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  • 平成25年度 |
  • 第3章 個別の検査結果 |
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  • 第12 国土交通省 |
  • 意見を表示し又は処置を要求した事項

(2)船舶の航行の安全管理に係る業務の実施に当たり、業務に従事する技術者の業務の内容に即した職種を適用して直接人件費を積算するとともに、必要性を十分に検討した上で作業等を実施することとして業務費の低減を図るよう是正改善の処置を求めたもの


会計名及び科目
社会資本整備事業特別会計(港湾勘定) (項)港湾事業費
部局等
4地方整備局
契約の概要
船舶が輻輳することとなる港湾工事の実施に当たり、港湾工事等に関する情報を収集したり、航行する船舶の動静を監視したりして、港湾関係者に工事情報等を周知するなどの船舶の航行の安全管理に係る業務を行うもの
契約の相手方
4公益社団法人
検査の対象とした契約件数及び契約金額
38件 12億3003万余円(平成23年度~25年度)
直接人件費の積算額
4億7219万余円
上記のうち低減できた直接人件費の積算額
3900万円
積上経費が計上されていた契約件数及び金額
26件 1億1316万余円(平成23年度~25年度)
上記のうち必要性を十分に検討することなく実施していた作業等に係る積上経費の金額
1815万円

【是正改善の処置を求めたものの全文】

船舶の航行安全に係る業務費について

(平成26年10月30日付け 国土交通大臣宛て)

標記について、会計検査院法第34条の規定により、下記のとおり是正改善の処置を求める。

1 船舶の航行安全に係る業務の概要

(1)船舶の航行安全に係る業務の概要

貴省は、港湾整備事業の一環として、浚渫(しゅんせつ)工事等の港湾工事を毎年度多数実施している。港湾工事を実施する主体である地方整備局は、港湾施設の工事施工区域近辺で工事用船舶と一般船舶(以下「船舶」という。)が輻輳することとなる工事の実施に当たって、工事に先立って、船舶の航行安全対策を策定している。航行安全対策の策定に当たって、地方整備局は、有識者、港湾利用者及び行政関係者で構成される委員会を開催して船舶の航行安全対策を検討し、当該工事に係る航行安全対策を取りまとめた報告書を作成している。

そして、地方整備局は、上記の報告書により船舶の航行安全対策が必要とされた港湾及び航路における船舶の航行の安全管理等を行うために、船舶航行安全管理業務(以下「管理業務」という。)を請負契約により実施している。

管理業務は、港湾工事等に関する情報の収集をしたり、航行する船舶を目視できる近隣の事務所を借り上げるなどして、AIS(船舶自動認識装置)受信機や双眼鏡等を用いて工事施工区域近辺を航行する船舶の動静を監視したりして、港湾関係者に工事情報等を周知するなどのものである。

(2)管理業務費の積算の概要

地方整備局は、管理業務費の積算に当たって、管理業務が港湾事業に係る計画、開発、調査等の業務及び設計業務(以下、これらを合わせて「設計等業務」という。)に類似する業務であるとして、設計等業務の積算に使用する貴省港湾局制定の「港湾請負工事積算基準」等(以下「積算基準等」という。)を準用している。

そして、管理業務費の積算は、積算基準等に基づき直接人件費及び直接経費を合算するなどして行われている。このうち直接人件費の積算については、海難防止に関する調査研究等を行っている公益社団法人(以下「法人」という。)から見積りを徴するなどして、積算基準等において定義されている管理業務に従事する技術者ごとの業務内容に対応した職種を適用し、その職種ごとに定められた労務単価に作業従事人日数を乗ずるなどして行われている。
各職種が行う主な業務を示すとのとおりであり、主な業務のうち、定型業務は、調査の項目、方法等が指定され、作業量、所要工期等も明確な業務等とされており、非定型業務は、調査の項目、方法等が未定で最適な業務計画、手法等を確立して対応することが求められる業務等とされている。

表 技術者の職種及び主な業務

職種 主な業務
主任技師 定型業務に精通し部下を指導して複数の業務を担当する。また、非定型業務を指導し、最重要部分を担当する。
技師(A) 高度な定型業務を複数担当する。また、上司の指導の下に非定型的な業務を担当する。
技師(B) 一般的な定型業務を複数担当する。また、上司の包括的指示の下に高度な定型業務を担当する。
技師(C) 上司の包括的指示の下に一般的な定型業務を担当する。また、上司の指導の下に高度な定型業務を担当する。
技術員 上司の指導の下に一般的な定型業務の一部を担当する。また、補助員を指導して基礎的資料を作成する。

また、直接経費の積算については、水道光熱費や通信交通費等の経費は、直接人件費に積算基準等の所定の率を乗じて算出し、借上費、港湾関係者に必要な工事情報等を周知するための役務費等の経費は、法人から見積りを徴するなどして必要経費を積み上げて算出(以下、必要経費を積み上げて算出する直接経費を「積上経費」という。)して行われている。

2 本院の検査結果

(検査の観点、着眼点、対象及び方法)

