【適宜の処置を要求し及び是正改善の処置を求め並びに改善の処置を要求したものの全文】
浸水想定区域の指定等、洪水ハザードマップの作成等及び浸水想定区域図等の電子化の実施について
(平成26年2月24日付け 国土交通大臣宛て)
標記について、下記のとおり、会計検査院法第34条の規定により是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求め、並びに同法第36条の規定により改善の処置を要求する。
記
貴省及び都道府県は、水防法(昭和24年法律第193号)及び水防法施行規則(平成12年建設省令第44号。以下、これらを合わせて「法等」という。)の規定により、洪水時の円滑かつ迅速な避難を確保し、又は浸水を防止することにより、水災による被害の軽減を図るため、洪水予報河川(注1)及び水位情報周知河川(注2)について、当該河川が氾濫した場合に浸水が想定される区域を浸水想定区域として指定することとなっている。そして、貴省及び都道府県は、浸水想定区域を指定したときは、浸水想定区域及び浸水した場合に想定される水深(以下「浸水深」という。)を表示した図面(以下「浸水想定区域図」という。)を作成して公表するとともに、関係市町村に通知しなければならないとされている(以下、浸水想定区域の指定並びに浸水想定区域図の作成、公表及び関係市町村への通知を合わせて「浸水想定区域の指定等」という。)。
そして、貴省は、各地方整備局管内の河川国道事務所、河川事務所及び北海道開発局管内の開発建設部(以下、これらを合わせて「事務所等」という。)において、平成13年度から、国の直轄事業として浸水想定区域の指定等に係る事業(以下「浸水想定区域指定等直轄事業」という。)を実施するとともに、17年度から、都道府県が行う浸水想定区域の指定等に係る事業に対する国庫補助事業等(以下「浸水想定区域指定等補助事業」という。)を実施している。浸水想定区域指定等直轄事業及び浸水想定区域指定等補助事業の実施に当たっては、貴省及び都道府県は、コンサルタント業者等と請負契約を締結して、対象となる河川の氾濫解析等に基づき浸水想定区域図を作成する業務を行わせて、その成果物を確認するなどしている。
浸水想定区域をその区域に含む市町村(以下「浸水想定区域市町村」という。)は、法等の規定により、洪水予報等の伝達方法、避難場所等、浸水想定区域内に要配慮者利用施設(注3)等がある場合の当該施設の名称及び所在地の各事項を浸水想定区域図に記載したもの(以下「洪水ハザードマップ」という。)を作成するとともに、住民に周知するために、当該洪水ハザードマップを印刷物の配布その他の適切な方法により各世帯に提供したり、当該洪水ハザードマップに係る情報をインターネットの利用その他の適切な方法により、住民がその提供を受けることができる状態に置いたりしなければならないとされている(以下、洪水ハザードマップの作成及び住民への周知を合わせて「洪水ハザードマップの作成等」という。)。
そして、貴省は、17年度から、浸水想定区域市町村が行う洪水ハザードマップの作成等に係る事業に対する国庫補助事業等(以下「洪水ハザードマップ作成等補助事業」という。)を実施している。洪水ハザードマップ作成等補助事業の実施に当たっては、浸水想定区域市町村は、コンサルタント業者等と請負契約を締結して、管内における河川管理状況等の現地調査等に基づき洪水ハザードマップを作成する業務を行わせて、その成果物を確認するなどしている。
貴省は、浸水想定区域図を作成する上での作業の効率化を図るとともに、浸水想定区域市町村が洪水ハザードマップを作成する際に、事務所等及び都道府県が保有している浸水想定区域図及びその作成に係るデータ(以下、これらを合わせて「浸水想定区域図等」という。)を円滑に活用できるよう、18年9月に「浸水想定区域図データ電子化ガイドライン」(以下「電子化ガイドライン」という。)を策定している。
そして、貴省は、電子化ガイドラインに示した手順等に従って浸水想定区域図等を作成すれば、浸水想定区域図等の電子データの様式等が統一されて、浸水想定区域図等の電子データの水系単位、地域単位及び全国単位での一元的な処理、保存、管理等が可能となるだけでなく、浸水想定区域市町村における洪水ハザードマップの円滑な作成にも資することになるとして、電子化ガイドラインの策定後に作成する浸水想定区域図等については、電子化ガイドラインに基づき電子化を図るよう、各地方整備局等及び各都道府県に通知している。
