟全体を一体的に補強することとして、次のとおり耐震設計を行っていた。

  • 〔1〕 基礎部については、新たに基礎杭を40本増設する。
  • 〔2〕 建物内部の沈砂機械室、ポンプ室等の底版や壁については、コンクリートの増厚、鉄筋の増設等を行う。

そして、同県は、上記の耐震設計に基づく耐震補強工事のうち、基礎部や沈砂機械室等のみを本件工事において補強することとして、これにより施工していた。一方、ポンプ室については、設置している機械設備が平成35年度頃に更新予定であることから、その更新時期に合わせて補強する計画としていた。

しかし、前記のとおり、ポンプ棟全体を一体的に補強することとして耐震設計を行っていることから、本件工事において、ポンプ室を補強しないこととした場合、基礎杭の増設や沈砂機械室等の補強により、ポンプ室の各部材に生ずる応力等が変化することとなる。

そこで、改めて本件工事の実施後におけるポンプ室の耐震性能を照査したところ、レベル2地震動(注1)時における底版左端部の発生曲げモーメント(注2)が、工事の実施前は217.70kN・mと終局耐力(注3)225.83kN・mを下回っていて耐力を確保できていたのに、工事の実施により267.20kN・mと上記の終局耐力を上回ることとなり、必要な耐力を確保できていない状況となっているなどしていた。さらに、レベル1地震動(注1)時における底版左端部の鉄筋の引張応力度(注4)については、工事の実施前は277.69N/mm2と許容引張応力度(注4)270N/mm2を既に上回っていたが、工事の実施により359.40N/mm2と、更に上回るなどしていた。

したがって、本件工事(工事費198,219,000円)は、実施計画が適切でなかったため、工事の実施によりポンプ室の耐震性能が低下しており、その状態が長期にわたり継続することとなっていて、耐震補強の目的を達しておらず、これに係る交付金交付額99,109,500円が不当と認められる。

このような事態が生じていたのは、同県において、耐震補強工事を段階的に実施した場合に各部材に生ずる応力等の変化を考慮した工事の実施計画についての検討が十分でなかったことなどによると認められる。

(注1)
レベル1地震動・レベル2地震動  「レベル1地震動」とは、ポンプ場等の供用期間中に発生する確率が高い地震動をいい、「レベル2地震動」とは、ポンプ場等の供用期間中に発生する確率は低いが大きな強度を持つ地震動をいう。
(注2)
曲げモーメント  外力が部材に作用し、これを曲げようとする力の大きさをいう。
(注3)
終局耐力  外力が部材に作用した時に、部材の破壊に対する耐力をいう。
(注4)
引張応力度・許容引張応力度  「引張応力度」とは、部材に外から引張力がかかったとき、そのために部材の内部に生ずる力の単位面積当たりの大きさをいい、その数値が設計上許される上限を「許容引張応力度」という。