貴省は、船舶の航行安全対策が必要とされた港湾工事において管理業務を実施することとしており、これに係る費用は毎年度多額に上っている。そこで、本院は、経済性等の観点から、管理業務費のうち、直接人件費の積算において適用している職種は業務の内容に即したものとなっているか、また、積上経費として計上して実施している作業等は管理業務を実施する上で必要性があるものとなっているかなどに着眼して、4地方整備局(注1)が14港等(注2)において平成23年度から25年度までの間に実施した管理業務に係る契約計38件(契約金額計12億3003万余円)を対象に、4地方整備局において設計図書等の書類を確認したり、契約相手方の4法人(注3)において管理業務に関する調書を徴したり、管理業務を実施している現場に赴いて現地の状況を確認したりするなどして会計実地検査を行った。

(注1)
4地方整備局  近畿、中国、四国、九州各地方整備局
(注2)
14港等  大阪、神戸、境、水島、徳山下松、宇部、尾道糸崎、高松、松山、博多、北九州、鹿児島各港、備讃瀬戸、関門両航路
(注3)
4法人  公益社団法人日本海海難防止協会、公益社団法人神戸海難防止研究会、公益社団法人瀬戸内海海上安全協会、公益社団法人西部海難防止協会

(検査の結果)

検査したところ、次のような事態が見受けられた。

(1)直接人件費について

4地方整備局は、特記仕様書において、管理業務を実施し統括する技術者(以下「統括技術者」という。)を必ず配置するほか、統括技術者の指示の下に、工事請負業者等との連絡や資料の作成等の業務を担当する技術者(以下「担当技術者」という。)を業務量等に応じて配置することを定めていた。そして、4地方整備局は、配置する統括技術者及び担当技術者の直接人件費の積算に当たって、法人から徴した見積りなどを基にいずれかの職種を適用し、その職種ごとに定められた労務単価に作業従事人日数を乗ずるなどして、14港等に係る38件の契約の直接人件費を計4億7219万余円としていた。

そこで、38件の契約の統括技術者及び担当技術者の積算における職種の適用状況についてみたところ、統括技術者については、「主任技師」、「技師(A)」又は「技師(B)」となっていた。また、担当技術者については、「技師(A)」、「技師(B)」又は「技師(C)」となっていて、各管理業務において職種の適用が異なっていた。

しかし、管理業務を実施している14港等は、いずれも海上輸送網の拠点となる港湾等であり、上記の統括技術者及び担当技術者のそれぞれの業務内容は、特記仕様書、作業日報等によると、各管理業務を通じて同様となっていた。

そして、前記38件の契約において、統括技術者の業務は、特記仕様書において全ての項目、方法等が明確に示されている定型業務であり、船舶の運航等に関する高度な知識や業務経験を基に工事情報等の収集及び整理・分析や船舶との運航調整等を行うなどの高度な業務を自らの判断の下に実施するものとなっていた。また、担当技術者の業務は、統括技術者の指導の下に、港湾関係者に工事情報等を周知したり、作業日報等の基礎的な資料を作成したりするなどの一般的な定型業務の一部を担当するものとなっていた。

したがって、本件管理業務における統括技術者は、高度な定型業務を自らの判断の下に実施していることから、「技師(A)」の職種に相当し、担当技術者は、高度な定型業務を担当しておらず、上司の指導の下に一般的な定型業務の一部を担当していることから、「技術員」の職種に相当すると認められる。

そして、統括技術者の職種については「技師(A)」、担当技術者が配置されている場合の職種については「技術員」を適用することとして、直接人件費の積算額を修正計算すると、前記38件の契約の直接人件費計4億7219万余円は計4億3318万余円となり、3900万余円低減できたと認められる。

(2)積上経費について

38件の契約のうち26件については、積上経費を計1億1316万余円計上している。このうち3地方整備局(注4)が実施した16件の契約については、法人から見積りを徴するなどして、航行安全対策の対象となる工事情報を港湾関係者に周知するためのリーフレット等の印刷、配布の作業等に関する経費計1815万余円を積上経費として計上していた。そして、これらの作業等を当該管理業務の特記仕様書に定めて、本件契約の相手方である法人に実施させていた。

一方、残りの10件の契約においては、ファックスその他の通信手段で必要な工事情報を随時伝達できることなどから、リーフレット等の印刷等は行っておらず、これに関する経費は計上していなかった。しかし、上記の16件の契約においては、同様の手段で必要な工事情報等を随時伝達できると考えられるのに、3地方整備局は、リーフレット等の印刷等の必要性を十分に検討することなく法人から徴した見積りに基づき作業等を実施していた。

(注4)
3地方整備局  近畿、中国、四国各地方整備局

(是正改善を必要とする事態)

管理業務費の積算に当たり、統括技術者及び担当技術者に適用する職種について業務内容を十分に考慮することなく決定して直接人件費を算出している事態、また、管理業務において必要性を十分に検討することなく見積りに基づき作業等を実施している事態は適切ではなく、是正改善を図る要があると認められる。

(発生原因)

このような事態が生じているのは、貴省において、管理業務の内容に即した直接人件費の積算を行うための職種の適用方法や積上経費として計上する作業等を明確にするための基準が定められていないことなどによると認められる。

3 本院が求める是正改善の処置

貴省は、港湾整備事業の一環として、今後も引き続き、多数の管理業務を実施することが見込まれる。

ついては、貴省において、管理業務費の積算に当たり、統括技術者及び担当技術者の直接人件費の積算において適用する職種が業務の内容に即したものとなるよう、また、管理業務において必要性を十分に検討した上で作業等を実施することとするよう、職種の適用方法や積上経費として計上する作業等について明確な基準を定めるなどして、管理業務費の低減を図るよう是正改善の処置を求める。