(検査の観点、着眼点、対象及び方法)
本院は、合規性、有効性等の観点から、浸水想定区域の指定等及び洪水ハザードマップの作成等は法等に基づき適正に行われて、作成された浸水想定区域図及び洪水ハザードマップが有効に活用されているか、また、浸水想定区域図等の作成は電子化ガイドラインに基づき適切に行われて、当該浸水想定区域図等の電子データが有効に活用されているかなどに着眼して検査した。
検査に当たっては、貴省の東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州各地方整備局及び北海道開発局管内の18事務所等(注4)が13年度から24年度までの間に実施した75河川の浸水想定区域指定等直轄事業(事業費計8億1898万余円)、23道府県(注5)が17年度から24年度までの間に実施した601河川の浸水想定区域指定等補助事業(事業費計40億6732万余円、国庫補助金等交付額計15億9284万余円)及び22道府県(注6)管内の355市町村が17年度から24年度までの間に実施した洪水ハザードマップ作成等補助事業(事業費計14億8798万余円、国庫補助金等交付額計4億9494万余円)を対象として、浸水想定区域の指定等及び洪水ハザードマップの作成等の状況について調書等を徴するとともに、これらの各事業における業務請負契約書、調査報告書等を確認するなどして会計実地検査を行った。
(検査の結果)
検査したところ、次のような事態が見受けられた。
宮崎河川国道事務所及び兵庫県は、浸水想定区域図の作成を行ったものの、法等に基づく浸水想定区域図の公表及び関係市町村への通知を行っていなかった。このため、浸水想定区域市町村となるべき市町村において洪水ハザードマップの作成が行われておらず、宮崎河川国道事務所において作成された1河川に係る浸水想定区域図(当該1河川に係る浸水想定区域指定等直轄事業の事業費359万余円)及び兵庫県において作成された3河川に係る浸水想定区域図(当該3河川に係る浸水想定区域指定等補助事業の事業費計1940万余円、国庫補助金交付額計646万余円)が有効に活用されていない状況となっていた。
上記の事態について事例を示すと次のとおりである。
<事例1>
宮崎河川国道事務所は、洪水予報河川に指定されている小丸川水系小丸川について、平成20年度に、浸水想定区域図の作成を行った(浸水想定区域指定等直轄事業の事業費359万余円)。
しかし、24年11月の会計実地検査時点において、同事務所及び九州地方整備局は、浸水想定区域市町村となるべき宮崎県児湯郡高鍋町が、過去の洪水実績等による浸水範囲を示した洪水ハザードマップと類似の防災マップの作成を既に自主的に行っているなどの事情を踏まえて、法等に基づく浸水想定区域図の公表及び同町への通知を行っていなかった。このため、同町において上記の浸水想定区域図に基づく洪水ハザードマップの作成が行われていないことから、浸水想定区域図では浸水想定区域となっている地区のうち、同町の防災マップでは浸水想定区域外のままとなっているものもあった。
なお、上記の浸水想定区域図の公表及び同町への通知については、本院の指摘を踏まえて、25年12月に処置が執られている。
4県(注7)管内の14市町村(注8)においては、4県が浸水想定区域指定等補助事業を実施して、法等に基づく浸水想定区域図の通知を行った後も、法等に基づき各管内で対象となる全て又は一部の河川に係る洪水ハザードマップの作成が行われていなかった。このため、4県において作成された20河川に係る浸水想定区域図(当該20河川に係る浸水想定区域指定等補助事業の事業費計8300万余円、国庫補助金交付額計2823万余円)が有効に活用されていない状況となっていた。
上記の事態について事例を示すと次のとおりである。
<事例2>
徳島県は、水位情報周知河川に指定されている那賀川水系那賀川について、平成19、20両年度に、浸水想定区域図の作成及び同県那賀郡那賀町への通知を行った(浸水想定区域指定等補助事業の事業費1000万余円、国庫補助金交付額333万余円)。
しかし、浸水想定区域市町村である同町においては、過去の洪水実績等に基づく浸水範囲が示された町地区防災マップにより地域住民に対する避難等の周知が行われているなどとして、上記の通知を受けてから5年間にわたり、浸水想定区域図に基づく洪水ハザードマップの作成は行われていなかった。このため、浸水想定区域図では浸水想定区域となっている地区のうち、同町の町地区防災マップでは浸水想定区域外のままとなっているものもあった。
浸水想定区域市町村である22道府県(注6)管内の112市町村(注9)は、洪水ハザードマップに、法等において記載事項として定められている洪水予報等の伝達方法や要配慮者利用施設の名称及び所在地の記載を行っていなかったり、浸水想定区域図で示されている浸水深の表示を行っていなかったりしていた。このため、当該洪水ハザードマップ(洪水ハザードマップ作成等補助事業の事業費計5億8261万余円、国庫補助金等交付額計1億9385万余円)においては避難に関する情報が不足していて、住民に対する適正な情報提供が行われていない状況となっていた。
6事務所等(注12)及び23道府県(注5)は、18年9月の電子化ガイドラインの策定後、浸水想定区域図等の作成に係る業務請負契約を締結した際に、仕様書に電子化ガイドラインに基づいて浸水想定区域図等の作成を行う旨の記載をしていなかったなどのため、作成された浸水想定区域図等は電子化ガイドラインに基づくものとなっていなかった。このため、当該浸水想定区域図等の電子データについては、一元的な処理、保存、管理等を行うことが困難となっていたり、浸水想定区域市町村において洪水ハザードマップの作成に当たり円滑に活用できなかったりしていて、6事務所等において作成された19河川に係る浸水想定区域図等(当該19河川に係る浸水想定区域指定等直轄事業の事業費計1億0089万余円)の電子データ及び23道府県において作成された260河川に係る浸水想定区域図等(当該260河川に係る浸水想定区域指定等補助事業の事業費計15億6321万余円、国庫補助金等交付額計5億7970万余円)の電子データが有効に活用されていない状況となっていた。
上記の(1)から(4)までの事態に係る事業費は、重複分を除くと、浸水想定区域指定等直轄事業については6事務所等19河川に係る計1億0089万余円、浸水想定区域指定等補助事業については23道府県273河川に係る計16億1694万余円(国庫補助金等交付額計5億9818万余円)、洪水ハザードマップ作成等補助事業については118市町村に係る計5億9832万余円(国庫補助金等交付額計1億9904万余円)となる。
(是正及び是正改善並びに改善を必要とする事態)
河川国道事務所及び県において法等に基づく浸水想定区域図の公表及び関係市町村への通知が行われていなかったり、浸水想定区域市町村において洪水ハザードマップへの法等で定められている事項等の記載等及び洪水ハザードマップに係る情報の提供が行われていなかったりしている事態は適正とは認められず、是正及び是正改善を図る要があると認められる。また、浸水想定区域市町村において浸水想定区域図の通知後の法等に基づく洪水ハザードマップの作成が行われておらず、県において作成された浸水想定区域図が有効に活用されていない事態は適正とは認められず、改善を図る要があると認められる。さらに、電子化ガイドラインの策定後も事務所等及び道府県において電子化ガイドラインに基づかずに浸水想定区域図等の作成が行われている事態は適切とは認められず、是正改善を図る要があると認められる。
(発生原因)
このような事態が生じているのは、次のことなどによると認められる。
法等における浸水想定区域の指定等及び洪水ハザードマップの作成等に係る諸規定は、洪水時の円滑かつ迅速な避難を確保して、水災による被害の軽減を図ることなどを目的としているものである。
ついては、貴省において、事務所等、都道府県及び浸水想定区域市町村における法等及び電子化ガイドラインに基づく必要な措置が適正又は適切に行われて、浸水想定区域図及び洪水ハザードマップが有効に活用されることとなるための処置を講ずるよう、次のとおり、是正の処置を要求し及び是正改善の処置を求め並びに改善の処置を要求する。